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11,政樹からのメッセージ

ー/ー



 杖を手に立ち上がって、床に置いたバッグから取り出そうとしていると、政樹が、律人の手が届く位置に素早くバッグを引き寄せてくれた。
 
「ありがとう」

 スマートフォンを手に取って電源を入れる。恭平のすすめで、滅多に使わないメッセージアプリも入れておいてよかったと思う。
 
 おかげで、無事に連絡先を交換することが出来た。
 
 
 その後は、好きな本の話をした。政樹はミステリ系のライトノベルをよく読むというので、律人も貸してもらう約束をした。
 
 誰かと趣味の話をしたり、物を貸し借りするなんて、律人には初めてのことだ。政樹と話している間は、恭平が結婚することに対する寂しさも忘れていた。
 
 
 
 翌日の午後、皆、帰路に着くため別荘を発った。行きは助手席に律人が座ったが、帰りは佐絵が助手席に座り、律人は後部座席に政樹と並んで座った。
 
 静かに言葉を交わす前の二人を見て、複雑な気持ちにならないと言ったら嘘になる。二人の関係は、律人の目にもゆるぎないものになっているように見える。
 
 ただ、今の律人は、これから政樹と仲良くしていけそうな気がしているし、それは恭平と佐絵の結婚があってこそなのだ。もしも政樹がいなかったなら、今頃は辛い気持ちでいっぱいだったかもしれない。
 
 
 
 太陽がすっかり西に傾いた頃、恭平が運転する車は八津山駅に着いた。長篠姉弟は、行きとは逆に、ここから電車で帰るのだ。
 
 恭平が家まで送ると言ったのだが、佐絵は最寄り駅から近いから大丈夫だと固辞した。それが礼儀というものなのだろうかと律人は思う。
 
 恭平も深追いはしない。挨拶を交わし、車を降りる際に、政樹が律人に向かって言った。
 
「後で連絡するね」

「うん」


 姉弟に見送られながら、車はその場を離れた。街並みに目をやっている律人に、恭平が言った。
 
「政樹くんと、ずいぶん仲良くなれたみたいだね」

「うん、まあ」

「よかった」

 恭平はバックミラー越しに微笑みながら、どこかほっとしたようにつぶやいた。たしかに、政樹と仲良くはなれたけれど、そんなふうに言われると、なんだか面白くない。
 
 恭平にそんなつもりはないのだろうけれど、まるで厄介払いが出来たと思われているような……。律人は恭平の言葉に答えないまま、窓外に視線を戻した。
 
 
 
 家族そろって夕食を済ませ、部屋に戻ると、政樹からメッセージが届いていた。
 
―― たくさん話せてすごく楽しかった。どうもありがとう。

   また会える日を楽しみにしています。
   
   
   すぐに返信する。
   
―― こちらこそ、どうもありがとう。

   本はいつでも貸せるので、都合のいい日に来てください。僕に貸してくれる本もよろしくね。
   
   
   律人が一人で出かけることは難しいので、政樹が家に来てくれることになっているのだ。すぐに返信が来た。
   
―― 今度の週末はどう?

―― いいよ。おばあちゃんに話しておく。


 その後、具体的な日時を決めるために何往復かやり取りをした。政樹が遊びに来ると知れば、きっと祖母も喜んでくれるだろう。
 
 
 さっそく政樹に貸す本を本棚から取り出して、勉強机の上に並べると、けっこうな数になった。どれもスチームパンクの世界の物語を描いたものだ。
 
 この中から政樹に好きなものを選んでもらえばいい。政樹がどんな本を持って来てくれるかも楽しみだ。
 
 ベッドに腰を下ろして、ふと思う。そう言えば、別荘に行っている間、レオンのことを思い出さなかった。
 
 いろいろなことで頭がいっぱいだったのと、疲れていたせいもある。久しぶりに呼んで、話を聞いてもらおうか。
 
 
 
「あ……」

 律人が腰かけているのは、いつもの彼の部屋のベッドだ。てっきり別荘の部屋に呼び出されると思っていたので、少し意外だ。
 
 律人がにっこり笑って言った。
 
「久しぶり」

 レオンには、あまり時間の感覚がないのだが、では、もう別荘から帰って来たということか。そう思い、律人に合わせて答える。
 
「ああ、久しぶり」

「今日の夕方、別荘から帰って来たんだよ」

 やはりそうなのか。
 
「どうだった?」

 律人は別荘に行く前、恭平の婚約者と、その弟が来るのが嫌でたまらない、本当は行きたくないと言っていたのだが。
 
「うん。恭平くんとは、ほとんど話す暇がなかった。二日目は雨だったのに、おばあちゃんにすすめられて佐絵さんとドライブに行っちゃったし」

「そうか」

 それは、さぞ寂しかったことだろう。かわいそうに……。
 
「でも、政樹くん。ええと、佐絵さんの弟だけど、政樹くんとはけっこう話したよ」

 律人の表情は意外に明るい。


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 杖を手に立ち上がって、床に置いたバッグから取り出そうとしていると、政樹が、律人の手が届く位置に素早くバッグを引き寄せてくれた。
「ありがとう」
 スマートフォンを手に取って電源を入れる。恭平のすすめで、滅多に使わないメッセージアプリも入れておいてよかったと思う。
 おかげで、無事に連絡先を交換することが出来た。
 その後は、好きな本の話をした。政樹はミステリ系のライトノベルをよく読むというので、律人も貸してもらう約束をした。
 誰かと趣味の話をしたり、物を貸し借りするなんて、律人には初めてのことだ。政樹と話している間は、恭平が結婚することに対する寂しさも忘れていた。
 翌日の午後、皆、帰路に着くため別荘を発った。行きは助手席に律人が座ったが、帰りは佐絵が助手席に座り、律人は後部座席に政樹と並んで座った。
 静かに言葉を交わす前の二人を見て、複雑な気持ちにならないと言ったら嘘になる。二人の関係は、律人の目にもゆるぎないものになっているように見える。
 ただ、今の律人は、これから政樹と仲良くしていけそうな気がしているし、それは恭平と佐絵の結婚があってこそなのだ。もしも政樹がいなかったなら、今頃は辛い気持ちでいっぱいだったかもしれない。
 太陽がすっかり西に傾いた頃、恭平が運転する車は八津山駅に着いた。長篠姉弟は、行きとは逆に、ここから電車で帰るのだ。
 恭平が家まで送ると言ったのだが、佐絵は最寄り駅から近いから大丈夫だと固辞した。それが礼儀というものなのだろうかと律人は思う。
 恭平も深追いはしない。挨拶を交わし、車を降りる際に、政樹が律人に向かって言った。
「後で連絡するね」
「うん」
 姉弟に見送られながら、車はその場を離れた。街並みに目をやっている律人に、恭平が言った。
「政樹くんと、ずいぶん仲良くなれたみたいだね」
「うん、まあ」
「よかった」
 恭平はバックミラー越しに微笑みながら、どこかほっとしたようにつぶやいた。たしかに、政樹と仲良くはなれたけれど、そんなふうに言われると、なんだか面白くない。
 恭平にそんなつもりはないのだろうけれど、まるで厄介払いが出来たと思われているような……。律人は恭平の言葉に答えないまま、窓外に視線を戻した。
 家族そろって夕食を済ませ、部屋に戻ると、政樹からメッセージが届いていた。
―― たくさん話せてすごく楽しかった。どうもありがとう。
   また会える日を楽しみにしています。
   すぐに返信する。
―― こちらこそ、どうもありがとう。
   本はいつでも貸せるので、都合のいい日に来てください。僕に貸してくれる本もよろしくね。
   律人が一人で出かけることは難しいので、政樹が家に来てくれることになっているのだ。すぐに返信が来た。
―― 今度の週末はどう?
―― いいよ。おばあちゃんに話しておく。
 その後、具体的な日時を決めるために何往復かやり取りをした。政樹が遊びに来ると知れば、きっと祖母も喜んでくれるだろう。
 さっそく政樹に貸す本を本棚から取り出して、勉強机の上に並べると、けっこうな数になった。どれもスチームパンクの世界の物語を描いたものだ。
 この中から政樹に好きなものを選んでもらえばいい。政樹がどんな本を持って来てくれるかも楽しみだ。
 ベッドに腰を下ろして、ふと思う。そう言えば、別荘に行っている間、レオンのことを思い出さなかった。
 いろいろなことで頭がいっぱいだったのと、疲れていたせいもある。久しぶりに呼んで、話を聞いてもらおうか。
「あ……」
 律人が腰かけているのは、いつもの彼の部屋のベッドだ。てっきり別荘の部屋に呼び出されると思っていたので、少し意外だ。
 律人がにっこり笑って言った。
「久しぶり」
 レオンには、あまり時間の感覚がないのだが、では、もう別荘から帰って来たということか。そう思い、律人に合わせて答える。
「ああ、久しぶり」
「今日の夕方、別荘から帰って来たんだよ」
 やはりそうなのか。
「どうだった?」
 律人は別荘に行く前、恭平の婚約者と、その弟が来るのが嫌でたまらない、本当は行きたくないと言っていたのだが。
「うん。恭平くんとは、ほとんど話す暇がなかった。二日目は雨だったのに、おばあちゃんにすすめられて佐絵さんとドライブに行っちゃったし」
「そうか」
 それは、さぞ寂しかったことだろう。かわいそうに……。
「でも、政樹くん。ええと、佐絵さんの弟だけど、政樹くんとはけっこう話したよ」
 律人の表情は意外に明るい。