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24,薄暗がりに出現したドア

ー/ー



 律人が見上げると、立ったままの彼は、慌てたように言う。
 
「いや、いいんだ。頼むから消えないでくれ」

 律人は、おかしくなってちょっと笑った。
 
「大丈夫、消えたりしないよ」

「そうか」

 青年も、律人の隣に腰を下ろす。だが、なかなか口を開かないので、律人は聞いた。
 
「ねえ、話って?」

「ああ、そうだな。つまり、俺が聞きたいのは、どうして律人がここに来たのかということと、あの後どうしたのかということだ」

「あの後?」

「ああ、あのとき、君は倒れてしまっただろう? 俺は心配で心配で……」

 律人は首をかしげる。なんのことだかさっぱりわからない。
 
「僕が、倒れたの?」

 青年が、ハッとしたように目を見開く。
 
「もしかして、覚えていないのか?」

「僕、記憶喪失なんだ」

「それは……」

「しばらくの間高熱が続いて、熱が下がったときには、今までのことを全部忘れちゃってたんだよ」



 なんということだ。レオンは、相変わらず年のわりにあどけない、律人の色白の顔を見つめる。
 
 まだすべてではないが、だんだん事情がわかって来た。律人が記憶喪失だと口にしたとき、最初は10歳のときのことかと思ったのだが、そうではなかった。
 
 あのとき、彼は涙ながらに戻った記憶の話をした後、その場に倒れてしまった。そして彼の話から推察するならば、おそらくはショックのあまり高熱を出し、その際に、再びすべての記憶を失ったのだ。
 
 それでは、俺のことがわからないのも無理はない。だが、レオンは一応聞いてみる。
 
「俺の名前がわかるか?」

 律人は首をかしげる。やはり覚えていないらしい。
 
「俺の名前はレオン・クロックワーク。ギアアークの勇者だ」

「えぇっ、カッコいい!」

 律人は、キラキラした目でレオンを見つめる。
 
「あ、いや……」

 今の律人は、レオンが彼に創り出されたキャラクターだということを知らないのだ。もう一つ、わからないことを聞いてみる。
 
「ところで律人は、どうやってここに来ることが出来たんだ? 今までは、いつも俺が呼ばれて律人の部屋に行っていたのに」

「え?」

 きょとんとした表情のまま、律人は言う。
 
「それは、わからない。気がついたら、ここにいた」

「そう、なのか?」

 そのとき、不意にどこかでピピピピと電子音が鳴り出した。律人の輪郭が揺らいだかと思うと、その体がぼやけて消え始める。
 
「待ってくれ、律人! 前みたいに俺を呼んでくれ! そうしたら、君のそばに行くから!」

 レオンは必死に叫んだが、その声が律人に届いたのかどうかわからなかった。
 
 
 
 目覚まし時計のアラームが鳴り、律人は目を覚ました。たった今まで夢を見ていたような気がしたけれど、起きたとたんに忘れてしまった。
 
 頑張れば少しでも思い出せるだろうか。いつもの夢の続きだったならば、忘れてしまうのはあまりにももったいない。
 
 あの素敵な青年は夢に出て来ただろうか……。
 
 
 
 レオンはがっかりして、ベッドにどすんと腰を下ろす。律人はまたも消えてしまった。
 
 だが、どうやらそれは、彼の意志とは関係ないらしい。律人に敬遠されているわけではないらしいことに、少しだけほっとした。
 
 それにしても。レオンは、正面にある金属製のドアをじっと見つめる。
 
 今までただの薄暗がりだったところに、ドアが出来た。そこは、今まで律人に呼ばれたときに、律人の部屋へと続く通路が開く場所だった。
 
 そして、そのドアから律人が入って来た。ということは、ドアの向こうは律人の部屋なのか?
 
 レオンは立ち上がり、ドアに近づく。
 
 
 
 なんとか夢の内容を思い出そうと、律人は頭を巡らせる。多分、前の晩と同じく、薄暗い部屋で例の青年と言葉を交わしたのではなかったか……。
 
 
 
 いつものように、律人がベッドに腰かけているのでは。そう期待してドアを開けたのだが。
 
 ドアの外には、薄暗く狭い空間があり、その横に、下へと続く階段が伸びていた。レオンは後ろ手にドアを閉め、階段に向かって踏み出した。
 
 
 階段を下りるのも初めてなら、部屋の外に出るのも初めてだ。石畳の通りには古びたレンガ造りの建物が並んでいるが、遠くの煙突から煙が立ち上り、どんよりと曇った空には、おそらくは飛行船と呼ばれるものが飛んでいる。
 
 これが律人が言っていたスチームパンクの世界か。レオンは、きょろきょろと周りを見ながら歩き出す。
 
 しばらくすると、広い通りに出た。


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 律人が見上げると、立ったままの彼は、慌てたように言う。
「いや、いいんだ。頼むから消えないでくれ」
 律人は、おかしくなってちょっと笑った。
「大丈夫、消えたりしないよ」
「そうか」
 青年も、律人の隣に腰を下ろす。だが、なかなか口を開かないので、律人は聞いた。
「ねえ、話って?」
「ああ、そうだな。つまり、俺が聞きたいのは、どうして律人がここに来たのかということと、あの後どうしたのかということだ」
「あの後?」
「ああ、あのとき、君は倒れてしまっただろう? 俺は心配で心配で……」
 律人は首をかしげる。なんのことだかさっぱりわからない。
「僕が、倒れたの?」
 青年が、ハッとしたように目を見開く。
「もしかして、覚えていないのか?」
「僕、記憶喪失なんだ」
「それは……」
「しばらくの間高熱が続いて、熱が下がったときには、今までのことを全部忘れちゃってたんだよ」
 なんということだ。レオンは、相変わらず年のわりにあどけない、律人の色白の顔を見つめる。
 まだすべてではないが、だんだん事情がわかって来た。律人が記憶喪失だと口にしたとき、最初は10歳のときのことかと思ったのだが、そうではなかった。
 あのとき、彼は涙ながらに戻った記憶の話をした後、その場に倒れてしまった。そして彼の話から推察するならば、おそらくはショックのあまり高熱を出し、その際に、再びすべての記憶を失ったのだ。
 それでは、俺のことがわからないのも無理はない。だが、レオンは一応聞いてみる。
「俺の名前がわかるか?」
 律人は首をかしげる。やはり覚えていないらしい。
「俺の名前はレオン・クロックワーク。ギアアークの勇者だ」
「えぇっ、カッコいい!」
 律人は、キラキラした目でレオンを見つめる。
「あ、いや……」
 今の律人は、レオンが彼に創り出されたキャラクターだということを知らないのだ。もう一つ、わからないことを聞いてみる。
「ところで律人は、どうやってここに来ることが出来たんだ? 今までは、いつも俺が呼ばれて律人の部屋に行っていたのに」
「え?」
 きょとんとした表情のまま、律人は言う。
「それは、わからない。気がついたら、ここにいた」
「そう、なのか?」
 そのとき、不意にどこかでピピピピと電子音が鳴り出した。律人の輪郭が揺らいだかと思うと、その体がぼやけて消え始める。
「待ってくれ、律人! 前みたいに俺を呼んでくれ! そうしたら、君のそばに行くから!」
 レオンは必死に叫んだが、その声が律人に届いたのかどうかわからなかった。
 目覚まし時計のアラームが鳴り、律人は目を覚ました。たった今まで夢を見ていたような気がしたけれど、起きたとたんに忘れてしまった。
 頑張れば少しでも思い出せるだろうか。いつもの夢の続きだったならば、忘れてしまうのはあまりにももったいない。
 あの素敵な青年は夢に出て来ただろうか……。
 レオンはがっかりして、ベッドにどすんと腰を下ろす。律人はまたも消えてしまった。
 だが、どうやらそれは、彼の意志とは関係ないらしい。律人に敬遠されているわけではないらしいことに、少しだけほっとした。
 それにしても。レオンは、正面にある金属製のドアをじっと見つめる。
 今までただの薄暗がりだったところに、ドアが出来た。そこは、今まで律人に呼ばれたときに、律人の部屋へと続く通路が開く場所だった。
 そして、そのドアから律人が入って来た。ということは、ドアの向こうは律人の部屋なのか?
 レオンは立ち上がり、ドアに近づく。
 なんとか夢の内容を思い出そうと、律人は頭を巡らせる。多分、前の晩と同じく、薄暗い部屋で例の青年と言葉を交わしたのではなかったか……。
 いつものように、律人がベッドに腰かけているのでは。そう期待してドアを開けたのだが。
 ドアの外には、薄暗く狭い空間があり、その横に、下へと続く階段が伸びていた。レオンは後ろ手にドアを閉め、階段に向かって踏み出した。
 階段を下りるのも初めてなら、部屋の外に出るのも初めてだ。石畳の通りには古びたレンガ造りの建物が並んでいるが、遠くの煙突から煙が立ち上り、どんよりと曇った空には、おそらくは飛行船と呼ばれるものが飛んでいる。
 これが律人が言っていたスチームパンクの世界か。レオンは、きょろきょろと周りを見ながら歩き出す。
 しばらくすると、広い通りに出た。