表示設定
表示設定
目次 目次




怪しい工作員

ー/ー



 フィレット王国の城。



 廃墟同然の部屋に身を潜める工作員、トニーとゾー。
 埃っぽい空気が漂う中、彼らは声を潜めて話し合っていた。



「聞けよ、ゾー。標的はエリシアだ。奴はただの大臣じゃない。魔術も戦闘能力も一級品だ」



「わかってるさ。けど、俺たちだってただの工作員じゃないぜ。こっちには作戦がある」



 トニーは窓の隙間から外を見下ろした。豪奢な装飾と使用人の足音が聞こえる。



 窓越しに双眼鏡を構えるトニー。



 中庭では職員たちが楽しそうに話をしている。

 平和な日常。



「ふん……これから大騒ぎになることも知らずに」
「トニーどうだ?」



「まあ異常は……はっ!」



 固まるトニー。ゾーが肩を叩く!



「どうしたトニー!」
「隠れろ!」



 窓の下に身を隠す二人。



「どうしたってんだよ!?」



「向かいの塔で奴がのぞいてたんだ。双眼鏡越しに目が合った気がする」

「マジかよ」



 ゾーが低くつぶやき、額に汗がにじむ。



「お前、気のせいじゃないのか?」



 ゾーは慎重に問いかけたが、トニーは震える声で返す。



「いや……確実にこっちを見てた。あの目だ。」



 トニーは震える手で双眼鏡を握り直し、再びわずかに身を乗り出して覗いた。



 やはり、向こうの塔の窓からエリシアがじっとこちらを見ている。微動だにせず、冷たい表情でこちらを見据えていた。



「……まるで人形みたいに動かねえな」



 ゾーが声を潜めて呟く。



「いや、そんなはずはない……俺たちを見てるんだ。確実に!」



 トニーは双眼鏡越しの視線に背筋を凍らせながら囁いた。



「もしかして、すでに俺たちの居場所がバレて……」



 トニーが言葉を詰まらせる。
 だがゾーは首を振り、冷静さを装って言い返した。



「いや、わからんぞ?単に景色を眺めてるだけかもしれねえ。城なんて広いんだし、俺たちに気づく理由もねえだろ?」



トニーは眉間に汗を滲ませたまま、双眼鏡を下ろした。だが胸騒ぎは消えない。



「それならいいが……なぁ、本当にそうか?」



 それから二日が経った。



「腹……減ったな」



 トニーが弱々しく呟いた。



 彼らは部屋の隅に身を潜めたまま、ほとんど動けずにいた。

 動けばエリシアに気づかれ、自分たちの命運が尽きる。それが二人の共通した恐怖だった。



 だが、一縷の望みに賭けていた。



 もしかしたら、あの時エリシアは単に外の景色を眺めていただけで、自分たちの存在に気づいていないのではないか、と。



「しかし……気づいてないとして、これ以上どうする?俺たち、このまま飢え死にか?」



 ゾーが苛立った声で囁いた。

 部屋に漂うのは冷たい空気と、ラジオから流れるうるさい音声だけだった。



「——国王選挙の活動が解禁されました。候補者たちは街に繰り出し、熱い訴えを……」



 ゾーは苛立ちを隠せずにラジオのスイッチを叩くように切った。



「うるせえ……そんなの、今どうでもいいんだよ」



 暗い部屋の中で、二人は互いの顔を見合った。トニーの目は虚ろだったが、ゾーは焦りと怒りを隠そうともしていなかった。



 二人は使用人に紛れ込むことで、なんとかわずかな食料を手に入れた。パンと果物、そして水。お世辞にも十分とは言えないが、とりあえず空腹を紛らわせるには足りた。



「助かったな……だが、このままじゃいつか尻尾を掴まれるぞ」



 ゾーが囁くように言った。

 トニーも同意するように頷いたが、言葉にすることはなかった。彼らの状況は好転していない。それどころか、時間が経つほど追い詰められる可能性が高まる。



「もう一度だ」



 トニーが双眼鏡を手に取り、慎重に窓から外を覗いた。



「いない……いないぞ!」

 トニーが驚く。



「何だって?」

 ゾーが慌てて双眼鏡をひったくった。



「……やつはどこだ?」



 双眼鏡を中庭に向けた瞬間、ゾーは息を呑んだ。



「あぁ!……いた」



 中庭の中央。そこにエリシアがいた。
 彼女は直立不動の姿勢で立っている。完全に軍隊式の作法だ。



「……何してやがる?」



 ゾーが戸惑いを隠せないまま呟く。

 エリシアの周りには数名の支援者らしき人物たちがいた。彼らの隣には子供連れの姿もある。支援者たちは満面の笑みだ。

 エリシアは一切の表情を見せないまま直立不動だ。



「なんだよあれ……?」

 ゾーが思わず漏らす。



「……あれが俺たちの標的だ」

トニーが自嘲気味に笑った。



 その場に吹き込む風だけが、二人をさらに追い詰めるかのように冷たかった。



 ——その日の夜。



 夜の静寂を破るように、ゾーが双眼鏡を手に窓の外を覗き込んだ。



「戻ってる……」



 向かいの塔の窓には再びエリシアの姿があった。今度は窓に背を向け、室内に立っている。



「おそらく、あそこが奴の自室だな……」



 ゾーが呟く。
 トニーは少し離れた場所で眉を潜めた。



「……で、何をしてる?」



「わからん。ただ……背を向けてるから、俺たちには気づいてないようにも見えるな」



 ゾーの言葉に一縷の希望を見いだすかのように、トニーは口を開きかけた。しかし、その瞬間——



 ——チャキ



 ゾーが静かにナイフを手に取った。鋭い刃先が月明かりに反射して煌めく。



「おい……何する気だ」

 トニーが低い声で尋ねる。



「わかってるだろ。やつが気づいていない今こそチャンスだ」

 ゾーの目は鋭く、声には決意が込められていた。



「待て、確証はない……!まだ早い!」

トニーが手を伸ばして制止しようとするが、ゾーは一歩も引かない。



「気づかれてからじゃ遅いんだよ!」

 ゾーが低く唸るように言った。



 トニーはゾーを組み伏せ、その目を見据えた。



「早まるな!あいつはわざと背を向けて俺たちを誘い出そうとしてるかもしれない!」



 ゾーは荒い息を吐きながらトニーの手を振り払おうとするが、思いのほか強い力で押さえつけられ、動けない。



「じゃあどうするんだよ!このままじゃ埒が明かない!」



 トニーは少しの沈黙を置いて、低く言った。



「いい考えがある。」



 ゾーの眉が動く。



「……簡単なアイデアだ。今、フィレットは選挙活動中だろう?エリシアも中庭で支援者と触れ合ってる。それを利用するんだ。」



「利用?」



 トニーはゾーを放し、身を起こして説明を続ける。



「俺たちは支援者に紛れ込む。そしてエリシアと握手する。俺が奴の手を握っている間に、お前が背後からブスリといく。」



 ゾーはしばらく考え込むように顎を撫で、うなずいた。



「……単純だが意外と効果的だな。」



 トニーはさらに言葉を重ねた。



「支援者が多い場所なら、警備も注意が散るはずだ。問題は退路だが——」



「そこまでは考えてないってことか?」



 ゾーが皮肉めいた笑みを浮かべる。



「だがな。」



 トニーは口調を引き締めた。



「選挙活動が終われば、彼女の警戒心はさらに高まる。もしも当選して国王にでもなれば、俺たちは二度と近寄れない。」



 ゾーは黙って天井を見つめた。部屋には緊張が漂う。



「俺たちは任務に命を捧げた身だろう?」



 トニーの言葉にゾーは静かにうなずいた。



「そうだったな……」



 彼らの間に、覚悟を共有した者同士の静かな合意が成立する。もう迷いはなかった。



 ——そして決行の日。



 フィレット王国の中庭は、選挙活動を見物しに来た支援者たちでごった返していた。トニーとゾーはそれぞれ支援者に紛れ込み、静かに時を待つ。



「行くぞ……」



 トニーは支援者たちをかき分けて先頭に躍り出た。人々の歓声にまぎれ、エリシアの目の前に立つ。



「エリシアさん!応援してます!」



 エリシアは直立不動だ。

 トニーはその手を掴み、強引に握手をした。だがその瞬間、何かが違うことに気づいた。



「あっ……」



 彼の目が一瞬見開かれる。しかし遅かった。

 後ろから忍び寄ったゾーが、エリシアの首筋にナイフを突き立てた。



 ——ズブッ!



「何やってんだ!」



 警備兵が叫びながら飛び込んでくる。ゾーとトニーはすぐさま地面に組み伏せられた。



「トニー!やったぞ!」

「違うんだ、ゾー!これは……!」



 もがきながら叫び合う二人。そのまま連行されていく。



 騒ぎは治まり、選挙活動は中止された。



 夕方の静まり返った中庭。誰もいなくなった場所に、エリシアが現れる。



「ちょっと!誰ですの!?私が作った『等身大蝋人形』を壊したやつは!」



 地面に転がった自分そっくりの蝋人形を見下ろしながら、エリシアは呆れた声を上げた。



「まったく……雑な真似をしてくれるものですわね。こんな芸術品、簡単に作れるものではありませんのに!」



 彼女はポケットからライターを取り出し、首の付け根部分を軽く炙り始める。



 ——チリチリ……



 蝋が柔らかくなったところで、首を胴体に押し付けて固定する。



 ——グリグリ……



「ふぅ、これで大丈夫ですわね。あとで手直ししなくちゃ。」



 エリシアは器用に形を整えると、満足げに一歩下がって人形を眺めた。



「選挙妨害も甚だしいですわね!まったく……」



 彼女は人形を拾い上げ、軽々と抱えて歩き出した。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む オフィス機器


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 フィレット王国の城。
 廃墟同然の部屋に身を潜める工作員、トニーとゾー。
 埃っぽい空気が漂う中、彼らは声を潜めて話し合っていた。
「聞けよ、ゾー。標的はエリシアだ。奴はただの大臣じゃない。魔術も戦闘能力も一級品だ」
「わかってるさ。けど、俺たちだってただの工作員じゃないぜ。こっちには作戦がある」
 トニーは窓の隙間から外を見下ろした。豪奢な装飾と使用人の足音が聞こえる。
 窓越しに双眼鏡を構えるトニー。
 中庭では職員たちが楽しそうに話をしている。
 平和な日常。
「ふん……これから大騒ぎになることも知らずに」
「トニーどうだ?」
「まあ異常は……はっ!」
 固まるトニー。ゾーが肩を叩く!
「どうしたトニー!」
「隠れろ!」
 窓の下に身を隠す二人。
「どうしたってんだよ!?」
「向かいの塔で奴がのぞいてたんだ。双眼鏡越しに目が合った気がする」
「マジかよ」
 ゾーが低くつぶやき、額に汗がにじむ。
「お前、気のせいじゃないのか?」
 ゾーは慎重に問いかけたが、トニーは震える声で返す。
「いや……確実にこっちを見てた。あの目だ。」
 トニーは震える手で双眼鏡を握り直し、再びわずかに身を乗り出して覗いた。
 やはり、向こうの塔の窓からエリシアがじっとこちらを見ている。微動だにせず、冷たい表情でこちらを見据えていた。
「……まるで人形みたいに動かねえな」
 ゾーが声を潜めて呟く。
「いや、そんなはずはない……俺たちを見てるんだ。確実に!」
 トニーは双眼鏡越しの視線に背筋を凍らせながら囁いた。
「もしかして、すでに俺たちの居場所がバレて……」
 トニーが言葉を詰まらせる。
 だがゾーは首を振り、冷静さを装って言い返した。
「いや、わからんぞ?単に景色を眺めてるだけかもしれねえ。城なんて広いんだし、俺たちに気づく理由もねえだろ?」
トニーは眉間に汗を滲ませたまま、双眼鏡を下ろした。だが胸騒ぎは消えない。
「それならいいが……なぁ、本当にそうか?」
 それから二日が経った。
「腹……減ったな」
 トニーが弱々しく呟いた。
 彼らは部屋の隅に身を潜めたまま、ほとんど動けずにいた。
 動けばエリシアに気づかれ、自分たちの命運が尽きる。それが二人の共通した恐怖だった。
 だが、一縷の望みに賭けていた。
 もしかしたら、あの時エリシアは単に外の景色を眺めていただけで、自分たちの存在に気づいていないのではないか、と。
「しかし……気づいてないとして、これ以上どうする?俺たち、このまま飢え死にか?」
 ゾーが苛立った声で囁いた。
 部屋に漂うのは冷たい空気と、ラジオから流れるうるさい音声だけだった。
「——国王選挙の活動が解禁されました。候補者たちは街に繰り出し、熱い訴えを……」
 ゾーは苛立ちを隠せずにラジオのスイッチを叩くように切った。
「うるせえ……そんなの、今どうでもいいんだよ」
 暗い部屋の中で、二人は互いの顔を見合った。トニーの目は虚ろだったが、ゾーは焦りと怒りを隠そうともしていなかった。
 二人は使用人に紛れ込むことで、なんとかわずかな食料を手に入れた。パンと果物、そして水。お世辞にも十分とは言えないが、とりあえず空腹を紛らわせるには足りた。
「助かったな……だが、このままじゃいつか尻尾を掴まれるぞ」
 ゾーが囁くように言った。
 トニーも同意するように頷いたが、言葉にすることはなかった。彼らの状況は好転していない。それどころか、時間が経つほど追い詰められる可能性が高まる。
「もう一度だ」
 トニーが双眼鏡を手に取り、慎重に窓から外を覗いた。
「いない……いないぞ!」
 トニーが驚く。
「何だって?」
 ゾーが慌てて双眼鏡をひったくった。
「……やつはどこだ?」
 双眼鏡を中庭に向けた瞬間、ゾーは息を呑んだ。
「あぁ!……いた」
 中庭の中央。そこにエリシアがいた。
 彼女は直立不動の姿勢で立っている。完全に軍隊式の作法だ。
「……何してやがる?」
 ゾーが戸惑いを隠せないまま呟く。
 エリシアの周りには数名の支援者らしき人物たちがいた。彼らの隣には子供連れの姿もある。支援者たちは満面の笑みだ。
 エリシアは一切の表情を見せないまま直立不動だ。
「なんだよあれ……?」
 ゾーが思わず漏らす。
「……あれが俺たちの標的だ」
トニーが自嘲気味に笑った。
 その場に吹き込む風だけが、二人をさらに追い詰めるかのように冷たかった。
 ——その日の夜。
 夜の静寂を破るように、ゾーが双眼鏡を手に窓の外を覗き込んだ。
「戻ってる……」
 向かいの塔の窓には再びエリシアの姿があった。今度は窓に背を向け、室内に立っている。
「おそらく、あそこが奴の自室だな……」
 ゾーが呟く。
 トニーは少し離れた場所で眉を潜めた。
「……で、何をしてる?」
「わからん。ただ……背を向けてるから、俺たちには気づいてないようにも見えるな」
 ゾーの言葉に一縷の希望を見いだすかのように、トニーは口を開きかけた。しかし、その瞬間——
 ——チャキ
 ゾーが静かにナイフを手に取った。鋭い刃先が月明かりに反射して煌めく。
「おい……何する気だ」
 トニーが低い声で尋ねる。
「わかってるだろ。やつが気づいていない今こそチャンスだ」
 ゾーの目は鋭く、声には決意が込められていた。
「待て、確証はない……!まだ早い!」
トニーが手を伸ばして制止しようとするが、ゾーは一歩も引かない。
「気づかれてからじゃ遅いんだよ!」
 ゾーが低く唸るように言った。
 トニーはゾーを組み伏せ、その目を見据えた。
「早まるな!あいつはわざと背を向けて俺たちを誘い出そうとしてるかもしれない!」
 ゾーは荒い息を吐きながらトニーの手を振り払おうとするが、思いのほか強い力で押さえつけられ、動けない。
「じゃあどうするんだよ!このままじゃ埒が明かない!」
 トニーは少しの沈黙を置いて、低く言った。
「いい考えがある。」
 ゾーの眉が動く。
「……簡単なアイデアだ。今、フィレットは選挙活動中だろう?エリシアも中庭で支援者と触れ合ってる。それを利用するんだ。」
「利用?」
 トニーはゾーを放し、身を起こして説明を続ける。
「俺たちは支援者に紛れ込む。そしてエリシアと握手する。俺が奴の手を握っている間に、お前が背後からブスリといく。」
 ゾーはしばらく考え込むように顎を撫で、うなずいた。
「……単純だが意外と効果的だな。」
 トニーはさらに言葉を重ねた。
「支援者が多い場所なら、警備も注意が散るはずだ。問題は退路だが——」
「そこまでは考えてないってことか?」
 ゾーが皮肉めいた笑みを浮かべる。
「だがな。」
 トニーは口調を引き締めた。
「選挙活動が終われば、彼女の警戒心はさらに高まる。もしも当選して国王にでもなれば、俺たちは二度と近寄れない。」
 ゾーは黙って天井を見つめた。部屋には緊張が漂う。
「俺たちは任務に命を捧げた身だろう?」
 トニーの言葉にゾーは静かにうなずいた。
「そうだったな……」
 彼らの間に、覚悟を共有した者同士の静かな合意が成立する。もう迷いはなかった。
 ——そして決行の日。
 フィレット王国の中庭は、選挙活動を見物しに来た支援者たちでごった返していた。トニーとゾーはそれぞれ支援者に紛れ込み、静かに時を待つ。
「行くぞ……」
 トニーは支援者たちをかき分けて先頭に躍り出た。人々の歓声にまぎれ、エリシアの目の前に立つ。
「エリシアさん!応援してます!」
 エリシアは直立不動だ。
 トニーはその手を掴み、強引に握手をした。だがその瞬間、何かが違うことに気づいた。
「あっ……」
 彼の目が一瞬見開かれる。しかし遅かった。
 後ろから忍び寄ったゾーが、エリシアの首筋にナイフを突き立てた。
 ——ズブッ!
「何やってんだ!」
 警備兵が叫びながら飛び込んでくる。ゾーとトニーはすぐさま地面に組み伏せられた。
「トニー!やったぞ!」
「違うんだ、ゾー!これは……!」
 もがきながら叫び合う二人。そのまま連行されていく。
 騒ぎは治まり、選挙活動は中止された。
 夕方の静まり返った中庭。誰もいなくなった場所に、エリシアが現れる。
「ちょっと!誰ですの!?私が作った『等身大蝋人形』を壊したやつは!」
 地面に転がった自分そっくりの蝋人形を見下ろしながら、エリシアは呆れた声を上げた。
「まったく……雑な真似をしてくれるものですわね。こんな芸術品、簡単に作れるものではありませんのに!」
 彼女はポケットからライターを取り出し、首の付け根部分を軽く炙り始める。
 ——チリチリ……
 蝋が柔らかくなったところで、首を胴体に押し付けて固定する。
 ——グリグリ……
「ふぅ、これで大丈夫ですわね。あとで手直ししなくちゃ。」
 エリシアは器用に形を整えると、満足げに一歩下がって人形を眺めた。
「選挙妨害も甚だしいですわね!まったく……」
 彼女は人形を拾い上げ、軽々と抱えて歩き出した。