「音痴を直したい?」
真剣な面持ちで話す、ピートの言葉を反芻する。
「はい」
「何で、また……?」
と言うか、今更って感じだけどな…………
ピートは極度の……いや、あれは最早 “超度” と呼称した方がしっくり来る程の超絶 “音痴” だ。
ピアノを引くだけで窓ガラスを全壊し、歌を歌えば聴いてる人間を昏倒状態に叩き落とす、正に『サウンド・スクリーマー』『戦慄の不協和音』…………本人に悪意がないだけに余計質が悪い。
以前、これのお陰で校内の除霊に成功したことはあるから、一概に否定も出来ないが “かなり” 迷惑であることに変わりはない。
「カラオケに行くと、皆僕に遠慮してマイクを渡さないんです」
遠慮じゃなくて、単に嫌がってるだけだろソレ……
「居辛いなら無理に参加しなくてもいいだろ、別に断ったからって、仲間外れにするような連中はいないぞ」
どいつもこいつも、すぐ悪乗りする意味の解らねぇ連中だけど、人の嫌がる事を無理強いする奴は居ないはずだ。
「いえ……歌は苦手なだけで、嫌いと言うわけじゃないんです。皆の気遣いは嬉しいけど、甘えるのは何か違うし、何より僕も歌を皆と楽しみたいんです」
いや……気遣いとかじゃなくて、普通にお前の怪音波なんて聞きたくないだけだからな。
ぶっちゃけ、お前から遠慮してくれたほうが皆喜ぶと思うけど…………でも、皆と楽しみたいと言う気持ちも理解出来るし、難しいな……
「横島さん、歌が上手いじゃないですか、僕にアドバイスとかくれませんか?」
…………んな、真剣な表情されてもな……
確かに歌は上手いとか言われるけど、特に何か意識してるわけじゃねぇぞ……そもそもアドバイスくらいで、その怪音波が矯正出来るわけねぇだろ……
ただ、切実に頭を下げられると何とかしてやりたくなるのも、人情………………
「アドバイスくらいなら、いくらでも協力するよ」
まぁ、“九割九分” ……いや、“九割九分九厘” 無理だろうけどな……700年だぞ、700年!そんな長い間変わらなかったものを一朝一夜で何とかなると思ってんのか、この男は……?
「本当ですか!じゃあ、授業が終わったらカラオケでも……」
「それは無理!アドバイスはやるから、それを元に1人で頑張れ!誰も “巻き込む” な!!」
だが、断る!キッパリと断る!!
コイツの音痴は、常人のソレとは異なる。さっきも言ったように聴いた人間が体調に変調をきたすんだ!
どう、考えてもマトモじゃねぇ!!
絶対、声に “霊波” を乗せてやがる……!! いや、コイツはヴァンパイア・ハーフだから “妖波” かもしんねぇけど、とにかく普通の音じゃねぇ。
霊波が乗れば、ただの音だってエネルギー攻撃と変わらねぇからな。
一般的な音痴だって聴くのは苦痛なのに、そんなことされちゃ堪ったもんじゃねぇぞ……
「横島さん!!」
縋り付くんじゃねぇよ!俺はBLに興味はねぇ!!纏わりつく美形を振り払いながら答える。
「無理なもんは、無理だ!お前の歌は、人を殺せる」
「それ酷くないですか!?」
ショックを受けた顔をすんな。もっと、自分の歌に自覚を持て……
「お前だって泡吹いて、ぶっ倒れた連中見ただろ!!マトモに聴くのは、危険過ぎるんだよ」
「毎日、お弁当上げてるのに……」
そうだね、現に今も食べてる。食い物の恩は裏切れねぇ……ここは、学校の屋上。例によって “俺達” はピートから弁当をタカってる。
「感謝してる。だから、協力はするよ。長い時間は、掛かるだろうけどな」
その間に、俺は多分死んでる……
「でも、聴き役は勘弁してくれ………いや、マジで」
確実に寿命縮むから……
「僕1人でカラオケボックスに入るの、凄く浮きますよ」
「そこにいる人間に迷惑が掛かるだろ。ウォークマンでも持って、山にでも籠もればどうだ?」
※時代は1990年代初頭、カセットテープもまたまだ現役です
その方が料金も浮く。お前だって貧乏なんだし、ちょうどいいだろ。
「あくまで1人でやれって、言うんですね……」
「同じことを、2度言えばいいのか?」
恨めしそうな顔すんなって、実際酷いんだから……こいつの得意技『ダンピール・フラッシュ』を喰らうのと、どっちがキツイんだろう…………?
「1人じゃ不安なんです、出来る気がしません」
「じゃあ、諦めろ」
ぶっちゃけ、聞き役増やしても被害者増えるだけで、成功確率の上昇なんて1%もねぇからな。
「そんなに嫌なんですか?」
「ああ、嫌だ」
すまんな……友情と命を天秤に掛けるなら、俺は迷わず命をを取る。
「………なら、毎日ここで歌ってやる!!」
「ソレダケハヤメテクレ…………………………!!!!」
何それピートさん!?そりゃ、あんまりだよ!!横暴だよ!!
「横島さん!早く謝るんジャ!!!」
「うっせえぇ!!テメェ、横でずっとしらばっくれやがって!!!!」
この野郎、都合の悪い時はステルス全開にしやがって!!
「ピート!いや、ピートさん早まるな!!」
「そうジャ、何事も冷静に………」
「#$%=™<↤⇂↪↣↮⇄⇊⇍⇛⇚⇑↷⇎⇖」
「「いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」
その後、俺達はピートが教員から止められるまで、連日 “怪音波” の餌食にされることになる……畜生、この時ばかりはあの糞共(教員達)に感謝した。
「2人共!苦しかったら、僕に歌い方を教えて下さい!!」
後日、色々考えてみたがピートはリズム感は悪くない。それは、除霊や普段の動きを見てれば良く解る。
それに、声もよく通る。あの爽やかボイスも女子達にモテる要因の一つだろうな。爆発しろピート……いやいや。
じゃあ、何故 “音痴” なんだろう……と、考えても拉致があかないんで、ダメ元で辞書で引いてみたら簡単にヒットした…………
音痴には主に二種類あって、『運動性音痴』と『感受性音痴』
『運動性音痴』は音を正確に聴き取れても、リズム感や、声に問題があって表現できない。ピートには、両方備わってるから当てはまらない。
『感受性音痴』はリズムや声に問題はなくても、聴き取る能力に欠如があって表現出来ない。しかも、こっちは矯正が困難だと言う………最悪だな、ピート。
多分、俺達とアイツとの間には、音の感受性に大きな隔たりがあるんだ。俺達の聴こえる音が、アイツには違う形に聴こえる。
つまり何が言いたいかと言うと、この時点でいくらリズム感や声の出し方についてアドバイスしたって全く意味がなかったんだよ。
そもそも、そこは問題ないんだから………………合掌。