ep84 国際平和維持軍
ー/ー 【3】
翌日のシヒロはなんだか様子が違っていた。
「クローさん! 今日は一緒に祭りをまわりましょう!」
朝、顔を合わすなりシヒロが勢いよく誘ってきた。
「あ、ああ。そうするか」
俺はやや気圧されて承諾した。
シヒロはそんなに祭りが好きなのだろうか。
まあせっかくだと、今日は俺も祭りを楽しむことにした。
「あ、あの、クローさん……」
引きつづき祭りで賑わう朝の街路を四人で進みながら、シヒロが不安そうな顔を俺に向けてきた。
「シヒロ?」
「本当は、こういう祭りとかって、好きじゃなかったりします……?」
「どう、だろうな……」
正直、転生前の陰キャの俺からすると、好き嫌い以前にあまり縁のないものだった。転生後、遊びまくりの日々と闘いの日々を経た今、俺の中でなにか変わっただろうか。
「やっぱり、好きではないんですね。なんか、すいません。ハハハ……」
シヒロは哀しそうに笑った。
その瞬間だ。いきなりブーストが割って入ってきて「ダンナ! 酒飲もうぜ! 酒!」と俺にぐいぐいとアルコールをすすめてきた。
続いてトレブルが「嬢ちゃん! ダンナはまだ午前中でテンション低いんだ! 酒飲めばアガるはずだぜ!」とシヒロへよくわからない発破をかけた。
「……お前ら、なんなんだ?」
俺は怪訝な視線を浮かべるが、すぐにそんなことはどうでもよくなる。
「オイ、こっちに向かって歩いてきているアレ、国際平和維持軍の連中だってよ?」と、人混みから聞き捨てならないワードが耳に飛び込んできたのだ。思わず俺はシヒロと顔を見合わせる。
「ダンナ、今たしかに……」
途端にトレブルとブーストが真顔になった。
「ど、どうしますか?」
シヒロが緊張の面持ちで訊いてくる。
俺は一瞬考えたが、すぐに方針を下した。
「普通にしてしよう。ここで変に避けていくのも不自然で怪しくなる」
「今なら人混みに混じって逃げていく分には問題ないんじゃねえのか?」とトレブル。
「いや、別の場所から観察している人間がいないとも限らない。今はいつも通りに振る舞うのがベストだ」
「なるほど。了解だぜダンナ」
トレブルとブーストは合意した。その中で、シヒロは緊張感をむき出しにして明からさまに固くなっていた。
「シヒロ」と俺は彼女へ身を寄せて、安心させるようにポンと肩へ手を置く。
「く、クローさん?」
「大丈夫だ。奴らも俺の顔までは知らないはずだ」
「は、はい」
「それとシヒロ。俺が祭りを好きかどうかさっき聞いてきたよな?」
「え? あ、はい」
「正直、自分でもよくわからないんだ。俺はあまりそういうものに縁がなかったから。ただ、今日はお前と一緒にまわるつもりだ」
俺がそう言った直後だ。シヒロの目がぱぁっと輝いた。固さもほぐれてくれた。良かった。これで問題なくやり過ごせそうだ。
「ダンナ。来たみたいだぜ」
トレブルの言葉と同時に、三人組の軽装備の兵士風の男が俺たちの所へ向かって歩いて来るのが視界に入る。戦後の平和祭の市中で、さすがに甲冑などは着けていない。しかし周囲の視線や彼らの佇まいから、彼らが軍の者であろうことはすぐにわかった。
「シヒロ、トレブル、ブースト。小腹が空かないか? なんか食うか」
俺はいたって普通に口をひらいた。
「そ、そうですね!」
「ああ」
「ついでに酒も飲もうぜ」
阿吽の呼吸で応えた三人は、おもむろに手近な屋台で飲食の物色をはじめる。
「おい、そこの銀髪の者。お前だ」
三人組の一人が俺を見るなり遠めから声をかけてきた。
「……」
とりあえず俺は聞こえないフリをする。
「そこのお前だよ。銀髪の」
「ん? 俺、ですか?」
ここではじめて反応する。
「私達三人は国際平和維持軍の者だ。お前はこの町の者ではないな?」
「ええ。旅人です」
「連れもいるよな?」
「はい。そこの屋台にいる三人です」
「ガラの悪そうな男二人と…少年か? 随分と妙な取り合わせだな」
「よく言われます」
「武器の所持は?」
「ありませんが?」
「例えば剣とか」
「この通りありませんよ」
俺は両手を上げて見せる。
「そもそも俺は戦えませんので。なのでそこのガラの悪そうな二人に護衛を頼んで旅をしているんです。少年は俺の従兄弟です」
「なるほど。そうか。では祭りを楽しんでくれ」
国際平和維持軍の三人組は必要な確認を終えると、特にそれ以上なにかを疑う様子はなく去っていった。拍子抜けするぐらいあっさりだった。
「問題ないか……」
とりあえずは事無きを得たようだ。
ここで俺の頭にはある疑問が浮かんでくる。
(この状況で本当に〔フリーダム〕の来襲はあるのか?)
もしそうなれば、フリーダムと国際平和維持軍がぶつかり合う可能性が出てくる。それはおそらくフリーダム側も望んではいないはずだ。あるいは軍がいることを知らずにヤツらが来てしまうこともあり得るだろうか。
(そもそも国際平和維持軍は今、どの程度の規模の部隊がサンダースに入ってきているんだ?)
今の今まで俺が知らなかったということは、大きい部隊は来ていないと考えるのが妥当だ。
大部隊が入ってきているのなら、いっそフリーダムの事は彼らに任せてしまうのがいい。だが少数部隊しかいないのなら、万が一この祭りの最中にフリーダムの襲撃が起こると、街にも人にも甚大な被害が発生することは避けられない。それは俺としては見過ごすわけにはいかない。
いや待て。勇者…はなくとも、それに続く実力者がいる少数精鋭の部隊ならば、また話は変わってくるな……。
「あ、あの、クローさん?」
考えこむ俺の顔をシヒロの小さい顔が覗き込んできた。
「ダンナ。どうしたんだ?」
「もうヤツらは行っちまったぜ?」
トレブルとブーストも酒瓶を片手に小首を傾げた。
「いや、何でもない」
俺は気を取り直して切り替えた。これ以上考えても結論は出ない。
「とりあえず問題はなさそうだ。せっかくだ、祭りを楽しむか」
俺の言葉を聞くなり、シヒロは嬉しそうに微笑み、トレブルとブーストはニヤリと笑った。
俺もかすかに微笑んで返し、歩き出そうとした時だった。
「ねえねえ、おにーさん」
背後からこっそり近づいて来たであろう一人の女がいきなり俺の腕に巻きついてきた。
翌日のシヒロはなんだか様子が違っていた。
「クローさん! 今日は一緒に祭りをまわりましょう!」
朝、顔を合わすなりシヒロが勢いよく誘ってきた。
「あ、ああ。そうするか」
俺はやや気圧されて承諾した。
シヒロはそんなに祭りが好きなのだろうか。
まあせっかくだと、今日は俺も祭りを楽しむことにした。
「あ、あの、クローさん……」
引きつづき祭りで賑わう朝の街路を四人で進みながら、シヒロが不安そうな顔を俺に向けてきた。
「シヒロ?」
「本当は、こういう祭りとかって、好きじゃなかったりします……?」
「どう、だろうな……」
正直、転生前の陰キャの俺からすると、好き嫌い以前にあまり縁のないものだった。転生後、遊びまくりの日々と闘いの日々を経た今、俺の中でなにか変わっただろうか。
「やっぱり、好きではないんですね。なんか、すいません。ハハハ……」
シヒロは哀しそうに笑った。
その瞬間だ。いきなりブーストが割って入ってきて「ダンナ! 酒飲もうぜ! 酒!」と俺にぐいぐいとアルコールをすすめてきた。
続いてトレブルが「嬢ちゃん! ダンナはまだ午前中でテンション低いんだ! 酒飲めばアガるはずだぜ!」とシヒロへよくわからない発破をかけた。
「……お前ら、なんなんだ?」
俺は怪訝な視線を浮かべるが、すぐにそんなことはどうでもよくなる。
「オイ、こっちに向かって歩いてきているアレ、国際平和維持軍の連中だってよ?」と、人混みから聞き捨てならないワードが耳に飛び込んできたのだ。思わず俺はシヒロと顔を見合わせる。
「ダンナ、今たしかに……」
途端にトレブルとブーストが真顔になった。
「ど、どうしますか?」
シヒロが緊張の面持ちで訊いてくる。
俺は一瞬考えたが、すぐに方針を下した。
「普通にしてしよう。ここで変に避けていくのも不自然で怪しくなる」
「今なら人混みに混じって逃げていく分には問題ないんじゃねえのか?」とトレブル。
「いや、別の場所から観察している人間がいないとも限らない。今はいつも通りに振る舞うのがベストだ」
「なるほど。了解だぜダンナ」
トレブルとブーストは合意した。その中で、シヒロは緊張感をむき出しにして明からさまに固くなっていた。
「シヒロ」と俺は彼女へ身を寄せて、安心させるようにポンと肩へ手を置く。
「く、クローさん?」
「大丈夫だ。奴らも俺の顔までは知らないはずだ」
「は、はい」
「それとシヒロ。俺が祭りを好きかどうかさっき聞いてきたよな?」
「え? あ、はい」
「正直、自分でもよくわからないんだ。俺はあまりそういうものに縁がなかったから。ただ、今日はお前と一緒にまわるつもりだ」
俺がそう言った直後だ。シヒロの目がぱぁっと輝いた。固さもほぐれてくれた。良かった。これで問題なくやり過ごせそうだ。
「ダンナ。来たみたいだぜ」
トレブルの言葉と同時に、三人組の軽装備の兵士風の男が俺たちの所へ向かって歩いて来るのが視界に入る。戦後の平和祭の市中で、さすがに甲冑などは着けていない。しかし周囲の視線や彼らの佇まいから、彼らが軍の者であろうことはすぐにわかった。
「シヒロ、トレブル、ブースト。小腹が空かないか? なんか食うか」
俺はいたって普通に口をひらいた。
「そ、そうですね!」
「ああ」
「ついでに酒も飲もうぜ」
阿吽の呼吸で応えた三人は、おもむろに手近な屋台で飲食の物色をはじめる。
「おい、そこの銀髪の者。お前だ」
三人組の一人が俺を見るなり遠めから声をかけてきた。
「……」
とりあえず俺は聞こえないフリをする。
「そこのお前だよ。銀髪の」
「ん? 俺、ですか?」
ここではじめて反応する。
「私達三人は国際平和維持軍の者だ。お前はこの町の者ではないな?」
「ええ。旅人です」
「連れもいるよな?」
「はい。そこの屋台にいる三人です」
「ガラの悪そうな男二人と…少年か? 随分と妙な取り合わせだな」
「よく言われます」
「武器の所持は?」
「ありませんが?」
「例えば剣とか」
「この通りありませんよ」
俺は両手を上げて見せる。
「そもそも俺は戦えませんので。なのでそこのガラの悪そうな二人に護衛を頼んで旅をしているんです。少年は俺の従兄弟です」
「なるほど。そうか。では祭りを楽しんでくれ」
国際平和維持軍の三人組は必要な確認を終えると、特にそれ以上なにかを疑う様子はなく去っていった。拍子抜けするぐらいあっさりだった。
「問題ないか……」
とりあえずは事無きを得たようだ。
ここで俺の頭にはある疑問が浮かんでくる。
(この状況で本当に〔フリーダム〕の来襲はあるのか?)
もしそうなれば、フリーダムと国際平和維持軍がぶつかり合う可能性が出てくる。それはおそらくフリーダム側も望んではいないはずだ。あるいは軍がいることを知らずにヤツらが来てしまうこともあり得るだろうか。
(そもそも国際平和維持軍は今、どの程度の規模の部隊がサンダースに入ってきているんだ?)
今の今まで俺が知らなかったということは、大きい部隊は来ていないと考えるのが妥当だ。
大部隊が入ってきているのなら、いっそフリーダムの事は彼らに任せてしまうのがいい。だが少数部隊しかいないのなら、万が一この祭りの最中にフリーダムの襲撃が起こると、街にも人にも甚大な被害が発生することは避けられない。それは俺としては見過ごすわけにはいかない。
いや待て。勇者…はなくとも、それに続く実力者がいる少数精鋭の部隊ならば、また話は変わってくるな……。
「あ、あの、クローさん?」
考えこむ俺の顔をシヒロの小さい顔が覗き込んできた。
「ダンナ。どうしたんだ?」
「もうヤツらは行っちまったぜ?」
トレブルとブーストも酒瓶を片手に小首を傾げた。
「いや、何でもない」
俺は気を取り直して切り替えた。これ以上考えても結論は出ない。
「とりあえず問題はなさそうだ。せっかくだ、祭りを楽しむか」
俺の言葉を聞くなり、シヒロは嬉しそうに微笑み、トレブルとブーストはニヤリと笑った。
俺もかすかに微笑んで返し、歩き出そうとした時だった。
「ねえねえ、おにーさん」
背後からこっそり近づいて来たであろう一人の女がいきなり俺の腕に巻きついてきた。
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