13,やっぱり大好きな恭平
ー/ー
すると、すぐに電話がかかって来た。
「政樹だけど、律人くん大丈夫? 話せる?」
「ああ、うん」
まさか電話をくれるとは思わなかったので、驚いた。
「僕のことは気にしないで、ゆっくり休んで」
「ありがとう。今日、すごく楽しみにしていたんだけど……」
「僕もだよ。この前借りた本、すごく面白かった。
また今度、律人くんが元気なときに、本のこと話したりしたいな」
「あ……」
不意に涙がこみ上げる。政樹の言葉がうれしかったのだ。
「えっ、何? 大丈夫?」
律人は、目じりを拭いながら答えた。
「大丈夫。どうもありがとう」
「うん。また今度、律人くんが元気なときに行かせてもらうね」
「うん」
「じゃあ、ホントにゆっくり休んで」
「ありがとう」
まだ胸の上にスマホを置いたまま、ベッドに横たわってぼんやりしていると、ドアがノックされた。
「律人、入るよ」
恭平だ。
「どうぞ」
ドアを開けて入って来ながら恭平が言った。
「政樹くんに連絡出来た?」
「うん。メッセージ送ったら電話をくれて、ゆっくり休んでって言ってくれた」
「そう、よかったね」
律人は恭平を見上げる。
「恭平くんは、今日はどうするの?」
「うん?」
椅子を引き寄せて座った恭平に、律人は聞いた。
「佐絵さんとデート?」
「いや、今日はずっとうちにいるよ」
「佐絵さん、何か用事があるの?」
「用事があるかどうかはわからないけど、今日は彼女と会う予定はないよ」
「じゃあ、明日会うの?」
律人の言葉に、恭平は苦笑する。
「明日も会う予定はないよ」
「えっ……喧嘩した、とか?」
恭平は、あははと声を上げて笑った。
「喧嘩もしていないよ。彼女とはうまく行っているけど、それぞれの時間も大切にしているんだよ」
「ふうん」
少し考えてから、律人は尋ねる。
「じゃあ恭平くんは、今日は何するの?」
「これと言って何もする予定はないけど、律人の具合がよくなったら一緒に過ごしたいな」
律人は思わず言った。
「具合がよくならなくても一緒にいて。ダメ?」
「ダメじゃないよ」
恭平は優しく微笑みながら、律人の前髪の乱れを直す。
「よかった……。恭平くんがそばにいてくれたら、しんどくても我慢出来る」
とてもうれしい。やっぱり恭平のことが大好きだと思う。
子供の頃も、体調が悪くて寝ている律人のそばで、恭平は本を読んだりスマートフォンを見たり、ときには大学に提出するレポートを書いたりして過ごしていたものだ。恭平の気配を近くに感じるだけで、律人はとても安心するのだった。
だが、恭平とゆっくり同じ時間を過ごせたのは、その週末が最後になった。その後、恭平は佐絵と正式に結納を交わし、結婚や新生活の準備に忙しくなった。
律人は鼻をぐずぐず言わせながら、子供っぽい仕草で目元を拭う。さっきから涙が止まらない。
恭平たちの新居が決まり、結婚式を前に、引っ越しのための荷物の搬出が始まったのだ。ずっと一緒に暮して来た彼が出て行くことが、律人は寂しくてたまらないのだろう。
「律人……」
レオンはただ、寄り添っていることしか出来ない。
「わがままなのはわかっているよ。だけど、今でもホントは恭平くんに結婚してほしくない。
こんなことはレオンにしか言えないけど、ずっとずっと僕だけの恭平くんでいてほしかったんだ」
そしてまた、涙。
「わかるよ。今まで律人と話して来て、どんなに恭平さんのことを大切に思っているか知っているから」
だが、律人は辛そうに顔をゆがめる。
「そんなんじゃない。そんなカッコいいものじゃない。
僕はただ、恭平くんを独り占めにしたかったんだ。自分のことだけで、恭平くんの気持ちなんかちっとも考えていない!」
「自分を責めるな。大好きな人にずっとそばにいてほしいと思うのは当たり前のことだろう」
「レオン!」
律人がしがみついて来たので、レオンは両腕で抱きしめた。律人に悲しんでほしくないが、自分に出来ることは多くない。
律人のこの悲しみを癒すことが出来るのは、多分恭平だけなのだ。だが彼は、もうじきこの家を出て行く。
泣き疲れてぼんやりしていると、ベッドサイドでスマートフォンが震えた。政樹からメッセージだ。
―― 明日の放課後、行ってもいい?
週末でもないのに、なんだろうと思いながら返信する。
―― いいよ。
―― じゃあ明日。バスが来たから乗るね。
忙しそうだったので、うちに来る理由は聞きそびれた。こんな時間にバスに乗るということは、塾の帰りだろうか……。
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すると、すぐに電話がかかって来た。
「政樹だけど、律人くん大丈夫? 話せる?」
「ああ、うん」
まさか電話をくれるとは思わなかったので、驚いた。
「僕のことは気にしないで、ゆっくり休んで」
「ありがとう。今日、すごく楽しみにしていたんだけど……」
「僕もだよ。この前借りた本、すごく面白かった。
また今度、律人くんが元気なときに、本のこと話したりしたいな」
「あ……」
不意に涙がこみ上げる。政樹の言葉がうれしかったのだ。
「えっ、何? 大丈夫?」
律人は、目じりを拭いながら答えた。
「大丈夫。どうもありがとう」
「うん。また今度、律人くんが元気なときに行かせてもらうね」
「うん」
「じゃあ、ホントにゆっくり休んで」
「ありがとう」
まだ胸の上にスマホを置いたまま、ベッドに横たわってぼんやりしていると、ドアがノックされた。
「律人、入るよ」
恭平だ。
「どうぞ」
ドアを開けて入って来ながら恭平が言った。
「政樹くんに連絡出来た?」
「うん。メッセージ送ったら電話をくれて、ゆっくり休んでって言ってくれた」
「そう、よかったね」
律人は恭平を見上げる。
「恭平くんは、今日はどうするの?」
「うん?」
椅子を引き寄せて座った恭平に、律人は聞いた。
「佐絵さんとデート?」
「いや、今日はずっとうちにいるよ」
「佐絵さん、何か用事があるの?」
「用事があるかどうかはわからないけど、今日は彼女と会う予定はないよ」
「じゃあ、明日会うの?」
律人の言葉に、恭平は苦笑する。
「明日も会う予定はないよ」
「えっ……喧嘩した、とか?」
恭平は、あははと声を上げて笑った。
「喧嘩もしていないよ。彼女とはうまく行っているけど、それぞれの時間も大切にしているんだよ」
「ふうん」
少し考えてから、律人は尋ねる。
「じゃあ恭平くんは、今日は何するの?」
「これと言って何もする予定はないけど、律人の具合がよくなったら一緒に過ごしたいな」
律人は思わず言った。
「具合がよくならなくても一緒にいて。ダメ?」
「ダメじゃないよ」
恭平は優しく微笑みながら、律人の前髪の乱れを直す。
「よかった……。恭平くんがそばにいてくれたら、しんどくても我慢出来る」
とてもうれしい。やっぱり恭平のことが大好きだと思う。
子供の頃も、体調が悪くて寝ている律人のそばで、恭平は本を読んだりスマートフォンを見たり、ときには大学に提出するレポートを書いたりして過ごしていたものだ。恭平の気配を近くに感じるだけで、律人はとても安心するのだった。
だが、恭平とゆっくり同じ時間を過ごせたのは、その週末が最後になった。その後、恭平は佐絵と正式に結納を交わし、結婚や新生活の準備に忙しくなった。
律人は鼻をぐずぐず言わせながら、子供っぽい仕草で目元を拭う。さっきから涙が止まらない。
恭平たちの新居が決まり、結婚式を前に、引っ越しのための荷物の搬出が始まったのだ。ずっと一緒に暮して来た彼が出て行くことが、律人は寂しくてたまらないのだろう。
「律人……」
レオンはただ、寄り添っていることしか出来ない。
「わがままなのはわかっているよ。だけど、今でもホントは恭平くんに結婚してほしくない。
こんなことはレオンにしか言えないけど、ずっとずっと僕だけの恭平くんでいてほしかったんだ」
そしてまた、涙。
「わかるよ。今まで律人と話して来て、どんなに恭平さんのことを大切に思っているか知っているから」
だが、律人は辛そうに顔をゆがめる。
「そんなんじゃない。そんなカッコいいものじゃない。
僕はただ、恭平くんを独り占めにしたかったんだ。自分のことだけで、恭平くんの気持ちなんかちっとも考えていない!」
「自分を責めるな。大好きな人にずっとそばにいてほしいと思うのは当たり前のことだろう」
「レオン!」
律人がしがみついて来たので、レオンは両腕で抱きしめた。律人に悲しんでほしくないが、自分に出来ることは多くない。
律人のこの悲しみを癒すことが出来るのは、多分恭平だけなのだ。だが彼は、もうじきこの家を出て行く。
泣き疲れてぼんやりしていると、ベッドサイドでスマートフォンが震えた。政樹からメッセージだ。
―― 明日の放課後、行ってもいい?
週末でもないのに、なんだろうと思いながら返信する。
―― いいよ。
―― じゃあ明日。バスが来たから乗るね。
忙しそうだったので、うちに来る理由は聞きそびれた。こんな時間にバスに乗るということは、塾の帰りだろうか……。