表示設定
表示設定
目次 目次




蝿王(月編)

ー/ー




 地球から飛びたって、既に2日……俺達の乗ったロケットは、月の周回軌道上に到達していた。

 そして、通信で先程確認した画像には…………予想通り今まで何度も敵対したことがある、メドーサが映っていた。

 薄い紫色の歌舞伎役者を連想させるボリューミーな長い髪。整ってはいるものの、酷薄な印象ばかり与える顔立ち。

 そして、あの威圧的なヘビのような……いや、蛇そのもの(・・・・・) の目は忘れようがない。
 

 始めの2回は、完全に先生(美神)のオマケ。香港では雪之丞と一緒に加勢こそしたが、殆ど嫌がらせに終止していた。

 だが、今回はガチの正面対決…………緊張や怯えは、全く止まらねえがやるしかねぇ!
 

 武神様の言葉を信じるんだ(あの方は、俺達の戦闘力“““だけ”””は信じてくれた)。今の俺達の霊力なら奴にも通る!!

 だが…………

 

「雪之丞」
「ん?」 

「さっきの通信で見た画像に、巨大な装置が映ってた。多分、あれで月の魔力を地球に送るつもりなんだろうな。最悪、奴等が気づく前に装置だけ “ぶっ壊して” トンズラすることも考えなきゃならないと思う……」


 
 やり合うのは、本当に最後の手段だ。

 負けるつもりはねぇが、圧倒的不利感はどうやったって否めない。

 そもそもメドーサがいるのは解ったが、まだ全容がハッキリとしてない。先生を監視してる蝿(ベルゼブル)が居るのは確実だろうが、他に居ないとも限らないからな。
 

「依頼を最優先に考えりゃ、それが妥当だな。だが、月神族はどうする?見捨てることになるぞ…………」
「あくまで、最悪の場合だよ………エネルギーを送られたら連中を何とか出来ても、何にもならねぇからな。破壊だけしちまえば、まだ挽回の可能性も残る」


 今回は時間が無くて、この布陣……だが、今いったような状況になれば、地球側も万全の体制が組めるはずだ。
 

「それも、仕方ねぇか……でも、具体的にどうすんだよ?あの画像だけじゃ、殆どわかんねぇぞ」
「………………」


 確かにそうなんだよな。

 でも余り近寄ると武神様が作ってくれた、唯一のアドバンテージすら失うことになる。

 さて、どうしたもんか…………?


「爺さん、俺達の話し聞いてたろ!何かないか?」


 俺達だけで考えても、いい案が出そうに無いんで地球側にも意見を求める。


“難しいのぉ、偵察機なんか積んどらんし……”
“私も、あの画像だけじゃ解らないのねぇ〜”


 …………頼みの2人でも、駄目か……参ったな。

 
「こんな事なら、あの国からミサイルでも1発パクっときゃ良かったな」
「ハハハ……」


 コイツなら本当にやりそうで恐い…………でも、地球の運命と天秤に掛けるならアリかもな。今、言っても仕方ねぇけど。
 

 ………………あの性悪女なら2、3発くらいパクって来るかな?

 側に見てたんだから、もっと見習わないと……いやいや、あんな発想は奴にしか出来ない…………

 
 今、出来る手段で考えるんだ。

 俺、雪之丞、マリアの力。そして神魔族達から渡された、大量の武器もある。




    ◇◇◇

「感じるか?」

 
 俺は、隣の雪之丞に問い掛けた。

 あれから、更に数時間……まだ問題の装置は視認出来ない。灰色の岩や砂利、そして数多のクレーターが点在する地表が果てし無く続いてるだけだ。

 だが、雰囲気がさっきまでと違う。以前やりあった魔族の気配を感じる。


「ああ、あの蝿野郎で、間違いねぇだろ」


 魔族『ベルゼブル』……以前、妙神山でやりあった蝿の魔族だ。文字通り、姿も動きも蝿そのもの。分裂する特殊能力を持ってて、強大な敵と言うより厄介な敵と言った印象の強い相手だ。

 さっきの通信の様子から察すると、メドーサが装置の周りを警戒して、更に遠くをベルゼブルが見てると踏んでたが予想通りらしい。


「近づいてる、準備はいいか?」
「ハッ、誰に言ってんだよ!」


 こんな風に話してる間にも、奴の気配はどんどん強くなる。俺達が気付いてると言うことは、向こうもとっくに気付いてるはずだ。


“前方・2時の方向・敵影!”

「来たか!」
「マリア、停めてくれ!」

“イエス・停止します”


 ロケットの逆噴射で船体が空中で静止する。

 それを確認すると、既にヘルメットを被っていた俺達は円形のハッチを開いて外へ出る。

 宇宙空間へ初めて出た……無数の星々が煌めく無限の闇。普通そんな時なら色んな感情や感慨が湧き上がって来るもんだが、あいにくそんな感動に浸れる程の余裕はなかった。

 その頃には、ベルゼブルが急速に俺達へ肉薄していたからだ。妙神山の時とは違って、今は一体で人間と同サイズだ。







蝿王 ウンコ蝿
「はっ!連中もヤキが回ったか?美神令子の代わりにお前達を寄越すなんてな!!」
「言ってろっ!ウンコ蝿がっ!!」


 ヴァアッ!!
 

 顔が蝿なんで表情は皆無だが、その嘲笑した言葉から油断が見て取れる。

 そんな、ベルゼブルに雪之丞が挨拶代わりの霊波砲を放つ!


「馬鹿がっ、当たるか!」


 ベルゼブルは、ますます俺達を馬鹿にしたように言い放つと同時に、一瞬で無数に分裂した。瞬く間に散開して霊波砲を躱す!


 ………………確か、初めて文殊を使ったのがコイツだったな。

 あの時は、『爆』と刻んで奴のクローン達を吹き飛ばしたんだ。体感時間だと数年前の筈だが、昨日の事のように思い出す。

 俺は、そんな奇妙な感慨に耽りながら持って居た文殊を奴の集団へ投擲する。タイミング的には、雪之丞の霊波砲の後間髪入れずにだ。


「チッ!」


 奴にも同じ記憶があるんだろうな。苦々しく舌打ちすると、更に散開しようとする。だが……


「な、何ぃ!!?」


 散開は出来ないんだよ…………何故なら、今回刻んだのは『爆』じゃなくて『吸』!


「「「「「おおおぉぉぉーーーーっ!!!」」」」」


 予想と違って動揺した蝿野郎達は、為すすべもなく霊気の吸引によって文殊に引き寄せられていく。そして、10秒も経たない内に人間大の “蝿の塊” が完成した。


「よしっ!ウ◯コに喰い付いたっ!!」
「馬鹿言ってねぇで、早く撃て!!」


 何がウン◯だ…………


「おっしゃあああーーっ!!!」


 ブォオワァアッーーー!!!


 奴等が集まるタイミングを見計らって、雪之丞が2発目の霊波砲を放つ!

 前の挨拶代わりの一発と違って、今度は決めに行った一発。威力も段違いだ。


「「「「「グギャアッーーーー!!!!」」」」」


 ブシュッーーーーン!!


 雪之丞の放った霊波の奔流は、見事に塊の中心点をぶち抜く。霊波に呑まれた個体は蒸発。これで大半が消滅したが、それだけでなく残った連中も次々と爆散していった。

 多分、先に消滅した中に本体がいて、その本体が消滅したせいでクローン達も爆散したんだろうな……

 …………正直、上手く行きすぎだ。どうせ分裂してくると思ったから、予め取り決めしちゃあいたが全く警戒しないで突っ込んで来やがった。

 最悪『肢体爆弾』も撃つつもりだったけど、正直助かった(アレはロケットすら巻き込みかねない)。人間を舐めすぎたな。


「よっしゃ!◯ンコ作戦大成功!!♪」
「だから、ウ◯コじゃねぇ……」


 ウン◯はやめろ……


“正式名称・糞べ…「説明しなくていい!!」”


 何故マリアまで、反応する……?


「それよりマリア、周りに反応はないか?」
“ノープロブレム・反応ありません”
「居たのは、蝿だけみたいだな」

 
 マリアの返答を聞いた雪之丞が呟く。心なしか拍子抜けしてる感じだ。

 …………安心しろ。メドーサはコイツみたいに甘くねぇからな。
 

「ああ、奴が油断して連れてこなかったんだか、本当にメドーサしか居ないんだかは解らないけどな」





    ◇◇◇

「!?」


 周回軌道上で警戒させていた、ベルゼブルの反応が消えた!?


「……やられたのか…………!あれほど「人間だから」と侮るなと言ったのに…………クズめ……!!」

 
 
 誰だ……一体誰が来るんだ…………?

 


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 幕間(月編)


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 地球から飛びたって、既に2日……俺達の乗ったロケットは、月の周回軌道上に到達していた。
 そして、通信で先程確認した画像には…………予想通り今まで何度も敵対したことがある、メドーサが映っていた。
 薄い紫色の歌舞伎役者を連想させるボリューミーな長い髪。整ってはいるものの、酷薄な印象ばかり与える顔立ち。
 そして、あの威圧的なヘビのような……いや、|蛇そのもの《・・・・・》 の目は忘れようがない。
 始めの2回は、完全に|先生《美神》のオマケ。香港では雪之丞と一緒に加勢こそしたが、殆ど嫌がらせに終止していた。
 だが、今回はガチの正面対決…………緊張や怯えは、全く止まらねえがやるしかねぇ!
 武神様の言葉を信じるんだ(あの方は、俺達の戦闘力“““だけ”””は信じてくれた)。今の俺達の霊力なら奴にも通る!!
 だが…………
「雪之丞」
「ん?」 
「さっきの通信で見た画像に、巨大な装置が映ってた。多分、あれで月の魔力を地球に送るつもりなんだろうな。最悪、奴等が気づく前に装置だけ “ぶっ壊して” トンズラすることも考えなきゃならないと思う……」
 やり合うのは、本当に最後の手段だ。
 負けるつもりはねぇが、圧倒的不利感はどうやったって否めない。
 そもそもメドーサがいるのは解ったが、まだ全容がハッキリとしてない。先生を監視してる蝿(ベルゼブル)が居るのは確実だろうが、他に居ないとも限らないからな。
「依頼を最優先に考えりゃ、それが妥当だな。だが、月神族はどうする?見捨てることになるぞ…………」
「あくまで、最悪の場合だよ………エネルギーを送られたら連中を何とか出来ても、何にもならねぇからな。破壊だけしちまえば、まだ挽回の可能性も残る」
 今回は時間が無くて、この布陣……だが、今いったような状況になれば、地球側も万全の体制が組めるはずだ。
「それも、仕方ねぇか……でも、具体的にどうすんだよ?あの画像だけじゃ、殆どわかんねぇぞ」
「………………」
 確かにそうなんだよな。
 でも余り近寄ると武神様が作ってくれた、唯一のアドバンテージすら失うことになる。
 さて、どうしたもんか…………?
「爺さん、俺達の話し聞いてたろ!何かないか?」
 俺達だけで考えても、いい案が出そうに無いんで地球側にも意見を求める。
“難しいのぉ、偵察機なんか積んどらんし……”
“私も、あの画像だけじゃ解らないのねぇ〜”
 …………頼みの2人でも、駄目か……参ったな。
「こんな事なら、あの国からミサイルでも1発パクっときゃ良かったな」
「ハハハ……」
 コイツなら本当にやりそうで恐い…………でも、地球の運命と天秤に掛けるならアリかもな。今、言っても仕方ねぇけど。
 ………………あの性悪女なら2、3発くらいパクって来るかな?
 側に見てたんだから、もっと見習わないと……いやいや、あんな発想は奴にしか出来ない…………
 今、出来る手段で考えるんだ。
 俺、雪之丞、マリアの力。そして神魔族達から渡された、大量の武器もある。
    ◇◇◇
「感じるか?」
 俺は、隣の雪之丞に問い掛けた。
 あれから、更に数時間……まだ問題の装置は視認出来ない。灰色の岩や砂利、そして数多のクレーターが点在する地表が果てし無く続いてるだけだ。
 だが、雰囲気がさっきまでと違う。以前やりあった魔族の気配を感じる。
「ああ、あの蝿野郎で、間違いねぇだろ」
 魔族『ベルゼブル』……以前、妙神山でやりあった蝿の魔族だ。文字通り、姿も動きも蝿そのもの。分裂する特殊能力を持ってて、強大な敵と言うより厄介な敵と言った印象の強い相手だ。
 さっきの通信の様子から察すると、メドーサが装置の周りを警戒して、更に遠くをベルゼブルが見てると踏んでたが予想通りらしい。
「近づいてる、準備はいいか?」
「ハッ、誰に言ってんだよ!」
 こんな風に話してる間にも、奴の気配はどんどん強くなる。俺達が気付いてると言うことは、向こうもとっくに気付いてるはずだ。
“前方・2時の方向・敵影!”
「来たか!」
「マリア、停めてくれ!」
“イエス・停止します”
 ロケットの逆噴射で船体が空中で静止する。
 それを確認すると、既にヘルメットを被っていた俺達は円形のハッチを開いて外へ出る。
 宇宙空間へ初めて出た……無数の星々が煌めく無限の闇。普通そんな時なら色んな感情や感慨が湧き上がって来るもんだが、あいにくそんな感動に浸れる程の余裕はなかった。
 その頃には、ベルゼブルが急速に俺達へ肉薄していたからだ。妙神山の時とは違って、今は一体で人間と同サイズだ。
「はっ!連中もヤキが回ったか?美神令子の代わりにお前達を寄越すなんてな!!」
「言ってろっ!ウンコ蝿がっ!!」
 ヴァアッ!!
 顔が蝿なんで表情は皆無だが、その嘲笑した言葉から油断が見て取れる。
 そんな、ベルゼブルに雪之丞が挨拶代わりの霊波砲を放つ!
「馬鹿がっ、当たるか!」
 ベルゼブルは、ますます俺達を馬鹿にしたように言い放つと同時に、一瞬で無数に分裂した。瞬く間に散開して霊波砲を躱す!
 ………………確か、初めて文殊を使ったのがコイツだったな。
 あの時は、『爆』と刻んで奴のクローン達を吹き飛ばしたんだ。体感時間だと数年前の筈だが、昨日の事のように思い出す。
 俺は、そんな奇妙な感慨に耽りながら持って居た文殊を奴の集団へ投擲する。タイミング的には、雪之丞の霊波砲の後間髪入れずにだ。
「チッ!」
 奴にも同じ記憶があるんだろうな。苦々しく舌打ちすると、更に散開しようとする。だが……
「な、何ぃ!!?」
 散開は出来ないんだよ…………何故なら、今回刻んだのは『爆』じゃなくて『吸』!
「「「「「おおおぉぉぉーーーーっ!!!」」」」」
 予想と違って動揺した蝿野郎達は、為すすべもなく霊気の吸引によって文殊に引き寄せられていく。そして、10秒も経たない内に人間大の “蝿の塊” が完成した。
「よしっ!ウ◯コに喰い付いたっ!!」
「馬鹿言ってねぇで、早く撃て!!」
 何がウン◯だ…………
「おっしゃあああーーっ!!!」
 ブォオワァアッーーー!!!
 奴等が集まるタイミングを見計らって、雪之丞が2発目の霊波砲を放つ!
 前の挨拶代わりの一発と違って、今度は決めに行った一発。威力も段違いだ。
「「「「「グギャアッーーーー!!!!」」」」」
 ブシュッーーーーン!!
 雪之丞の放った霊波の奔流は、見事に塊の中心点をぶち抜く。霊波に呑まれた個体は蒸発。これで大半が消滅したが、それだけでなく残った連中も次々と爆散していった。
 多分、先に消滅した中に本体がいて、その本体が消滅したせいでクローン達も爆散したんだろうな……
 …………正直、上手く行きすぎだ。どうせ分裂してくると思ったから、予め取り決めしちゃあいたが全く警戒しないで突っ込んで来やがった。
 最悪『肢体爆弾』も撃つつもりだったけど、正直助かった(アレはロケットすら巻き込みかねない)。人間を舐めすぎたな。
「よっしゃ!◯ンコ作戦大成功!!♪」
「だから、ウ◯コじゃねぇ……」
 ウン◯はやめろ……
“正式名称・糞べ…「説明しなくていい!!」”
 何故マリアまで、反応する……?
「それよりマリア、周りに反応はないか?」
“ノープロブレム・反応ありません”
「居たのは、蝿だけみたいだな」
 マリアの返答を聞いた雪之丞が呟く。心なしか拍子抜けしてる感じだ。
 …………安心しろ。メドーサはコイツみたいに甘くねぇからな。
「ああ、奴が油断して連れてこなかったんだか、本当にメドーサしか居ないんだかは解らないけどな」
    ◇◇◇
「!?」
 周回軌道上で警戒させていた、ベルゼブルの反応が消えた!?
「……やられたのか…………!あれほど「人間だから」と侮るなと言ったのに…………クズめ……!!」
 誰だ……一体誰が来るんだ…………?