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17,ほっとしたように微笑む律人

ー/ー



「レオン、ここに座って」

「ああ」

 律人は、いつになく慌てているように見える。レオンは、彼の隣に腰かけながら聞いた。
 
「どうかしたのか?」

「僕、大変なことに気づいちゃったかもしれない」

「何に気づいたんだ?」

「それが……」


 律人は、「後継者争い」に関する考察を話してくれた。
 
「ねえ、どう思う?」

「それは……」

 レオンは、自分なりの知識を総動員して慎重に答える。
 
「今まで律人から聞いた限りでは、健吾叔父さんがそんなことをするとは思えない。穏やかで優しそうな人のように感じるし、奥さんや子供を大切にしているだろう。

 それに、今の立場に大きな不満を持っているようにも思えないが……」
 
「僕だってそうだよ。でも、人は表面だけではわからないんだよ。

 まあ、僕が何か知っているってわけじゃないけど、小説にもそういう話はよくあるし。つまり、聖人君子のような人物が、実は凶悪な殺人犯だったとか」
 
「はあ……」

 セイジンクンシの意味がわからないが、それは話の本筋には関係ないだろう。さらに律人は言いつのる。
 
「僕だって、健吾叔父さんがそんなことをするとは思いたくないよ。だけど……」


 話を聞いていくうちに、だんだん律人が心配していることがわかってきた。
 
 律人の父亡き後、健吾叔父が将来会社を継ぐことは既定路線だったが、最近、周りの人たちが、後継者に恭平を望んでいるらしいことがわかってきた。
 
 恭平はまだ若いながら、しっかりしていて仕事も出来、人望もあついらしい。彼が優秀で性格もいいことは、今まで一緒に過ごして来た律人にもよくわかっている。
 
 そこで、だ。もしも万が一、健吾叔父が、将来会社を自分のものにするために律人の父を亡き者にしたのだとしたら、今度は恭平の身が危ないというのだ。
 
「それは……」

 言いかけたレオンを、律人はすがるような目で見ている。
 
「さすがにないんじゃないか?」

「そうかな」

「おじいさんは、まだ当分社長の座を譲るつもりはないと言っているんだろう?」

「うん」

「7年も前なら、おじいさんだって今よりずっと若かっただろう。もしも健吾叔父さんが、律人のお父さんに、その、何かしたとして、そんなに早くする必要はないんじゃないか?」

「だよね。自分が社長になりたいとしても、もっといろいろ勉強したり、経験を積むのが先だよね」

「そうだな」

 レオンが大きくうなずくと、律人は、ほっとしたように微笑んだ。
 
 
 
 恭平と佐絵が新婚旅行から帰って来た。お土産を持って来てくれるというので楽しみにしていたのだが、当日、律人はまたも体調を崩して寝込んでしまった。
 
 そんな自分が情けなくて落ち込んでいたのだが、夕方やって来た恭平は、真っ先に律人の部屋に入って来た。
 
「律人、具合が悪いって聞いたよ。大丈夫?」

「恭平くん!」

 久しぶりに会った恭平は、やっぱりとても素敵で優しくて、そんなつもりはなかったのに、涙がボロボロこぼれる。
 
「律人」

 傍らにかがみ込んだ恭平が、心配そうに、そっと髪を撫でてくれる。
 
「恭平くん、会いたかった……」

「僕もだよ」

 律人は反射的に聞いた。
 
「佐絵さんは?」

 恭平は微笑む。
 
「彼女は、彼女の実家にお土産を持って行ったよ」

「そう」

 内心ほっとした。佐絵が来るのが嫌なわけではないけれど、せめて今だけは、彼女と恭平が仲睦まじくしているのを見たくなかったし、恭平を独り占めしたかった。
 
 自分は本当にどこまで恭平のことが好きなのかと、律人は我ながら呆れる。もう彼は律人だけの恭平ではないし、いや、もともと自分のものなどではないのだ。
 
 ハンサムで優しくて優秀で、みんなに好かれる恭平。そういう恭平が、今一番大切に思っているのは、間違いなく新妻の佐絵だ。
 
 もちろん、律人や両親のことだって大切に思ってくれているだろうけれど……。寂しい気持ちでいっぱいの律人に、恭平が言った。
 
「お菓子とかお酒とかオリーブオイルの化粧品とか、みんなへのお土産はたくさん買って来たけど、律人には、特別にこれを買ったんだ」


 手渡された袋の中には、平たくて丸い青いガラスに、細い革紐がついたネックレスが入っていた。真ん中に、丸い模様が入っている。
 
「これはマティというギリシャのお守りなんだよ。マティっていうのは瞳のことで、つまり、これは目をかたどったものなんだ。

 この目で見つめて、悪いものを跳ね返すっていう魔除けの意味があるらしい」
 
「そうなんだ……」

 律人は、なめらからガラスの表面を指で撫でる。深く青い色が美しい。


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「レオン、ここに座って」
「ああ」
 律人は、いつになく慌てているように見える。レオンは、彼の隣に腰かけながら聞いた。
「どうかしたのか?」
「僕、大変なことに気づいちゃったかもしれない」
「何に気づいたんだ?」
「それが……」
 律人は、「後継者争い」に関する考察を話してくれた。
「ねえ、どう思う?」
「それは……」
 レオンは、自分なりの知識を総動員して慎重に答える。
「今まで律人から聞いた限りでは、健吾叔父さんがそんなことをするとは思えない。穏やかで優しそうな人のように感じるし、奥さんや子供を大切にしているだろう。
 それに、今の立場に大きな不満を持っているようにも思えないが……」
「僕だってそうだよ。でも、人は表面だけではわからないんだよ。
 まあ、僕が何か知っているってわけじゃないけど、小説にもそういう話はよくあるし。つまり、聖人君子のような人物が、実は凶悪な殺人犯だったとか」
「はあ……」
 セイジンクンシの意味がわからないが、それは話の本筋には関係ないだろう。さらに律人は言いつのる。
「僕だって、健吾叔父さんがそんなことをするとは思いたくないよ。だけど……」
 話を聞いていくうちに、だんだん律人が心配していることがわかってきた。
 律人の父亡き後、健吾叔父が将来会社を継ぐことは既定路線だったが、最近、周りの人たちが、後継者に恭平を望んでいるらしいことがわかってきた。
 恭平はまだ若いながら、しっかりしていて仕事も出来、人望もあついらしい。彼が優秀で性格もいいことは、今まで一緒に過ごして来た律人にもよくわかっている。
 そこで、だ。もしも万が一、健吾叔父が、将来会社を自分のものにするために律人の父を亡き者にしたのだとしたら、今度は恭平の身が危ないというのだ。
「それは……」
 言いかけたレオンを、律人はすがるような目で見ている。
「さすがにないんじゃないか?」
「そうかな」
「おじいさんは、まだ当分社長の座を譲るつもりはないと言っているんだろう?」
「うん」
「7年も前なら、おじいさんだって今よりずっと若かっただろう。もしも健吾叔父さんが、律人のお父さんに、その、何かしたとして、そんなに早くする必要はないんじゃないか?」
「だよね。自分が社長になりたいとしても、もっといろいろ勉強したり、経験を積むのが先だよね」
「そうだな」
 レオンが大きくうなずくと、律人は、ほっとしたように微笑んだ。
 恭平と佐絵が新婚旅行から帰って来た。お土産を持って来てくれるというので楽しみにしていたのだが、当日、律人はまたも体調を崩して寝込んでしまった。
 そんな自分が情けなくて落ち込んでいたのだが、夕方やって来た恭平は、真っ先に律人の部屋に入って来た。
「律人、具合が悪いって聞いたよ。大丈夫?」
「恭平くん!」
 久しぶりに会った恭平は、やっぱりとても素敵で優しくて、そんなつもりはなかったのに、涙がボロボロこぼれる。
「律人」
 傍らにかがみ込んだ恭平が、心配そうに、そっと髪を撫でてくれる。
「恭平くん、会いたかった……」
「僕もだよ」
 律人は反射的に聞いた。
「佐絵さんは?」
 恭平は微笑む。
「彼女は、彼女の実家にお土産を持って行ったよ」
「そう」
 内心ほっとした。佐絵が来るのが嫌なわけではないけれど、せめて今だけは、彼女と恭平が仲睦まじくしているのを見たくなかったし、恭平を独り占めしたかった。
 自分は本当にどこまで恭平のことが好きなのかと、律人は我ながら呆れる。もう彼は律人だけの恭平ではないし、いや、もともと自分のものなどではないのだ。
 ハンサムで優しくて優秀で、みんなに好かれる恭平。そういう恭平が、今一番大切に思っているのは、間違いなく新妻の佐絵だ。
 もちろん、律人や両親のことだって大切に思ってくれているだろうけれど……。寂しい気持ちでいっぱいの律人に、恭平が言った。
「お菓子とかお酒とかオリーブオイルの化粧品とか、みんなへのお土産はたくさん買って来たけど、律人には、特別にこれを買ったんだ」
 手渡された袋の中には、平たくて丸い青いガラスに、細い革紐がついたネックレスが入っていた。真ん中に、丸い模様が入っている。
「これはマティというギリシャのお守りなんだよ。マティっていうのは瞳のことで、つまり、これは目をかたどったものなんだ。
 この目で見つめて、悪いものを跳ね返すっていう魔除けの意味があるらしい」
「そうなんだ……」
 律人は、なめらからガラスの表面を指で撫でる。深く青い色が美しい。