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25,時計塔の下の広場

ー/ー



 その日、いつものように遊びに来てくれた政樹が言った。
 
「すごいな。まるで映画か小説みたいだ。

 律人くんの名前を呼んだ青年は、カッコよかった?」
 
「うん、すごく。ゆうべもその続きを見ていたような気がするんだけど、目覚まし時計が鳴って、起きたとたんに忘れちゃったんだ」

「それはもったいないなあ」

「だよね。一生懸命に思い出そうとしたんだけど」

「次に見たときは、起きた後も覚えていられるといいね」

「また続きが見られるかなあ」

 もう一度、あの青年に会いたい。今夜から目覚ましをかけるのはやめにしようか。
 
 朝食は祖父母と一緒に取ることになっているけれど、たまに寝坊をしても怒られはしないだろう。何しろ、学校に行くわけではないのだし。
 
 政樹が言う。
 
「見られるといいね。それにしても、うらやましいなあ。

 僕もそんなふうにドラマチックな夢が見てみたいよ」
 
「真汐航平が出て来る夢とか?」

「それもいいねえ。今夜は寝る前に本を読んで、真汐航平のことを考えながらベッドに入ろうかな」

「じゃあ僕も、本を読んで、あの青年のことを考えながら寝ることにする」

「いいねえ」

 政樹がにっこりする。彼と話すのは、とても楽しい。
 
 
 
 あの夢の続きが見られますように。あのスチームパンクファッションのカッコいい青年に会えますように。
 
 そう祈りながら、律人は眠りについた。
 
 
 
 夢の中で、律人は薄暗い部屋の真ん中に立っていた。部屋の中にあるのはベッドが一つだけで、ほかに何もない。
 
 人気のない部屋の中を見回し、なんとなくがっかりして、律人は踵を返した。そして部屋を出て、階段を下りる。
 
 (夢を見ている最中は、それが夢だということも、前に見た夢のこともわからず、がっかりした理由は自分でもわからない。)
 
 石畳の道を歩いて行くと、やがて広い通りに出た。蒸気式の路面電車やモノレールが走り、スチームパンクファッションの人々が行き交っている。
 
 ここには、前にも来たことがあるような気がする。律人は、広い通りをさらに進む。
 
 たしか、あの空中通路をくぐり抜けた先に、とがった屋根の時計塔があって……。
 
 
 
 空中通路の中ほどから下の通りを見下ろしていたレオンは、ハッとして目を凝らした。通りをこちらに向かって歩いて来るのは……!
 
 自覚しているのかいないのか、一人だけ街中をパジャマで歩くほっそりとした少年。だが、彼の姿に目を留める者は誰もいない。
 
 レオンは、彼に向って声を張り上げた。
 
「律人!」

 驚いたように見上げた律人が目を見開く。さらにレオンは言った。
 
「今そこに行くから、待っていてくれ!」

 そして、空中通路の片側まで走り、さらに階段を駆け下りる。また消えてしまったら大変だと気がせく。
 
 だが、律人は先ほどの場所に立ち止まって待っていてくれた。そのまま駆け寄り、肩で息をしながら言う。
 
「よかった、やっと会えた」



 荒い呼吸を繰り返しながら、青年が律人に微笑みかける。なんだか、とても懐かしい気持ちがして、律人も微笑み返す。
 
 青年が、辺りを見ながら言った。
 
「どこか、ゆっくり話せる場所はないかな」

 律人は答える。
 
「ここには前にも来たことがある気がするんだ。たしか、向こうにある時計塔の下に、ベンチが置かれた広場があったような……」

「そこに行こう。律人、足は大丈夫か?」

「うん」


 二人はベンチに並んで腰かけた。その感じが、なぜか律人には、やけにしっくり来る。まるで、いつもこんなふうに、彼と並んで座っていたような……。
 
 青年が、おもむろに口を開いた。
 
「前に俺と会ったときのこと、覚えているか?」

 律人が首をひねると、彼は言った。
 
「いや、いいんだ。そういうこともあるだろうと思っていた。

 やっぱり、何かが違っているんだ」
 
「え? 何かって?」

 いったいどういうことだろう。
 
 
 
「ああ、いや」

 何がどう違っているのか、どうすればいいのかさっぱりわからないし、うまく説明することも出来ない。レオンに出来ることは、とにかく、自分が知っている限りのことを話して、律人にわかってもらうことだけだ。
 
 律人はまた忘れてしまうかもしれないが、次にまた会えたならば、何度でも繰り返し話すのだ。きっと会えるはずだ。
 
 そう思い、レオンは心持ち体を律人のほうに向けた。
 
「俺の名前はレオン・クロックワーク。これは、律人が付けてくれた名前なんだ」

「え?」

「君は忘れているだろうけれど、俺たちは、君が11歳の頃からの付き合いなんだ」

 律人は驚きの表情を浮かべている。律人が消えてしまわないうちにと思い、レオンは先を続ける。


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 その日、いつものように遊びに来てくれた政樹が言った。
「すごいな。まるで映画か小説みたいだ。
 律人くんの名前を呼んだ青年は、カッコよかった?」
「うん、すごく。ゆうべもその続きを見ていたような気がするんだけど、目覚まし時計が鳴って、起きたとたんに忘れちゃったんだ」
「それはもったいないなあ」
「だよね。一生懸命に思い出そうとしたんだけど」
「次に見たときは、起きた後も覚えていられるといいね」
「また続きが見られるかなあ」
 もう一度、あの青年に会いたい。今夜から目覚ましをかけるのはやめにしようか。
 朝食は祖父母と一緒に取ることになっているけれど、たまに寝坊をしても怒られはしないだろう。何しろ、学校に行くわけではないのだし。
 政樹が言う。
「見られるといいね。それにしても、うらやましいなあ。
 僕もそんなふうにドラマチックな夢が見てみたいよ」
「真汐航平が出て来る夢とか?」
「それもいいねえ。今夜は寝る前に本を読んで、真汐航平のことを考えながらベッドに入ろうかな」
「じゃあ僕も、本を読んで、あの青年のことを考えながら寝ることにする」
「いいねえ」
 政樹がにっこりする。彼と話すのは、とても楽しい。
 あの夢の続きが見られますように。あのスチームパンクファッションのカッコいい青年に会えますように。
 そう祈りながら、律人は眠りについた。
 夢の中で、律人は薄暗い部屋の真ん中に立っていた。部屋の中にあるのはベッドが一つだけで、ほかに何もない。
 人気のない部屋の中を見回し、なんとなくがっかりして、律人は踵を返した。そして部屋を出て、階段を下りる。
 (夢を見ている最中は、それが夢だということも、前に見た夢のこともわからず、がっかりした理由は自分でもわからない。)
 石畳の道を歩いて行くと、やがて広い通りに出た。蒸気式の路面電車やモノレールが走り、スチームパンクファッションの人々が行き交っている。
 ここには、前にも来たことがあるような気がする。律人は、広い通りをさらに進む。
 たしか、あの空中通路をくぐり抜けた先に、とがった屋根の時計塔があって……。
 空中通路の中ほどから下の通りを見下ろしていたレオンは、ハッとして目を凝らした。通りをこちらに向かって歩いて来るのは……!
 自覚しているのかいないのか、一人だけ街中をパジャマで歩くほっそりとした少年。だが、彼の姿に目を留める者は誰もいない。
 レオンは、彼に向って声を張り上げた。
「律人!」
 驚いたように見上げた律人が目を見開く。さらにレオンは言った。
「今そこに行くから、待っていてくれ!」
 そして、空中通路の片側まで走り、さらに階段を駆け下りる。また消えてしまったら大変だと気がせく。
 だが、律人は先ほどの場所に立ち止まって待っていてくれた。そのまま駆け寄り、肩で息をしながら言う。
「よかった、やっと会えた」
 荒い呼吸を繰り返しながら、青年が律人に微笑みかける。なんだか、とても懐かしい気持ちがして、律人も微笑み返す。
 青年が、辺りを見ながら言った。
「どこか、ゆっくり話せる場所はないかな」
 律人は答える。
「ここには前にも来たことがある気がするんだ。たしか、向こうにある時計塔の下に、ベンチが置かれた広場があったような……」
「そこに行こう。律人、足は大丈夫か?」
「うん」
 二人はベンチに並んで腰かけた。その感じが、なぜか律人には、やけにしっくり来る。まるで、いつもこんなふうに、彼と並んで座っていたような……。
 青年が、おもむろに口を開いた。
「前に俺と会ったときのこと、覚えているか?」
 律人が首をひねると、彼は言った。
「いや、いいんだ。そういうこともあるだろうと思っていた。
 やっぱり、何かが違っているんだ」
「え? 何かって?」
 いったいどういうことだろう。
「ああ、いや」
 何がどう違っているのか、どうすればいいのかさっぱりわからないし、うまく説明することも出来ない。レオンに出来ることは、とにかく、自分が知っている限りのことを話して、律人にわかってもらうことだけだ。
 律人はまた忘れてしまうかもしれないが、次にまた会えたならば、何度でも繰り返し話すのだ。きっと会えるはずだ。
 そう思い、レオンは心持ち体を律人のほうに向けた。
「俺の名前はレオン・クロックワーク。これは、律人が付けてくれた名前なんだ」
「え?」
「君は忘れているだろうけれど、俺たちは、君が11歳の頃からの付き合いなんだ」
 律人は驚きの表情を浮かべている。律人が消えてしまわないうちにと思い、レオンは先を続ける。