第17話 ギンゲツ

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 リゼルが言い、その通気口に触れた。
 ボタンのようなものがついていて、リゼルが押すと、通気口が上へとスライドしていった。
 ずず……と、重いものを擦り合わせるような音が響く。

 壁の低い位置にある通気口——というと、あまりいい印象がないのだけど、通気口は壁に直接、設置されているのではないみたいだ。
 通気口がスライドすると、その下から開口部が現われる。

 こちらの床よりさらに低い——半地下のような形で、開口部の向こうに、小さな部屋が覗いた。
 その床の上に、誰かが膝を抱えて、座り込んでいる。
 薄いブルーの貫頭衣と、ズボンを穿いているのがわかったが、頭を下に向けていた。

「これって——独房ですか」
 小部屋を見下ろしながら、ぼくは言った。
「……みたいなものだな」

 半地下の床と、こちらの床は、かなりの高度差があった。
 飛び上がれば、なんとかしがみつくことができるくらい。

 小部屋のなかは、見たところ、照明もなく、暗いまま。
 こんなところに入れられてしまったら、精神的にきついだろう。

「おい、ギンゲツ。顔をあげろ。面会だぞ」
 リゼルの言葉に、その人物が顔を上げた。

 少し、やつれてしまっているが、あの眼光の鋭さは健在だった。
 目が合うと、瞳を細くする。

「ジンライ……貴様たちか」
「ギンゲツ。話は聞いたよ。ぼくたちで賭けをしていたようだね」
「フン……あぁ、そうさ。お前たちが、”初心者殺しの小迷宮”から帰還できるとは思わなかった。そんな実力があるようには思えなかったからな」
「……ぼくたちが、塔のなかで死んでも、何とも思わないってこと?」

「実力のない奴が塔のなかで死んでいくのは、必然だろう。それに、アカツキの名前を利用しているお前が、許せなかった」
「許せない?」
「そうだ。アカツキの本当の子供でもない、おまえが、アリアンフロッドになるのを手伝うだなんて、冗談じゃない」

 アカネがそっと、身体を近づけてくるのがわかる。
 手を握ってこようとするけど、ぼくは大丈夫、と合図を送る。

「……アカツキを知っているの?」
「当たり前だろう。アリアンフロッドのなかで、アカツキのことを知らない者など、いない。だから、このわたしに、アカツキの息子を名乗るおまえの天賦を目覚めさせる手伝いをしろ、と言われた時はどんな皮肉かと思ったものだ」
 投げやりな口調で、ギンゲツが言葉を続ける。

「だから、ジンくんは死んでもいいってことですかー。あなたが認めない者の生死など、どうでもいい、と。そうやって、他の人も”初心者殺しの小迷宮”へ放り込んで、殺しちゃってもいいって考えているのでしょうか」
 ギンゲツが、視線をあげた。
 しかし、表情はなく、目つきは鋭いものの、その瞳は何も見てはいなかった。

「どうせ、数年後には死んでいるんだ。早いか遅いか、だけのことだろう」
「無駄な問答よのぉ。この者には、自分しか見えておらぬぞよ」
 グリューンの言葉に、ぼくは頷いた。
 ギンゲツは、他者など見えていないのだろう。

「実に、面白いですワね」
 ミラージュが、金属の掌で拍手をした。
 拘留部屋に、硬質な音が響く。

「他人を死に追いやっテいるのに、ナンの罪もナイと考えているのかシラ? 所詮は、おカネ儲けのために、利用しているダケでしょう。アナタがアカツキ氏を高く買っているのは、よくワカリましたけど、人の生死を決めていいのは、アナタではありませんワよ」
 それに、ギンゲツは反論しなかった。
 できるはずもないが。

「アナタはまだ、ジブンのほうが、ここにいる誰よりも強いと思っているのではないカシら。一対一なら、負けないト」
「……あぁ」
「その認識から改めてもらわナイと、更生は難しいのではないカシラ。ね、リゼル」
「ちょっと、待ってください。ミラージュさま、何を考えているんです」

「ギンゲツ、あなたも耳にしてイルと思いますガ、ジンライくんはあの後、天賦を得たのデスよ。そして、ワタクシから見れば、今のあなたはジンライくんよりも劣ると思いマス」
「なに?」

「本当に強い者は、常にジブンを磨き続けているもの。でも、アナタにはソレがありません」
「なんぞ、面白い展開になってきたぞな。え? ジンライよ」

 グリューンのその言葉は、ぼくの頭のなかに入ってこなかった。
 ミラージュはいったい、何をさせるつもりなのだろう。まさか……ねぇ?

「自信はアリますか? 一対一で戦って、ジンライくんに勝てる、と」
「そいつと、一対一で?」
「そうデス。あなたが勝てば、刑期の軽減、懲役中の待遇改善など考えてあげまショウ。ただし、負けたら
——グリーディングの能力者による尋問に同意してもらいマス」
「な……んだって?」

 グリーディング……それは、魅了や読心といった心魂に作用する魔術のことを指す。
 強力な魔道士ともなると、強制的に精神的な絆を作り出し、嘘などもすべて一方的に明かされてしまう、という。
 評議会によって禁止されている行為だが、重要な案件にはグリーディングの能力を持つ魔道士が関わってくる、という。
 魔道士の能力にもよるが、すべての過去が明らかにされた上、精神にもひどく傷を負うこともあるらしい。

「どうでショウか」




みんなのリアクション

 リゼルが言い、その通気口に触れた。
 ボタンのようなものがついていて、リゼルが押すと、通気口が上へとスライドしていった。
 ずず……と、重いものを擦り合わせるような音が響く。
 壁の低い位置にある通気口——というと、あまりいい印象がないのだけど、通気口は壁に直接、設置されているのではないみたいだ。
 通気口がスライドすると、その下から開口部が現われる。
 こちらの床よりさらに低い——半地下のような形で、開口部の向こうに、小さな部屋が覗いた。
 その床の上に、誰かが膝を抱えて、座り込んでいる。
 薄いブルーの貫頭衣と、ズボンを穿いているのがわかったが、頭を下に向けていた。
「これって——独房ですか」
 小部屋を見下ろしながら、ぼくは言った。
「……みたいなものだな」
 半地下の床と、こちらの床は、かなりの高度差があった。
 飛び上がれば、なんとかしがみつくことができるくらい。
 小部屋のなかは、見たところ、照明もなく、暗いまま。
 こんなところに入れられてしまったら、精神的にきついだろう。
「おい、ギンゲツ。顔をあげろ。面会だぞ」
 リゼルの言葉に、その人物が顔を上げた。
 少し、やつれてしまっているが、あの眼光の鋭さは健在だった。
 目が合うと、瞳を細くする。
「ジンライ……貴様たちか」
「ギンゲツ。話は聞いたよ。ぼくたちで賭けをしていたようだね」
「フン……あぁ、そうさ。お前たちが、”初心者殺しの小迷宮”から帰還できるとは思わなかった。そんな実力があるようには思えなかったからな」
「……ぼくたちが、塔のなかで死んでも、何とも思わないってこと?」
「実力のない奴が塔のなかで死んでいくのは、必然だろう。それに、アカツキの名前を利用しているお前が、許せなかった」
「許せない?」
「そうだ。アカツキの本当の子供でもない、おまえが、アリアンフロッドになるのを手伝うだなんて、冗談じゃない」
 アカネがそっと、身体を近づけてくるのがわかる。
 手を握ってこようとするけど、ぼくは大丈夫、と合図を送る。
「……アカツキを知っているの?」
「当たり前だろう。アリアンフロッドのなかで、アカツキのことを知らない者など、いない。だから、このわたしに、アカツキの息子を名乗るおまえの天賦を目覚めさせる手伝いをしろ、と言われた時はどんな皮肉かと思ったものだ」
 投げやりな口調で、ギンゲツが言葉を続ける。
「だから、ジンくんは死んでもいいってことですかー。あなたが認めない者の生死など、どうでもいい、と。そうやって、他の人も”初心者殺しの小迷宮”へ放り込んで、殺しちゃってもいいって考えているのでしょうか」
 ギンゲツが、視線をあげた。
 しかし、表情はなく、目つきは鋭いものの、その瞳は何も見てはいなかった。
「どうせ、数年後には死んでいるんだ。早いか遅いか、だけのことだろう」
「無駄な問答よのぉ。この者には、自分しか見えておらぬぞよ」
 グリューンの言葉に、ぼくは頷いた。
 ギンゲツは、他者など見えていないのだろう。
「実に、面白いですワね」
 ミラージュが、金属の掌で拍手をした。
 拘留部屋に、硬質な音が響く。
「他人を死に追いやっテいるのに、ナンの罪もナイと考えているのかシラ? 所詮は、おカネ儲けのために、利用しているダケでしょう。アナタがアカツキ氏を高く買っているのは、よくワカリましたけど、人の生死を決めていいのは、アナタではありませんワよ」
 それに、ギンゲツは反論しなかった。
 できるはずもないが。
「アナタはまだ、ジブンのほうが、ここにいる誰よりも強いと思っているのではないカシら。一対一なら、負けないト」
「……あぁ」
「その認識から改めてもらわナイと、更生は難しいのではないカシラ。ね、リゼル」
「ちょっと、待ってください。ミラージュさま、何を考えているんです」
「ギンゲツ、あなたも耳にしてイルと思いますガ、ジンライくんはあの後、天賦を得たのデスよ。そして、ワタクシから見れば、今のあなたはジンライくんよりも劣ると思いマス」
「なに?」
「本当に強い者は、常にジブンを磨き続けているもの。でも、アナタにはソレがありません」
「なんぞ、面白い展開になってきたぞな。え? ジンライよ」
 グリューンのその言葉は、ぼくの頭のなかに入ってこなかった。
 ミラージュはいったい、何をさせるつもりなのだろう。まさか……ねぇ?
「自信はアリますか? 一対一で戦って、ジンライくんに勝てる、と」
「そいつと、一対一で?」
「そうデス。あなたが勝てば、刑期の軽減、懲役中の待遇改善など考えてあげまショウ。ただし、負けたら
——グリーディングの能力者による尋問に同意してもらいマス」
「な……んだって?」
 グリーディング……それは、魅了や読心といった心魂に作用する魔術のことを指す。
 強力な魔道士ともなると、強制的に精神的な絆を作り出し、嘘などもすべて一方的に明かされてしまう、という。
 評議会によって禁止されている行為だが、重要な案件にはグリーディングの能力を持つ魔道士が関わってくる、という。
 魔道士の能力にもよるが、すべての過去が明らかにされた上、精神にもひどく傷を負うこともあるらしい。
「どうでショウか」


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