#33
ー/ー
この世界の地表には二種類の知的生命体が存在する。
世界を造った怪異達とそれ以外である。
そしてシロとサンディは仮に地球に金星が降り注いでも平気でいられる幾つかの命の末端であったが、人間で受肉を果たしたことと人間と過ごした時間が彼らの思考を怪異にしては珍しい人間びいきへと導いていた。
「俺は別に人類全てを助けようなんざ考えちゃいない。そして爺さんの本体を知って思い至ったんだが、地下のアレは箱舟ってことでいいんだな」
シロはコーヒー飲み干しながら老人を見据えた。
「御明察のとおり、あれは地表が洪水に飲まれても生物が死に絶えぬための種の保管庫。世界に幾つかある生物の設計図を収めた継承の園じゃ」
「どーりで。どの本もやたら生物学書めいていたわけだ」
「【記録】も関わっておるからのう。あれは理屈っぽくて敵わん。話始めは興味深いが段々頭が痛くなってくる」
ストーブの上で沸かしていたヤカンを手に取り、新しい飲み物を用意しながらサンディは老人らしくボヤいてみせる。空になったカップに湯気を立てる液体の入れ直され、受けとりながら女は彼の苦悩に同意して見せた。
「俺の友人にも理屈っぽいのが居てな。全くそんなことも知らないのかって態度には何度もムカつかされたぜ」
「じゃが嫌いではないのじゃろう?」
「そりゃそうだ。でなきゃ友人なんて呼ばねーからな」
二人は互いの友人の話に笑いながら暫し雑談とコーヒーの香りを楽しみ、どちらともなく真剣な顔となり本題へと戻った。
「それで、爺さんは具体的にどうするんだ?星落しなんざ怪異一匹でどうこう出来るもんじゃねーぞ」
「儂は継承じゃが子供達に喜びを配る伝承でもある。十二月末の祭日になればその力を行使するつもりじゃ。そうすれば子供達ぐらいは命を繋げるじゃろう」
「大人は?」
女の言葉に老人は痛ましそうに目頭を押さえ、その様子を見た質問者は一言「悪い」と言い部屋に静寂が訪れる。
彼女は彼の元となった伝承怪異の性質が『子供のみに喜びを配る』ことであるのだから、大人は彼の影響範囲外であることに思い至ったのだ。
むしろ怪異としての性質と伝承の性質を合わせてようやく子供だけは救えるという結果を手繰り寄せられるだけ、彼はただ諦めないだけの自分よりずっと救済達成に近い位置にいるのだから、どうして大人を救おうとしないと糾弾するなどという考えは思い浮かんだ瞬間消し飛ばした。
「それでお主はどうするんじゃ?」
「そりゃあもちろん諦めねーさ。それが俺の怪異性だ」
「何を諦めないのかと聞いておる」
不敵に笑う女の言葉に当然老人は「無謀すぎる、もっと地に足と着けた考えに改めるべきじゃ」と諭したが、それを予想していた女は「嫌だね」と答えると共に心に薪をくべいっそう燃え上がらせ、なみなみと残っていた湯気を立てるコートを一気に飲み込み図書館を後にした。
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世界を造った怪異達とそれ以外である。
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「俺は別に人類全てを助けようなんざ考えちゃいない。そして爺さんの本体を知って思い至ったんだが、地下のアレは箱舟ってことでいいんだな」
シロはコーヒー飲み干しながら老人を見据えた。
「御明察のとおり、あれは地表が洪水に飲まれても生物が死に絶えぬための種の保管庫。世界に幾つかある生物の設計図を収めた継承の園じゃ」
「どーりで。どの本もやたら生物学書めいていたわけだ」
「【記録】も関わっておるからのう。あれは理屈っぽくて敵わん。話始めは興味深いが段々頭が痛くなってくる」
ストーブの上で沸かしていたヤカンを手に取り、新しい飲み物を用意しながらサンディは老人らしくボヤいてみせる。空になったカップに湯気を立てる液体の入れ直され、受けとりながら女は彼の苦悩に同意して見せた。
「俺の友人にも理屈っぽいのが居てな。全くそんなことも知らないのかって態度には何度もムカつかされたぜ」
「じゃが嫌いではないのじゃろう?」
「そりゃそうだ。でなきゃ友人なんて呼ばねーからな」
二人は互いの友人の話に笑いながら暫し雑談とコーヒーの香りを楽しみ、どちらともなく真剣な顔となり本題へと戻った。
「それで、爺さんは具体的にどうするんだ?星落しなんざ怪異一匹でどうこう出来るもんじゃねーぞ」
「儂は継承じゃが子供達に喜びを配る伝承でもある。十二月末の祭日になればその力を行使するつもりじゃ。そうすれば子供達ぐらいは命を繋げるじゃろう」
「大人は?」
女の言葉に老人は痛ましそうに目頭を押さえ、その様子を見た質問者は一言「悪い」と言い部屋に静寂が訪れる。
彼女は彼の元となった伝承怪異の性質が『子供のみに喜びを配る』ことであるのだから、大人は彼の影響範囲外であることに思い至ったのだ。
むしろ怪異としての性質と伝承の性質を合わせてようやく子供だけは救えるという結果を手繰り寄せられるだけ、彼はただ諦めないだけの自分よりずっと救済達成に近い位置にいるのだから、どうして大人を救おうとしないと糾弾するなどという考えは思い浮かんだ瞬間消し飛ばした。
「それでお主はどうするんじゃ?」
「そりゃあもちろん諦めねーさ。それが俺の怪異性だ」
「何を諦めないのかと聞いておる」
不敵に笑う女の言葉に当然老人は「無謀すぎる、もっと地に足と着けた考えに改めるべきじゃ」と諭したが、それを予想していた女は「嫌だね」と答えると共に心に薪をくべいっそう燃え上がらせ、なみなみと残っていた湯気を立てるコートを一気に飲み込み図書館を後にした。