代打ち
ー/ー
勇者パーティは次のモンスターとの戦闘に向けて作戦を練るため、会議を開く予定だった。
しかしスケジュールの都合で、勇者だけが前日入りすることになり、残りのメンバーは当日現地入りする手はずとなっていた。
——ガチャ
会議室のドアが開くと、スタッフが大きな声で叫ぶ。
「はい、勇者さん入ります!」
勇者は颯爽と会議室に入ってきた。しかし、目の前に広がる光景に違和感を覚える。
(なんだ……このメンバー?)
普段の仲間たちの顔が一人も見当たらない。
代わりに、見知らぬ人々が数人と、角の席に座る一人の女性が目に入る。その女性——エリシアは涼しい顔でお茶を啜っていた。
だが、勇者は彼女の存在を特に気に留めず、あくまで目の前の状況に疑問を抱いていた。
「あれ……魔術師のアレックスは?」
特に誰に向けたわけでもなく、疑問を口にする勇者。
エリシアが突然口を開き、さらりと言い放った。
「あ、アレックスなら来れないって、さっき電話がかかってきましたわ。」
勇者は目を丸くする。
「はぁ? なんでだよ?」
エリシアは肩をすくめながら、さらに続けた。
「いや、アレックスも戦士も僧侶も……なんか、レイド戦があるからそっちに行くって。」
「いやいや、俺リーダーだぞ? 俺に何も言わずにそんな勝手なこと——」
勇者が抗議を始めると、エリシアはお茶を啜りながら話を遮るように答えた。
「で、さっき電話で『ごめんだけど、エリシアちゃん、頼むわ〜』って言われたんで、私が来ましたの。」
勇者は一瞬言葉を失った。
結局、渋々納得したものの、疑念が消えなかった。
「ていうか、あんた誰?」
エリシアは少しだけ微笑みを浮かべながら、ゆったりと自己紹介を始めた。
「あ、ご紹介が遅れましたわね。私、エリシアと申します。まあ……このメンバーは私のパーティで『エリシーズ』といいますの。私がリーダーを務めていますわ。」
勇者は「はぁ?」と眉をひそめつつも、返事を返す。
「あぁ、そう……。ていうか、アレックスと知り合い?」
エリシアはお茶をもう一口飲みながら、何気ない口調で答える。
「アレックスさんとは仲良くさせていただいてますわ。よく二人で……蟹しゃぶ行ったりねぇ。」
「……」
勇者は困惑しながらも、手元の書類を置き、近くにいたアシスタントに声をかけた。
「おい、スケジュール、これ本当にこれで行くしかないのか?」
アシスタントは申し訳なさそうにうなずく。
「——もう……日程がギリギリで……これで行くしかないかと……。」
「うぅん……しょうがないか。」
勇者は頭を掻きながら深いため息をついた。その様子を見たエリシアが優雅に微笑み、話しかけてくる。
「私、魔術師ですけど……まぁ、バフ要員としての動きもできますので、何かあれば遠慮なく言っていただけますわ。」
「ま、まあ……はい、わかった。」
勇者はエリシアの自信たっぷりの態度に若干押され気味になりながらも、話を収めるしかなかった。
モンスターの群れとの決戦当日。予定通りにエンカウントが発生し、勇者は先陣を切って戦い始めた。仲間たちもそれぞれの役割をこなしている。
そして、エリシアは——。
——ガシ! ボカ! バキィ!
一見、華奢な体つきの彼女だったが、繰り出されるのはヤクザキック、ラリアット、ロシアンフックといった物理系のえげつない攻撃の数々。
モンスターたちは次々に吹き飛び、地面に叩きつけられていく。
勇者は戦いの最中に横目でその光景をチラリと見た。
——バキ! ボキ!
「……ちょっと、ちょっと。」
勇者が手を上げ、声をかけると、一同が動きを止めた。
モンスターたちもなんとなく空気を読み、少し距離を取る。
「どうしましたの?」
エリシアが首をかしげて尋ねる。勇者は困惑した表情で答えた。
「いや……なんか動きづらくてさ……気のせいかなぁ。」
エリシアは周囲を見回し、軽く肩をすくめる。
「気のせいじゃありませんこと? 私、しっかり役に立ってますわよ。」
勇者はエリシアに困ったように伝えた。
「いや……その……俺が近距離戦だから……ちょっと中距離とかで……」
エリシアは「あらあら」と手を叩き、要領を得た様子で頷いた。
「ああぁ〜! ごめんあそばせ! そういうことでしたわね。」
戦闘が再開され、勇者は再び魔法剣を振るいながら敵に切り込んでいく。
「氷漬けになれ! アイスエッジ!」
「燃え尽きろ! フレイムソード!」
彼の攻撃が敵を次々と切り裂き、周囲は冷気と炎に包まれていく。
一方で、後方支援に回ったエリシアは——
——カチャ……ガッチャン。
突然、背中から巨大な銃——トミーガン(シカゴタイプライター)を取り出した。
そして勇者の背後から、何の躊躇もなく射撃を開始する。
——ズダダダダダダダ!
激しい銃声が戦場に響き渡り、モンスターたちは蜂の巣にされながら次々に倒れていく。
最初、勇者は「なんか変な魔法だな」と思いながら振り返らずに戦い続けていたが、音があまりにもうるさく、ついに我慢できずに後ろを向いた。
そこには、葉巻を咥え、肩で銃を構えながら容赦なく掃射を続けるエリシアの姿があった。
勇者はたまりかねて叫んだ。
「ちょっと! 一回止めて! 一回止めて!」
再び戦闘がストップし、モンスターたちは微妙に距離を取って様子をうかがっている。エリシアは銃を肩にかけながら、不思議そうに勇者を見た。
「あの……エリシアさん、だっけ?」
「ええ、そうですわ。」
勇者は一瞬、どう切り出そうか迷ったが、意を決して口を開いた。
「せっかく来てくれて……こんなこと言いたくないんだけど……」
勇者は深呼吸し、ズバリ指摘した。
「お前、魔法使ってねえだろ。」
その言葉に、一瞬場が静まり返る。モンスターたちですら、微妙にこちらを注視している。
エリシアは笑い声を上げながら勇者の指摘に応じた。
「えぇ〜!? 私が!? 魔法使ってないって? オホホホ!」
彼女は肩を揺らしながら楽しそうに続ける。
「あのねぇ、こっちは魔術師ですのよ! 一応プロとして、これでご飯食べてますの! あんた、……ふふ、魔法使ってないって……冗談にも程がありますわよ〜。」
その余裕たっぷりの態度に、勇者は一瞬言葉を失う。
「えぇ……?」
エリシアはさらに微笑みを深め、胸を張る。
「私がこの場で魔法を使わないなんて、あり得ませんわ。どこをどう見たらそんな結論に至りますの?」
勇者は気を取り直し、もう一度指示を出すことにした。
「……まあいいわ。じゃあさ……俺、先頭行くからバフかけてよ。なんか……攻撃力上がる系のやつ!」
エリシアは軽く手を挙げ、朗らかに返事をした。
「わかりましたわ!」
——戦闘再開!
勇者は再びモンスターの群れに突っ込んでいった。剣を構え、一匹一匹を華麗に切り捨てていく。
「ふん! 遅い!」
——ザシュ!
「そんな攻撃効くかよ!」
勇者の頼もしい声が響く中、後方のエリシアが動き出す……と思いきや。
「オラァ! やっちまえええええぇ! そんなヒョロガリ、ワンパンでいけるでしょ!?」
勇者の背後から聞こえるのは、期待したバフの詠唱ではなく、やけに激しい応援。いや、応援を通り越してもはや野次だった。
「魔王軍なんかゴミですわね! さっさとぶっ殺しちまええええぇ! キエエエェエ〜!」
勇者は剣を振りつつ振り返らずにはいられなかった。
後ろには、声を張り上げながら拍手まで交え、ノリノリでモンスターを煽るエリシアの姿があった。
勇者は頭を抱えつつ、仕方なく再び剣を握り直した。
(俺のバフはどこ行ったんだ……)
こうして、勇者はエリシアの激しい応援に背中を押されながら(?)戦闘を続けるのだった。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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勇者パーティは次のモンスターとの戦闘に向けて作戦を練るため、会議を開く予定だった。
しかしスケジュールの都合で、勇者だけが前日入りすることになり、残りのメンバーは当日現地入りする手はずとなっていた。
——ガチャ
会議室のドアが開くと、スタッフが大きな声で叫ぶ。
「はい、勇者さん入ります!」
勇者は颯爽と会議室に入ってきた。しかし、目の前に広がる光景に違和感を覚える。
(なんだ……このメンバー?)
普段の仲間たちの顔が一人も見当たらない。
代わりに、見知らぬ人々が数人と、角の席に座る一人の女性が目に入る。その女性——エリシアは涼しい顔でお茶を啜っていた。
だが、勇者は彼女の存在を特に気に留めず、あくまで目の前の状況に疑問を抱いていた。
「あれ……魔術師のアレックスは?」
特に誰に向けたわけでもなく、疑問を口にする勇者。
エリシアが突然口を開き、さらりと言い放った。
「あ、アレックスなら来れないって、さっき電話がかかってきましたわ。」
勇者は目を丸くする。
「はぁ? なんでだよ?」
エリシアは肩をすくめながら、さらに続けた。
「いや、アレックスも戦士も僧侶も……なんか、レイド戦があるからそっちに行くって。」
「いやいや、俺リーダーだぞ? 俺に何も言わずにそんな勝手なこと——」
勇者が抗議を始めると、エリシアはお茶を啜りながら話を遮るように答えた。
「で、さっき電話で『ごめんだけど、エリシアちゃん、頼むわ〜』って言われたんで、私が来ましたの。」
勇者は一瞬言葉を失った。
結局、渋々納得したものの、疑念が消えなかった。
「ていうか、あんた誰?」
エリシアは少しだけ微笑みを浮かべながら、ゆったりと自己紹介を始めた。
「あ、ご紹介が遅れましたわね。私、エリシアと申します。まあ……このメンバーは私のパーティで『エリシーズ』といいますの。私がリーダーを務めていますわ。」
勇者は「はぁ?」と眉をひそめつつも、返事を返す。
「あぁ、そう……。ていうか、アレックスと知り合い?」
エリシアはお茶をもう一口飲みながら、何気ない口調で答える。
「アレックスさんとは仲良くさせていただいてますわ。よく二人で……蟹しゃぶ行ったりねぇ。」
「……」
勇者は困惑しながらも、手元の書類を置き、近くにいたアシスタントに声をかけた。
「おい、スケジュール、これ本当にこれで行くしかないのか?」
アシスタントは申し訳なさそうにうなずく。
「——もう……日程がギリギリで……これで行くしかないかと……。」
「うぅん……しょうがないか。」
勇者は頭を掻きながら深いため息をついた。その様子を見たエリシアが優雅に微笑み、話しかけてくる。
「私、魔術師ですけど……まぁ、バフ要員としての動きもできますので、何かあれば遠慮なく言っていただけますわ。」
「ま、まあ……はい、わかった。」
勇者はエリシアの自信たっぷりの態度に若干押され気味になりながらも、話を収めるしかなかった。
モンスターの群れとの決戦当日。予定通りにエンカウントが発生し、勇者は先陣を切って戦い始めた。仲間たちもそれぞれの役割をこなしている。
そして、エリシアは——。
——ガシ! ボカ! バキィ!
一見、華奢な体つきの彼女だったが、繰り出されるのはヤクザキック、ラリアット、ロシアンフックといった物理系のえげつない攻撃の数々。
モンスターたちは次々に吹き飛び、地面に叩きつけられていく。
勇者は戦いの最中に横目でその光景をチラリと見た。
——バキ! ボキ!
「……ちょっと、ちょっと。」
勇者が手を上げ、声をかけると、一同が動きを止めた。
モンスターたちもなんとなく空気を読み、少し距離を取る。
「どうしましたの?」
エリシアが首をかしげて尋ねる。勇者は困惑した表情で答えた。
「いや……なんか動きづらくてさ……気のせいかなぁ。」
エリシアは周囲を見回し、軽く肩をすくめる。
「気のせいじゃありませんこと? 私、しっかり役に立ってますわよ。」
勇者はエリシアに困ったように伝えた。
「いや……その……俺が近距離戦だから……ちょっと中距離とかで……」
エリシアは「あらあら」と手を叩き、要領を得た様子で頷いた。
「ああぁ〜! ごめんあそばせ! そういうことでしたわね。」
戦闘が再開され、勇者は再び魔法剣を振るいながら敵に切り込んでいく。
「氷漬けになれ! アイスエッジ!」
「燃え尽きろ! フレイムソード!」
彼の攻撃が敵を次々と切り裂き、周囲は冷気と炎に包まれていく。
一方で、後方支援に回ったエリシアは——
——カチャ……ガッチャン。
突然、背中から巨大な銃——トミーガン(シカゴタイプライター)を取り出した。
そして勇者の背後から、何の躊躇もなく射撃を開始する。
——ズダダダダダダダ!
激しい銃声が戦場に響き渡り、モンスターたちは蜂の巣にされながら次々に倒れていく。
最初、勇者は「なんか変な魔法だな」と思いながら振り返らずに戦い続けていたが、音があまりにもうるさく、ついに我慢できずに後ろを向いた。
そこには、葉巻を咥え、肩で銃を構えながら容赦なく掃射を続けるエリシアの姿があった。
勇者はたまりかねて叫んだ。
「ちょっと! 一回止めて! 一回止めて!」
再び戦闘がストップし、モンスターたちは微妙に距離を取って様子をうかがっている。エリシアは銃を肩にかけながら、不思議そうに勇者を見た。
「あの……エリシアさん、だっけ?」
「ええ、そうですわ。」
勇者は一瞬、どう切り出そうか迷ったが、意を決して口を開いた。
「せっかく来てくれて……こんなこと言いたくないんだけど……」
勇者は深呼吸し、ズバリ指摘した。
「お前、魔法使ってねえだろ。」
その言葉に、一瞬場が静まり返る。モンスターたちですら、微妙にこちらを注視している。
エリシアは笑い声を上げながら勇者の指摘に応じた。
「えぇ〜!? 私が!? 魔法使ってないって? オホホホ!」
彼女は肩を揺らしながら楽しそうに続ける。
「あのねぇ、こっちは魔術師ですのよ! 一応プロとして、これでご飯食べてますの! あんた、……ふふ、魔法使ってないって……冗談にも程がありますわよ〜。」
その余裕たっぷりの態度に、勇者は一瞬言葉を失う。
「えぇ……?」
エリシアはさらに微笑みを深め、胸を張る。
「私がこの場で魔法を使わないなんて、あり得ませんわ。どこをどう見たらそんな結論に至りますの?」
勇者は気を取り直し、もう一度指示を出すことにした。
「……まあいいわ。じゃあさ……俺、先頭行くからバフかけてよ。なんか……攻撃力上がる系のやつ!」
エリシアは軽く手を挙げ、朗らかに返事をした。
「わかりましたわ!」
——戦闘再開!
勇者は再びモンスターの群れに突っ込んでいった。剣を構え、一匹一匹を華麗に切り捨てていく。
「ふん! 遅い!」
——ザシュ!
「そんな攻撃効くかよ!」
勇者の頼もしい声が響く中、後方のエリシアが動き出す……と思いきや。
「オラァ! やっちまえええええぇ! そんなヒョロガリ、ワンパンでいけるでしょ!?」
勇者の背後から聞こえるのは、期待したバフの詠唱ではなく、やけに激しい応援。いや、応援を通り越してもはや野次だった。
「魔王軍なんかゴミですわね! さっさとぶっ殺しちまええええぇ! キエエエェエ〜!」
勇者は剣を振りつつ振り返らずにはいられなかった。
後ろには、声を張り上げながら拍手まで交え、ノリノリでモンスターを煽るエリシアの姿があった。
勇者は頭を抱えつつ、仕方なく再び剣を握り直した。
(俺のバフはどこ行ったんだ……)
こうして、勇者はエリシアの激しい応援に背中を押されながら(?)戦闘を続けるのだった。