“そろそろ、の季節。皆さんはどうお過ごしてしょうか?”
「そろそろ衣替えだな」
「ああ」
何となくに見ていたTVのニュースアナウンスに、おそらく何となく呟いたであろう雪之丞の言葉に、俺も何となく返す。
「知ってるか?」
「何をだよ?」
「衣替えには、神事的な意味があんだよ」
「ああ、それなら知ってる。服を入れ替える時に要らねぇもんは捨てる事で運気を呼び込むんだろ?」
確か、平安時代から続く風習だった気がするな。
神職の人間が装束を季節に合わせて変える。それに合わせて身に付いた “穢” も祓い落として身を清めるんだ。
穢………現代人の感覚で言えば、それを古い服。その服を手放して、新しい物を取り入れる事で新たな運気を取り入れるって考えだ。
「そうだよ。所謂『断捨離』って奴だ。だけど、俺達の場合……」
「捨てる程、持ってねぇよな?運呼ぶ前に着るもんが無くなる」
穢れてようが、なんだろうが着続けるしかねぇ………
「まあな……」
「お前なんか、年中その(黒スーツの)一張羅だけだろ?」
ヨレヨレのバケット・ハットに黒の上下のスーツと黒ネクタイ。暑い季節は、背広を脱いでワイシャツ姿になって、逆に寒くなれば背広の上に黒いコートを羽織るだけ。
怪し気な風来坊にしか見えん………
「一応、同じのを2着持ってる。そう言うお前も学ラン以外、GジャンとGパンスタイル固定じゃねぇか?」
「勝ったな……俺は3着だ」
運用方法は、大体こいつと同じ……
「何でだ………?3着、揃えれるなら別の服も買えんだろ?」
「……中途半端にバリエーション増やしても、合わせらんねぇんだよ。なら、全部同じにすりゃ着るもんに悩まなくて済む」
…………とは言っても、1着は既にボロボロで本当に他の2着が駄目な時用に置いてあるだけだから、実質2着なんだよな……
「縁の無い話だったな……」
「服買わないのか?」
以前のような根無し草を卒業してからは、腰を据えて稼いでるんだ。服の1着や2着くらい買える筈だぜ。
「余り、興味ない。今のが着れなくなったら考える」
「既にヨレヨレじゃねぇか。その分じゃ、そん時も同じのを買いそうだな……」
「…………否定はしねぇさ。そういうお前もボロボロな気がすんだが、買わねぇのかよ……?」
「………面倒くさい……いや、それは違うな………」
「あぁ……?愛着でも、あんのか?」
「それも違うが………でも、このスタイルに慣れ過ぎて、今更って感じもする」
金が全然無い時は、もっと良い服着たいなんて願望もあったんだが、いざ買える状態になるとそれだけで満足しちまって願望も一緒に消えちまった。
「じゃあ、俺と一緒じゃねぇか」
「否定はしねぇさ……互いに貧乏性が抜けねぇんだろ?」
金が無い。腹一杯食いたい。良い所に住んで、良い服が着たい。
口や頭で、そんな事を思い描きつつも心が既に貧乏状態を拠り所にしてる。人の脳には恒常性があり、無意識に現状維持しようとするって言うけど、今が正にそれなのかもしらん……
「良いのか?これで……」
「良くはねぇだろ。今に胡座掻いて、動かねぇんだから」
「だからって、興味のねぇ服なんか買っても仕方ねぇだろ?」
「服を買わなくても、身嗜みに気を配れよ。今のお前に誰が良い印象抱くんだよ?」
「はぁっ!?んな事言ったら、お前だってただの貧乏人じゃねぇか?」
「貧乏人にじゃねぇ。半 “脱” 貧乏人 だ」
何じゃそりゃ……
「意味が解からん……」
「お前と一緒だ。貧乏から、片足だけ洗ってる……」
「どの辺が、片足出してんだよ?」
「見た目じゃ解らない。内面を見ないと」
「じゃあ、貧乏人と変わんねぇじゃぇか?」
「そうとも言う……」
「テメェ、さっき身嗜みに気を配れっつったよな!?」
「……んな事言ったか?」
「都合の良い事言ってんじゃねぇよ。人に言う前に、自分で実行しろや」
「だったら、所長であるお前が人の手本になれよ!」
「こう言う時だけ、所長とか抜かしてんじゃねぇよ!」
「所長は、所長だろ!2人しか居ねぇけど」
「除霊事務所は、大体そんなもんだろ?1人でやってる奴だってザラだぞ」
「うるせぇ!全部、お前が悪いんだよ!!」
「はぁっ!?ふざけんなぁっ!!」
「ああっ!やるか、テメェ!!?」
互いに感情の赴くまま、ソファーから立ち上がる。
………………何の話してたんだっけ?まぁ、いいか……
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エピーソードが短いので追加します↓↓
題名『福ノ神』
「今日は、お前だけなんだな……」
学校の帰り、アパートの入口でばったり出くわした 人形大 のそいつに声を掛ける。
手には自分の数倍はあろう、スーパーのビニール袋を抱えるから買い物帰りだろうな。
「随分な物言いやな。小鳩なら、バイトや」
俺の言葉に、そいつもジト目で返してくる。
「それは、残念」
会うたびに、ヒマワリみたいな笑顔をしてくれるあの娘に結構癒されてたんたが、居ないんじゃ仕方ないな。
そんな風に思ってると今度は、そいつが話し掛けてきた。
「なんや自分、今日は遅かったやないか?」
「ああ。学校の連中と駄弁ってたら、こんな時間になっちまったよ」
今日は仕事もなかったからな、ゆっくりでもいいと思って油断したぜ。
「ええのぅ “独りもん” は気楽で♪ウチは貧しい上に大飯食らいがおるさかい、気苦労が絶えんわ」
邪険に扱われた仕返しか、“独りもん” をやたら強調しやがった。真似事とは言え、小鳩ちゃんと結婚したこと根に持ってんのか? まあ、悪かったとは思ってるよ。
「あん時はそうするしか無かったんだろ? それに、俺だって貧乏だからな」
以前の毎日サバイバルからは、抜け出したが今だって別に余裕じゃない。仕事の空いた時は、またサバイバルに戻るんじゃないかと冷や冷やする。
今更だが、そいつはメキシコの民族衣装のつば広帽子のソンブレロとポンチョが特徴の、花戸家を守護する福之神(?)で愛称は “貧ちゃん”………福之神になった筈なのに貧ちゃん?
普通そこは “福ちゃん”に変わるんじゃねぇの?
そういや、俺が試練をクリアした時に格好も変わった筈だよな? いつの間にか初めて会った時と同じ格好に戻ってるし、俺の試練って本当に意味あったのか?
「なんや? 人の顔ジロジロ見て」
いい機会か?
「いや、お前以前インチキファラオみたい……」
「誰がインチキや!!?」
福之神(?)は噛み付いてくるが、それに構わず続ける。
「とにかく、姿がどうして貧乏神の時に戻ってるんだ?」
「ああ、そのことか。今だって、なろうと思えばなれるで。ただ、小鳩達にはこの姿の方が慣れとるから戻したんや」
やれやれと言った感じに話す、福之神(?)の答えに取り敢えず合点した。
「そういう事か……俺はてっきり、あの試練意味が無かったのかと不安になったからさ」
あの時は、ある意味 “究極の選択” をしたからな……今の俺でも、同じ答えを出せるかと聞かれたら正直自信が持てない。
「んなわけあるか!経緯はともかく、お前さんは儂等全員を貧乏の連鎖から開放したんや!そこだけ は感謝するで」
「いちいち、強調すんな……」
そうか、意味はあったか………あったか?
「でも、お前やってること貧乏神の時と基本一緒だろ? 具体的に何が出来んだ?」
「ああ? だから、憑いてる家に幸福をもたらす……」
「そう言う抽象的な話はいいよ。もっと、具体的にないか?この前、変なもん作って家計壊し損ねたろ」
「馬鹿言え! アレのお陰で、今は定期的な収入があるんや!!」
ソイツが胸を反らしながら言うアレとは、食うと幽体離脱する程糞不味い通称『〆鯖バーガー』
この眼の前にいる貧乏神だか、疫病神だかよく解らない奴が作り出した。得体の知れない糞メニューで、今は厄珍堂に幽体離脱専用グッズとして売られている。
その売上の一部が、花戸家に入ってるんだったな……
「結果的にだろ? ゴミになったら笑い話にもならねぇぞ」
「結果的にでも、潤ったなら儂の力や!」
何故、それで威張れる……?
「お金を生み出すとか、出来ないのか?」
「出来るか! それに福と言うのは、お金に関することだけやない。お金があっても『足ることを知る』のを忘れたら、結局そいつは心が貧しくなる。例え出来ても、家族を貧しくするようなことを儂はせん」
ふ〜ん……なんか、立派そうに聞こえること言ってるけど誤摩化されてんのか?
「じゃあ、何なら出来るんだ?」
「いや、家事手伝いとか、悩み事の相談とか…………」
「やっぱ、前と変わんねぇじゃねぇか」
「ああ〜!もぅ、うるさい!! 儂は “独りもん” のお前と違って忙しいんや、他に用がないなら行くで」
そう吐き捨てると、福之神(?)は部屋まで飛んで行っちまった……
取り敢えず居れば、何かいい事があるマスコットみたいに認識すればいいのか?
結果的にだが、出会った当初より花戸家の生活レベルは向上してるから。これで、OK…………なんだろうか?