ep81 視察

ー/ー



 翌日。俺たちは祭りへ繰り出した。

「く、クローさん! すごい人ですね!」

 シヒロが目を輝かせる。

「楽しいか?」

「は、はい! なんだか気分が盛り上がってきますね!」

 飲食から妖しげな雑貨まで種々雑多な出店が軒を連らね、街中が陽気な装飾とともに彩られている。往来は街の人間のみならず旅人や商人など様々な者達であふれていた。

「とりあえず酒だ酒!」

 出店を物色しながらブーストがご機嫌に声を上げた。

「あのデブ、仕方ねえ。ダンナ、おれたちちょっと酒買ってくるぜ」

 そう言ってトレブルがブーストと行こうとしたとき「待て」と俺はトレブルを止めた。

「ダンナ?」

「俺は少し街全体を把握しておきたい。いいか? シヒロを任せるぞ」

「条件ってやつだろ? わかってるぜダンナ。まあ、それ抜きにしても嬢ちゃんは命の恩人だしな。心配はしねえでくれ」

「条件って、なんなんですか?」

 シヒロが屈託ない疑問の顔を向けてきた。

「コイツらが俺の下僕として働く条件だ」

「下僕って!」
「そりゃねーぜダンナ!」

 下僕二人が騒いだ。

「そんなことよりもシヒロ。なにかあれば魔法を唱えろ。トレブルとブーストの技でも感知できるかもしれないが、たぶんお前の魔法が一番確実だ。それじゃ俺は行ってくる。暗くなったら宿に戻る」

「あっ、クローさん! もう少し一緒に…」

 俺は速やかにきびすを返すと、人混みをかきわけて雑踏を抜けていった。
 それから……。
 忍者のように建物の屋根伝いに街を視察してまわった。

「こういう日はこういう突飛な動きをしても目立たないな。ある意味で好都合だが、しかしこんな中で〔フリーダム〕が襲ってきたらどこまで街と人を守れるだろうか……」

 祭りを象徴する平和のロゴをデザインした旗を眺めながら思った。とその時、地上の人混みの中でなにかが一瞬、ふぅっと翳っていくのが見えた気がした。

「……?」

 空を見上げると、さっきまで爛々と輝いていた太陽が雲の影に隠れている。

「陽が陰っただけか……」

 しばらくして……。
 俺は富裕層地域まで来ると、地面に降りて歩を進める。
 この辺りでは祭りの賑わいはほどほどなものとなっている。上質な建物や屋敷がゆったりと並ぶ中、気持ち程度に祭りの旗が掲げられていた。俺は…というか、クロー・ラキアードは資産家の息子だったので、このエリアではいささか落ち着いた気分に促される。

「たった半年間だったけど、クオリーメンとあの屋敷は、良い所だったよな。俺自身はろくでもなかったけど……」

 ふと執事のパトリスやメイドのロバータの顔が浮かんできて、懐かしい気持ちになる。だが俺にはもう少ない時間しか残されていない。過去を懐かしんでいる余裕などない。

『クロー様』

 不意に謎の声が俺を呼んだ。

『なんだ?』

『気づいておりませんか?』

『何に? いや……』

『何となくでも感じていたのならよろしい』

『なんだよ、上から目線だな』

『妙な気配を持った者が遠目にクロー様の様子を窺っているようですね』

『確かに妙な気配だな……何者だ?』

『さあ、そこまでは。ただ、これまで貴方が出会った誰とも異なる存在かと』

『気になるな……すぐシヒロたちの所へ戻った方が良さそうか』

『あるいはあの小娘なら感づいているかもしれません』

『シヒロが? そうか、確かにあいつは魔力への感度が高いもんな。となると、その妙な気配のヤツは魔術師なのか? て、そこまではわからないんだよな』

『戻りますか?』

『いや、考えがある』

『ほう?』

『お前はいつもどおりスピリトゥスの動きを感知したらすぐに知らせてくれ。俺は一切なんにも気づいていない体でもう少し街をまわる』


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 翌日。俺たちは祭りへ繰り出した。
「く、クローさん! すごい人ですね!」
 シヒロが目を輝かせる。
「楽しいか?」
「は、はい! なんだか気分が盛り上がってきますね!」
 飲食から妖しげな雑貨まで種々雑多な出店が軒を連らね、街中が陽気な装飾とともに彩られている。往来は街の人間のみならず旅人や商人など様々な者達であふれていた。
「とりあえず酒だ酒!」
 出店を物色しながらブーストがご機嫌に声を上げた。
「あのデブ、仕方ねえ。ダンナ、おれたちちょっと酒買ってくるぜ」
 そう言ってトレブルがブーストと行こうとしたとき「待て」と俺はトレブルを止めた。
「ダンナ?」
「俺は少し街全体を把握しておきたい。いいか? シヒロを任せるぞ」
「条件ってやつだろ? わかってるぜダンナ。まあ、それ抜きにしても嬢ちゃんは命の恩人だしな。心配はしねえでくれ」
「条件って、なんなんですか?」
 シヒロが屈託ない疑問の顔を向けてきた。
「コイツらが俺の下僕として働く条件だ」
「下僕って!」
「そりゃねーぜダンナ!」
 下僕二人が騒いだ。
「そんなことよりもシヒロ。なにかあれば魔法を唱えろ。トレブルとブーストの技でも感知できるかもしれないが、たぶんお前の魔法が一番確実だ。それじゃ俺は行ってくる。暗くなったら宿に戻る」
「あっ、クローさん! もう少し一緒に…」
 俺は速やかにきびすを返すと、人混みをかきわけて雑踏を抜けていった。
 それから……。
 忍者のように建物の屋根伝いに街を視察してまわった。
「こういう日はこういう突飛な動きをしても目立たないな。ある意味で好都合だが、しかしこんな中で〔フリーダム〕が襲ってきたらどこまで街と人を守れるだろうか……」
 祭りを象徴する平和のロゴをデザインした旗を眺めながら思った。とその時、地上の人混みの中でなにかが一瞬、ふぅっと翳っていくのが見えた気がした。
「……?」
 空を見上げると、さっきまで爛々と輝いていた太陽が雲の影に隠れている。
「陽が陰っただけか……」
 しばらくして……。
 俺は富裕層地域まで来ると、地面に降りて歩を進める。
 この辺りでは祭りの賑わいはほどほどなものとなっている。上質な建物や屋敷がゆったりと並ぶ中、気持ち程度に祭りの旗が掲げられていた。俺は…というか、クロー・ラキアードは資産家の息子だったので、このエリアではいささか落ち着いた気分に促される。
「たった半年間だったけど、クオリーメンとあの屋敷は、良い所だったよな。俺自身はろくでもなかったけど……」
 ふと執事のパトリスやメイドのロバータの顔が浮かんできて、懐かしい気持ちになる。だが俺にはもう少ない時間しか残されていない。過去を懐かしんでいる余裕などない。
『クロー様』
 不意に謎の声が俺を呼んだ。
『なんだ?』
『気づいておりませんか?』
『何に? いや……』
『何となくでも感じていたのならよろしい』
『なんだよ、上から目線だな』
『妙な気配を持った者が遠目にクロー様の様子を窺っているようですね』
『確かに妙な気配だな……何者だ?』
『さあ、そこまでは。ただ、これまで貴方が出会った誰とも異なる存在かと』
『気になるな……すぐシヒロたちの所へ戻った方が良さそうか』
『あるいはあの小娘なら感づいているかもしれません』
『シヒロが? そうか、確かにあいつは魔力への感度が高いもんな。となると、その妙な気配のヤツは魔術師なのか? て、そこまではわからないんだよな』
『戻りますか?』
『いや、考えがある』
『ほう?』
『お前はいつもどおりスピリトゥスの動きを感知したらすぐに知らせてくれ。俺は一切なんにも気づいていない体でもう少し街をまわる』