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23,夢の中の美しい青年

ー/ー



 夢の中で、今日の律人は裏通りを歩いている。煤けた建物が立ち並ぶ中、ひと際古びたレンガ造りのビルが目に留まる。
 
 正面の大きな金属製のドアを開くと、上へと続く階段がある。律人は近づき、軽い足取りで階段を上り始める。
 
 上り切った先に、再び金属製のドアがあった。律人は、ドアノブに手をかける。
 
 ノブを回して手前に引くと、ドアは軋みながら開いた。薄暗い部屋の正面に窓があり、そこからの明かりでぼんやりと部屋の様子がわかる。
 
 窓の下に置かれたベッドに、誰かが腰かけているのがわかる。ドアが開いた音に、その人物が顔を上げる。
 
 そして、彼は立ち上がりながら言ったのだ。
 
「律人」

「え!?」

 そのとたん、びっくりして目が覚めた。
 
 
 
 そもそも、この部屋にドアがあるとは知らなかった。いつの間に出来たのだ。
 
 突然、そのドアが軋みながら開いたことに驚いたが、さらに驚いたのは、その向こうに律人が立っていたことだ。
 
「律人」

 名前を呼びながら立ち上がったとたん、驚いた顔の律人の姿が、霧のように掻き消えた。いったいどういうことなんだ……。
 
 
 
 暗闇の中で、律人はパチパチと瞬きをする。夢の中で、突然名前を呼ばれたので、びっくりして目が覚めてしまったけれど。
 
 もったいない。あの続きも見たかったのに。
 
 僕の名前を呼んだのは、どんな人物だったんだろう。もう一度眠れば、あの続きが見られるだろうか。
 
 そう思ったものの、すっかり目が冴えてしまい、なかなか眠りは訪れなかった。明け方近くになってうとうとしたものの、もう夢を見ることはなかった。
 
 
 
 その日の夜、夢は少しだけ巻き戻され、ドアの前に立っているところから再開した。
 
 ただし夢の中では、それが夢だという自覚はないし、前回の続きだということもわからない。それらに気づいたのは、目覚めた後のことだ。
 
 
 軋むドアを開けると、薄暗い部屋のベッドに腰かけていた人物が、立ち上がりながら言った。
 
「律人」

「え!?」

 いきなり名前を呼ばれ、驚いて目を凝らす。すると、今までよく見えなかった人物の姿が、まるで突然スポットライトが当たったかのようにはっきりと見えた。
 
 スチームパンクファッションに身を包んだ彼は、すらりと背が高く、はちみつ色の髪と鳶色の瞳を持った美しい青年だ。
 
 かっこいい……。そう思って見惚れていると、彼が呆然としたようにつぶやいた。
 
「どうしてここに?」

「え?」

 どうしてと言われても……。それから律人は、ハッとして聞き返す。
 
「そっちこそ、どうして僕の名前を知っているの?」

「え?」

 今度は、彼が戸惑う。
 
「どうしてって……。律人、俺のことを覚えていないのか?」

「……誰?」

「なんてことだ!」

 青年は頭を抱える。それから、再びこちらを見て言った。
 
「律人、杖はどうしたんだ?」

「え?」

 ふと不安な気持ちになった瞬間、目が覚めた。
 
 
 
 暗闇の中、律人はベッドに横たわっている。心臓がドキドキしている。
 
 目覚めた今は、たった今まで見ていた夢が、前夜の続きであることがわかる。律人が読んでいる小説に出て来そうな、とても素敵な青年だった。
 
 律人の名前を知っていることも、律人が杖を使っていることを知っているのも、多分それは、夢が律人の脳内で作られたものだからなのだろう。特に不思議なことではない。
 
 それにしても、面白い夢だった。また続きが見られるといいな。
 
 とりあえず、忘れないうちに夢日記に書いておこう。そう思い、律人は起き上って電気を点けた。
 
 次に夢を見るときは、また続きから見られるのだろうか。あのカッコいい人にまた会いたいな。
 
 
 その日から、律人はますます眠るのが楽しみになった。
 
 
 
 次の夢で、青年は両手のひらをこちらに向けて言った。
 
「頼む。いつもみたいに急に消えないでくれ」

「え? 僕、急に消えちゃう?」

「ああ。俺がもっと話そうとしたところで、いつも君は消えてしまう。

 俺は君に危害を加えたりしないから、どうかすぐに消えないで、怖がらずに俺の話を聞いてほしいんだ」
 
「そんなこと思っていないよ。危害を加えられるなんて思っていないし、怖がってもない」

「そうか、わかった」

 それから彼は、きょろきょろと周りを見る。そして、ベッドを指して言った。
 
「ここに座るか?」

 この部屋には、ほかに家具も椅子もない。
 
「うん」

 律人は、そばまで歩いて行って、ベッドに腰を下ろす。そんな律人を見て、彼が不思議そうに言った。
 
「スタスタ歩けるんだな」

「え?」


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 夢の中で、今日の律人は裏通りを歩いている。煤けた建物が立ち並ぶ中、ひと際古びたレンガ造りのビルが目に留まる。
 正面の大きな金属製のドアを開くと、上へと続く階段がある。律人は近づき、軽い足取りで階段を上り始める。
 上り切った先に、再び金属製のドアがあった。律人は、ドアノブに手をかける。
 ノブを回して手前に引くと、ドアは軋みながら開いた。薄暗い部屋の正面に窓があり、そこからの明かりでぼんやりと部屋の様子がわかる。
 窓の下に置かれたベッドに、誰かが腰かけているのがわかる。ドアが開いた音に、その人物が顔を上げる。
 そして、彼は立ち上がりながら言ったのだ。
「律人」
「え!?」
 そのとたん、びっくりして目が覚めた。
 そもそも、この部屋にドアがあるとは知らなかった。いつの間に出来たのだ。
 突然、そのドアが軋みながら開いたことに驚いたが、さらに驚いたのは、その向こうに律人が立っていたことだ。
「律人」
 名前を呼びながら立ち上がったとたん、驚いた顔の律人の姿が、霧のように掻き消えた。いったいどういうことなんだ……。
 暗闇の中で、律人はパチパチと瞬きをする。夢の中で、突然名前を呼ばれたので、びっくりして目が覚めてしまったけれど。
 もったいない。あの続きも見たかったのに。
 僕の名前を呼んだのは、どんな人物だったんだろう。もう一度眠れば、あの続きが見られるだろうか。
 そう思ったものの、すっかり目が冴えてしまい、なかなか眠りは訪れなかった。明け方近くになってうとうとしたものの、もう夢を見ることはなかった。
 その日の夜、夢は少しだけ巻き戻され、ドアの前に立っているところから再開した。
 ただし夢の中では、それが夢だという自覚はないし、前回の続きだということもわからない。それらに気づいたのは、目覚めた後のことだ。
 軋むドアを開けると、薄暗い部屋のベッドに腰かけていた人物が、立ち上がりながら言った。
「律人」
「え!?」
 いきなり名前を呼ばれ、驚いて目を凝らす。すると、今までよく見えなかった人物の姿が、まるで突然スポットライトが当たったかのようにはっきりと見えた。
 スチームパンクファッションに身を包んだ彼は、すらりと背が高く、はちみつ色の髪と鳶色の瞳を持った美しい青年だ。
 かっこいい……。そう思って見惚れていると、彼が呆然としたようにつぶやいた。
「どうしてここに?」
「え?」
 どうしてと言われても……。それから律人は、ハッとして聞き返す。
「そっちこそ、どうして僕の名前を知っているの?」
「え?」
 今度は、彼が戸惑う。
「どうしてって……。律人、俺のことを覚えていないのか?」
「……誰?」
「なんてことだ!」
 青年は頭を抱える。それから、再びこちらを見て言った。
「律人、杖はどうしたんだ?」
「え?」
 ふと不安な気持ちになった瞬間、目が覚めた。
 暗闇の中、律人はベッドに横たわっている。心臓がドキドキしている。
 目覚めた今は、たった今まで見ていた夢が、前夜の続きであることがわかる。律人が読んでいる小説に出て来そうな、とても素敵な青年だった。
 律人の名前を知っていることも、律人が杖を使っていることを知っているのも、多分それは、夢が律人の脳内で作られたものだからなのだろう。特に不思議なことではない。
 それにしても、面白い夢だった。また続きが見られるといいな。
 とりあえず、忘れないうちに夢日記に書いておこう。そう思い、律人は起き上って電気を点けた。
 次に夢を見るときは、また続きから見られるのだろうか。あのカッコいい人にまた会いたいな。
 その日から、律人はますます眠るのが楽しみになった。
 次の夢で、青年は両手のひらをこちらに向けて言った。
「頼む。いつもみたいに急に消えないでくれ」
「え? 僕、急に消えちゃう?」
「ああ。俺がもっと話そうとしたところで、いつも君は消えてしまう。
 俺は君に危害を加えたりしないから、どうかすぐに消えないで、怖がらずに俺の話を聞いてほしいんだ」
「そんなこと思っていないよ。危害を加えられるなんて思っていないし、怖がってもない」
「そうか、わかった」
 それから彼は、きょろきょろと周りを見る。そして、ベッドを指して言った。
「ここに座るか?」
 この部屋には、ほかに家具も椅子もない。
「うん」
 律人は、そばまで歩いて行って、ベッドに腰を下ろす。そんな律人を見て、彼が不思議そうに言った。
「スタスタ歩けるんだな」
「え?」