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お誕生日おめでとう!

ー/ー



 エリシアと藤田は、安田の部屋にこっそりと忍び込んでいた。



「しっかし不用心ですわねぇ〜」



 エリシアはドアのチェーンロックがかかっていないことを指摘する。



「いや、ちょっとコンビニとか行ってるだけなんじゃないっすかね?」



 藤田は苦笑いしながら答えた。
 だが、エリシアは何やら楽しそうだ。



「ほら、安田って無表情で何考えてるかわからないじゃありませんの。それに時々気配が消えるし、職場でも馴染んでない感じがしますわ」



「いやぁ、そんなことないっすよ。安田、普通に皆と話してますし」


 


 ——エリシアは壁一面に掛けられたお面を見て、思わず声を上げた。





「なんですの!?これ!?時間を戻せるオカリナとか置いてそうですわよ!」



 藤田は苦笑しながら答える。



「あー、安田、お面マニアなんですよね。趣味で集めてるらしくて」



 エリシアはドン引きしている。



「えぇ……こんなに集めてどうするんですの……」



 しばらくお面を眺めていたエリシアだが、突然顔を赤くして何かを思いついたようだ。



「じゃあ、その……一人でアレをするときは?」



 藤田は驚くことなく冷静に答えた。



「もちろんですよ。みんなに見られながら……果てるんですよ」



「藤田ああああぁ!なんてことを言うんですの!?」

「いやいや、冷静になってください!お面です!お面が見てるだけですから!」



 エリシアは深呼吸をして、冷静さを取り戻した。



「やっぱり誕生日パーティを開いて、親睦を深めるべきですわね!ほら、あなたにしてやったように!」



 藤田は苦笑いしながら返す。



「いやいや、エリシアさん、僕の誕生日間違えてたじゃないですか」



 エリシアは驚いて目を丸くした。



「えぇ!?じゃあ私のプレゼントとかどういう気持ちで開けてたんですの!?」



 藤田は少し気まずそうに答えた。



「いや、なんか……サラダ記念日かなって思いながら……」



「サラダ記念日ですって!?どんな心情でそんな解釈に至ったんですのよ!」



 エリシアは額に手を当てて、あまりのズレっぷりに頭を抱えた。



 藤田は肩をすくめて笑う。



「いや、エリシアさんのプレゼント、妙にポエミーなカード付きだったんで……」



 「とにかく早く飾り付けを!」



 エリシアが袋から飾りの輪っか?を取り出した。
 そして輪っかの飾りをじっと見つめ、眉をしかめた。



「これ……どうやってつなげるんですの!?こんなの不可能ですわ!」



 藤田が困ったように輪っかを指差す。



「いやいや、エリシアさん、最初から輪っか作っちゃダメですよ!紙を一枚ずつつなげていくんです!」



「しかし安田がお面マニアですとは……」
「ま、人の趣味なんてみんな違いますよ」

「やっぱりプレゼントにガボールの指輪はまずかったかしら……」
「いや……」


 どこかズレてるエリシアのプレゼント。藤田はこれ以上コメントできなかった。



「今回はねぇ、出し物をしますわよ!」
「なんですか!出し物って」



 藤田は呆れ顔で飾り付けの手を止めたが、エリシアは満面の笑みを浮かべていた。



「モノマネ!」
「なんの!?」

「やってみますわ!」
「いや、本番にしましょうよ……」



 藤田の静止を無視して、エリシアは大げさに胸を張り、手を腰に当てた。



「モノマネ!ジジイが乗ってる自転車!」



 その場でいきなり腰を丸め、ガタガタと揺れるように足踏みを始める。



「きえエェえええ〜!」

「叫んだだけじゃん!」



「ところであなたのプレゼントは?」



 エリシアが藤田をジロリと見ながら問い詰めた。



「あぁ、昨日渡しましたよ」
「早いですわね!で、何を?」



「えっと、百均の……ほら、袖とか止める用のバンド……ステンレスのやつ」



 エリシアの表情が一気に曇る。



「しょぼいですわねええええぇ!」



 憐れむような目で藤田を見下ろすエリシア。



「いや、あいつがそれでいいって言ったんですよ」
「は?」



「僕、事務作業する時に袖まくるんで、そのバンド使ってるんです。で、それを見た安田が『それいいじゃん』って言うから、『もしかしてブレスレットとか欲しいなら買ってやるよ』って言ったんですよ。でもあいつ、『いや、あんたがつけてるのがいい』って言うもんだから……」



「めっちゃ喋るし……」



 エリシアは呆れた顔で藤田を見つめたが、藤田はまるで気にする様子もなく続けた。



「だから、安田ってそういう奴なんですよ。シンプルでいいんです。こっちは楽で助かりますけどね」



 「はぁ、しょうがないですわねぇ」



 エリシアがため息をつきながらキッチンへ向かう。



 ——ガラ



「なに人の家の冷蔵庫開けてるんですか!?」



 藤田が驚いて声を上げた。



「いや、美味しい物でも作ってあげようかなって思いましてよ」

「いやいや、あいつの家ですよ?さすがに失礼ですよ!」



「別にいいじゃありませんの。せっかくの誕生日なんですから〜」

「いや……たぶん昨日で冷蔵庫の中、食べ尽くしたと思いますよ」



 エリシアが眉をひそめる。



「へぇ?昨日って?」



「え、あいつの誕生日、昨日なんですよ」



——沈黙——



「キエええぇエえェエエエエ〜!!!」



 絶叫するエリシア。藤田は耳を押さえながら呆れた表情を浮かべた。



「昨日だったなら言いなさいよぉぉぉ!」
「いや、言いましたって!」



 エリシアはカウンターを叩いて叫ぶ。



「何のためにこんなに苦労して準備したんですの!?誰の誕生日を祝うつもりだったんですの!?無駄ですわぁぁぁ!!」



 エリシアは激昂した表情で叫びながら部屋中を暴れ回る。



 ——ガシャン!



 壁に飾られたお面が次々と床に落ち、散乱していく。



「あぁ!安田のお面が!」



 藤田が慌てて止めようとするが、エリシアは怒りの勢いで止まらない。



「なんですの!?お面こんなに飾るとか意味不明でしょ!?誰がこんな趣味するんですの!?」

「エリシアさん!やめてください!安田さんの大事なコレクションなんですから!」



 エリシアは足元の散らばったお面を拾い上げると、眉間にシワを寄せた。



「なんですのこのお面!こんな不気味で陰険な顔!どこの誰が作ったんですの!?これは——」



 ——ピタ。



急に静かになったエリシア。そこには……



「安田……」



 無表情で静かに立っている安田の顔が、壁のお面とそっくりだった。



 ——沈黙が続く部屋。



「あっ……」



 エリシアは顔を青ざめ、言葉を失った。



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 エリシアと藤田は、安田の部屋にこっそりと忍び込んでいた。
「しっかし不用心ですわねぇ〜」
 エリシアはドアのチェーンロックがかかっていないことを指摘する。
「いや、ちょっとコンビニとか行ってるだけなんじゃないっすかね?」
 藤田は苦笑いしながら答えた。
 だが、エリシアは何やら楽しそうだ。
「ほら、安田って無表情で何考えてるかわからないじゃありませんの。それに時々気配が消えるし、職場でも馴染んでない感じがしますわ」
「いやぁ、そんなことないっすよ。安田、普通に皆と話してますし」
 ——エリシアは壁一面に掛けられたお面を見て、思わず声を上げた。
「なんですの!?これ!?時間を戻せるオカリナとか置いてそうですわよ!」
 藤田は苦笑しながら答える。
「あー、安田、お面マニアなんですよね。趣味で集めてるらしくて」
 エリシアはドン引きしている。
「えぇ……こんなに集めてどうするんですの……」
 しばらくお面を眺めていたエリシアだが、突然顔を赤くして何かを思いついたようだ。
「じゃあ、その……一人でアレをするときは?」
 藤田は驚くことなく冷静に答えた。
「もちろんですよ。みんなに見られながら……果てるんですよ」
「藤田ああああぁ!なんてことを言うんですの!?」
「いやいや、冷静になってください!お面です!お面が見てるだけですから!」
 エリシアは深呼吸をして、冷静さを取り戻した。
「やっぱり誕生日パーティを開いて、親睦を深めるべきですわね!ほら、あなたにしてやったように!」
 藤田は苦笑いしながら返す。
「いやいや、エリシアさん、僕の誕生日間違えてたじゃないですか」
 エリシアは驚いて目を丸くした。
「えぇ!?じゃあ私のプレゼントとかどういう気持ちで開けてたんですの!?」
 藤田は少し気まずそうに答えた。
「いや、なんか……サラダ記念日かなって思いながら……」
「サラダ記念日ですって!?どんな心情でそんな解釈に至ったんですのよ!」
 エリシアは額に手を当てて、あまりのズレっぷりに頭を抱えた。
 藤田は肩をすくめて笑う。
「いや、エリシアさんのプレゼント、妙にポエミーなカード付きだったんで……」
 「とにかく早く飾り付けを!」
 エリシアが袋から飾りの輪っか?を取り出した。
 そして輪っかの飾りをじっと見つめ、眉をしかめた。
「これ……どうやってつなげるんですの!?こんなの不可能ですわ!」
 藤田が困ったように輪っかを指差す。
「いやいや、エリシアさん、最初から輪っか作っちゃダメですよ!紙を一枚ずつつなげていくんです!」
「しかし安田がお面マニアですとは……」
「ま、人の趣味なんてみんな違いますよ」
「やっぱりプレゼントにガボールの指輪はまずかったかしら……」
「いや……」
 どこかズレてるエリシアのプレゼント。藤田はこれ以上コメントできなかった。
「今回はねぇ、出し物をしますわよ!」
「なんですか!出し物って」
 藤田は呆れ顔で飾り付けの手を止めたが、エリシアは満面の笑みを浮かべていた。
「モノマネ!」
「なんの!?」
「やってみますわ!」
「いや、本番にしましょうよ……」
 藤田の静止を無視して、エリシアは大げさに胸を張り、手を腰に当てた。
「モノマネ!ジジイが乗ってる自転車!」
 その場でいきなり腰を丸め、ガタガタと揺れるように足踏みを始める。
「きえエェえええ〜!」
「叫んだだけじゃん!」
「ところであなたのプレゼントは?」
 エリシアが藤田をジロリと見ながら問い詰めた。
「あぁ、昨日渡しましたよ」
「早いですわね!で、何を?」
「えっと、百均の……ほら、袖とか止める用のバンド……ステンレスのやつ」
 エリシアの表情が一気に曇る。
「しょぼいですわねええええぇ!」
 憐れむような目で藤田を見下ろすエリシア。
「いや、あいつがそれでいいって言ったんですよ」
「は?」
「僕、事務作業する時に袖まくるんで、そのバンド使ってるんです。で、それを見た安田が『それいいじゃん』って言うから、『もしかしてブレスレットとか欲しいなら買ってやるよ』って言ったんですよ。でもあいつ、『いや、あんたがつけてるのがいい』って言うもんだから……」
「めっちゃ喋るし……」
 エリシアは呆れた顔で藤田を見つめたが、藤田はまるで気にする様子もなく続けた。
「だから、安田ってそういう奴なんですよ。シンプルでいいんです。こっちは楽で助かりますけどね」
 「はぁ、しょうがないですわねぇ」
 エリシアがため息をつきながらキッチンへ向かう。
 ——ガラ
「なに人の家の冷蔵庫開けてるんですか!?」
 藤田が驚いて声を上げた。
「いや、美味しい物でも作ってあげようかなって思いましてよ」
「いやいや、あいつの家ですよ?さすがに失礼ですよ!」
「別にいいじゃありませんの。せっかくの誕生日なんですから〜」
「いや……たぶん昨日で冷蔵庫の中、食べ尽くしたと思いますよ」
 エリシアが眉をひそめる。
「へぇ?昨日って?」
「え、あいつの誕生日、昨日なんですよ」
——沈黙——
「キエええぇエえェエエエエ〜!!!」
 絶叫するエリシア。藤田は耳を押さえながら呆れた表情を浮かべた。
「昨日だったなら言いなさいよぉぉぉ!」
「いや、言いましたって!」
 エリシアはカウンターを叩いて叫ぶ。
「何のためにこんなに苦労して準備したんですの!?誰の誕生日を祝うつもりだったんですの!?無駄ですわぁぁぁ!!」
 エリシアは激昂した表情で叫びながら部屋中を暴れ回る。
 ——ガシャン!
 壁に飾られたお面が次々と床に落ち、散乱していく。
「あぁ!安田のお面が!」
 藤田が慌てて止めようとするが、エリシアは怒りの勢いで止まらない。
「なんですの!?お面こんなに飾るとか意味不明でしょ!?誰がこんな趣味するんですの!?」
「エリシアさん!やめてください!安田さんの大事なコレクションなんですから!」
 エリシアは足元の散らばったお面を拾い上げると、眉間にシワを寄せた。
「なんですのこのお面!こんな不気味で陰険な顔!どこの誰が作ったんですの!?これは——」
 ——ピタ。
急に静かになったエリシア。そこには……
「安田……」
 無表情で静かに立っている安田の顔が、壁のお面とそっくりだった。
 ——沈黙が続く部屋。
「あっ……」
 エリシアは顔を青ざめ、言葉を失った。