もふもふしましま ~ お買い物へ行こう Part-3 ~
ー/ー
夕闇が迫った空を二人が飛んでいく。
昼間に見た景色とはまた少し違って見える。
リンは赤と黒のコントラストに目を奪われていた。
ユウは来た時よりは少し速度を落として、抱えている少女と一緒に空の移り変わりを眺める。
「きれいだねぇー」
「だねぇー」
速度を落としているといっても、風を切る音は相変わらず耳に響くので自然と声は大きくなる。
けれど、腕の中の少女は夕闇のグラデーションに魅入っていて、気のない返事だった。
雲にも高度があって、その高さによって、夕焼けの色の反射の仕方が違っているから、いろんな色を見せてくれる。
今にも沈みそうな太陽の赤に染まっていたり、
迫る暗闇に侵されて、黒くなりかけていたり、
その黒から逃げるように、黒と赤のしましまを放つ雲なんかもあった。
何とも言えない、言葉にできない幻想的な雰囲気に、リンは口をぽかんと開けて呆けたように、ずっとその光景に目を奪われているのだった。
空を飛ぶのは、彼女たちのほかにはいない。鳥たちはもっと地上に近いところを飛ぶから、
雲の上まで飛んでいる彼女たちの邪魔にもならないし、彼女たちも鳥たちの邪魔にならない。
以前、この魔法を使って雲の上まで飛んだときのこと。
この光景を目にしたとき、あまりの美しさに呆けてしまった。
同時に、何だか自分だけが世界から取り残されたような気持ちになって、涙が出たのを覚えている。
美しさと切なさと、感情が入り混じって、気づいたら上下の感覚を失って、墜落しかけた事を思い出した。
ユウはリンを少し強く抱きかかえなおして、空を行く。
今は腕の中に、このあったかな少女がいるのだから、独りじゃない。
風景に見入っているつむじをちらと見て、「ふふっ」と笑みがこぼれるのがわかった。
「もふもふだ」
*
喫茶店『小道』
意外としっかりとした作りのログハウスだが、どこにでもあるような店構え。
玄関の横がテラスのようになっていて、そこには小さなテーブルと二つの椅子がおいてある。
そろそろ日も暮れて、大分薄暗くなってきていた。
その『小道』の玄関の前にこんもりとした影がある。
「今日は絶対コーヒーをいっぱい飲んでから帰るんだ!」
誰も聞くもののない決意表明が空しく響いた。
フードを深く被った男、フーディである。
その表情はやはり見えない。
が、今日は少し物悲しいような、さびしいような、意地になっているような。
ともあれ、雨の中せっかく訪れたなじみの喫茶店。
なのに、玄関に「営業中」とかかれた板がぶらさがってるにもかかわらず、鍵はかかってるし、中にはいつもの二人の姿が見えない。
いないのなら仕方がない、出かけているのだとしてもすぐに帰ってくるのだろう。
なんて、高をくくって待つことにしたのだが、いつのまにか雷鳴轟かせていた雨雲はどこかにいってしまい、だんだんと陽が傾き始めていた。
夕焼け空になり、まもなく夜のとばりが降りようとしているのに、彼女たちが戻ってくる気配は微塵も感じられなかった。
まだ乾ききっていない地面からは、冷気が立ち上って彼の肌を冷やす。
フーディは、別段寒がる様子もなく、『小道』の玄関の前の階段に腰掛けて、ずっと空をみあげていた。
「なんだあれ?」
既に一番星が顔を出していて、ほとんど黒に染まった空に、徐々に星々が顔を出し始めていた。
その星達の間から、きらきらと点滅する光が、こちらへ向かってきている。
「なんかくるー!?」
その光は徐々に速度を落とし、見上げるその頭上からゆっくりと降りてきた。
「一体――ぶはぁっ!?」
落ちてくる光を凝視していた彼は何かに気づいて、その瞬間、彼の思考は停止した。
「しましま――」
*
――その日、世界のあちらこちらを、しましまともふもふが席巻した!
空を見上げればしましまが!もふもふが!
幻想的な空に浮かぶしましまともふもふ!
実にいい!特にしましまが!
いやもふもふ派だっているはずだけど!
*
「や~め~て~」
仰々しく語るフーディのその横で、顔をゆでだこの様に真っ赤にしたユウがカウンターに突っ伏している。
「いやー、営業中ってあるのに誰もいなくて途方にくれてたけど、待ってみるもんだねぇ」
隣では嬉々としてフーディが騒いでいる。相変わらず表情は見えないが、きっと意地悪い笑顔を浮かべてるに違いない。
ユウは失念していたのだ。
あの魔法はここに来て以来使ったことがなかった――
冒険者をやってた頃は、動きやすい様に常にパンツスタイルでいたから、今日のようなワンピースやスカートを着ている事はほとんどなかった。
「うぅぅぅ!」
自分の失念と、“見られた”事に対する羞恥で顔を真っ赤に染め、目に涙を溜めてまで唸る。
責めるに責められないのだ、スカートという事を忘れていたのも自分だし、看板をかけなおし忘れたのも、自分だから。
「営業中って看板を信じて本当によかった――」
「それはほんと悪かったですからぁ、謝るから忘れてくださいよぅ! 記憶から消去してください!」
羞恥心をぶつける場所はないが、精一杯の抗議のつもりでフーディの腕をぺしぺし叩く。
「いいじゃーん、減るもんじゃないしぃー」
「うぅぅぅぅっ、減るんです! 怪しげなローブの人に見られたらごっそり減るんですよ!」
「そんなばかな!?」
ユウは援護射撃を期待してリンに視線を投げかける。
だが、リンはもふもふローブを着たままで、そのあったかさと今日の疲労からか、まぶたが大分重くなっていてうつらうつらとしていた。
「いやぁ、ほんとまさか、しましまだとは」
「もう、フーディさん!」
フーディは一通り騒いで帰っていったが、その後も、しばらくユウの耳から熱が冷めることはなかった。
出かけるときはしっかりと戸締りをして、忘れ物、忘れ事がないかきちんと確認しよう。
特に、店の表示看板と、空を飛ぶならきちんと服を着替えよう。
ユウはそう心に誓うのであった。
――ここは喫茶店『小道』
ここにはしましまの女性店主と、もふもふのウェイトレスがいる。
お勧めはしましま、ちいさなもふもふをそえて――
「やーめーてーーー!!」
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夕闇が迫った空を二人が飛んでいく。
昼間に見た景色とはまた少し違って見える。
リンは赤と黒のコントラストに目を奪われていた。
ユウは来た時よりは少し速度を落として、抱えている少女と一緒に空の移り変わりを眺める。
「きれいだねぇー」
「だねぇー」
速度を落としているといっても、風を切る音は相変わらず耳に響くので自然と声は大きくなる。
けれど、腕の中の少女は夕闇のグラデーションに魅入っていて、気のない返事だった。
雲にも高度があって、その高さによって、夕焼けの色の反射の仕方が違っているから、いろんな色を見せてくれる。
今にも沈みそうな太陽の赤に染まっていたり、
迫る暗闇に侵されて、黒くなりかけていたり、
その黒から逃げるように、黒と赤のしましまを放つ雲なんかもあった。
何とも言えない、言葉にできない幻想的な雰囲気に、リンは口をぽかんと開けて呆けたように、ずっとその光景に目を奪われているのだった。
空を飛ぶのは、彼女たちのほかにはいない。鳥たちはもっと地上に近いところを飛ぶから、
雲の上まで飛んでいる彼女たちの邪魔にもならないし、彼女たちも鳥たちの邪魔にならない。
以前、この魔法を使って雲の上まで飛んだときのこと。
この光景を目にしたとき、あまりの美しさに呆けてしまった。
同時に、何だか自分だけが世界から取り残されたような気持ちになって、涙が出たのを覚えている。
美しさと切なさと、感情が入り混じって、気づいたら上下の感覚を失って、墜落しかけた事を思い出した。
ユウはリンを少し強く抱きかかえなおして、空を行く。
今は腕の中に、このあったかな少女がいるのだから、独りじゃない。
風景に見入っているつむじをちらと見て、「ふふっ」と笑みがこぼれるのがわかった。
「もふもふだ」
*
喫茶店『小道』
意外としっかりとした作りのログハウスだが、どこにでもあるような店構え。
玄関の横がテラスのようになっていて、そこには小さなテーブルと二つの椅子がおいてある。
そろそろ日も暮れて、大分薄暗くなってきていた。
その『小道』の玄関の前にこんもりとした影がある。
「今日は絶対コーヒーをいっぱい飲んでから帰るんだ!」
誰も聞くもののない決意表明が空しく響いた。
フードを深く被った男、フーディである。
その表情はやはり見えない。
が、今日は少し物悲しいような、さびしいような、意地になっているような。
ともあれ、雨の中せっかく訪れたなじみの喫茶店。
なのに、玄関に「営業中」とかかれた板がぶらさがってるにもかかわらず、鍵はかかってるし、中にはいつもの二人の姿が見えない。
いないのなら仕方がない、出かけているのだとしてもすぐに帰ってくるのだろう。
なんて、高をくくって待つことにしたのだが、いつのまにか雷鳴轟かせていた雨雲はどこかにいってしまい、だんだんと陽が傾き始めていた。
夕焼け空になり、まもなく夜のとばりが降りようとしているのに、彼女たちが戻ってくる気配は微塵も感じられなかった。
まだ乾ききっていない地面からは、冷気が立ち上って彼の肌を冷やす。
フーディは、別段寒がる様子もなく、『小道』の玄関の前の階段に腰掛けて、ずっと空をみあげていた。
「なんだあれ?」
既に一番星が顔を出していて、ほとんど黒に染まった空に、徐々に星々が顔を出し始めていた。
その星達の間から、きらきらと点滅する光が、こちらへ向かってきている。
「なんかくるー!?」
その光は徐々に速度を落とし、見上げるその頭上からゆっくりと降りてきた。
「一体――ぶはぁっ!?」
落ちてくる光を凝視していた彼は何かに気づいて、その瞬間、彼の思考は停止した。
「しましま――」
*
――その日、世界のあちらこちらを、しましまともふもふが席巻した!
空を見上げればしましまが!もふもふが!
幻想的な空に浮かぶしましまともふもふ!
実にいい!特にしましまが!
いやもふもふ派だっているはずだけど!
*
「や~め~て~」
仰々しく語るフーディのその横で、顔をゆでだこの様に真っ赤にしたユウがカウンターに突っ伏している。
「いやー、営業中ってあるのに誰もいなくて途方にくれてたけど、待ってみるもんだねぇ」
隣では嬉々としてフーディが騒いでいる。相変わらず表情は見えないが、きっと意地悪い笑顔を浮かべてるに違いない。
ユウは失念していたのだ。
あの魔法はここに来て以来使ったことがなかった――
冒険者をやってた頃は、動きやすい様に常にパンツスタイルでいたから、今日のようなワンピースやスカートを着ている事はほとんどなかった。
「うぅぅぅ!」
自分の失念と、“見られた”事に対する羞恥で顔を真っ赤に染め、目に涙を溜めてまで唸る。
責めるに責められないのだ、スカートという事を忘れていたのも自分だし、看板をかけなおし忘れたのも、自分だから。
「営業中って看板を信じて本当によかった――」
「それはほんと悪かったですからぁ、謝るから忘れてくださいよぅ! 記憶から消去してください!」
羞恥心をぶつける場所はないが、精一杯の抗議のつもりでフーディの腕をぺしぺし叩く。
「いいじゃーん、減るもんじゃないしぃー」
「うぅぅぅぅっ、減るんです! 怪しげなローブの人に見られたらごっそり減るんですよ!」
「そんなばかな!?」
ユウは援護射撃を期待してリンに視線を投げかける。
だが、リンはもふもふローブを着たままで、そのあったかさと今日の疲労からか、まぶたが大分重くなっていてうつらうつらとしていた。
「いやぁ、ほんとまさか、しましまだとは」
「もう、フーディさん!」
フーディは一通り騒いで帰っていったが、その後も、しばらくユウの耳から熱が冷めることはなかった。
出かけるときはしっかりと戸締りをして、忘れ物、忘れ事がないかきちんと確認しよう。
特に、店の表示看板と、空を飛ぶならきちんと服を着替えよう。
ユウはそう心に誓うのであった。
――ここは喫茶店『小道』
ここにはしましまの女性店主と、もふもふのウェイトレスがいる。
お勧めはしましま、ちいさなもふもふをそえて――
「やーめーてーーー!!」