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青いカラス

ー/ー



『青い(カラス)

 むかしむかしあるところに、仲の良い姉妹がいました。

 ある日の夜、二人の目の前に突然老婆が現れて、言いました。

「青い鳥を探してくれませんか?」

 二人はその老婆の願いを聞き、青い烏を探す旅に出ました――

 *

 リンを膝の上に乗せたユウが優しい微笑を浮かべて、目の前に広がった絵本を柔らかい声で読み聞かせていた。
 リンはもう読み書きができるけれど、こうして読んでほしいと頼んでくることがある。ユウはいつも、嬉しそうに応じていた。
 ユウが読むのに合わせて、リンもぼそぼそと小さな声で後追い読みをしていた。

「青い鳥は、二人の飼っていた烏だったのです。おしまい」

 読み終え、本をぱたんと閉じる。

「ありがと、ユウ」

 リンが膝から降りると、そこに残っていた重みと温もりがふっと消え、ユウは少しだけ寂しくなる。

「随分お気に入りなんだね、その本」

 その絵本は端が擦れ、だいぶ読み込まれた様子だった。

「うん、大好き」

 リンがこくっと頷く。
 その本は、帝都に行った時に、リンが一目でほれ込んだ、表紙買いの一品だ。

 題名は『青い烏(からす)』。
 帝都でも広く読まれている御伽噺だ。

 二人の姉妹が青い鳥を求め旅に出て、最後に気づく。
 “本当の青い鳥は、自分たちのそばにいた烏だった”
 ──幸せや大切なものは、案外手元にあることに気づきにくい、そんな物語。

 リンはこの本が大好きで、何度も何度もユウに読んでもらい、これを参考に読み書きを覚え、そしてまた読み返した。

 何がそこまでリンを惹きつけるのかユウにはわからない。けれど、“烏”という存在が特に好きらしい。

「青い烏、いつか探す!」

 リンがむふーっと鼻息を荒くして、目をきらきらさせた。

「そうだねぇ、そのうち探しにいこっか?」

「うん!」

 *

 朝、ユウが目を覚まして最初にするのは、隣で丸くなって寝ているリンを起こさないように、そっとベッドから抜け出すことだった。
 時折、ユウにしがみついている事もあるので、起こさないようにというのは至難の業のときもある。
 けれど、起こしてしまったとしても、寝ぼけ眼のリンは一瞬ばっと目を開くと、次の瞬間には再び毛布の中で丸くなってしまうのだが。

 店のカウンターに据え付けてある炊事場で水を汲み、顔を洗うと、冷たい水が朝の眠気を吹き飛ばしてくれる。
 寝巻きを脱いで、今日は何を着ようかな、とクローゼットの中をのぞく。
 あれこれ考えて、青を基調としたワンピースと、いつものエプロンに着替えることにする。ちなみに、彼女はワンピースを好んで着ていた。曰く、着るのが楽だから、だそうだ。

 着替え終えるころ、リンも起きてきて自分のクローゼットを開く。
 選んだのは白いエプロンドレス。肩と裾に入った小さなフリルが可愛らしい、リンの“定番”。
 リンはその他にも様々な形状のウェイトレス服を持っているのだが、半分はユウの趣味とリンの納得の元で買ったもの、もう半分はリンが特に気に入ったものだった。

 朝食作りはリンが担当し、ユウはコーヒーやミルクの準備にまわる。
 今日の献立は、バケット、鶏肉サラダ、卵焼き。
 ユウはコーヒー、リンにはミルク。

「うん、うまい。やっぱりリンの料理は美味しいねぇ」

「ふつう」

 ユウ自身も料理はできるし、それなりの味のものも作れるのだが、目の前の少女の作る料理には及ばない。レシピや作り方はユウが教えるのだが、リンはそれを一度で覚え、さらに絶品とも言える味付けに仕上げてしまう。

「まさに天才料理人」
「ふつう」

 ただ、知らない料理は作れないし、自分で工夫したり新しく料理を作ったりということをしないので、放って置くと、同じ料理のローテーションになってしまう。
 だからレシピの開発や献立、メニューの提案は主にユウが行っている。

 朝食が終わり、二人は店の開店準備にかかる。

 ユウはお湯を沸かし、コーヒー豆を丁寧に挽き始める。
 豆の挽き具合によって、苦味や雑実が変わってしまう事もあるので、豆を挽くのは重要な仕事だ。あまり早く挽いても、熱を持ってしまって香りが飛びやすくなるし、ゆっくりならゆっくりで、いつまでも豆が挽き終わらなくなってしまう。
 手早く、あせらず、一定の速度を保ちながら、丁寧に豆を挽いていくのだ。
 そうすると、やがてコーヒーの香ばしい香りが辺りに満ちて、鼻腔をくすぐる。

「今日も美味しいコーヒーをよろしくね」

 語りかけるユウ。そうすると、コーヒーがさらに美味しくなる、ような気がしている。

 リンは貯蔵庫においてある焼き菓子の状態を確認して、だめになっていたり、足りなくなりそうなら追加で作る。

「足りなくなったこと、ないけど」

 自分で呟いて、少し肩を落とす。

 貯蔵庫の隅に目を移すと、そこには少し大きめの鳥かごがおいてあった。柔らかい木材を利用した、変哲もない鳥かご。
 リンはそれをみて、想像する。

 ――ユウと二人でその鳥かごをもって旅に出るのだ。
 やがて、青い烏を見つけて、二人は幸せに暮らしましたとさ。

 過程をすっとばしているが、リンはユウと一緒に鳥かごを持って旅にでる場面と、既に青い烏を見つけて、二人で幸せに暮らす場面だけははっきりしているらしい。

 お菓子の在庫確認も済み、店内に戻ると、そこには既に客がひとり。

「やぁ、リンリン」

 カウンターに腰掛けて、コーヒーの香りを楽しんでいる男が手をあげてリンを迎える。

「いらしゃいませ」

「いらっしゃいましたー」

 楽しそうに応えてくれたが、やはりフードの所為で表情は読み取れない。

「ああ、リン。悪いけど、フードさんがリンの焼き菓子食べたいって」

「うん!」

 ユウの言葉に、リンがばっと目を輝かせると貯蔵庫に走って引き返していった。

「ん? フードさん?」

「あっ」

 思わず口にしてしまい、ユウは困った笑顔を浮かべる。

「おかしいなぁ、どうして僕の名前がフーディ=F=フードフードってばれてるんだろう」
「それは嘘ですよね?」
「あ、わかりますか」

 フーディがおどけて見せる。

「まぁ、よかったらフーディって呼んで良いですよ。本名じゃないけど。なんならフーディンタイガーさんでも」

 フーディンタイガー。何年も続いている連作物の芝居劇だ。
 根無し草のタイガと名乗る青年が繰り広げる人情溢れる人間ドラマで、帝都や諸王国で手広く上演され、ファンも多い。原作の本もベストセラーとまではいかなくても、幅広く読まれているほどだ。

 ユウは実際にその芝居を見たことはなかったが、有名なので、さわり部分くらいはしっていた。

「じゃあ、フーディさんと呼ばせていただきますね。それにしてもフーディさんはタイガ好きだったんですか?」

「何度か見たことあってねぇ、あーいう根無し草生活は憧れるなぁ。僕は偽非根無し草だからねぇ」

「フーディ?」

 いつのまにかフーディの横に皿にマドレーヌを2つほど盛り付けたリンが立っていた。

「お、今日も美味しそうだねぇ、リンリンのお菓子は」

「こちらのお客様、フードさんの名前だよ。本名じゃないらしいけど」

「フードのフーディ……」

 マドレーヌを受け取って、嬉しそうに頬張っているフーディをじっと見るリン。その視線を感じて、フーディは椅子から勢いよく飛び降りて、ばっと両手を広げた。

「そう、僕はフードローブのフーディ。人呼んでフードローブのフーディさ!」

「まんまじゃないですか」

 ユウが笑った。

「フードローブのフーディ!」

 リンはフーディの格好にはたと思いついたのか、突然目をきらきらさせてフーディを見つめて叫んだ。

「青い鳥、探せって言う人!」

「へ?」

 リンの言葉にわけがわからず、一瞬ぽかんとするフーディ。
 リンの中で、フーディは青い鳥を探してくれと姉妹の前に現れる老婆と重なったようだ。

「いやぁ、僕これでも男なんだけれど。」

「じゃあ、フーディさんは青い鳥を探して来いって言う老人で」

 ユウがにこっとして提案する。

「どうしても年寄りじゃないとだめなのか……」

 フーディはひときわ大げさに肩を落とした。

「仕方ない……ユウ子、リン子や……じいちゃんはもうだめだ」

「おじいちゃん!」

「ちがう!」

 ユウとフーディのまさに一瞬の寸劇にリンから鋭いツッコミが入る。

「あはは……えっと……ユウ子、リン子、青い鳥を探してきておくれ?」

「うん、おじいちゃんのためにも探してくるよ! ね? リン子!」

「うん!」

 こうして、劇団小道による即興劇が始まった。
 フーディの役目はここまで。

「えっ?」

 絵本に合わせて身振りをしていくリン。
 楽しそうに合わせるユウ。
 観客は、出番が終了しマドレーヌをつまみながらコーヒーを啜るフーディだけ。

 やがて物語はクライマックスを迎えて――

 「私たちの烏が、青い鳥、だったのね」

  しあわせはどこにあるのだろう――

 「そうだったのね、青い鳥はすぐそばに、いたのね」

  なんでもない言葉、よくある時間、よくある光景――

 「しあわせは、すぐそばに、あったのね」

  一生懸命な人、優しい笑顔の人、見守る人――

  それぞれが幸せを持ち寄った時、そこは幸せのあふれる場所になるのだろうか?

  二人の和やかで、ぎこちない演劇。笑顔のユウ、真剣なリン。

 誰もがちょっとずつ幸せであるならば、そこから零れた幸せのかけらが、雪のようにこの店に積もって、それはやがて大きな幸せになるのかもしれない。

 それならば、自分も幸せを持ち寄ろう。
 自分のために、二人のために。

 フーディがまだ湯気の立っているコーヒーに目を落とすと、
 その黒い湖面に、自分の笑顔が映っているような気がした。


 演劇を終えた二人に拍手を贈るフーディ。
 少し気恥ずかしそうなユウと、やりきって満足げに胸を張るリン。

 少し、でこぼこだけれど、目の前のこの二人は最高のパートナー。

 フーディはそんな二人を優しい眼差しで見守るのだった。


  ――ここは優しさと、笑顔と、幸せが積もる喫茶店『小道』

  そこには優しい笑顔の店主と、何事にも一生懸命な小さなウェイトレスがいる。

  お勧めはコーヒー、訪れた人を自然と笑顔にさせる魔法をそえて――





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『青い烏《カラス》』
 むかしむかしあるところに、仲の良い姉妹がいました。
 ある日の夜、二人の目の前に突然老婆が現れて、言いました。
「青い鳥を探してくれませんか?」
 二人はその老婆の願いを聞き、青い烏を探す旅に出ました――
 *
 リンを膝の上に乗せたユウが優しい微笑を浮かべて、目の前に広がった絵本を柔らかい声で読み聞かせていた。
 リンはもう読み書きができるけれど、こうして読んでほしいと頼んでくることがある。ユウはいつも、嬉しそうに応じていた。
 ユウが読むのに合わせて、リンもぼそぼそと小さな声で後追い読みをしていた。
「青い鳥は、二人の飼っていた烏だったのです。おしまい」
 読み終え、本をぱたんと閉じる。
「ありがと、ユウ」
 リンが膝から降りると、そこに残っていた重みと温もりがふっと消え、ユウは少しだけ寂しくなる。
「随分お気に入りなんだね、その本」
 その絵本は端が擦れ、だいぶ読み込まれた様子だった。
「うん、大好き」
 リンがこくっと頷く。
 その本は、帝都に行った時に、リンが一目でほれ込んだ、表紙買いの一品だ。
 題名は『青い烏(からす)』。
 帝都でも広く読まれている御伽噺だ。
 二人の姉妹が青い鳥を求め旅に出て、最後に気づく。
 “本当の青い鳥は、自分たちのそばにいた烏だった”
 ──幸せや大切なものは、案外手元にあることに気づきにくい、そんな物語。
 リンはこの本が大好きで、何度も何度もユウに読んでもらい、これを参考に読み書きを覚え、そしてまた読み返した。
 何がそこまでリンを惹きつけるのかユウにはわからない。けれど、“烏”という存在が特に好きらしい。
「青い烏、いつか探す!」
 リンがむふーっと鼻息を荒くして、目をきらきらさせた。
「そうだねぇ、そのうち探しにいこっか?」
「うん!」
 *
 朝、ユウが目を覚まして最初にするのは、隣で丸くなって寝ているリンを起こさないように、そっとベッドから抜け出すことだった。
 時折、ユウにしがみついている事もあるので、起こさないようにというのは至難の業のときもある。
 けれど、起こしてしまったとしても、寝ぼけ眼のリンは一瞬ばっと目を開くと、次の瞬間には再び毛布の中で丸くなってしまうのだが。
 店のカウンターに据え付けてある炊事場で水を汲み、顔を洗うと、冷たい水が朝の眠気を吹き飛ばしてくれる。
 寝巻きを脱いで、今日は何を着ようかな、とクローゼットの中をのぞく。
 あれこれ考えて、青を基調としたワンピースと、いつものエプロンに着替えることにする。ちなみに、彼女はワンピースを好んで着ていた。曰く、着るのが楽だから、だそうだ。
 着替え終えるころ、リンも起きてきて自分のクローゼットを開く。
 選んだのは白いエプロンドレス。肩と裾に入った小さなフリルが可愛らしい、リンの“定番”。
 リンはその他にも様々な形状のウェイトレス服を持っているのだが、半分はユウの趣味とリンの納得の元で買ったもの、もう半分はリンが特に気に入ったものだった。
 朝食作りはリンが担当し、ユウはコーヒーやミルクの準備にまわる。
 今日の献立は、バケット、鶏肉サラダ、卵焼き。
 ユウはコーヒー、リンにはミルク。
「うん、うまい。やっぱりリンの料理は美味しいねぇ」
「ふつう」
 ユウ自身も料理はできるし、それなりの味のものも作れるのだが、目の前の少女の作る料理には及ばない。レシピや作り方はユウが教えるのだが、リンはそれを一度で覚え、さらに絶品とも言える味付けに仕上げてしまう。
「まさに天才料理人」
「ふつう」
 ただ、知らない料理は作れないし、自分で工夫したり新しく料理を作ったりということをしないので、放って置くと、同じ料理のローテーションになってしまう。
 だからレシピの開発や献立、メニューの提案は主にユウが行っている。
 朝食が終わり、二人は店の開店準備にかかる。
 ユウはお湯を沸かし、コーヒー豆を丁寧に挽き始める。
 豆の挽き具合によって、苦味や雑実が変わってしまう事もあるので、豆を挽くのは重要な仕事だ。あまり早く挽いても、熱を持ってしまって香りが飛びやすくなるし、ゆっくりならゆっくりで、いつまでも豆が挽き終わらなくなってしまう。
 手早く、あせらず、一定の速度を保ちながら、丁寧に豆を挽いていくのだ。
 そうすると、やがてコーヒーの香ばしい香りが辺りに満ちて、鼻腔をくすぐる。
「今日も美味しいコーヒーをよろしくね」
 語りかけるユウ。そうすると、コーヒーがさらに美味しくなる、ような気がしている。
 リンは貯蔵庫においてある焼き菓子の状態を確認して、だめになっていたり、足りなくなりそうなら追加で作る。
「足りなくなったこと、ないけど」
 自分で呟いて、少し肩を落とす。
 貯蔵庫の隅に目を移すと、そこには少し大きめの鳥かごがおいてあった。柔らかい木材を利用した、変哲もない鳥かご。
 リンはそれをみて、想像する。
 ――ユウと二人でその鳥かごをもって旅に出るのだ。
 やがて、青い烏を見つけて、二人は幸せに暮らしましたとさ。
 過程をすっとばしているが、リンはユウと一緒に鳥かごを持って旅にでる場面と、既に青い烏を見つけて、二人で幸せに暮らす場面だけははっきりしているらしい。
 お菓子の在庫確認も済み、店内に戻ると、そこには既に客がひとり。
「やぁ、リンリン」
 カウンターに腰掛けて、コーヒーの香りを楽しんでいる男が手をあげてリンを迎える。
「いらしゃいませ」
「いらっしゃいましたー」
 楽しそうに応えてくれたが、やはりフードの所為で表情は読み取れない。
「ああ、リン。悪いけど、フードさんがリンの焼き菓子食べたいって」
「うん!」
 ユウの言葉に、リンがばっと目を輝かせると貯蔵庫に走って引き返していった。
「ん? フードさん?」
「あっ」
 思わず口にしてしまい、ユウは困った笑顔を浮かべる。
「おかしいなぁ、どうして僕の名前がフーディ=F=フードフードってばれてるんだろう」
「それは嘘ですよね?」
「あ、わかりますか」
 フーディがおどけて見せる。
「まぁ、よかったらフーディって呼んで良いですよ。本名じゃないけど。なんならフーディンタイガーさんでも」
 フーディンタイガー。何年も続いている連作物の芝居劇だ。
 根無し草のタイガと名乗る青年が繰り広げる人情溢れる人間ドラマで、帝都や諸王国で手広く上演され、ファンも多い。原作の本もベストセラーとまではいかなくても、幅広く読まれているほどだ。
 ユウは実際にその芝居を見たことはなかったが、有名なので、さわり部分くらいはしっていた。
「じゃあ、フーディさんと呼ばせていただきますね。それにしてもフーディさんはタイガ好きだったんですか?」
「何度か見たことあってねぇ、あーいう根無し草生活は憧れるなぁ。僕は偽非根無し草だからねぇ」
「フーディ?」
 いつのまにかフーディの横に皿にマドレーヌを2つほど盛り付けたリンが立っていた。
「お、今日も美味しそうだねぇ、リンリンのお菓子は」
「こちらのお客様、フードさんの名前だよ。本名じゃないらしいけど」
「フードのフーディ……」
 マドレーヌを受け取って、嬉しそうに頬張っているフーディをじっと見るリン。その視線を感じて、フーディは椅子から勢いよく飛び降りて、ばっと両手を広げた。
「そう、僕はフードローブのフーディ。人呼んでフードローブのフーディさ!」
「まんまじゃないですか」
 ユウが笑った。
「フードローブのフーディ!」
 リンはフーディの格好にはたと思いついたのか、突然目をきらきらさせてフーディを見つめて叫んだ。
「青い鳥、探せって言う人!」
「へ?」
 リンの言葉にわけがわからず、一瞬ぽかんとするフーディ。
 リンの中で、フーディは青い鳥を探してくれと姉妹の前に現れる老婆と重なったようだ。
「いやぁ、僕これでも男なんだけれど。」
「じゃあ、フーディさんは青い鳥を探して来いって言う老人で」
 ユウがにこっとして提案する。
「どうしても年寄りじゃないとだめなのか……」
 フーディはひときわ大げさに肩を落とした。
「仕方ない……ユウ子、リン子や……じいちゃんはもうだめだ」
「おじいちゃん!」
「ちがう!」
 ユウとフーディのまさに一瞬の寸劇にリンから鋭いツッコミが入る。
「あはは……えっと……ユウ子、リン子、青い鳥を探してきておくれ?」
「うん、おじいちゃんのためにも探してくるよ! ね? リン子!」
「うん!」
 こうして、劇団小道による即興劇が始まった。
 フーディの役目はここまで。
「えっ?」
 絵本に合わせて身振りをしていくリン。
 楽しそうに合わせるユウ。
 観客は、出番が終了しマドレーヌをつまみながらコーヒーを啜るフーディだけ。
 やがて物語はクライマックスを迎えて――
 「私たちの烏が、青い鳥、だったのね」
  しあわせはどこにあるのだろう――
 「そうだったのね、青い鳥はすぐそばに、いたのね」
  なんでもない言葉、よくある時間、よくある光景――
 「しあわせは、すぐそばに、あったのね」
  一生懸命な人、優しい笑顔の人、見守る人――
  それぞれが幸せを持ち寄った時、そこは幸せのあふれる場所になるのだろうか?
  二人の和やかで、ぎこちない演劇。笑顔のユウ、真剣なリン。
 誰もがちょっとずつ幸せであるならば、そこから零れた幸せのかけらが、雪のようにこの店に積もって、それはやがて大きな幸せになるのかもしれない。
 それならば、自分も幸せを持ち寄ろう。
 自分のために、二人のために。
 フーディがまだ湯気の立っているコーヒーに目を落とすと、
 その黒い湖面に、自分の笑顔が映っているような気がした。
 演劇を終えた二人に拍手を贈るフーディ。
 少し気恥ずかしそうなユウと、やりきって満足げに胸を張るリン。
 少し、でこぼこだけれど、目の前のこの二人は最高のパートナー。
 フーディはそんな二人を優しい眼差しで見守るのだった。
  ――ここは優しさと、笑顔と、幸せが積もる喫茶店『小道』
  そこには優しい笑顔の店主と、何事にも一生懸命な小さなウェイトレスがいる。
  お勧めはコーヒー、訪れた人を自然と笑顔にさせる魔法をそえて――


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