《地球》
“___交戦・開始しました”
通信機から聴こえてくる音声に、私は問い返す。
「マリアさん、3人は『超加速』状態に入っていますか?」
“ノー・現在・通常状態で交戦中です”
すると、今度は私達のやり取りを横で聴いていたワルキューレが口を開く。
「あの2人の『超加速』は、どの程度出来るんだ」
「2人ともある程度出来るようにはなりましたけど、メドーサ相手だと分が悪いですね。速さも、持続時間も……」
こうなると解っていたなら、もっと徹底的に鍛えておけたのに……いえ、それは今考えることじゃないわ。
「『超加速』もそれだと厳しいのね〜、ただでさえメドーサ相手じゃ厳しいのに」
「折角、持たせた武器もその状態じゃ、役に立ちませんからね……」
「何か打開策はないのか?」
「鍵になるとすれば、あの2人の連携……そして、横島さんの文殊ですね。使い所さえ間違わなければ、切り札になるはず……」
信じて、横島さん……あなたの力を、そして “あなた自身” を…………!
◇◇◇
「うおおおぉぉぉーーー!!」
槍に対してリーチで劣る雪之丞が、果敢に接近戦を仕掛ける!
初っ端から全開の凄まじいラッシュだ……並の妖怪や悪霊なら、一発で簡単に吹き飛ぶだろう。
しかし、メドーサには当たらない。
槍の柄で巧みに奴の突きを捌く、捌き続ける!
だが、雪之丞はお構いなしに突っ込む。是が非でも、奴のガードをこじ開ける気だ。
以前の奴ならメドーサ相手に、こんな力押しあり得なかった。伊達に妙神山に、篭もりっぱなしだった訳じゃない。度重なる猛特訓を経て、香港の時より霊力も霊気量も飛躍的にアップしてる。
「魔装術の収束が増してる…………雪之丞、あんたそれの極意を掴んだね!」
「猿(斉天大聖)に鍛えられたからな!俺はもう、お前等(魔族)には囚われねぇ!!」
「ハッ!魔装術を極めたくらいで、調子に乗るんじゃないよっ!!それは、私達の体を “擬似的” に再現したもの!紛い物が、オリジナルに勝てる訳ないのさ!!」
「うっせぇ!!やってみなきゃ解らねぇ!!!」
気合と共に、左の腕を振る!
「フンッ」
だが、僅かに身を捩って躱される!気合を入れた分、力んで雑になったな……
「あの世に逝きな!」
避けた瞬間に間髪入れずメドーサが刺又槍を横に振る!
ただの強烈な振りじゃない、夥しい竜気の伴った恐ろしい斬撃だ。まともに喰らえば、魔装鎧、諸共真っ二つだ。
「くっ」
雪之丞は、体を反らして辛うじて避ける…………いや、避けきれなかった。ダメージはないだろが、胸の装甲にクッキリと切り傷が浮かび上がる。
そして、完全に体勢が崩れた。
「終わり「させるかよっ!」だっ!」
メドーサの追撃しようとする瞬間、俺は一気に肉薄!狙いは奴の背中だ!!
「邪魔すんじゃないよ、ムシケラ!!」
メドーサが苛立ったように吐き捨てる同時に奴の髪が盛り上がり、そこから2匹の奇怪なイモムシが俺に襲い掛かってきた。
奴の眷属『ビッグイーター』だ。
その姿は、ヌメッとしたように質感の体表で色はメドーサの髪と同じ薄紫色。現実イモムシ同様、無数の脚が生えて、顔にも無数の眼………そして、一番の特徴はミミズのような円形のデカい口。そこに無数の歯が生えていて噛まれると石化する。ハッキリ言って鳥肌立つくらい気持ち悪い…………だが……
「予想済みだよ!!」
俺は構わず、右手の霊手で横に引っ掻く!!
ズシュッ!!
胴を切断された二匹は、体液を撒き散らしながら吹き飛ぶ!残った肉塊や、体液が無重力に漂う……気色悪いったらないが、気にせず突っ込む。噛まれさえしなきゃ、どうって事はない。
その勢いを殺さず、更に近づき右手を振り降ろす!
「チッ……」
ビッグイーターが牽制にも成らなかったことを悟ると、メドーサは雪之丞への追撃を諦め、忌々しそう槍で霊手を受け止める。
仕留められなくても、どっかに手傷くらいと思ったが流石に甘くないか……だが、これでいい。俺の相手するだけで、コイツは雪之丞に行けなくなる。
攻撃の起点はあくまで奴だが、俺は徹底的に邪魔してやるぜ!
「奴等を一撃か………あんた、何者だい?ただの雑魚じゃないねっ」
「………………」
まさか……… “俺” とも解ってない…………『虚吸の面』をしてるからか?
…………まぁ、いいか。
「おいっ、忠夫!お前、忘れられてるぞ♪」
メドーサが振り向いた隙に、態勢を立て直した雪之丞が今度は逆に奴の背中に迫る!
「笑ってねぇで、早く殺れや!!」
「一体何を……チッ」
舌打ちと同時にメドーサは槍で霊手をいなすと、そのまま右斜め後ろに跳んで俺達から距離を取る!だが、雪之丞は止まらない!
「逃がすかよ!」
再び拳の乱打による接近戦を仕掛ける。
徹底的に距離を潰す気だ。こうなれば、長い槍は防ぐことは出来ても反撃することが出来ない。やるなら柄で強引に迫る敵を押し返すか、バックステップで距離を稼ぐしかない。
だけど、そんなことは、させねぇっ!
雪之丞が襲い掛かると同時に、俺は『霊盾加速』で2人を追い抜く。始めと同じだ。奴が責めてる間に俺は、メドーサの背中に回る。
「くっ……」
さっきと同じ状況を作られた事に、メドーサが歯噛みしてるのが解る。
「鬱陶しいんだよっ!!」
怒声と共に、今度は3匹のビッグイーターが召喚される。
「同じだよっ!」
ズシュッ!! ブシュッ!
俺は、三度霊手を振って、奴等を切って捨てる!!
「馬鹿の一つ覚えかっ!?イモムシ程度じゃ、俺は殺れねぇ……
!!」
「こんっの……糞共がぁああ!!」
体を雪之丞に向けながら、俺に鋭い眼光を飛ばしてくる。
すげぇ怒りだ……
「脇見してんじゃねぇよ、蛇女っ!」
「ぐぅうっ……!!」
今度は俺に代わって雪之丞が、おちょくる様に声を掛ける。その度にメドーサは、思うようにならない苛々を募らせる。
そうやってヒステリックになっていく奴を見ながら、俺は内心ほくそ笑む。よし、もっと怒れ……
出来れば霊盾や文殊で援護してやりてぇが、それをすると雪之丞まで巻き込むことになる。霊手で攻撃しようにも、タイミングを誤ると相打ちになりかねない…………だから一定の距離を保って、適当に挑発してやるしかない。でも、これでいい。
俺が常に “後ろにいる” とメドーサに意識させるだけで、奴は雪之丞に全力投球出来ない。
隙を見せれば仕留める、攻勢に出れば邪魔をする、逃げに回れば食らいつく!
メドーサが雪之丞に行けば俺が、俺の方に来れば雪之丞が……
…………いいぞ。これを繰り返してるうちはメドーサ相手でも “拮抗” は出来る。
ただ、長くは保たない……
当たり前だ……元より、地力が圧倒的に違う。
おまけに、こっちは宇宙空間と言う時間制限付き。装備の竜気が尽きれば、すぐに死ぬ。
正直言って、奴が逃げに徹していたらヤバかった…………いや、今でもヤバい。奴が俺達を雑魚と舐めてるから馬鹿正直にやり合っちゃいるが、冷静になって逃げに転じられたらアウトだ。
一見優位に見えても、俺達は薄氷の上でギリギリに保ってる “拮抗” で何とか命を繋いでいるに過ぎない。
………………その間に奴を “嵌め” ないと……
◇◇◇
「だぁああっ!!こっちは、お前達を相手にするほど暇じゃないんだ!とっとと逝けっ!!」
あれから同じような攻防を、数回繰り返したくらいだろうか?遂にメドーサが痺れを切らした!!
『 』
叫ぶと同時に、音もなく奴の体が消えた…………
いや、消えたんじゃない…………
俺達の認識を “超えた” ……………………!!
ここに来てメドーサが『超加速』を使ったんだ。
『超加速』……これを使うと物理法則や時間法則を無視した加速(厳密には一時的に周囲の時の流れを遅くする)が可能になり、周りの者にそれを認識するのは不可能となる。
つまり、術者に使われた時点で周りの者は “為すすべもなくなく殺られる” ことになる。
始めから使わなかったのは、俺達相手に本気を出すのをプライドが許さなかったからだろう………だが、ここに来て “とうとう” 我慢の限界が来た。
ただ………
「何っ!!?」
「竜族の装備してんだぞ、俺達も出来ねぇわけねぇだろ」
「宇宙で普通に動いてる時点で気づけよ。相当焦ってんじゃねぇか?」
さ〜て、雪之丞……解ってると思うけど、言うほど俺等余裕ねぇからな。
ここからが本当の正念場だ…………
“3人が・『超加速』状態に・入りました・現在交信不可能です”