ep82 怪しき者

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 夕方になる。
 街は相変わらず祭りで賑わっている。俺は賑わいからどんどんと遠ざかるように道を進んだ。
 やがて空が濃紺色になり、夜の帳が下りる頃。
 富裕層地域のとある公園内にある木立の中へ進んだ。そこは夜になると侵入禁止区域となっていた。

『いくらなんでもあからさま過ぎでは? と思いましたが、どうやらクロー様の思惑どおりのようで』

『ああ』

 後方の木の枝がカサッと揺れる。風は吹いていない。原因は動物でもなければ昆虫でもない。

「おい」

 誰かを呼びかける声がした。ここには俺しかいない。したがって対象者は俺以外にありえない。

「誰だ?」

 素直に振り向く。
 十メートルほど先、黒いローブに頭から身を包んだ何者かが立っていた。顔も身体的特徴もローブで判然としない。わかるのは、背丈が低いということぐらい。せいぜいシヒロよりやや高い程度だろう。

「オマエは魔剣使いだな」

 ローブの者が言った。その声は女の声。

「先に何者かを尋ねたのはこっちなんだが」

「わたしが何者かなんてどうでもいい。オマエが魔剣使いなのはわかっている」

「こっちとしてはどうでもよくないんだが」

「単刀直入に言う。魔剣使い。オマエは〔フリーダム〕に入れ」

「また勧誘か。だが俺は先日、その〔フリーダム〕の幹部を倒したばかりなんだが?」

「シヴィスだろ? 確かに幹部を倒したのは問題だが、今ならまだ間に合う。わたしならシヴィスと懇意だった幹部に口がきく。なんとかできる」

「お前は〔フリーダム〕なのか?」

「違う」

「まったく話が見えないな」

「魔剣使い。オマエには仲間もいるだろ? オマエが〔フリーダム〕に入れば、そいつらの安全も保障する」

「遠回しに恫喝されているようにも聞こえるが」

「早くしろ。時間がない。今オマエが〔フリーダム〕に入れば避けられるかもしれないんだ」

「なんの話だ?」

「それは……うぅっ」

 急にローブの女は胸のあたりを押さえて言葉に詰まった。

「お前は……俺の敵なのか?」

 少々質問の角度を変えてみた。
 
「敵……となるかどうかはオマエ次第……」

「お前は今、俺を殺そうとも捕らえようともしていない。違うか?」

 実際、この怪しき者からこれといった害意は感じられなかった。ゆえになおさら目的が不明だった。

「わたしは……今わたしができる範囲内の行動をしている」

「ただ交渉しにきたのか?」

 その時。

『クロー様。スピリトゥスの動きを感知しました』

 謎の声の報せが入ってきたが、同タイミングで怪しきローブの女がハッとする。

「時間切れだ……」

 それだけを言い残し、ローブの女はスーッと物怪が闇へ霧消するように去っていってしまった。

「まったく要領を得ないまま終わってしまったな……」

 誰もいなくなった闇を見つめながら首を傾げた。結局なんだったんだろうか。ただの勧誘とは到底思えない。

『クロー様』

『おっと悪い。スピリトゥスの動きを感知したんだよな。直ちにシヒロたちのところへ戻る』

『急ぐ必要はありません』

『どうしてだ?』

『今のは小娘ではありません』

『ということは、フリーダムか?』

『そうかもしれませんが、そうでないかもしれません』

『ヤツらが今、暴れているわけではない、そういうことだな?』

『はい。ワタクシが感知したのはスピリトゥスの動きであって乱れではありませんので』

『わかった。とにかく早めにシヒロたちの所へ戻るに越したことはないよな』

 俺は速やかにその場を後にした。


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 夕方になる。
 街は相変わらず祭りで賑わっている。俺は賑わいからどんどんと遠ざかるように道を進んだ。
 やがて空が濃紺色になり、夜の帳が下りる頃。
 富裕層地域のとある公園内にある木立の中へ進んだ。そこは夜になると侵入禁止区域となっていた。
『いくらなんでもあからさま過ぎでは? と思いましたが、どうやらクロー様の思惑どおりのようで』
『ああ』
 後方の木の枝がカサッと揺れる。風は吹いていない。原因は動物でもなければ昆虫でもない。
「おい」
 誰かを呼びかける声がした。ここには俺しかいない。したがって対象者は俺以外にありえない。
「誰だ?」
 素直に振り向く。
 十メートルほど先、黒いローブに頭から身を包んだ何者かが立っていた。顔も身体的特徴もローブで判然としない。わかるのは、背丈が低いということぐらい。せいぜいシヒロよりやや高い程度だろう。
「オマエは魔剣使いだな」
 ローブの者が言った。その声は女の声。
「先に何者かを尋ねたのはこっちなんだが」
「わたしが何者かなんてどうでもいい。オマエが魔剣使いなのはわかっている」
「こっちとしてはどうでもよくないんだが」
「単刀直入に言う。魔剣使い。オマエは〔フリーダム〕に入れ」
「また勧誘か。だが俺は先日、その〔フリーダム〕の幹部を倒したばかりなんだが?」
「シヴィスだろ? 確かに幹部を倒したのは問題だが、今ならまだ間に合う。わたしならシヴィスと懇意だった幹部に口がきく。なんとかできる」
「お前は〔フリーダム〕なのか?」
「違う」
「まったく話が見えないな」
「魔剣使い。オマエには仲間もいるだろ? オマエが〔フリーダム〕に入れば、そいつらの安全も保障する」
「遠回しに恫喝されているようにも聞こえるが」
「早くしろ。時間がない。今オマエが〔フリーダム〕に入れば避けられるかもしれないんだ」
「なんの話だ?」
「それは……うぅっ」
 急にローブの女は胸のあたりを押さえて言葉に詰まった。
「お前は……俺の敵なのか?」
 少々質問の角度を変えてみた。
「敵……となるかどうかはオマエ次第……」
「お前は今、俺を殺そうとも捕らえようともしていない。違うか?」
 実際、この怪しき者からこれといった害意は感じられなかった。ゆえになおさら目的が不明だった。
「わたしは……今わたしができる範囲内の行動をしている」
「ただ交渉しにきたのか?」
 その時。
『クロー様。スピリトゥスの動きを感知しました』
 謎の声の報せが入ってきたが、同タイミングで怪しきローブの女がハッとする。
「時間切れだ……」
 それだけを言い残し、ローブの女はスーッと物怪が闇へ霧消するように去っていってしまった。
「まったく要領を得ないまま終わってしまったな……」
 誰もいなくなった闇を見つめながら首を傾げた。結局なんだったんだろうか。ただの勧誘とは到底思えない。
『クロー様』
『おっと悪い。スピリトゥスの動きを感知したんだよな。直ちにシヒロたちのところへ戻る』
『急ぐ必要はありません』
『どうしてだ?』
『今のは小娘ではありません』
『ということは、フリーダムか?』
『そうかもしれませんが、そうでないかもしれません』
『ヤツらが今、暴れているわけではない、そういうことだな?』
『はい。ワタクシが感知したのはスピリトゥスの動きであって乱れではありませんので』
『わかった。とにかく早めにシヒロたちの所へ戻るに越したことはないよな』
 俺は速やかにその場を後にした。