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ステーキ怖い

ー/ー



 フィレット王国の会議室。



 会議が終わり、雑談が始まる中、大臣たちは「怖い存在」について語り合っていた。



「私は吸血鬼だ!」
「いや、俺は強盗!」

「ゴキブリが怖い!」
「タコだ、あれはキモい!」



 話が盛り上がる中、場の隅にいたエリシアが優雅に笑った。



「皆さん、臆病ですわねぇ。」



 その一言に、大臣たちの顔色が変わる。



「なんだと!?貴様だって怖いものの一つや二つはあるだろう!」



「じゃあ、ゾンビはどうだ!」

 一人の大臣が声を上げた。



 エリシアはふふんと鼻で笑う。

「ゾンビぃ?ついこの間、コントの相棒にしてましたわね。」



「……」



 一同、呆然とする。



「じゃあ……ゴキブリは!?」

 別の大臣が食い下がる。

「最近、食用の無菌ゴキブリの研究をしてますの。将来有望な食材ですわよ。」



 さらりと言い放つエリシアに、全員が引き攣った顔になる。



「ええい、じゃあ陛下だ!国王陛下には逆らえんだろう!」



 最終兵器を繰り出すように、大臣の一人が叫ぶ。
 だが、エリシアは優雅に微笑むだけだった。



「あのねぇ、私は陛下に忠誠を誓ってますの。怖いだなんてとんでもないですわ。」



(こいつ……いけしゃあしゃあと……)



 大臣たちは内心で青ざめながら、エリシアの不敵な笑顔を見つめるしかなかった。



 会議室に流れていた空気が、エリシアの一言で一変した。



「ですが――」



 全員の視線が彼女に集中する。
 ついにエリシアにも怖いものがあるのか?



 エリシアはため息をつき、腕をさすりながら答えた。



「実は焼いた肉が……最近怖くてたまりませんの。」

「はぁ?」



 大臣たちが一斉に間の抜けた声を上げる。
 エリシアは真剣な表情で続ける。



「あのジュウジュウという不気味な音……、肉が焼けるときの匂い……、そして血のような赤いソース……見ただけで寒気がしますわ……」



全員が言葉を失う。



「肉を焼く音が怖いだと……?」
「おいおい、冗談だろ?」
「血のようなソースって……」



 しかしエリシアは動じない。



「本当なんですのよ!あれが頭から離れなくて、夢にまで出てきますの……まるで肉が私をじっと見つめているような気がして……」



 エリシアが去った後、大臣たちは何やらコソコソと話し合っていた。



「あのエリシアが……焼いた肉を怖がるだなんてな……」

「意外だよなぁ。あの女、どんな場面でも平然としてるからな」

「だが心理学の恐怖症の種類を考えれば、肉恐怖症なんてのもあり得る話だ」



 大臣たちは目配せしながら、声を潜めて策を練り始めた。



「なぁ、思いついたんだが……」
「何だ?面白いことか?」



「エリシアが寝ている隙に寝室に忍び込む。そしてベッドの周りに焼いたステーキを並べるんだ」



「……は?」



「ほら、彼女は焼いた肉が怖いって言っただろ?目が覚めた瞬間にあの光景を見たら、卒倒するに違いない」



「おいおい、ただの悪ふざけじゃないか!」

「いや待てよ……これはいい作戦かもしれないぞ……」

「どんな手を使っても、あの女に一泡吹かせたいのは確かだからな……」



 彼らの中で笑いを堪えきれない者もいれば、悪巧みを真剣に考え始める者もいた。



 そして夜、大臣たちはエリシアの寝室に忍び込んだ。



——カチャ、ギィィ……



 寝室の扉を静かに開けると、エリシアは豪奢なベッドで安らかに眠っている。



「よし、手分けして配置だ!」
「静かにやれよ!」



 彼らは持ち寄ったあらゆるステーキを、ベッドの周りに並べ始めた。



 ——ゴト、カチャ……



 牛のステーキ、豚のステーキ、鶏、羊、猪……種類は多岐に渡る。皿の中で肉汁がきらりと光っている。



「これも置いとこうぜ」

「……魚のステーキ」
「焼き魚じゃねえか!」

「うるさい、静かに!」



 さらに、豆腐ステーキまで並べる。なぜか毒々しい色のものまで持ち込まれている。



「これ毒入りだぞ!さすがにやばいだろ!」



 ——ゴト



「ハンバーグも置いとくか」
「それはもうステーキですらないだろ!」



 彼らは満足げに並べ終え、最後に肉の匂いを最大限漂わせるために扇風機まで持ち込んでスイッチを入れた。



「……よし、完璧だ」
「早く隠れろ!」



 大臣たちは部屋の隅やカーテンの後ろに身を潜め、エリシアが目を覚ますのを待つのだった。



 そして物音で目を覚ましたエリシアが、目をこするようにして起き上がった。



「……んん?何ですの……?」



 ベッドの周りに並べられたステーキの数々をぼんやりと見つめる。



「奴が起きたぞ……!」
「しっ……静かに!」



 エリシアは寝ぼけながら床を見つめると、次の瞬間——



「キエエエェエええええ〜!」



 叫び声を上げた。



「悲鳴をあげたぞ!」
「よしよし、計画通り……!」



 だが次の瞬間——



——ムシャ!



 なんとエリシアは、牛のステーキにそのまま齧りついた。



「ひええぇぇぇぇ!」
「……あれ?」



 ——ムシャムシャムシャ



「なんと恐ろしい味……!これは牛!うわぁ、血のようなソースが絡んで……まるで地獄のようですわ〜!」



 ——がぶり



「次は……これは羊!?ひええぇぇぇ……!」



 ——ムシャムシャ



「待てよ!全然恐がってねえじゃねえか!」
「むしろ勢い良く食べてるんだが……」



 エリシアは皿の上のステーキを次々と平らげていく。



「うわぁ、これは猪……!ひえ〜魚?これはいらない……でも次は……ハンバーグ!?恐ろしい……!」



 ——モグモグ



「ん……豆腐?いりませんわね」



 ——ゴトッ



「これは……毒入り!?……ひええぇぇ、鶏肉のソテーですわぁああ!……!この世の地獄ですわ〜!」



 エリシアは寝ぼけながら、肉の種類を的確に言い当てながら、次々に皿を空にしていく。



「おい!話が違うじゃないか!」
「何なんだこの状況は!?」



 そして大臣たちは全てを悟った。



「こいつ……ただの肉好きだ……」



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 フィレット王国の会議室。
 会議が終わり、雑談が始まる中、大臣たちは「怖い存在」について語り合っていた。
「私は吸血鬼だ!」
「いや、俺は強盗!」
「ゴキブリが怖い!」
「タコだ、あれはキモい!」
 話が盛り上がる中、場の隅にいたエリシアが優雅に笑った。
「皆さん、臆病ですわねぇ。」
 その一言に、大臣たちの顔色が変わる。
「なんだと!?貴様だって怖いものの一つや二つはあるだろう!」
「じゃあ、ゾンビはどうだ!」
 一人の大臣が声を上げた。
 エリシアはふふんと鼻で笑う。
「ゾンビぃ?ついこの間、コントの相棒にしてましたわね。」
「……」
 一同、呆然とする。
「じゃあ……ゴキブリは!?」
 別の大臣が食い下がる。
「最近、食用の無菌ゴキブリの研究をしてますの。将来有望な食材ですわよ。」
 さらりと言い放つエリシアに、全員が引き攣った顔になる。
「ええい、じゃあ陛下だ!国王陛下には逆らえんだろう!」
 最終兵器を繰り出すように、大臣の一人が叫ぶ。
 だが、エリシアは優雅に微笑むだけだった。
「あのねぇ、私は陛下に忠誠を誓ってますの。怖いだなんてとんでもないですわ。」
(こいつ……いけしゃあしゃあと……)
 大臣たちは内心で青ざめながら、エリシアの不敵な笑顔を見つめるしかなかった。
 会議室に流れていた空気が、エリシアの一言で一変した。
「ですが――」
 全員の視線が彼女に集中する。
 ついにエリシアにも怖いものがあるのか?
 エリシアはため息をつき、腕をさすりながら答えた。
「実は焼いた肉が……最近怖くてたまりませんの。」
「はぁ?」
 大臣たちが一斉に間の抜けた声を上げる。
 エリシアは真剣な表情で続ける。
「あのジュウジュウという不気味な音……、肉が焼けるときの匂い……、そして血のような赤いソース……見ただけで寒気がしますわ……」
全員が言葉を失う。
「肉を焼く音が怖いだと……?」
「おいおい、冗談だろ?」
「血のようなソースって……」
 しかしエリシアは動じない。
「本当なんですのよ!あれが頭から離れなくて、夢にまで出てきますの……まるで肉が私をじっと見つめているような気がして……」
 エリシアが去った後、大臣たちは何やらコソコソと話し合っていた。
「あのエリシアが……焼いた肉を怖がるだなんてな……」
「意外だよなぁ。あの女、どんな場面でも平然としてるからな」
「だが心理学の恐怖症の種類を考えれば、肉恐怖症なんてのもあり得る話だ」
 大臣たちは目配せしながら、声を潜めて策を練り始めた。
「なぁ、思いついたんだが……」
「何だ?面白いことか?」
「エリシアが寝ている隙に寝室に忍び込む。そしてベッドの周りに焼いたステーキを並べるんだ」
「……は?」
「ほら、彼女は焼いた肉が怖いって言っただろ?目が覚めた瞬間にあの光景を見たら、卒倒するに違いない」
「おいおい、ただの悪ふざけじゃないか!」
「いや待てよ……これはいい作戦かもしれないぞ……」
「どんな手を使っても、あの女に一泡吹かせたいのは確かだからな……」
 彼らの中で笑いを堪えきれない者もいれば、悪巧みを真剣に考え始める者もいた。
 そして夜、大臣たちはエリシアの寝室に忍び込んだ。
——カチャ、ギィィ……
 寝室の扉を静かに開けると、エリシアは豪奢なベッドで安らかに眠っている。
「よし、手分けして配置だ!」
「静かにやれよ!」
 彼らは持ち寄ったあらゆるステーキを、ベッドの周りに並べ始めた。
 ——ゴト、カチャ……
 牛のステーキ、豚のステーキ、鶏、羊、猪……種類は多岐に渡る。皿の中で肉汁がきらりと光っている。
「これも置いとこうぜ」
「……魚のステーキ」
「焼き魚じゃねえか!」
「うるさい、静かに!」
 さらに、豆腐ステーキまで並べる。なぜか毒々しい色のものまで持ち込まれている。
「これ毒入りだぞ!さすがにやばいだろ!」
 ——ゴト
「ハンバーグも置いとくか」
「それはもうステーキですらないだろ!」
 彼らは満足げに並べ終え、最後に肉の匂いを最大限漂わせるために扇風機まで持ち込んでスイッチを入れた。
「……よし、完璧だ」
「早く隠れろ!」
 大臣たちは部屋の隅やカーテンの後ろに身を潜め、エリシアが目を覚ますのを待つのだった。
 そして物音で目を覚ましたエリシアが、目をこするようにして起き上がった。
「……んん?何ですの……?」
 ベッドの周りに並べられたステーキの数々をぼんやりと見つめる。
「奴が起きたぞ……!」
「しっ……静かに!」
 エリシアは寝ぼけながら床を見つめると、次の瞬間——
「キエエエェエええええ〜!」
 叫び声を上げた。
「悲鳴をあげたぞ!」
「よしよし、計画通り……!」
 だが次の瞬間——
——ムシャ!
 なんとエリシアは、牛のステーキにそのまま齧りついた。
「ひええぇぇぇぇ!」
「……あれ?」
 ——ムシャムシャムシャ
「なんと恐ろしい味……!これは牛!うわぁ、血のようなソースが絡んで……まるで地獄のようですわ〜!」
 ——がぶり
「次は……これは羊!?ひええぇぇぇ……!」
 ——ムシャムシャ
「待てよ!全然恐がってねえじゃねえか!」
「むしろ勢い良く食べてるんだが……」
 エリシアは皿の上のステーキを次々と平らげていく。
「うわぁ、これは猪……!ひえ〜魚?これはいらない……でも次は……ハンバーグ!?恐ろしい……!」
 ——モグモグ
「ん……豆腐?いりませんわね」
 ——ゴトッ
「これは……毒入り!?……ひええぇぇ、鶏肉のソテーですわぁああ!……!この世の地獄ですわ〜!」
 エリシアは寝ぼけながら、肉の種類を的確に言い当てながら、次々に皿を空にしていく。
「おい!話が違うじゃないか!」
「何なんだこの状況は!?」
 そして大臣たちは全てを悟った。
「こいつ……ただの肉好きだ……」