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15,結婚披露宴

ー/ー



「うん、食べられたよ。僕もおばあちゃんのビーフシチュー好きだし、やっぱり恭平くんを気持ちよく送り出したいし」

「そうか、偉いな」

「そんなこともないけど、おばあちゃんも、ちょっと寂しそうだった。恭平くんは、一人だけ年の離れた末っ子だし、おじいちゃんにもおばあちゃんにも、すごく優しかったから」

「そうか……」

 レオンは思う。人間の心は、とても複雑だ。
 
 律人は続ける。
 
「明日、披露宴が終わったら、帰るのは新居だから、恭平くんはもうここには来ないんだ」

「恭平さんと、ちゃんと話せたか?」

「今までに、もうたくさん話したから」

「そうか」

「僕にはレオンがいるから寂しくないよ」

 そう言いながら律人が体を寄せて来たので、レオンは、そっと肩を抱いた。言葉とは裏腹に、律人はとても寂しそうだ。
 
「いつでも呼んでくれ」

「うん」

 ずいぶん長い間、律人は黙ったままレオンにもたれかかっていた。
 
 
 
 結婚披露宴は、盛大に行われた。新郎新婦は華やかで美しく、皆に祝福され、とても幸せそうだった。
 
 今、二人と親族は、来客をお見送りしている最中なのだが、律人は、とても疲れてしまったので、控室で休んでいる。傍らには、今日から親戚同士になった政樹もいる。
 
 椅子の背もたれに身を預けてぐったりしている律人に、やはり疲れた顔をした政樹が言った。
 
「長かったよね。来賓の挨拶とか」

「うん」

「どっちの家も、招待客多かったし」

「そうだね」

「料理は豪華だったけど」

「僕は緊張して、あんまり食べられなかった」

 招待客の中には、新郎新婦の学生時代の友達などもいたが、多くは、律人の祖父の会社と、政樹の父の病院の関係者だった。政樹がしみじみとした口調で言う。
 
「結婚って、大変そうだなあ……」

「ホント」



 週末、政樹が遊びに来た。だが、いつものように話がはずまない。
 
「姉ちゃんたち、まだ空の上かなあ」

 今日、恭平たちはギリシャに向けて新婚旅行に旅立ったのだ。律人は聞いてみた。
 
「お姉さんが結婚して、どんな感じ?」

 政樹は、首をひねって斜め上を見ながら答える。
 
「あー、とりあえず、家の中が静かだよね。両親は、ちょっと寂しそうかも」

「うちもだよ。おばあちゃん、寂しそう。

 口では『いいお式だったわねえ』なんて言っているけど、ふと恭平くんが座っていた席に目をやったりして」
 
「親ってそういうものなのかねえ」

「政樹くんは?」

「え?」

「政樹くんは寂しくないの?」

「うーん……。寂しいってことはないけど、なんか変な感じはする。

 姉ちゃんがいないことに、まだ慣れないっていうか」
 
「やっぱりそうか」

「律人くんは? 寂しい?」

 律人は大きくうなずいた。
 
「僕は、すごく寂しい。恭平くんは、僕が事故に遭った直後から、記憶のない僕にずっと優しくしてくれて、お兄さんみたいだったから」

 話しているうちに悲しい気持ちになったが、かろうじて泣くのを我慢することは出来た。政樹が気遣うように言う。
 
「記憶をなくしたなんて、ショックだっただろうね」

「何も覚えていないから、それほどショックっていうこともなかったけど、怪我の痛みは辛かったかな。記憶があったら、もっとショックだっただろうけどね」

 恭平が結婚して家を出ただけでもこんなに寂しいのだから、両親のことを覚えていたら、二人が亡くなったことはとても辛くて耐えられなかったことだろう。
 
「そうだよね……」

 しみじみと言ってから、政樹は続けた。
 
「そういえば、結婚式に来ていた人が、『次期社長は恭平くんで決まりだな』とかって言っていたけど、そうなの?」

「あ……どうなのかな。一応、健吾叔父さんが継ぐことになっているんだと思うけど」

 実は律人も、健吾叔父を飛び越えて恭平が社長になる可能性もあるのではないかと思っているのだが。政樹が遠慮がちに言った。
 
「本当なら、律人くんのお父さんが会社を継ぐはずだったんだろ?」

「そう。もしそうなっていたら、僕は社長の息子だったのにね。

 それで、ゆくゆくは僕が社長になって」
 
 律人は笑って見せる。こんな軽口は、記憶がないからこそ言えるのだろうと思いながら。
 
 
 話が一段落した後、政樹がふと言った。
 
「律人くんは本を読んで、自分でも、こんな小説が書いてみたいなって思ったりしない?」

「あ……それは、ないかな。読むだけで満足しちゃってた」

 たしかに、面白くてわくわくするような小説が自分で書けたら素晴らしいけれど、そう簡単に出来ることではないだろう。ただし、こんなキャラクターを創ってみたいと思い、実際に創り、そのキャラクターが部屋にやって来ることは、もちろん秘密だ。


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「うん、食べられたよ。僕もおばあちゃんのビーフシチュー好きだし、やっぱり恭平くんを気持ちよく送り出したいし」
「そうか、偉いな」
「そんなこともないけど、おばあちゃんも、ちょっと寂しそうだった。恭平くんは、一人だけ年の離れた末っ子だし、おじいちゃんにもおばあちゃんにも、すごく優しかったから」
「そうか……」
 レオンは思う。人間の心は、とても複雑だ。
 律人は続ける。
「明日、披露宴が終わったら、帰るのは新居だから、恭平くんはもうここには来ないんだ」
「恭平さんと、ちゃんと話せたか?」
「今までに、もうたくさん話したから」
「そうか」
「僕にはレオンがいるから寂しくないよ」
 そう言いながら律人が体を寄せて来たので、レオンは、そっと肩を抱いた。言葉とは裏腹に、律人はとても寂しそうだ。
「いつでも呼んでくれ」
「うん」
 ずいぶん長い間、律人は黙ったままレオンにもたれかかっていた。
 結婚披露宴は、盛大に行われた。新郎新婦は華やかで美しく、皆に祝福され、とても幸せそうだった。
 今、二人と親族は、来客をお見送りしている最中なのだが、律人は、とても疲れてしまったので、控室で休んでいる。傍らには、今日から親戚同士になった政樹もいる。
 椅子の背もたれに身を預けてぐったりしている律人に、やはり疲れた顔をした政樹が言った。
「長かったよね。来賓の挨拶とか」
「うん」
「どっちの家も、招待客多かったし」
「そうだね」
「料理は豪華だったけど」
「僕は緊張して、あんまり食べられなかった」
 招待客の中には、新郎新婦の学生時代の友達などもいたが、多くは、律人の祖父の会社と、政樹の父の病院の関係者だった。政樹がしみじみとした口調で言う。
「結婚って、大変そうだなあ……」
「ホント」
 週末、政樹が遊びに来た。だが、いつものように話がはずまない。
「姉ちゃんたち、まだ空の上かなあ」
 今日、恭平たちはギリシャに向けて新婚旅行に旅立ったのだ。律人は聞いてみた。
「お姉さんが結婚して、どんな感じ?」
 政樹は、首をひねって斜め上を見ながら答える。
「あー、とりあえず、家の中が静かだよね。両親は、ちょっと寂しそうかも」
「うちもだよ。おばあちゃん、寂しそう。
 口では『いいお式だったわねえ』なんて言っているけど、ふと恭平くんが座っていた席に目をやったりして」
「親ってそういうものなのかねえ」
「政樹くんは?」
「え?」
「政樹くんは寂しくないの?」
「うーん……。寂しいってことはないけど、なんか変な感じはする。
 姉ちゃんがいないことに、まだ慣れないっていうか」
「やっぱりそうか」
「律人くんは? 寂しい?」
 律人は大きくうなずいた。
「僕は、すごく寂しい。恭平くんは、僕が事故に遭った直後から、記憶のない僕にずっと優しくしてくれて、お兄さんみたいだったから」
 話しているうちに悲しい気持ちになったが、かろうじて泣くのを我慢することは出来た。政樹が気遣うように言う。
「記憶をなくしたなんて、ショックだっただろうね」
「何も覚えていないから、それほどショックっていうこともなかったけど、怪我の痛みは辛かったかな。記憶があったら、もっとショックだっただろうけどね」
 恭平が結婚して家を出ただけでもこんなに寂しいのだから、両親のことを覚えていたら、二人が亡くなったことはとても辛くて耐えられなかったことだろう。
「そうだよね……」
 しみじみと言ってから、政樹は続けた。
「そういえば、結婚式に来ていた人が、『次期社長は恭平くんで決まりだな』とかって言っていたけど、そうなの?」
「あ……どうなのかな。一応、健吾叔父さんが継ぐことになっているんだと思うけど」
 実は律人も、健吾叔父を飛び越えて恭平が社長になる可能性もあるのではないかと思っているのだが。政樹が遠慮がちに言った。
「本当なら、律人くんのお父さんが会社を継ぐはずだったんだろ?」
「そう。もしそうなっていたら、僕は社長の息子だったのにね。
 それで、ゆくゆくは僕が社長になって」
 律人は笑って見せる。こんな軽口は、記憶がないからこそ言えるのだろうと思いながら。
 話が一段落した後、政樹がふと言った。
「律人くんは本を読んで、自分でも、こんな小説が書いてみたいなって思ったりしない?」
「あ……それは、ないかな。読むだけで満足しちゃってた」
 たしかに、面白くてわくわくするような小説が自分で書けたら素晴らしいけれど、そう簡単に出来ることではないだろう。ただし、こんなキャラクターを創ってみたいと思い、実際に創り、そのキャラクターが部屋にやって来ることは、もちろん秘密だ。