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14,お揃いのキーホルダー

ー/ー



 琴子に案内されて部屋に入って来た政樹は、恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。
 
「週末でもないのに、ずうずうしくてごめん」

 律人は首を横に振る。
 
「そんなことないよ。来てくれてうれしいし、それに……」

「うん?」

 律人は思ったままを言った。
 
「政樹くんの制服姿、初めて見たけど、カッコいいね」

 ブレザーの制服は、襟の縁取りや胸のエンブレムがしゃれていて、背の高い政樹によく似合っている。
 
「そんなこと、初めて言われた」

 ますます恥ずかしそうにしているのが微笑ましい。
 
「座って」

「うん」

 椅子に腰かけながら、政樹は通学かばんを開けている。ベッドに座って見ていると、小さな箱を取り出して、こちらに差し出した。
 
「よかったら、これ」

「何?」

「開けてみて」


「わぁ……」

 箱の中に入っていたのはキーホルダーだった。歯車と時計のパーツを組み合わせたデザインと、古色の風合いがスチームパンク風だ。
 
「たまたまネットで見つけて、カッコいいなあと思って。よかったらもらってくれる?」

 感激して、胸が熱くなる。
 
「すごくカッコいいけど、いいの?」

「もちろんだよ。律人くん、こういうの好きなんじゃないかなあと思って」

「好きだよ。でも、高かったんじゃないの?」

 政樹が、にっと笑った。
 
「そうでもないんだ。それに」

 「ジャーン」と言いながら、制服のポケットから取り出した家のものらしい鍵に、今律人が手にしているのと同じキーホルダーが付いている。
 
「お揃いにしたんだけど、どう? 嫌だった?」

「嫌なわけないよ。すごくうれしい」

 家族以外にプレゼントをもらうのも、それが誰かとお揃いなのも、律人には初めてのことだ。
 
「僕も『機械仕掛けの帝国』を読んでから、スチームパンクの世界にすっかりハマっちゃったんだよ。それで、ネットでいろいろ見ていて見つけて、こういうの、一個くらい持っていてもいいかなって思って。

 せっかくだから、スチームパンクを教えてくれた律人くんにもプレゼントしたいと思ったんだよ」
 
「うれしい。ありがとう……」

 あまりにうれしくて、涙が出そうになる。
 
「あっ、いや、そんな……」

 涙ぐむ律人を見て焦る政樹に言う。
 
「僕、政樹くんに謝らなくちゃ」

「え?」

 律人は、今まで心ひそかに思っていたことを打ち明けた。
 
「実は心の奥で、政樹くんは、僕がお姉さんの結婚相手の甥だから、仕方なく付き合ってくれているんじゃないかと思っていたんだ。それに僕は、こんな体だから出かけることも出来ないし、本当はどこかに遊びに行ったりするほうが好きなんじゃないかって……」

「律人くん……」

「ごめん、失礼だよね。気を悪くしたでしょう?」

「そんなことないよ。律人くんと話すの、すごく楽しいし、律人くんが貸してくれた本も全部面白くて、新しい楽しみが出来てよかったと思っているんだ」

「僕も、『真汐航平シリーズ』大好き。真汐航平カッコいいし、その彼が論理的に謎を解いていくの、すっごくワクワクする」

「だよね」

 そして政樹は続けた。
 
「ねえ、スチームパンクの探偵ものってないのかな。あったら面白そうなのに」

「あぁ、たしかあるはずだよ。検索してみようか」

「僕がやるよ」

 そう言いながら、政樹は素早くスマートフォンを取り出して、すぐに調べ始めた。律人は手の中のキーホルダーを見つめる。
 
 本当の本当に、自分は政樹と友達になれたのだ……。それから、ふと思い出して聞いてみる。
 
「今日はこのキーホルダーをくれるために来てくれたの?」

 政樹はスマホの画面に目を落としたまま、当たり前のように答える。

「そうだよ。週末まで待ちきれなくて」

 とてもうれしい。
 
「ありがとう」

「あぁ、あったあった。けっこういっぱいあるんだ」

 二人でスマートフォンの画面をのぞいているところに、琴子がお茶とスイーツを持って来てくれた。
 
 
 
 心配していたのだが、律人は、しょんぼりと肩を落としてはいるものの、泣いてはいない。壁には、律人が着る真新しいスーツがかかっている。
 
 明日、ついに恭平の結婚式が行われるのだ。披露宴には、業界や医療関係者も大勢来ることになっているのだそうだ。
 
 今は、家族そろっての最後の食事を終えて、部屋に戻って来たところだという。律人は、うつむいたまま話す。
 
「今日のメインは、ビーフシチューだったんだ。いつもは料理は琴子さんが作ることが多いけど、おばあちゃんが何時間も煮込んで作ったんだよ。

 恭平くんが、おばあちゃんの手料理の中で一番好きだから」
 
「そうか。律人は、ちゃんと食べられたか?」

 恭平の見合いの前日は、あまり食べられなかったと言っていた。


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 琴子に案内されて部屋に入って来た政樹は、恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。
「週末でもないのに、ずうずうしくてごめん」
 律人は首を横に振る。
「そんなことないよ。来てくれてうれしいし、それに……」
「うん?」
 律人は思ったままを言った。
「政樹くんの制服姿、初めて見たけど、カッコいいね」
 ブレザーの制服は、襟の縁取りや胸のエンブレムがしゃれていて、背の高い政樹によく似合っている。
「そんなこと、初めて言われた」
 ますます恥ずかしそうにしているのが微笑ましい。
「座って」
「うん」
 椅子に腰かけながら、政樹は通学かばんを開けている。ベッドに座って見ていると、小さな箱を取り出して、こちらに差し出した。
「よかったら、これ」
「何?」
「開けてみて」
「わぁ……」
 箱の中に入っていたのはキーホルダーだった。歯車と時計のパーツを組み合わせたデザインと、古色の風合いがスチームパンク風だ。
「たまたまネットで見つけて、カッコいいなあと思って。よかったらもらってくれる?」
 感激して、胸が熱くなる。
「すごくカッコいいけど、いいの?」
「もちろんだよ。律人くん、こういうの好きなんじゃないかなあと思って」
「好きだよ。でも、高かったんじゃないの?」
 政樹が、にっと笑った。
「そうでもないんだ。それに」
 「ジャーン」と言いながら、制服のポケットから取り出した家のものらしい鍵に、今律人が手にしているのと同じキーホルダーが付いている。
「お揃いにしたんだけど、どう? 嫌だった?」
「嫌なわけないよ。すごくうれしい」
 家族以外にプレゼントをもらうのも、それが誰かとお揃いなのも、律人には初めてのことだ。
「僕も『機械仕掛けの帝国』を読んでから、スチームパンクの世界にすっかりハマっちゃったんだよ。それで、ネットでいろいろ見ていて見つけて、こういうの、一個くらい持っていてもいいかなって思って。
 せっかくだから、スチームパンクを教えてくれた律人くんにもプレゼントしたいと思ったんだよ」
「うれしい。ありがとう……」
 あまりにうれしくて、涙が出そうになる。
「あっ、いや、そんな……」
 涙ぐむ律人を見て焦る政樹に言う。
「僕、政樹くんに謝らなくちゃ」
「え?」
 律人は、今まで心ひそかに思っていたことを打ち明けた。
「実は心の奥で、政樹くんは、僕がお姉さんの結婚相手の甥だから、仕方なく付き合ってくれているんじゃないかと思っていたんだ。それに僕は、こんな体だから出かけることも出来ないし、本当はどこかに遊びに行ったりするほうが好きなんじゃないかって……」
「律人くん……」
「ごめん、失礼だよね。気を悪くしたでしょう?」
「そんなことないよ。律人くんと話すの、すごく楽しいし、律人くんが貸してくれた本も全部面白くて、新しい楽しみが出来てよかったと思っているんだ」
「僕も、『真汐航平シリーズ』大好き。真汐航平カッコいいし、その彼が論理的に謎を解いていくの、すっごくワクワクする」
「だよね」
 そして政樹は続けた。
「ねえ、スチームパンクの探偵ものってないのかな。あったら面白そうなのに」
「あぁ、たしかあるはずだよ。検索してみようか」
「僕がやるよ」
 そう言いながら、政樹は素早くスマートフォンを取り出して、すぐに調べ始めた。律人は手の中のキーホルダーを見つめる。
 本当の本当に、自分は政樹と友達になれたのだ……。それから、ふと思い出して聞いてみる。
「今日はこのキーホルダーをくれるために来てくれたの?」
 政樹はスマホの画面に目を落としたまま、当たり前のように答える。
「そうだよ。週末まで待ちきれなくて」
 とてもうれしい。
「ありがとう」
「あぁ、あったあった。けっこういっぱいあるんだ」
 二人でスマートフォンの画面をのぞいているところに、琴子がお茶とスイーツを持って来てくれた。
 心配していたのだが、律人は、しょんぼりと肩を落としてはいるものの、泣いてはいない。壁には、律人が着る真新しいスーツがかかっている。
 明日、ついに恭平の結婚式が行われるのだ。披露宴には、業界や医療関係者も大勢来ることになっているのだそうだ。
 今は、家族そろっての最後の食事を終えて、部屋に戻って来たところだという。律人は、うつむいたまま話す。
「今日のメインは、ビーフシチューだったんだ。いつもは料理は琴子さんが作ることが多いけど、おばあちゃんが何時間も煮込んで作ったんだよ。
 恭平くんが、おばあちゃんの手料理の中で一番好きだから」
「そうか。律人は、ちゃんと食べられたか?」
 恭平の見合いの前日は、あまり食べられなかったと言っていた。