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第58話 笹丸

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「笹丸様は麓のある末社の宮に付属した宿に泊まっておりました」と裕香が説明を続けた。「そこで顔見知りになった巫女の一人に、ある石を預けました。その宝石をあげる代わりに、それを身につけて奥之宮の儀式に参加してほしいと頼んだのです」

「そして、宿代すら払えなくなった笹丸様は無一文で出ていきました」と裕香。「その後、律儀なその巫女はある祭りの際に、薄汚れた石を胸に奥之宮に入ったのです」

「ゲートが開いた折に、石が輝いたそうです」と裕香。「大神様がそれに気づき、石を持つ巫女を問いただし、事の経緯を知りました。その石は冥界で産出されたもので、冥界でもそれ相応の身分の者しか所有できない宝石だったそうです」

「大神様は笹丸様をすぐに探させましたが、見つかりませんでした。神職たちが、わざと笹丸様の情報を隠したとも言われています」と裕香。「隠せば何とか言い逃れができると考えていたのでしょう」

「結局、笹丸様の行方は分かりませんでした」と裕香。「ですが、その後意外な噂が伝わってきました。笹丸様が、冥界の女王と結婚したというのです」

「女王との契約により魔力を取り戻した笹丸様、つまり涙の魔術師様は黒魚王と呼ばれるようになり、誰よりも早くこの地上で、異星生物迎撃の準備を始めました。後のことは、あなた方のほうがよく知っておられるはずです」

「噂を知った大神様の怒りは尋常ではなかったと聞いております」と裕香。「それ以降、ゲートは閉ざされてしまいました」

「第一次防衛戦争以降は、特定の巫女のみにお声が届くようになりました」と裕香。「当時は雪という名の、笹丸の石を預かった巫女のみでした。現在では、この遠藤春が主にその役を務めています。春は雪の孫です」

 春は小さく頭を下げた。



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「笹丸様は麓のある末社の宮に付属した宿に泊まっておりました」と裕香が説明を続けた。「そこで顔見知りになった巫女の一人に、ある石を預けました。その宝石をあげる代わりに、それを身につけて奥之宮の儀式に参加してほしいと頼んだのです」
「そして、宿代すら払えなくなった笹丸様は無一文で出ていきました」と裕香。「その後、律儀なその巫女はある祭りの際に、薄汚れた石を胸に奥之宮に入ったのです」
「ゲートが開いた折に、石が輝いたそうです」と裕香。「大神様がそれに気づき、石を持つ巫女を問いただし、事の経緯を知りました。その石は冥界で産出されたもので、冥界でもそれ相応の身分の者しか所有できない宝石だったそうです」
「大神様は笹丸様をすぐに探させましたが、見つかりませんでした。神職たちが、わざと笹丸様の情報を隠したとも言われています」と裕香。「隠せば何とか言い逃れができると考えていたのでしょう」
「結局、笹丸様の行方は分かりませんでした」と裕香。「ですが、その後意外な噂が伝わってきました。笹丸様が、冥界の女王と結婚したというのです」
「女王との契約により魔力を取り戻した笹丸様、つまり涙の魔術師様は黒魚王と呼ばれるようになり、誰よりも早くこの地上で、異星生物迎撃の準備を始めました。後のことは、あなた方のほうがよく知っておられるはずです」
「噂を知った大神様の怒りは尋常ではなかったと聞いております」と裕香。「それ以降、ゲートは閉ざされてしまいました」
「第一次防衛戦争以降は、特定の巫女のみにお声が届くようになりました」と裕香。「当時は雪という名の、笹丸の石を預かった巫女のみでした。現在では、この遠藤春が主にその役を務めています。春は雪の孫です」
 春は小さく頭を下げた。