おいおい……なんでアイツ(雪之丞)じゃなくてこっちに来んだよ…………
俺は頭ん中で悪態をつきながら、目の前の怨霊に対峙する。すげぇ圧力だ……
◇◇◇
ここは富山県郊外の山道。
地元に出没する悪霊の除霊をして欲しいと依頼があった。依頼主は地元の自治体だ。
当初、自治体は深夜に悪霊が出ると報告を受けて除霊を依頼したが、特に被害も無かったのですぐに片が着くと楽観視していた。
しかし、蓋を開けてみると除霊に来たGSが立て続けにやられてしまい、死者は出てないがやられた人間の内の1人は今でも重体だという。
他のGS達の話によると、悪霊は江戸時代の元剣豪で不意討ちを受けて死んだ事が納得出来ず彷徨っているらしい。
そいつは向かってる来る者には容赦ないが、敵意のない者は割と寛容で被害が無いのもその辺が理由のようだ。
自治体は高ランクのGSに依頼することも検討したが、一般人に被害が出ていない案件に高額の予算を割くわけにも行かず、その結果協会から俺達にお鉢が回ってきたわけだ。
こういう手合は、バトルジャンキーの大好物なんであっさり飛びついた。奴はサシの勝負に拘ってるが、ヤバくなりそうなら加勢すればいいか。
…………と、そんな感じで割と気楽に考えてたが、除霊になると全く出やしねぇ……
2人で夜中ずっと目撃場所を何往復もしたが、まるで出ねぇ。しまいにゃ夜明けになっちまったんで仕方なくその日は引き上げたが、次の日も結果は一緒だった。
埒が明かないんで協会に問い合わせてみると、どうもやられた連中は全て1対1の状況だったらしい。ようするに2人一緒にいたんじゃ現れねって事だよな……
文珠で片方を隠す事も考えたが、相手が霊体である以上相手の霊気を感知してくるだろうからそれも断念した。
「しゃーねーな。二手に分かれるか」
「それじゃぁ、向こうの思う壺だろ?」
焦れたように言う雪之丞に一応反論したが、正直他に手があるとも思ってなかった。
「じゃあ、どうする気だよ?このまま2人でいたら、奴はいつまでも出て来ねぇぞ」
「なら戦闘になったら、すぐ向かえるギリギリの距離を保とう。それなら分断される事もない」
まぁ、この辺りが落とし所だらうな。
それでも、雪之丞は不満そうだったが奴を先行させて俺が付いて行くという事で一応納得させた。それでも、「勝負の邪魔はするなよ」と変な釘を刺されたが……
その後、雪之丞がスタートして5分経ったら俺が付いて行く事に決まり、奴が出てってから数分後に現在の状況に至る。
◇◇◇
事態はすぐに変わった……
雪之丞の姿が見えなくなって、俺1人になったと自覚した瞬間に『奴』は現れたんだ。
空気がひりつく……全身に悪寒が走る。
場数だけは並のGS以上に踏んで、悪霊や妖怪の類はかなり見慣れてる筈なのに普通にビビった!!
こいつはヤベェ……
闇から浮き上がるようにして現れた奴の姿は武士の装束に身を包んだ怨霊で、その両眼に瞳はなくただ赤黒く光っているだけだった。そして、そこに奴の生前受けたであろう怒りや憎しみが集約されてるようにも見えた。
完全に油断した……!
てっきり強い奴を探してるのかと思ったが “弱そうな方” を狙い打ちしてやがったのか?!!
自分の見通しの甘さを呪いたくなったが、そんな事すら奴は許さなかった。奴は脇に差していた刀を抜いたと瞬間に……
“ワシと勝負せぇーーーー!!!”
といきなりくぐもった叫声を張り上げたと思うと、真正面から襲い掛かって来た!
ギュォ!!
なっ!こいつ疾ぇ!!
一応人間の形をしちゃいるが、霊体なんで足なんか使わない。そのまま風のように突進してくる!
ギィン!!
俺は咄嗟に霊手を展開して、奴の振り下ろしを辛うじて防ぐ!
力もエゲツねぇな……
んな風に考えてると、奴が口を開く。
“サシなら負けんかった!!奴等不意打ちなんて卑怯な事しくさって!!!”
知らねぇよ!んな事……やっぱ、意思の疎通は不可能か。
「だからって、俺に当たんじゃねぇ!!」
俺は奴に膝蹴りを放つ!
ヴォンッ!
ただの膝蹴りじゃない。直前に霊盾を展開して、膝で撃ち抜いたんだ。『霊爆掌』ならぬ『霊爆膝』とでも、呼ぶべきか……?
“ぐっ……!”
その衝撃で開放される、霊気の爆発が奴を襲う。
ダメージは、ほぼ無いだろうな………だが、距離は取れた。
俺は奴の横に回り込むように走りながら、左手に展開した霊盾(手榴弾型)を横投げで投擲する!
だが、相手の怯んだ隙に放った攻撃はあっさり躱され、後ろにあった木に当たり爆散する……
ヴァーーーン!!
「チッ………」
あれを避けるか!?
だが、今の爆音で雪之丞の奴も気づくだろう……
だったら、それまで粘るか?
一瞬そんな考えが頭をよぎるが、即座に否定する。
いやいや、そんなのんびり出来る相手じゃねぇ……!
二択しかねぇよな。
闘争……?逃避……?
背中を見せた瞬間、殺られる………なら、闘争一択。ここで仕留めるしかねぇ!
俺は覚悟を決め、威力を弱めた霊盾をを1個、2個と投擲する。目的は牽制だ……距離を取りながら戦う。接近戦は不利だ。
だが、そんな俺の思惑を嘲笑うように、奴は霊盾を掻い潜り距離を詰めてくる。
糞!牽制にもならねぇのかよ!
…………どうする?
力を込めた霊盾を当てれば効果がありそうだが、当てられねぇ……そもそも、作ってる隙がねぇ。文珠の『浄』も効果的だが、結局は同じだ………
“キエィ!!”
俺を射程圏内に捉えた奴は、横薙ぎで首を狙ってくる……いや、狙ってるように感じただけだ!もぅ、剣閃が速くて見えねぇ……
「くっ……!」
ギィン!!
それでも、俺は何とか剣を止める。完全にヤマカンだ!そんな俺を見ながら奴は口を開く。
“動きは出鱈目だが、技に眼がついて行ってる……貴様、達人が側にいるな?”
武神様………あのお方を、達人呼ばわりとかどんだけだよ。
確かに、あのお方の剣を間近で見てきたから何とか対応出来てる。だが、長引けば確実に俺が死ぬ。
……こいつ、思考は破綻してる癖に剣に関してだけは鋭い。
剣を止めてる霊手でそのまま剣を掴んでやろうとしたが、奴の反応の方が優った。
「つっ……」
俺は腹に衝撃を受けて仰け反る。今度は俺が奴から膝蹴りを食らっちまった。
対霊体用プロテクターのお陰で軽いダメージで済んだが、俺はバランスを崩す。だが立て直しはせずに、その勢いのまま地面に倒れ込む!直後、俺のいた空間に斬撃が飛ぶのが解った。
俺は地面をそのまま数メートル転がり、三度奴と対峙する。
「何故、俺なんだ?サシの勝負なら、強い奴の方が燃えるだろうに……」
俺は奴に問い掛けるが、はっきり言ってどうでもいい。仕掛ける為に決心する時間が欲しいだけだ。
“知れたこと!お前からは強者の臭いがする。それだけよ!!”
ああ……やっぱり、こいつ解ってねぇ。
勝負事に関しちゃあ、マトモかと思ったけどそこも狂ってたのか?それとも、端から見る目が無かったのか……?
俺が、強者な訳ねぇだろうに……
「そりゃ光栄だ!!」
俺は、言うやいなや右手を突き出し霊手を刀状にする。
伸びろっ!
念じると同時に、霊手は奴に向って一直線に伸びる。それは、一瞬に満たない時間………が、あっさり躱される。そして奴も一直線に俺に突き進む。
“甘い!今度こそ逝け!!”
俺はさっきまでと違い、右手を前に突き出してガードはがら空き。
このまま行けば今度こそあの世行きだ。このまま行ければ……だが。
ブォワァッ!
“何!?”
奴が俺に肉薄する寸前、地面から浄化の光が発生する。それに包まれた奴の体は、溶けるように浄化されて行く。
そう……これは『浄』の文字が刻まれた文珠の力だ。さっき地面を転がった時に一つ仕掛けておいて、奴が上を通過するタイミングで発動させた。
奴は確かに疾い。だが、動きは直接的だ。
投擲は無理でも、発動ポイントまで誘導出来ればいけると思った。さっきの霊手は、そのポイントまで誘導するための布石だったわけだ。
“ン!!……ア!?”
その後も奴は何事か喚いていたが、そのまま音もなく消えていった。
最後に放った言葉は、納得行く最後が迎えられなかった無念か?それとも卑怯な手段な対する怒りか?
「悪いな……俺は剣豪じゃねぇ。GSなんだ」
俺に喧嘩吹っ掛けて来たのは業腹だったが、奴に全く同情が無かった訳じゃない。出来れば、正々堂々逝かしてやりたかったが俺じゃこれが限界だ。
勝負は、来世で頑張ってくれ……
何となく後味の悪い余韻に浸りかけた直後、魔装術を纏った雪之丞が慌ただしく掛けつけてきた。
「おおいっ!!何終わりにしてんだよ!?相手は、俺に譲る筈だろっ!?」
俺の両肩を掴んでブンブン力任せに揺さぶりやがる!止めろ!!脳が揺れるわ!!!
…………それより、俺の心配しろよ。