#31
ー/ー
「全くジローったら方向音痴にも程があるワネ。それとも寝ぼけてたの?広いと言ってもお屋敷や宮殿でもあるまいし、どうしてこんな小さな村のちっぽけな図書館で迷うのカシラ」
シロは相変わらず不慣れな女言葉のたどたどしい語尾で馬鹿にされながら、この図書館の司書が控えているという場所へと連行されている。
女は物知り顔で前を歩く少女にたった今出てきたばかりのドアを指さして経緯を説明したのだが、少女が訝しみながら開いた扉の向こうは地下への螺旋階段でなく、モップや箒、長い柄の付いた塵取りといった掃除道具が乱雑に収められていた。
当然そんなはずはないと女も確かめたが迷子の言い訳と取られてしまい、いい歳した大人は迷子センターへ連れられるような子供のように揺れる小さな背を眺めるばかりだった
「ジローこのお爺さんが図書館の司書さん。そしてお爺さん、これがさっき言っていたジローよ」
「おおこちらが。旅の方ようお越しくださった。何でも白熊を振舞ったり妖精憑きの者を助けたりしてくれたそうで」
少女から紹介された老司書は子供に冬の夜プレゼントを配って回ると言う伝承に出てくる老人のような見た目で、シロは彼のふくよかな身体と白くもさもさした髯の上にある垂れ目から大らかで優しそうな印象を受けた。広まっているイメージとの違いといえば真っ赤な服でなく村の者達と同じ茶色いパーカを着こんでいるくらいだった。
「悪ぃな爺さん。うっかり迷い混んじまったみてーだ」
「ジローったら寝ぼけてるヨ。掃除道具入れを指さしてここから出てきたって言うんですモノ」
「ほほう、あそこから。まあなんにせよ少しここでお休み下され。ちょうど今湯が沸いたところですんで、コーヒーでも飲みながら異国の話でもお願いできますかな」
「あたしはもう帰るワネ。本を返して借りるだけだって出てきたから、すぐに帰らないと怒られちゃうノ。それじゃジローまたね」
てっきり彼女と三人でのコーヒーブレイクとなると思っていたシロは、そういえばリオンはネリット族の文化で女の子らしい生活とやらを教え込まれている最中だったことを思い出し、手を挙げ別れを告げてから老司書へと向き直る。
司書室の小さな窓から少女の姿が見えなくなった所で、おそらく地下施設の正体を知っていると思われる司書の目へ短刀を突き付けるかのような鋭い視線を向けて短く言葉を発した。
「お前、怪異だな?」
「ほっほっほ、一目でばれるとは」
問われた老人は好々爺然とした表情を崩すことなく、手に持ったカップの一つをシロの側に置くと自分の手の物に一度口を付け、口回りの髭を茶色く汚しながら朗笑した。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
「全くジローったら方向音痴にも程があるワネ。それとも寝ぼけてたの?広いと言ってもお屋敷や宮殿でもあるまいし、どうしてこんな小さな村のちっぽけな図書館で迷うのカシラ」
シロは相変わらず不慣れな女言葉のたどたどしい語尾で馬鹿にされながら、この図書館の司書が控えているという場所へと連行されている。
女は物知り顔で前を歩く少女にたった今出てきたばかりのドアを指さして経緯を説明したのだが、少女が訝しみながら開いた扉の向こうは地下への螺旋階段でなく、モップや箒、長い柄の付いた塵取りといった掃除道具が乱雑に収められていた。
当然そんなはずはないと女も確かめたが迷子の言い訳と取られてしまい、いい歳した大人は迷子センターへ連れられるような子供のように揺れる小さな背を眺めるばかりだった
「ジローこのお爺さんが図書館の司書さん。そしてお爺さん、これがさっき言っていたジローよ」
「おおこちらが。旅の方ようお越しくださった。何でも白熊を振舞ったり妖精憑きの者を助けたりしてくれたそうで」
少女から紹介された老司書は子供に冬の夜プレゼントを配って回ると言う伝承に出てくる老人のような見た目で、シロは彼のふくよかな身体と白くもさもさした髯の上にある垂れ目から大らかで優しそうな印象を受けた。広まっているイメージとの違いといえば真っ赤な服でなく村の者達と同じ茶色いパーカを着こんでいるくらいだった。
「悪ぃな爺さん。うっかり迷い混んじまったみてーだ」
「ジローったら寝ぼけてるヨ。掃除道具入れを指さしてここから出てきたって言うんですモノ」
「ほほう、あそこから。まあなんにせよ少しここでお休み下され。ちょうど今湯が沸いたところですんで、コーヒーでも飲みながら異国の話でもお願いできますかな」
「あたしはもう帰るワネ。本を返して借りるだけだって出てきたから、すぐに帰らないと怒られちゃうノ。それじゃジローまたね」
てっきり彼女と三人でのコーヒーブレイクとなると思っていたシロは、そういえばリオンはネリット族の文化で女の子らしい生活とやらを教え込まれている最中だったことを思い出し、手を挙げ別れを告げてから老司書へと向き直る。
司書室の小さな窓から少女の姿が見えなくなった所で、おそらく地下施設の正体を知っていると思われる司書の目へ短刀を突き付けるかのような鋭い視線を向けて短く言葉を発した。
「お前、怪異だな?」
「ほっほっほ、一目でばれるとは」
問われた老人は好々爺然とした表情を崩すことなく、手に持ったカップの一つをシロの側に置くと自分の手の物に一度口を付け、口回りの髭を茶色く汚しながら朗笑した。