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精密すぎる冬

ー/ー



     ー*ー*ー*ー

  鍋の湯気 ふたり分からひとり分
  冬は計量が 正確すぎる

     ー*ー*ー*ー


 台所のセンサーが、私の体温と心拍数を検知して自動で照明を落とした。
「お疲れさまです、オーナー。本日の夕食は、身体を温める根菜のポトフを推奨します」


 音声ガイドに従い、私は鍋を火にかける。

 数年前までの古い鍋は、ふたり分の具材を適当に放り込んでも、吹きこぼれるか足りないかのどちらかで、その「誤差」を笑いながら直箸でつつき合ったものだ。


鍋から立ち昇る湯気は、ふたりの境界線を曖昧にするほど濃く、部屋全体を白く染めていた。

​ 彼が「向こう側」へ転属してからは、家中の家電が最新の精密機器に置き換わった。

​ 今の鍋は、ひとり分の水分量を 0.1ミリリットル単位で計測する。

 冬の冷えた空気の中、鍋から上がる湯気は、驚くほど細く、まっすぐだ。空間計算エンジンが、室温と湿度の最適解を維持するために、加湿器と連動して湯気の拡散を完璧に制御している。


​「正確すぎるのよ」
 私は、誰に言うでもなくつぶやいた。


​ 野菜を切りながら、ふとガーデニング用の温度計に目をやる。外の土壌も、今は自動管理システムが水分を完璧に制御しているはずだ。


 以前は雪が降れば「明日は芽が凍るかも」と心配し、二人で重いシートを被せたものだが、今の庭にそんな情緒的な失敗は許されない。

​ ポトフが完成した。
 皿に盛られポトフは、一滴の無駄もなく、私の今日の活動量に合わせた栄養素を含んでいる。


 一口運ぶ。
完璧な温度。完璧な塩分濃度。

​ ふと、視界の端で湯気が揺れた。
 システムが制御しきれなかった、ほんのわずかな熱のゆらぎ。それが一瞬、隣に座っていたはずの彼の、あの少し猫背なシルエットに見えた気がした。


​「……バグかしら」
​ 私は、あえてシステムの補正を切った。
 窓ガラスが、みるみるうちに白く曇っていく。正確さを失った部屋で、私はようやく、少しだけ人肌の暖かさを感じた。


*日記風雑感*

鍋物のおいしい季節。
おでんは鍋物にはいるのかなーとまたしても去年と同じ事を考えています。

ポトフは鍋物?
以前見た古い料理本に、「洋風おでん」と書かれていたことをふと思い出します。







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​     ー*ー*ー*ー
  鍋の湯気 ふたり分からひとり分
  冬は計量が 正確すぎる
     ー*ー*ー*ー
 台所のセンサーが、私の体温と心拍数を検知して自動で照明を落とした。「お疲れさまです、オーナー。本日の夕食は、身体を温める根菜のポトフを推奨します」
 音声ガイドに従い、私は鍋を火にかける。
 数年前までの古い鍋は、ふたり分の具材を適当に放り込んでも、吹きこぼれるか足りないかのどちらかで、その「誤差」を笑いながら直箸でつつき合ったものだ。
鍋から立ち昇る湯気は、ふたりの境界線を曖昧にするほど濃く、部屋全体を白く染めていた。
​ 彼が「向こう側」へ転属してからは、家中の家電が最新の精密機器に置き換わった。
​ 今の鍋は、ひとり分の水分量を 0.1ミリリットル単位で計測する。
 冬の冷えた空気の中、鍋から上がる湯気は、驚くほど細く、まっすぐだ。空間計算エンジンが、室温と湿度の最適解を維持するために、加湿器と連動して湯気の拡散を完璧に制御している。
​「正確すぎるのよ」
 私は、誰に言うでもなくつぶやいた。
​ 野菜を切りながら、ふとガーデニング用の温度計に目をやる。外の土壌も、今は自動管理システムが水分を完璧に制御しているはずだ。
 以前は雪が降れば「明日は芽が凍るかも」と心配し、二人で重いシートを被せたものだが、今の庭にそんな情緒的な失敗は許されない。
​ ポトフが完成した。
 皿に盛られポトフは、一滴の無駄もなく、私の今日の活動量に合わせた栄養素を含んでいる。
 一口運ぶ。
完璧な温度。完璧な塩分濃度。
​ ふと、視界の端で湯気が揺れた。
 システムが制御しきれなかった、ほんのわずかな熱のゆらぎ。それが一瞬、隣に座っていたはずの彼の、あの少し猫背なシルエットに見えた気がした。
​「……バグかしら」
​ 私は、あえてシステムの補正を切った。
 窓ガラスが、みるみるうちに白く曇っていく。正確さを失った部屋で、私はようやく、少しだけ人肌の暖かさを感じた。
*日記風雑感*
鍋物のおいしい季節。
おでんは鍋物にはいるのかなーとまたしても去年と同じ事を考えています。
ポトフは鍋物?
以前見た古い料理本に、「洋風おでん」と書かれていたことをふと思い出します。