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飛行機

ー/ー



 エリシアは飛行機の通路側の席に座っていた。
 隣の窓側には、見知らぬ男性が座っている。



 お互いに軽く会釈を交わした後、会話は特に生まれず、飛行機は滑らかに滑走路を離れた。



 ——ポーン。



 機内アナウンスが鳴り、シートベルトサインが消灯する。

 エリシアはすぐにシートベルトを外し、持っていたタブレットを取り出した。手慣れた様子で機内Wi-Fiに接続し、指を滑らせながら画面を操作する。

 外は白い雲が一面に広がり、穏やかな空の旅が続く。

 機内サービスのワゴンが通路を進む音が聞こえるほかは、静かな空間だった。



 エリシアはタブレットを操作していたが、しばらくすると戦闘機のゲームを起動した。



 画面に広がる空と敵機の編隊に、彼女の目が鋭く光る。

 このゲームは加速度センサーを利用したリアルな操作性が売りで、タブレットを傾けて戦闘機を操縦する仕様だった。エリシアは手慣れた様子でタブレットを軽快に動かし始めた。



「……よし……よし! いけ!『堕ちろ!』」



 ゲームに没頭する彼女は、無意識に口元が笑みを浮かべ、声を漏らす。その迫力ある声に隣の男性がギョッとした表情でタブレットを覗き込んだ。

 画面には、エリシアが操る戦闘機が次々と敵機を撃ち落とし、華麗なスコアを積み重ねていく様子が映し出されていた。



 エリシアはタブレットでゲームを終了すると、映画を再生し始めた。



 彼女が選んだのは『エアフォース・ウィン』というアクション映画。内容は、大統領専用機がテロリストにハイジャックされ、大統領自身が孤軍奮闘するというものだ。



 画面には序盤の緊迫したシーンが流れている。



 テロリストたちが機内の職員を次々と制圧し、生々しく射殺していく描写に、エリシアは眉一つ動かさず、むしろ興味深げに画面を見つめていた。



「なるほど、非効率ですわね。こんなやり方で掌握するなど……。」



 その冷静な感想を口にするエリシアの隣で、男性はタブレットの画面に目をやり、映像の残酷さに思わず顔を青くした。そして、妙に落ち着かない様子で自分の周囲の座席を見渡し始める。



 エリシアは映画を見終えると、再びタブレットを操作し始めた。今度はFPSゲームを起動する。



 画面には「特殊部隊」か「テロリスト」の選択肢が現れたが、エリシアは躊躇なく「テロリスト」を選んだ。



 男性は思わず目を丸くし、こっそりと画面を覗き込む。



 ゲームの舞台は、なぜか飛行機の中。狭い機内で銃撃戦が繰り広げられ、エリシアはタブレットを指で操作しながらテロリストとして勝ち進んでいく。



「……そうそう、まずコックピットを制圧するのが最優先ですわね。ふふ、逃がしませんわよ!」



 小声でゲームに没頭するエリシアの言葉に、隣の男性は顔面蒼白になった。胃の奥からじわじわと胃液が込み上げてくる感覚に襲われ、彼は必死に深呼吸を繰り返した。



「……何でこの人、飛行機の中でこんなゲームやってるんだ……?」



 男性の思考は混乱し、すでにどこかのタイミングで隣席の客室乗務員を呼ぶべきか本気で迷い始めていた。

 一方、エリシアは画面を見ながら完全に楽しそうな表情を浮かべている。まるで周囲の状況など何一つ気にしていないかのようだった。



 ゲームを終えたエリシアは、またもタブレットを操作し始めた。



 今度はYouTubeを開き、興味深げに動画を漁る。彼女の選んだ動画のタイトルが隣の男性の不安をさらに煽っていく。



「飛行中に飛行機のドアを開けた結果がヤバすぎる!」

「飛行機が墜落したクッソつまんねえ理由10選」

「サイエンスチャンネル〜もし生身で高度1万メートルに放り出されたら〜」



 動画の内容に聞き入るエリシアは、時折「なるほど」「興味深いですわ」と呟きながら頷いている。その平然とした態度が、隣の男性の心を逆にかき乱した。



「おえ……」



 彼は顔を手で覆い、耐え難い不快感に襲われながら小さく呻いた。顔はみるみる青ざめ、冷や汗が頬を伝う。

エリシアはそんな様子に気づくこともなく、画面に集中している。動画のナレーションが耳を貫く。



「もし飛行中にドアを開けると、機内の気圧が急激に変化し……」



男性は思わず目を閉じ、深呼吸を試みるも、イメージしてしまった光景が頭から離れない。



「もしかして、隣に座ったのが運の尽きだったのか……?」



 そんな考えが脳裏をよぎる中、エリシアは動画を見終わり、再生リストの次の動画に進む。彼女のタブレットからはまた別の不穏なタイトルが目に飛び込んでくるのだった。



 「すいません……ちょっとトイレ……」



 隣の男性が青ざめた顔で小さな声をかけてきた。



「ん? あぁ、どうぞ。」



 エリシアは気にも留めずに手を軽く振り、視線をタブレットに戻す。男性は礼を言う余裕もなく、急いで席を立ち、トイレへと駆け込んでいった。



「飛行機酔いかしら。」



 彼の背中を一瞥しながら、エリシアは首を傾げた。何が原因かなど深く考える様子もなく、再び画面に集中する。



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 エリシアは飛行機の通路側の席に座っていた。
 隣の窓側には、見知らぬ男性が座っている。
 お互いに軽く会釈を交わした後、会話は特に生まれず、飛行機は滑らかに滑走路を離れた。
 ——ポーン。
 機内アナウンスが鳴り、シートベルトサインが消灯する。
 エリシアはすぐにシートベルトを外し、持っていたタブレットを取り出した。手慣れた様子で機内Wi-Fiに接続し、指を滑らせながら画面を操作する。
 外は白い雲が一面に広がり、穏やかな空の旅が続く。
 機内サービスのワゴンが通路を進む音が聞こえるほかは、静かな空間だった。
 エリシアはタブレットを操作していたが、しばらくすると戦闘機のゲームを起動した。
 画面に広がる空と敵機の編隊に、彼女の目が鋭く光る。
 このゲームは加速度センサーを利用したリアルな操作性が売りで、タブレットを傾けて戦闘機を操縦する仕様だった。エリシアは手慣れた様子でタブレットを軽快に動かし始めた。
「……よし……よし! いけ!『堕ちろ!』」
 ゲームに没頭する彼女は、無意識に口元が笑みを浮かべ、声を漏らす。その迫力ある声に隣の男性がギョッとした表情でタブレットを覗き込んだ。
 画面には、エリシアが操る戦闘機が次々と敵機を撃ち落とし、華麗なスコアを積み重ねていく様子が映し出されていた。
 エリシアはタブレットでゲームを終了すると、映画を再生し始めた。
 彼女が選んだのは『エアフォース・ウィン』というアクション映画。内容は、大統領専用機がテロリストにハイジャックされ、大統領自身が孤軍奮闘するというものだ。
 画面には序盤の緊迫したシーンが流れている。
 テロリストたちが機内の職員を次々と制圧し、生々しく射殺していく描写に、エリシアは眉一つ動かさず、むしろ興味深げに画面を見つめていた。
「なるほど、非効率ですわね。こんなやり方で掌握するなど……。」
 その冷静な感想を口にするエリシアの隣で、男性はタブレットの画面に目をやり、映像の残酷さに思わず顔を青くした。そして、妙に落ち着かない様子で自分の周囲の座席を見渡し始める。
 エリシアは映画を見終えると、再びタブレットを操作し始めた。今度はFPSゲームを起動する。
 画面には「特殊部隊」か「テロリスト」の選択肢が現れたが、エリシアは躊躇なく「テロリスト」を選んだ。
 男性は思わず目を丸くし、こっそりと画面を覗き込む。
 ゲームの舞台は、なぜか飛行機の中。狭い機内で銃撃戦が繰り広げられ、エリシアはタブレットを指で操作しながらテロリストとして勝ち進んでいく。
「……そうそう、まずコックピットを制圧するのが最優先ですわね。ふふ、逃がしませんわよ!」
 小声でゲームに没頭するエリシアの言葉に、隣の男性は顔面蒼白になった。胃の奥からじわじわと胃液が込み上げてくる感覚に襲われ、彼は必死に深呼吸を繰り返した。
「……何でこの人、飛行機の中でこんなゲームやってるんだ……?」
 男性の思考は混乱し、すでにどこかのタイミングで隣席の客室乗務員を呼ぶべきか本気で迷い始めていた。
 一方、エリシアは画面を見ながら完全に楽しそうな表情を浮かべている。まるで周囲の状況など何一つ気にしていないかのようだった。
 ゲームを終えたエリシアは、またもタブレットを操作し始めた。
 今度はYouTubeを開き、興味深げに動画を漁る。彼女の選んだ動画のタイトルが隣の男性の不安をさらに煽っていく。
「飛行中に飛行機のドアを開けた結果がヤバすぎる!」
「飛行機が墜落したクッソつまんねえ理由10選」
「サイエンスチャンネル〜もし生身で高度1万メートルに放り出されたら〜」
 動画の内容に聞き入るエリシアは、時折「なるほど」「興味深いですわ」と呟きながら頷いている。その平然とした態度が、隣の男性の心を逆にかき乱した。
「おえ……」
 彼は顔を手で覆い、耐え難い不快感に襲われながら小さく呻いた。顔はみるみる青ざめ、冷や汗が頬を伝う。
エリシアはそんな様子に気づくこともなく、画面に集中している。動画のナレーションが耳を貫く。
「もし飛行中にドアを開けると、機内の気圧が急激に変化し……」
男性は思わず目を閉じ、深呼吸を試みるも、イメージしてしまった光景が頭から離れない。
「もしかして、隣に座ったのが運の尽きだったのか……?」
 そんな考えが脳裏をよぎる中、エリシアは動画を見終わり、再生リストの次の動画に進む。彼女のタブレットからはまた別の不穏なタイトルが目に飛び込んでくるのだった。
 「すいません……ちょっとトイレ……」
 隣の男性が青ざめた顔で小さな声をかけてきた。
「ん? あぁ、どうぞ。」
 エリシアは気にも留めずに手を軽く振り、視線をタブレットに戻す。男性は礼を言う余裕もなく、急いで席を立ち、トイレへと駆け込んでいった。
「飛行機酔いかしら。」
 彼の背中を一瞥しながら、エリシアは首を傾げた。何が原因かなど深く考える様子もなく、再び画面に集中する。