くるくる雷パスタ ~ お買い物へ行こうPart-1 ~
ー/ー
風が吹く。
少し冷たい空気を運んで、頬をかすめて通り抜けていく。
雨の匂いがした――
見上げれば、陽が輝いたり、雲で翳ったり。
目がくらむ様なまぶしさも、雲がカーテン代わりになってくれるなら、
空の青さと、流れる雲を柔らかな光につつまれたままで、ずっと見ていられる。
遠雷が聞こえた。
山の向こうから、黒く淀んだ雲がゆっくりと迫ってきている。
さっきの風が運んできたのはこれだったようだ。
彼女はそっと立ち上がると、隣で転寝をしている少女を抱き上げて、家の中へと戻った。
*
「うきゅぅううぅっ」
カウンターに座っているリンが耳をふさいで、目をぎゅっと閉じる。
その叫びすら呑みこむかのように、激しい雨が窓や屋根をたたいていた。
時折、光が激しく明滅し、轟音が鳴り響く。
その度に、彼女はカウンターに突っ伏していた。
「あはは……意外だった……」
乾いた笑いを漏らすユウ。
目の前で突っ伏している少女にもある、オーガ族の証である角。
大人のオーガなら帯電して電撃を出すほどなのを思い出したが——
どうやら目の前のオーガ族の娘は、鳴り響く雷が苦手らしい。
少し涙目になっている彼女の頭をそっと撫でる。
「子供じゃな――きゅわあああああ!」
いつもの台詞を言いかけたときに、また雷鳴が響き、撫でる手を振り払うように飛び上がった。
その反応に思わず笑いがこぼれた彼女へ、恨めしそうな赤い瞳が向けられる。
その視線を受けたとたん、「あっ」と小さく声を上げたかと思うと、ぽん、と手を打った。
「こんな日は、パスタだー!」
一人でそう宣言すると、雷の光と音できゃーきゃーと騒いでるのを尻目に、カウンターの炊事場へと向かうと、鍋に火をかける。
お湯がわくまでの間、手元にある食材を確認して、それを元にパスタのソースをフライパンで作る。
「ここがポイントなんだよね」
オイルで食材をいためた後、鶏肉とガラから取ったスープをソースへ投入し、水気が少なくなるまで火にかける。
そうするとオイルとスープが交じり合って、極上のパスタソースになるのだ。
カウンターでは悲鳴がまだ続いていたが、二人分のパスタを茹で上げて、ソースにからめて皿に盛り付ける。
「ほら、リン、こんな日はパスタだよー!」
「うぅ、光が、音が……ううぅ」
嵐のときにパスタを食べる習慣があるわけではない。
けれど、彼女はこういう天気の日に、何故かパスタを作りたくなる。
「ん、まぁまぁかな。」
出来上がりのパスタを食べながら呟く。
本当に、普通の、どこの家庭でも作れるようなパスタの味。
「うぅ、これ、好きな味……だけど……うぅ」
雷は少し遠ざかったようで、間隔が長くなっていた。
それでも光と音に、赤い瞳を怯えさせながら、少女はパスタを啜る。
「こーら、パスタはすすらないで、こうやって」
パスタをずるずると啜る少女のおでこをちょんと指先でつつく。
顔を上げた少女の目の前でフォークをくるくると器用に動かして、パスタをまきつけた。
一口分ほどをまきつけて、それをぱくりと、それはもう美味しそうに食べる。
「こうして食べるべき!」
「うぅ、それ苦手」
見倣う様に、フォークをくるくると回してみるのだが、うまいこと巻きつかない。
「練習あるのみ!」
既に食べ終えた余裕を見せつけるように、腰に手を当てて鼻息を飛ばして見せる。
「できるようになったら、作り方教えてあげる」
「むぅ」
作り方は覚えたい。
でも、うまくできない。
何度も挑戦しては失敗し、しかし目の前でドヤ顔をする女性は“やり直し”を認めてはくれないので、巻けた分は容赦なく口に入れられる。
「冷めちゃうと美味しくなくなっちゃうからね。食べながら練習!」
そう言われ、仕方なく黙々と食べ続けた。
結局、最後までくるくるはできなかった。
思えば、彼女からは色んな物の食べ方を教わった。
その中でも、未だにできないのがこのパスタくるくるである。
ナイフとフォーク、スプーン、箸など、様々な道具で食べ方が違うのは自分としても楽しかったのだが、
刺すだけの道具と思っていたフォークをくるくる回すだけで、どうしてあんなに綺麗にパスタが巻きつくのか、てんでわからなかった。
*
食事を終えるころ、いつのまにか雷は遠ざかっていた。
それでも、空は光るし、遠くから雷鳴も聞こえてくる。
さすがに、さっきほどではないにしても、リンはそのたびにビクビクとしていた。
「ごろごろごろごろー」
「ふぁうっ! ユーウー!!」
そんな彼女にそっと近づいて、耳元で雷鳴のまねをする。
一瞬ビクッとしたが、すぐに振り返ってこちらをにらんだ。
「あはは、ごめんごめん」
「ユーーウーー!!」
にらみながら、手足をバタバタさせる。そのたびに長い髪が振り乱れて、怒りの大きさを表しているかのようだった。
うっすら涙目になってるのも見て取れたので、ちょっとやりすぎたかな、と思うが、
「慣れていかないとね~」
と、独り言ちるように、ぷんすかとしている少女の頭を撫ぜた。
「むぅ! もう! 誤魔化す!」
払いのけたりはしないけれど、少女は口を強くとがらせて、抗議の目で撫でつける手を見上げていた。
「ごめんごめん、もうしないから」
「むー……パスタ、明日もパスタ」
諌める彼女に、ジト目で睨みながらそういう。口はまだとんがったままだ。
「うーん、材料あったらねぇ」
と、残っていた材料をぶつぶつ声に出して思い浮かべる。
「ほんとに?」
そんな彼女の様子に、相変わらずジト目のままだったが、とんがった口はひっこんで、少女は首をかしげた。
「うぅん、買い物いかないとだめかな」
「パスター、パスター!」
珍しいこだわり様に、彼女は困ったように頭をかく。
「まだ、雨降ってるしなぁ。それにお客さんがくるかもしれないし、買い物はいけないかなぁ」
「こない!」
ピシャリといわれてしまった。
「うぅ……」
そこまではっきりといわれてしまうと、流石に少々物悲しく思う。
「しょうがない、かぁ」
そこからの行動は早かった。
エプロンを脱いで、代わりに青いマントローブを羽織る。
リンにはフードつきの白いフードローブを服の上から着用させた。
何故かそのフードには獣の耳のような装飾がついていたが――
それはともかく、金貨の入った袋を腰に巻いたベルトに結わえ付け、リンには雨に濡れないようにフードをかぶせてあげる。
準備万端で扉を閉め、きちんと鍵をかける。
「よし、いくよ、リン!」
「うん!」
久々のお買い物と明日のパスタの確約に赤い瞳を爛々とさせているのを見て、思わず微笑む。
そんな彼女をしっかりと胸の前に抱きかかえると、彼女もその腕にしっかりとしがみついた。
そして二人は、まだ雨が降っている空へと、飛び上がった――
*
しばらくして――
「あれぇ?鍵がかかってる、ユウちゃんとリンリンの姿もみえないなぁ」
喫茶店『小道』の軒先にフードを深く被った男の姿があった。
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空の青さと、流れる雲を柔らかな光につつまれたままで、ずっと見ていられる。
遠雷が聞こえた。
山の向こうから、黒く淀んだ雲がゆっくりと迫ってきている。
さっきの風が運んできたのはこれだったようだ。
彼女はそっと立ち上がると、隣で転寝をしている少女を抱き上げて、家の中へと戻った。
*
「うきゅぅううぅっ」
カウンターに座っているリンが耳をふさいで、目をぎゅっと閉じる。
その叫びすら呑みこむかのように、激しい雨が窓や屋根をたたいていた。
時折、光が激しく明滅し、轟音が鳴り響く。
その度に、彼女はカウンターに突っ伏していた。
「あはは……意外だった……」
乾いた笑いを漏らすユウ。
目の前で突っ伏している少女にもある、オーガ族の証である角。
大人のオーガなら帯電して電撃を出すほどなのを思い出したが——
どうやら目の前のオーガ族の娘は、鳴り響く雷が苦手らしい。
少し涙目になっている彼女の頭をそっと撫でる。
「子供じゃな――きゅわあああああ!」
いつもの台詞を言いかけたときに、また雷鳴が響き、撫でる手を振り払うように飛び上がった。
その反応に思わず笑いがこぼれた彼女へ、恨めしそうな赤い瞳が向けられる。
その視線を受けたとたん、「あっ」と小さく声を上げたかと思うと、ぽん、と手を打った。
「こんな日は、パスタだー!」
一人でそう宣言すると、雷の光と音できゃーきゃーと騒いでるのを尻目に、カウンターの炊事場へと向かうと、鍋に火をかける。
お湯がわくまでの間、手元にある食材を確認して、それを元にパスタのソースをフライパンで作る。
「ここがポイントなんだよね」
オイルで食材をいためた後、鶏肉とガラから取ったスープをソースへ投入し、水気が少なくなるまで火にかける。
そうするとオイルとスープが交じり合って、極上のパスタソースになるのだ。
カウンターでは悲鳴がまだ続いていたが、二人分のパスタを茹で上げて、ソースにからめて皿に盛り付ける。
「ほら、リン、こんな日はパスタだよー!」
「うぅ、光が、音が……ううぅ」
嵐のときにパスタを食べる習慣があるわけではない。
けれど、彼女はこういう天気の日に、何故かパスタを作りたくなる。
「ん、まぁまぁかな。」
出来上がりのパスタを食べながら呟く。
本当に、普通の、どこの家庭でも作れるようなパスタの味。
「うぅ、これ、好きな味……だけど……うぅ」
雷は少し遠ざかったようで、間隔が長くなっていた。
それでも光と音に、赤い瞳を怯えさせながら、少女はパスタを啜る。
「こーら、パスタはすすらないで、こうやって」
パスタをずるずると啜る少女のおでこをちょんと指先でつつく。
顔を上げた少女の目の前でフォークをくるくると器用に動かして、パスタをまきつけた。
一口分ほどをまきつけて、それをぱくりと、それはもう美味しそうに食べる。
「こうして食べるべき!」
「うぅ、それ苦手」
見倣う様に、フォークをくるくると回してみるのだが、うまいこと巻きつかない。
「練習あるのみ!」
既に食べ終えた余裕を見せつけるように、腰に手を当てて鼻息を飛ばして見せる。
「できるようになったら、作り方教えてあげる」
「むぅ」
作り方は覚えたい。
でも、うまくできない。
何度も挑戦しては失敗し、しかし目の前でドヤ顔をする女性は“やり直し”を認めてはくれないので、巻けた分は容赦なく口に入れられる。
「冷めちゃうと美味しくなくなっちゃうからね。食べながら練習!」
そう言われ、仕方なく黙々と食べ続けた。
結局、最後までくるくるはできなかった。
思えば、彼女からは色んな物の食べ方を教わった。
その中でも、未だにできないのがこのパスタくるくるである。
ナイフとフォーク、スプーン、箸など、様々な道具で食べ方が違うのは自分としても楽しかったのだが、
刺すだけの道具と思っていたフォークをくるくる回すだけで、どうしてあんなに綺麗にパスタが巻きつくのか、てんでわからなかった。
*
食事を終えるころ、いつのまにか雷は遠ざかっていた。
それでも、空は光るし、遠くから雷鳴も聞こえてくる。
さすがに、さっきほどではないにしても、リンはそのたびにビクビクとしていた。
「ごろごろごろごろー」
「ふぁうっ! ユーウー!!」
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「あはは、ごめんごめん」
「ユーーウーー!!」
にらみながら、手足をバタバタさせる。そのたびに長い髪が振り乱れて、怒りの大きさを表しているかのようだった。
うっすら涙目になってるのも見て取れたので、ちょっとやりすぎたかな、と思うが、
「慣れていかないとね~」
と、独り言ちるように、ぷんすかとしている少女の頭を撫ぜた。
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「ごめんごめん、もうしないから」
「むー……パスタ、明日もパスタ」
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「うーん、材料あったらねぇ」
と、残っていた材料をぶつぶつ声に出して思い浮かべる。
「ほんとに?」
そんな彼女の様子に、相変わらずジト目のままだったが、とんがった口はひっこんで、少女は首をかしげた。
「うぅん、買い物いかないとだめかな」
「パスター、パスター!」
珍しいこだわり様に、彼女は困ったように頭をかく。
「まだ、雨降ってるしなぁ。それにお客さんがくるかもしれないし、買い物はいけないかなぁ」
「こない!」
ピシャリといわれてしまった。
「うぅ……」
そこまではっきりといわれてしまうと、流石に少々物悲しく思う。
「しょうがない、かぁ」
そこからの行動は早かった。
エプロンを脱いで、代わりに青いマントローブを羽織る。
リンにはフードつきの白いフードローブを服の上から着用させた。
何故かそのフードには獣の耳のような装飾がついていたが――
それはともかく、金貨の入った袋を腰に巻いたベルトに結わえ付け、リンには雨に濡れないようにフードをかぶせてあげる。
準備万端で扉を閉め、きちんと鍵をかける。
「よし、いくよ、リン!」
「うん!」
久々のお買い物と明日のパスタの確約に赤い瞳を爛々とさせているのを見て、思わず微笑む。
そんな彼女をしっかりと胸の前に抱きかかえると、彼女もその腕にしっかりとしがみついた。
そして二人は、まだ雨が降っている空へと、飛び上がった――
*
しばらくして――
「あれぇ?鍵がかかってる、ユウちゃんとリンリンの姿もみえないなぁ」
喫茶店『小道』の軒先にフードを深く被った男の姿があった。