ep85 女

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 国際平和維持軍という難をクリアして若干の油断が生じていたのかもしれない。俺は赤の他人の肉薄を許してしまったようだ。とはいえただの街の女なら問題はないのだが。

「おにーさん。わたしの店に寄っていかなぁい? 今日は平和祭。とくべつサービスするよぉ?」

 水商売の類だろうか。こんな真っ昼間から? いや、彼女達にしてみれば朝から酒飲んでご機嫌になっている祭りの市中は、最高の商売場なのかもしれない。

「は、離れてください!」

 途端にシヒロが割って入ってきて俺と女を引き剥がした。

「えー? なにー? おにーさんのカノジョ? にしては幼すぎるけどぉ」

「それより君はなに?」

 尋ねながら俺は、初めてその女をしっかりと見た。砂色の、少し燻んだ金髪。小さい顔には、ややつり目がかった大きい目がふたつ。ノースリーブのワンピース風の服から覗く褐色の肌。背丈はシヒロよりも幾分高い程度だったが身体つきはなまめかしく、艶っぽい大人の女のそれだ。

「わたしがなにかって? そんなの言われなくてもわかるでしょ?」

 女は紫色の瞳を悪戯っぽく光らせて、美しい長髪をはらりと揺らせる。このコ……控えめに言ってもかなり可愛い。くわえてどこか妖しげな魅力があって甚だ色っぽい。剣を手にする前の俺ならイチコロかもしれない。

「俺は今、ツレと来ているんだが」

「じゃあさ…」

 女は再びスッと俺に身を寄せると、耳元でコソコソとささやく。

「〔フリーダム〕について教えてあげる」

「!」

 俺は咄嗟に女を睨むと、女はあやしげに艶っぽくニイッと笑った。
 目的も魂胆も定かでない。怪しい事この上ない。だが俺の判断はシンプル。虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。

「シヒロ、トレブル、ブースト」
 俺は三人へ一瞥をくれる。
「少しだけ席を外す」

 そうして俺は女に導かれるままに歩きだした。

「ちょっ! クローさん! クローさん! もぉー! クローさんのばかぁ!」

 背中越しにシヒロの嘆きの叫びが聞こえたが、俺は女とともに雑踏の中へと消えた。
 女は俺の腕を引っ張りながら蠱惑的な笑みを浮かべ「外じゃヒトが多いから。着いてから教えてあげる」とだけ言って、他には言を発しない。

「……」

 怪しさは台風時の川の水嵩のように増すばかりだ。しかしどんな嵐が来ようと今の俺には切り抜ける力がある。いわば俺自身が嵐だ。ヤツらに切り込めるならば罠でも何でも一向に構わない。

「ここだよ。入って」

 ある娼館の前まで来て、女はピタッと足を止めた。まさしく娼婦のように俺をそこへ招き入れた。
 
「娼館……」

「だって、シたいでしょ?」

 女は婀娜(あだ)っぽく口角を上げた。


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 国際平和維持軍という難をクリアして若干の油断が生じていたのかもしれない。俺は赤の他人の肉薄を許してしまったようだ。とはいえただの街の女なら問題はないのだが。
「おにーさん。わたしの店に寄っていかなぁい? 今日は平和祭。とくべつサービスするよぉ?」
 水商売の類だろうか。こんな真っ昼間から? いや、彼女達にしてみれば朝から酒飲んでご機嫌になっている祭りの市中は、最高の商売場なのかもしれない。
「は、離れてください!」
 途端にシヒロが割って入ってきて俺と女を引き剥がした。
「えー? なにー? おにーさんのカノジョ? にしては幼すぎるけどぉ」
「それより君はなに?」
 尋ねながら俺は、初めてその女をしっかりと見た。砂色の、少し燻んだ金髪。小さい顔には、ややつり目がかった大きい目がふたつ。ノースリーブのワンピース風の服から覗く褐色の肌。背丈はシヒロよりも幾分高い程度だったが身体つきはなまめかしく、艶っぽい大人の女のそれだ。
「わたしがなにかって? そんなの言われなくてもわかるでしょ?」
 女は紫色の瞳を悪戯っぽく光らせて、美しい長髪をはらりと揺らせる。このコ……控えめに言ってもかなり可愛い。くわえてどこか妖しげな魅力があって甚だ色っぽい。剣を手にする前の俺ならイチコロかもしれない。
「俺は今、ツレと来ているんだが」
「じゃあさ…」
 女は再びスッと俺に身を寄せると、耳元でコソコソとささやく。
「〔フリーダム〕について教えてあげる」
「!」
 俺は咄嗟に女を睨むと、女はあやしげに艶っぽくニイッと笑った。
 目的も魂胆も定かでない。怪しい事この上ない。だが俺の判断はシンプル。虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。
「シヒロ、トレブル、ブースト」
 俺は三人へ一瞥をくれる。
「少しだけ席を外す」
 そうして俺は女に導かれるままに歩きだした。
「ちょっ! クローさん! クローさん! もぉー! クローさんのばかぁ!」
 背中越しにシヒロの嘆きの叫びが聞こえたが、俺は女とともに雑踏の中へと消えた。
 女は俺の腕を引っ張りながら蠱惑的な笑みを浮かべ「外じゃヒトが多いから。着いてから教えてあげる」とだけ言って、他には言を発しない。
「……」
 怪しさは台風時の川の水嵩のように増すばかりだ。しかしどんな嵐が来ようと今の俺には切り抜ける力がある。いわば俺自身が嵐だ。ヤツらに切り込めるならば罠でも何でも一向に構わない。
「ここだよ。入って」
 ある娼館の前まで来て、女はピタッと足を止めた。まさしく娼婦のように俺をそこへ招き入れた。
「娼館……」
「だって、シたいでしょ?」
 女は|婀娜《あだ》っぽく口角を上げた。