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肢体爆弾

ー/ー




「おいおい………聞いてた話と違うじゃねぇか」
 

 渓谷の真下に溢れ返っている、霊団を見下ろしながら雪之丞が呟いた。

 声に呆れとも驚きとも取れる色が混ざってる。流石のコイツも動揺を隠せないようだ。俺も同じ気持ちだ……
 

「この地脈と親玉のせいだろうな……」


 ここは、埼玉県某所の山奥にある渓谷。

 その渓谷が怨霊達の温床になっていると言う事で除霊に来たんだが、事前情報とまるで違う。


 異変に気付いたのは車から降りて、徒歩に切り替えてからすぐ。現地まで、まだ遠いのにやたら瘴気が漂っていた。おかしいと思って、急いで来てみたらこれだ。

 切り立った岸壁の30〜40メートル程下の渓流。そこに低級霊が複数体いるって話だったが、ありゃ数十……いや、100体越えてるな。


 規模としては “あの時” の半分くらいか……

 昔というには早すぎる以前の話。体と霊体の定着が不安定な彼女を襲ってくれた、糞みたいな連中。同時に、自分の無力をこれでもかと思い知らせてくれた因縁の存在。

 彼女がネクロマンスの力に覚醒したから事なきを得たが、奴等の存在は今でも俺に重くのし掛かかる。


 何も出来ない自分が許せなかった……彼女に命を捨てる選択をさせた自分が………


 “先生だって持て余してたんだぞ……俺ごときが何思い上がってんだ”


 頭では何度もそう考えた。だが、心がはっきり “NO” と主張して譲らない……!!


 納得出来ない……出来るはずがない!!

 何故もっと上手くやれなかった?

 倒せなくても、文珠ならあの場を切り抜けるくらい出来たはずだ……!


 冷静に状況を見極めれば活路はあったかもしれないのに、散々ビビり散らして、大騒ぎして最後は彼女の力で助けられた。

  
 今でも本気で考えるんだよ……
 
 “糞みたいに醜態晒した俺を殺してやりたい”って……





    ◇◇◇


 ………………話を戻す。複数体の低級霊が霊団になった原因は2つ。そのうち1つは、さっき言ったこの地形だ。

 渓谷全体がすり鉢状になっていて、空気……この場合は “気” と表現した方がいいか。その“気”の巡りが悪く、渓谷の底に滞留しやすい。
 怨霊、悪霊は人気が無くて、気の巡りが悪い場所を好むから。ここは奴等にとって絶好のポイントってわけだ。

 ただ、これだけならこんな事にはならなかったろう。目撃されてから、殆ど日数なんか経ってないんだ。

 問題なのは、もう一つ………その絶好ポイントの中心点に、デカくて強力な怨霊が1体。
 そいつの放つ強烈な瘴気に多数の低級霊が引き寄せられて、いつしか今の様な霊団が形成されちまった。


 さっき規模としては半分なんて言ったけど、更に時間を置けばあの時と同等、最悪それ以上になる可能性だってある。
 何故、そんな強力なのがピンポイントに居るのかが気になるが、今はそれを気にしている場合じゃねぇな。


「どうする?」
「基本、逃げるしかねぇだろうな……」

「だな……俺の霊波砲、お前の霊盾、2人で乱れ撃ちしても倒しきれねぇ」
「………と言うか、刺激するだけ逆効果だぞ」


『闘争』か『逃避』……基本二択しかないんだが、“普通” に戦えば2人じゃどうにもならねぇ。寧ろ、奴等を人里まで誘引する事態に成りかねない。

 となれば、速攻で撤退して協会に報告した方がいい。事がことだけに向こうもすぐに動くだろう。それが最適解………と言うか、この場ではそれしか出来ない。



 “普通” にやればな……


「“マスクを外す”………」


 雪之丞………いや、俺は自分に言い聞かせるような感じで呟いた。


「マジか……? 随分、危険なデビュー戦になるぜ♪」
「こう言う時の為の “切札” だろ」


 言葉とは裏腹にニヤリと笑う雪之丞へそう答えると、俺は無造作にマスク……『虚吸の面』を外してポッケへ突っ込む。

 ただ、外すだけじゃ何も起こらない。


「怨霊達が大量に居る分、ここは霊気に満ちてる。派手(・・)にブッ飛ぶぞ」
「おぅ、景気良く行け!塵も残さず蒸発させろ♪」


 そう言って、後方へ姿を消す雪之丞…………本当に軽く言ってくれるぜ。

 ただ………



「その積りだけどなぁっ!!」


 気合を入れるように言い放ち、鼻から体内に残っている空気を全て吐き出す。

 
 …………人と言うのは体内で霊気を生み出すのと同時に、常に体の至る所から外の霊気も吸収している。当然、口や鼻からもだ。

 『虚吸の面』は呼吸こそ普通に出来るが、そこから取り込む霊気の一切を遮断する。

 そうして暫く遮断した状態を維持すると、俺の体内(肺)は一つの “霊的真空状態” になる。例えるなら、真空状態のペットボトルだ。

 そして、そのボトルの蓋を……今外した。『虚吸の面』と言う蓋を………



《絶呼吸・霊肺還流(ぜっこうきゅう・れいはいかんりゅう)》








肢体爆弾 横島
「こおぉぉぉ〜〜………!!」


 俺は、辺りの空気を………空気中に満ちている霊気を、思い切り吸い込んで一気に体内へ取り込む!

 そうする事によって、霊的真空状態から来る強力な霊的逆流(バックドラフト)現象が起こり、瞬時に俺の体内が霊気で満たされる。

 俺の霊的容量(キャパシティ)以上に……


「フフフフフッ………」


 体の隅々が普段ならあり得ない霊的充足感に満たされた事で、精神が異様にハイになる………ただ、その精神状態とは逆に今の状態は非常に危険だ。

 当たり前だ。本来なら入り切らない程のエネルギーが、俺の中に渦巻いているんだからな。少しでも気を抜けば、それらが暴走して俺は木っ端微塵になっちまうだろう。


「……フハハハハッ!」


 でも、それが………それが、何っだって言うんだ!?

 これから起こる事を想像する悦びに比べたら、自分が砕け散る恐怖なんて取るに足らない些事だ。


 俺は逸る心を抑えながら、ポッケの文珠に『飛』と刻み霊気の翼を顕現させる。

 
 そして、俺は渓谷の地面を蹴って宙を舞う。行き先は、勿論一番下に鎮座するデク……

 元々、距離も離れてないんで俺はすぐ様奴に肉薄する。対する奴も、俺に気付いて身構えた。それと、同時に周りにいる雑魚も同じように反応し始める。

 だが、もう遅いっ!!



「死ねーーーーーーっっっ!!!」



 俺は、気合いとも歓喜とも取れるような声を上げながら両手を組み合わせる。

 それが、これの起爆装置(・・・・)だ……!








肢体爆弾 爆発
 ドグオォォォォォーーーーーーーッッッン!!!



 それによって、体内に溜まったエネルギーが一気に外へ!

 全ての世界から音が消えて、白一色に染まる。

 全ての感覚が消失し、唯一感じ取れるのは俺の存在だけ。

 俺だけが存在する世界。俺だけしか存在し得ない世界………瞬き1回にも満たないような短い時間だが、俺は確かにその場の支配者になれる。


 『肢体爆弾』………これも、妙神山に居る時に編み出した技で簡単に言えば、全身から霊波砲を放つ物だ。

 俺の精神(・・)を一番体現した技とも言えるだろう……


 それに『虚吸の面』で溜めた霊気を上乗せして、一気に放った。

 そうそう連発出来る技じゃないが、最大で数十メートル級の大爆発を起こせる。

 正に、今回のような敵に使う為の切札だ………!


 切札では、あったんだが……





    ◇◇◇


「…………ちっ……全滅までは、行かなかったか」


 いつもの状態に戻った世界(風景)を見渡しながら、俺は吐き捨てる。


 悪い感触じゃなかった……現に俺の近くに居たはずの親玉は、影も形も無くなってる。

 周りにあった岩や石は綺麗に吹っ飛び、最早地形が変わったと言っても良いだろう。

 だが、それでも霊団の外側に居た数十体は、まだ蠢いていた。


「忠夫〜!!」


 そうしていると、文珠で霊気の翼を生やした雪之丞が上から降りて来る。


「派手にやったなぁ!!爆風がこっちにまで来たぜ♪」
「……少し残しちまったよ」


 何故かノリノリのこいつに苦々しく答えるが、あれ以上強くしたら岸壁まで崩れる恐れもあるから、ここが妥協点か………

 それに、親玉さえ殺れれば後はどうにかなる。

 霊団の脅威は1体の強力な霊によって、集団が一つの巨大な生き物のようになる事。だから、頭が潰れれば残った連中はただの有象無象に成り下る。

 周りの奴等も例に漏れず、右往左往してるだけだ。
 

「上等♪上等♪頭が消えりゃ、もう怖くねぇ!」
「…………なら、とっと終わらすか」


 元々、雑魚霊の処理が依頼だったわけだしな。


「ば〜か、それじゃ俺の居る意味がねぇだろ!後は俺がやっから、お前は見物でもしてろ♪」
「はいはい、早くしろよ……」

 
 そう言うと、奴はそのまま魔装術を纏って飛んで行った。

 
 …………まぁ、奴なら何の心配もないか。


「ふぅ……」


 俺はそう思いながら一息付くと、ポッケに突っ込んで置いたマスクを再び装着する。

 もう、撃つことはないだろうが、これはただの習慣だ。帰るまでが除霊とか言う………いや、言わねぇか。


 雪之丞の方を見ると、岸壁に沿うようにして漂ってる雑魚が十数体くらい残っていたが、そいつらも奴によってどんどん数を減らされていた。

 そんな光景を見ながら考える…………取り敢えずは上手く行った。出来過ぎとも言えるだろう。

 ただ、かなり運に恵まれた感も強い。

 さっき言ったように霊団は巨大な生き物。普通なら頭に近寄るのだって難しい。この前より規模が小さい上に奴等がこっちに気づいてなかったから、直で先制攻撃出来たんだ。

 “あの時” は街中だったし、こんなもん撃てねぇよな。もっと言えば、あの娘まで巻き込んだ可能性だってある。

 あの娘を襲う敵を倒すために、あの娘諸共消す……笑い話にもならねぇ。
 

 まぁ、それを考えた所で意味が無いのも解ってる。

 …………そもそも彼女とは完全に切れてるんだ。その上『ネクロマンスの笛』なんて強力な自衛手段まで持ってる。俺なんて、邪魔以外何者でも無い……



 ……………過去を克服したいんだろうな……


 仮に手も足も出なかった相手を倒すことで、惨めな自分から解放される。今回、こんな無茶をしたのは、そうする事で過去を乗り越えたかったのかもしれない。

 それに、どの程度の意味があるのかは解らないがな………




    ◇◇◇

「協会には、何て言うか?」
「大きな音がして、慌てて行ってみたら雑魚霊が居たんで始末した……それで、良いだろ?」

「う〜ん………まぁ、いいか。倒した張本人が、そう言うならな」
「悪いな……」



 ただ、言った所で信じないとは思ってる。

 それでも、文珠と同じようにこの技も余り喧伝したくなかった………
 


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 渓谷の真下に溢れ返っている、霊団を見下ろしながら雪之丞が呟いた。
 声に呆れとも驚きとも取れる色が混ざってる。流石のコイツも動揺を隠せないようだ。俺も同じ気持ちだ……
「この地脈と親玉のせいだろうな……」
 ここは、埼玉県某所の山奥にある渓谷。
 その渓谷が怨霊達の温床になっていると言う事で除霊に来たんだが、事前情報とまるで違う。
 異変に気付いたのは車から降りて、徒歩に切り替えてからすぐ。現地まで、まだ遠いのにやたら瘴気が漂っていた。おかしいと思って、急いで来てみたらこれだ。
 切り立った岸壁の30〜40メートル程下の渓流。そこに低級霊が複数体いるって話だったが、ありゃ数十……いや、100体越えてるな。
 規模としては “あの時” の半分くらいか……
 昔というには早すぎる以前の話。体と霊体の定着が不安定な彼女を襲ってくれた、糞みたいな連中。同時に、自分の無力をこれでもかと思い知らせてくれた因縁の存在。
 彼女がネクロマンスの力に覚醒したから事なきを得たが、奴等の存在は今でも俺に重くのし掛かかる。
 何も出来ない自分が許せなかった……彼女に命を捨てる選択をさせた自分が………
 “先生だって持て余してたんだぞ……俺ごときが何思い上がってんだ”
 頭では何度もそう考えた。だが、心がはっきり “NO” と主張して譲らない……!!
 納得出来ない……出来るはずがない!!
 何故もっと上手くやれなかった?
 倒せなくても、文珠ならあの場を切り抜けるくらい出来たはずだ……!
 冷静に状況を見極めれば活路はあったかもしれないのに、散々ビビり散らして、大騒ぎして最後は彼女の力で助けられた。
 今でも本気で考えるんだよ……
 “糞みたいに醜態晒した俺を殺してやりたい”って……
    ◇◇◇
 ………………話を戻す。複数体の低級霊が霊団になった原因は2つ。そのうち1つは、さっき言ったこの地形だ。
 渓谷全体がすり鉢状になっていて、空気……この場合は “気” と表現した方がいいか。その“気”の巡りが悪く、渓谷の底に滞留しやすい。
 怨霊、悪霊は人気が無くて、気の巡りが悪い場所を好むから。ここは奴等にとって絶好のポイントってわけだ。
 ただ、これだけならこんな事にはならなかったろう。目撃されてから、殆ど日数なんか経ってないんだ。
 問題なのは、もう一つ………その絶好ポイントの中心点に、デカくて強力な怨霊が1体。
 そいつの放つ強烈な瘴気に多数の低級霊が引き寄せられて、いつしか今の様な霊団が形成されちまった。
 さっき規模としては半分なんて言ったけど、更に時間を置けばあの時と同等、最悪それ以上になる可能性だってある。
 何故、そんな強力なのがピンポイントに居るのかが気になるが、今はそれを気にしている場合じゃねぇな。
「どうする?」
「基本、逃げるしかねぇだろうな……」
「だな……俺の霊波砲、お前の霊盾、2人で乱れ撃ちしても倒しきれねぇ」
「………と言うか、刺激するだけ逆効果だぞ」
『闘争』か『逃避』……基本二択しかないんだが、“普通” に戦えば2人じゃどうにもならねぇ。寧ろ、奴等を人里まで誘引する事態に成りかねない。
 となれば、速攻で撤退して協会に報告した方がいい。事がことだけに向こうもすぐに動くだろう。それが最適解………と言うか、この場ではそれしか出来ない。
 “普通” にやればな……
「“マスクを外す”………」
 雪之丞………いや、俺は自分に言い聞かせるような感じで呟いた。
「マジか……? 随分、危険なデビュー戦になるぜ♪」
「こう言う時の為の “切札” だろ」
 言葉とは裏腹にニヤリと笑う雪之丞へそう答えると、俺は無造作にマスク……『虚吸の面』を外してポッケへ突っ込む。
 ただ、外すだけじゃ何も起こらない。
「怨霊達が大量に居る分、ここは霊気に満ちてる。|派手《・・》にブッ飛ぶぞ」
「おぅ、景気良く行け!塵も残さず蒸発させろ♪」
 そう言って、後方へ姿を消す雪之丞…………本当に軽く言ってくれるぜ。
 ただ………
「その積りだけどなぁっ!!」
 気合を入れるように言い放ち、鼻から体内に残っている空気を全て吐き出す。
 …………人と言うのは体内で霊気を生み出すのと同時に、常に体の至る所から外の霊気も吸収している。当然、口や鼻からもだ。
 『虚吸の面』は呼吸こそ普通に出来るが、そこから取り込む霊気の一切を遮断する。
 そうして暫く遮断した状態を維持すると、俺の体内(肺)は一つの “霊的真空状態” になる。例えるなら、真空状態のペットボトルだ。
 そして、そのボトルの蓋を……今外した。『虚吸の面』と言う蓋を………
《絶呼吸・霊肺還流(ぜっこうきゅう・れいはいかんりゅう)》
「こおぉぉぉ〜〜………!!」
 俺は、辺りの空気を………空気中に満ちている霊気を、思い切り吸い込んで一気に体内へ取り込む!
 そうする事によって、霊的真空状態から来る強力な|霊的逆流《バックドラフト》現象が起こり、瞬時に俺の体内が霊気で満たされる。
 俺の|霊的容量《キャパシティ》以上に……
「フフフフフッ………」
 体の隅々が普段ならあり得ない霊的充足感に満たされた事で、精神が異様にハイになる………ただ、その精神状態とは逆に今の状態は非常に危険だ。
 当たり前だ。本来なら入り切らない程のエネルギーが、俺の中に渦巻いているんだからな。少しでも気を抜けば、それらが暴走して俺は木っ端微塵になっちまうだろう。
「……フハハハハッ!」
 でも、それが………それが、何っだって言うんだ!?
 これから起こる事を想像する悦びに比べたら、自分が砕け散る恐怖なんて取るに足らない些事だ。
 俺は逸る心を抑えながら、ポッケの文珠に『飛』と刻み霊気の翼を顕現させる。
 そして、俺は渓谷の地面を蹴って宙を舞う。行き先は、勿論一番下に鎮座するデク……
 元々、距離も離れてないんで俺はすぐ様奴に肉薄する。対する奴も、俺に気付いて身構えた。それと、同時に周りにいる雑魚も同じように反応し始める。
 だが、もう遅いっ!!
「死ねーーーーーーっっっ!!!」
 俺は、気合いとも歓喜とも取れるような声を上げながら両手を組み合わせる。
 それが、これの|起爆装置《・・・・》だ……!
 ドグオォォォォォーーーーーーーッッッン!!!
 それによって、体内に溜まったエネルギーが一気に外へ!
 全ての世界から音が消えて、白一色に染まる。
 全ての感覚が消失し、唯一感じ取れるのは俺の存在だけ。
 俺だけが存在する世界。俺だけしか存在し得ない世界………瞬き1回にも満たないような短い時間だが、俺は確かにその場の支配者になれる。
 『肢体爆弾』………これも、妙神山に居る時に編み出した技で簡単に言えば、全身から霊波砲を放つ物だ。
 俺の|精神《・・》を一番体現した技とも言えるだろう……
 それに『虚吸の面』で溜めた霊気を上乗せして、一気に放った。
 そうそう連発出来る技じゃないが、最大で数十メートル級の大爆発を起こせる。
 正に、今回のような敵に使う為の切札だ………!
 切札では、あったんだが……
    ◇◇◇
「…………ちっ……全滅までは、行かなかったか」
 いつもの状態に戻った|世界《風景》を見渡しながら、俺は吐き捨てる。
 悪い感触じゃなかった……現に俺の近くに居たはずの親玉は、影も形も無くなってる。
 周りにあった岩や石は綺麗に吹っ飛び、最早地形が変わったと言っても良いだろう。
 だが、それでも霊団の外側に居た数十体は、まだ蠢いていた。
「忠夫〜!!」
 そうしていると、文珠で霊気の翼を生やした雪之丞が上から降りて来る。
「派手にやったなぁ!!爆風がこっちにまで来たぜ♪」
「……少し残しちまったよ」
 何故かノリノリのこいつに苦々しく答えるが、あれ以上強くしたら岸壁まで崩れる恐れもあるから、ここが妥協点か………
 それに、親玉さえ殺れれば後はどうにかなる。
 霊団の脅威は1体の強力な霊によって、集団が一つの巨大な生き物のようになる事。だから、頭が潰れれば残った連中はただの有象無象に成り下る。
 周りの奴等も例に漏れず、右往左往してるだけだ。
「上等♪上等♪頭が消えりゃ、もう怖くねぇ!」
「…………なら、とっと終わらすか」
 元々、雑魚霊の処理が依頼だったわけだしな。
「ば〜か、それじゃ俺の居る意味がねぇだろ!後は俺がやっから、お前は見物でもしてろ♪」
「はいはい、早くしろよ……」
 そう言うと、奴はそのまま魔装術を纏って飛んで行った。
 …………まぁ、奴なら何の心配もないか。
「ふぅ……」
 俺はそう思いながら一息付くと、ポッケに突っ込んで置いたマスクを再び装着する。
 もう、撃つことはないだろうが、これはただの習慣だ。帰るまでが除霊とか言う………いや、言わねぇか。
 雪之丞の方を見ると、岸壁に沿うようにして漂ってる雑魚が十数体くらい残っていたが、そいつらも奴によってどんどん数を減らされていた。
 そんな光景を見ながら考える…………取り敢えずは上手く行った。出来過ぎとも言えるだろう。
 ただ、かなり運に恵まれた感も強い。
 さっき言ったように霊団は巨大な生き物。普通なら頭に近寄るのだって難しい。この前より規模が小さい上に奴等がこっちに気づいてなかったから、直で先制攻撃出来たんだ。
 “あの時” は街中だったし、こんなもん撃てねぇよな。もっと言えば、あの娘まで巻き込んだ可能性だってある。
 あの娘を襲う敵を倒すために、あの娘諸共消す……笑い話にもならねぇ。
 まぁ、それを考えた所で意味が無いのも解ってる。
 …………そもそも彼女とは完全に切れてるんだ。その上『ネクロマンスの笛』なんて強力な自衛手段まで持ってる。俺なんて、邪魔以外何者でも無い……
 ……………過去を克服したいんだろうな……
 仮に手も足も出なかった相手を倒すことで、惨めな自分から解放される。今回、こんな無茶をしたのは、そうする事で過去を乗り越えたかったのかもしれない。
 それに、どの程度の意味があるのかは解らないがな………
    ◇◇◇
「協会には、何て言うか?」
「大きな音がして、慌てて行ってみたら雑魚霊が居たんで始末した……それで、良いだろ?」
「う〜ん………まぁ、いいか。倒した張本人が、そう言うならな」
「悪いな……」
 ただ、言った所で信じないとは思ってる。
 それでも、文珠と同じようにこの技も余り喧伝したくなかった………