10,芝生に降りしきる雨
ー/ー
夕食が始まった。大きなダイニングテーブルの周りに10人全員が座ると壮観だ。
普段、家族だけのときならば律人は恭平の隣に座るのだけれど、今日は末席に座り、隣に政樹、向かい側に美理と理亜という位置だ。恭平は佐絵をエスコートしつつ、祖父母や健吾夫婦と話すのに忙しく、ここに着いてから言葉を交わしていないが、それも仕方がないと思う。
寂しい気持ちはあるけれど、意外にも政樹と意気投合出来たことと、無邪気な姉妹に救われる。理亜が、くるくるとフォークにパスタを巻きつけながら、大人びた口調で言った。
「政樹くんは何年生ですか?」
「高校2年生だよ」
「私は小学校2年生で、美理ちゃんは3年生。りっくんは学校に行ってないんだよね」
「理亜ちゃん!」
美理が慌てたように理亜を叱る。律人は微笑む。
「いいよ。僕は学校には行っていないけど、おうちで勉強する学校の2年生なんだよ」
「じゃあ、私と同じ?」
「ううん、一応高校2年生」
「ふうん」
わかっているのかいないのか、理亜は曖昧にうなずいた。
食事が終わると、律人は一人、いつも使っている部屋に引き上げた。とても疲れていたので、シャワーを浴びてベッドに入ると、すぐに眠ってしまった。
レオンは、じっと薄暗い部屋のベッドに腰かけている。彼にとって、時間は、あってないようなものなので、苦痛は感じない。
律人に呼ばれたら、そばに行く。彼がやるべきことは、ただそれだけだ。
翌日は、あいにくの雨だった。少し頭痛がしたので、律人は念のため、医者に処方されている鎮痛剤を飲んだ。
あまりしょっちゅう飲むのはよくないと言われているけれど、今日は特別だ。ただでさえ、足が不自由で学校に通っていないかわいそうなやつだと思われているのに、みんなの前で具合が悪くなってはシャレにならない。
祖母がすすめたので、朝食後、恭平は佐絵と雨の中、月影湖にドライブに行った。祖父と健吾は、まだ午前中だというのに、リビングルームで酒を飲んでいる。
祖母は、琴子と一緒に祖父たちの酒の肴の世話をしたりして、キッチンを出たり入ったりしている。あまり祖母としっくりいっていない梨沙子は、娘たちの相手をしている。
なんとなく律人と政樹が残される格好になったので、律人は政樹に言ってみた。
「僕の部屋に行く?」
「えっ、いいの?」
「もちろん。ていうか、嫌じゃなければ」
「嫌じゃないよ!」
政樹がバタバタと手を振って否定したので、ちょっと笑ってしまった。
「おー」
部屋に入った政樹は、そのまま庭に面したサッシに向かう。例のごとく、律人の部屋は一階だ。
部屋から直接庭に出られるようになっていて、今は雨が芝生に降りしきっているのが見える。律人がソファに腰を下ろすと、やがて政樹も戻って来て、横にかけた。
黙り込むと、雨の音がやけに大きく聞こえる。特に話すことがあるわけでもない。
「あの」
「えぇと」
気まずくなって口を開くと、ほぼ同じタイミングで政樹もつぶやいた。苦笑しながら、政樹は続ける。
「なんか変な感じだよね。昨日まで顔も知らなかったのに、二人でソファに並んで座っているなんて」
律人も苦笑する。
「ホント。僕、友達がいないから、何を話していいかわからなくて」
「そう? 美理ちゃんと理亜ちゃんは懐いているみたいだったし、君もいい感じに接していると思ったけど」
「あの子たちは、小さい頃から知っているから」
「そっか」
そして再び沈黙。だが、もうそれほど気まずくはない。
やがて政樹が言った。
「えぇと、僕は律人くんと友達になれそうかなあって思うけど」
思わず横を見ると、彼は照れくさそうに目を伏せる。
「あっ。僕もそう、かな」
なんだか顔が熱い。そして、ふと思いついた。
「でも、僕たちって親戚同士になるんだよね」
「そっか。じゃあ、友達じゃないか」
「友達でもいいけど……」
「そうだ」
突然そうつぶやいて、政樹はスマートフォンを取り出した。
「連絡先、交換しない?」
「あっ、うん。ちょっと待って」
スマートフォンを持って来てよかった。律人は内心ほっとする。
祖母が、何かのときに役に立つからと言って買い与えてくれていたものの、ずっと家にいて、一人で出かけることもない律人には、あまり必要がなかった。
もったいないので、たまにネットを見たりはしていたけれど、SNSもやっておらず、ゲームもしないので、通院するときにも持って行かないことのほうが多い。だが、今回は別荘に二泊するので、一応持って来たのだ。
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普段、家族だけのときならば律人は恭平の隣に座るのだけれど、今日は末席に座り、隣に政樹、向かい側に美理と理亜という位置だ。恭平は佐絵をエスコートしつつ、祖父母や健吾夫婦と話すのに忙しく、ここに着いてから言葉を交わしていないが、それも仕方がないと思う。
寂しい気持ちはあるけれど、意外にも政樹と意気投合出来たことと、無邪気な姉妹に救われる。理亜が、くるくるとフォークにパスタを巻きつけながら、大人びた口調で言った。
「政樹くんは何年生ですか?」
「高校2年生だよ」
「私は小学校2年生で、美理ちゃんは3年生。りっくんは学校に行ってないんだよね」
「理亜ちゃん!」
美理が慌てたように理亜を叱る。律人は微笑む。
「いいよ。僕は学校には行っていないけど、おうちで勉強する学校の2年生なんだよ」
「じゃあ、私と同じ?」
「ううん、一応高校2年生」
「ふうん」
わかっているのかいないのか、理亜は曖昧にうなずいた。
食事が終わると、律人は一人、いつも使っている部屋に引き上げた。とても疲れていたので、シャワーを浴びてベッドに入ると、すぐに眠ってしまった。
レオンは、じっと薄暗い部屋のベッドに腰かけている。彼にとって、時間は、あってないようなものなので、苦痛は感じない。
律人に呼ばれたら、そばに行く。彼がやるべきことは、ただそれだけだ。
翌日は、あいにくの雨だった。少し頭痛がしたので、律人は念のため、医者に処方されている鎮痛剤を飲んだ。
あまりしょっちゅう飲むのはよくないと言われているけれど、今日は特別だ。ただでさえ、足が不自由で学校に通っていないかわいそうなやつだと思われているのに、みんなの前で具合が悪くなってはシャレにならない。
祖母がすすめたので、朝食後、恭平は佐絵と雨の中、月影湖にドライブに行った。祖父と健吾は、まだ午前中だというのに、リビングルームで酒を飲んでいる。
祖母は、琴子と一緒に祖父たちの酒の肴の世話をしたりして、キッチンを出たり入ったりしている。あまり祖母としっくりいっていない梨沙子は、娘たちの相手をしている。
なんとなく律人と政樹が残される格好になったので、律人は政樹に言ってみた。
「僕の部屋に行く?」
「えっ、いいの?」
「もちろん。ていうか、嫌じゃなければ」
「嫌じゃないよ!」
政樹がバタバタと手を振って否定したので、ちょっと笑ってしまった。
「おー」
部屋に入った政樹は、そのまま庭に面したサッシに向かう。例のごとく、律人の部屋は一階だ。
部屋から直接庭に出られるようになっていて、今は雨が芝生に降りしきっているのが見える。律人がソファに腰を下ろすと、やがて政樹も戻って来て、横にかけた。
黙り込むと、雨の音がやけに大きく聞こえる。特に話すことがあるわけでもない。
「あの」
「えぇと」
気まずくなって口を開くと、ほぼ同じタイミングで政樹もつぶやいた。苦笑しながら、政樹は続ける。
「なんか変な感じだよね。昨日まで顔も知らなかったのに、二人でソファに並んで座っているなんて」
律人も苦笑する。
「ホント。僕、友達がいないから、何を話していいかわからなくて」
「そう? 美理ちゃんと理亜ちゃんは懐いているみたいだったし、君もいい感じに接していると思ったけど」
「あの子たちは、小さい頃から知っているから」
「そっか」
そして再び沈黙。だが、もうそれほど気まずくはない。
やがて政樹が言った。
「えぇと、僕は律人くんと友達になれそうかなあって思うけど」
思わず横を見ると、彼は照れくさそうに目を伏せる。
「あっ。僕もそう、かな」
なんだか顔が熱い。そして、ふと思いついた。
「でも、僕たちって親戚同士になるんだよね」
「そっか。じゃあ、友達じゃないか」
「友達でもいいけど……」
「そうだ」
突然そうつぶやいて、政樹はスマートフォンを取り出した。
「連絡先、交換しない?」
「あっ、うん。ちょっと待って」
スマートフォンを持って来てよかった。律人は内心ほっとする。
祖母が、何かのときに役に立つからと言って買い与えてくれていたものの、ずっと家にいて、一人で出かけることもない律人には、あまり必要がなかった。
もったいないので、たまにネットを見たりはしていたけれど、SNSもやっておらず、ゲームもしないので、通院するときにも持って行かないことのほうが多い。だが、今回は別荘に二泊するので、一応持って来たのだ。