試合会場は、異様な空気に包まれていた。
その正体は戸惑い、呆れ、怒り、苛立ち、ほんの少しの好奇心と言った所か…………
会場の中央には厳かな雰囲気が漂う試合場があり、その周りには観客席がびっしりと配置されていた。明かりが暗く、それが真剣勝負の臨場感を一層引き立てている。
そんな中、俺は会場のど真ん中に立ち、周り視線を一身に集めていた。
…………勿論、悪い意味で。
糞ったれが! 何で、こうなった!!?
◆◆◆
「霊能武道会?」
「おう! 俺等の腕試しには、持って来いの舞台じゃねぇか♪」
正式名称『全日本霊能力武道選手権大会』、GS協会主催でGS活動の振興と活性化を目的として最近から開催されてる大会で、年に一度有名な武道館を貸し切って行われている。
試合形式はGS試験に準拠した、霊的能力を伴った攻撃ならなんでもありのアルティメット形式なんだが、試験との一番の違いは個人戦と団体戦があることだ。
参加資格は、15歳以上で一定以上の霊能力があれば誰でも出場出来る。要は、GSのプロアマ問わず出場出来るって事だな。
プロのGSは、この大会でいい成績を残せれば今後の活動のプラスになるし、そうでない者はGS試験合格の合否にこの大会の成績が加味させるので、それぞれ出場するメリットがある。
まぁ、この辺は説明してくれた職員の受け売りだけどな……
たまたま、二人で協会に顔を出した時に雪之丞が設置されてるパンフを見つけて、出場したいって言い出したのが事の始まりだよ。
仕事で強い敵とやり合え無くて、詰まらねぇとかボヤいてるから大会で発散したいのかもな。
俺としても優勝すりゃ、それなりに賞金も出るし、上手くアピール出来りゃ、今後いい仕事も取りやすくなるから出場してもいいかなって気持ちではいた。
でも、いきなり問題が起こった。
個人戦と団体戦があるんだが、今年は会場の都合上個人戦が中止になっちまった。
俺達……と言うか雪之丞は、個人戦目当てだから中止と聞いた時点で普通なら話が終わる。
ただ、雪之丞は諦めきれないのか、ならピート達を誘って団体戦に出ようと言い出した。
別にそれでもいいんだけど、団体戦に出る場合は最低でも五人面子を揃えなきゃならない。
ピートとステルスを入れても、一枠足らなかったから雪之丞に適当な奴いないか聞いてみたら、「一匹狼の俺にそんなん居るわけねぇだろ!」とか言って一蹴してくれた。
威張ることじゃねぇだろ……まぁ、魔族と契約した事といい、モグリだったこと考えると、碌な知り合いが居ないのかもしれない。ちょっと、俺の配慮が足らなかったか…………
なので、最後の一枠はカオスの爺さんを誘うことにした。賞金分けると言ったら簡単に乗ってきたぜ。ピートとステルスも二つ返事で快諾してくれた。
そんな感じでメンバーが決まって、大会エントリー直前になった頃に2つ目の問題が起こる。
ピート達、三人が大会に出られなくなったからだ。ピートとステルスは、急な仕事が入ってどうにも抜けれないらしい。この辺は、仕方ねぇよな……
んで、カオスの爺さんはと言うと…………ぎっくり腰で来れなくなった。バイト中にやっちまったらしい……あんたは何故、頭脳労働をしない?
◇◇◇
「終わったな……」
俺は、諦めたように呟く。
「………馬鹿野郎、ここまで来て止めれるか!」
楽しみにしてたからな。気持ちは解らんでもないが……
「んな事言ったって、メンバーどうすんだよ?」
「この際、数合わせでいい! 2人で行けるとこまで行くぞ」
「どうする気だ?」
数合わせ? 適当な知り合いでもいんのかな?
「文殊で何とかならねぇか!!」(懇願)
「そこは他力かよ!」
……まぁ、確かに “やりよう” はあるんだが。
◇◇◇
「なぁ、横島」
フックが不安そうなダミ声を上げる。
「ん?」
「霊波放射測定ってなんだよ?俺等、霊能力ないんだぞ」
「大丈夫なの? 本当に……」
3人が、それぞれ不安そうな表情をする。そうだろうな……
「あいつ等と同じように何か出すフリしてりゃいいよ。 後は、こっちでやるから」
俺は今、測定してる連中を指差しながら伝えた。
「そうそう♪ 全部、忠夫にやらしときゃ上手くやってくれるって」
テメェは気楽でいいな……ジト目で雪之丞を睨むが、まるで気づく様子もない。
こいつらは俺のクラスメイトで、始めに声を掛けて来た田嶋は、お馴染みの “眼鏡が本体” の男……
女の方は『萩原雅美』茶髪のポニーテールをリボンで纏めた、愛子と特に仲の良い奴だ。
霊波放射測定について聞いてきた奴は渡辺……下の名前は忘れた。特徴は……別にいいか。どうせ全員、ただの数合わせだし(適当)。
もう、本当に日程詰まってたんで、クラスで暇そうにしてる奴に片っ端から声を掛けて何とか3人引っ張ってきた。
会場に一緒に来るだけで、10000円(交通費別途支給)。結構いいバイトじゃね?
「あと、これ。 1人1個ずつ」
俺は3人に、文殊を差し出した。
「何これ?」
「ビー玉……?」
3人とも文殊をしげしげと見ながら、それぞれ疑問を口にする。
「ポケットに入れといてくれればいい」
そうして、測定時にタイミングを見計らって文殊を発動する。見事に不正エントリーの完了だ!!
…………いいのか?
ただ、この時の俺はまだどこか呑気にしていた。後日、それを本気で後悔するんだが……………
◇◇◇
「伊達除霊事務所……2人しかいないけど?」
当日の1回戦直前。
チーム同士が対面して、その試合の取り決めをするんだが、相手が5人に対して俺達は2人しかいない。なので審判が、当然の疑問を投げ掛けてくる。
「悪い! 他の連中、どうも間に合わねぇみてえだ……」
いかにもバツの悪そうな顔をして、右手で “ゴメン” のポーズを取りながら、雪之丞が審判に答える。
勿論嘘だ。遅刻じゃなくて、端から来ない。本当に5対5でしなきゃならないのは決勝だけだからな。どうせ、そこまで行けないだろうし、あの3人はエントリーだけでお役御免だ。
そして、当然と言うかなんというか…………審判は元より、対戦相手も呆れ顔。観客からは、失笑が漏れる。
う〜ん……想像はしちゃいたが、中々に気分が悪い。端から見たら、タダの間抜け2人だからな。
それが解ってたから、俺は自分の着けている防護マスクに感謝する。何でこんなもん着けてんだって思われてるだろうが、向こうからは顔が解り難くて済む。
結局、そんな白け切った空気ながらも、試合は勝ち抜き戦でする事になった。総当りにする手もあったけど、5対2なら、それが一番無難だしな。
「俺が先でいいか?」
「好きにしろ、お前の発案だしな」
雪之丞が先鋒、俺が次鋒……大将? どっちでも、いいか。
◇◇◇
………………結果だけ言うと、雪之丞の圧勝だった。
1試合目の話じゃない。5人連続、余裕の完勝。しかも、途中から魔装術なしだ……要は “抜いて” やがった。
相手が、たまたま弱すぎた……?
いや、確かにそうなんだが、大会全体を見渡しても大差ない気がする。
始めは2人で出場なんて舐めプしてるから、周りの目ばっか気にしてたけど、冷静になって観察するとそれがよく分かる。
多分、今年は大した奴等が参加してないのか?
…………そう、俺でも “無双” 出来るくらいに。
2回戦……いや、チーム数の関係上これが準々決勝の時は、俺が5人抜きした。俺でも5人抜き出来るくらい弱かった。
この試合は順番を入れ替えてやったんだが、雪之丞は俺に順番を譲った時点で、既に察してたのかもな。
自分の相手になる奴なんか居ないって……
試合前はウッキウキだったのが、最後の方は借りてきた猫みたいに大人しくなってやがった。
ずっとお預け喰らって、焦らされた割に餌が……流石に餌は言い過ぎか。とにかく相手が大した事なかった分、失望が大きかったみたいだ。
そんな感じで、この日は2人共拍子抜けした感じで会場を後にした。ただ、周りの目はどこか馬鹿にしたものから、異様な者を見る目に変わっていたのが何となくだが解った。
大会は全部で2日の日程で、準決勝と決勝は明日に行う………明日も、やるのか?この空気の中で……?
そもそも、2人でやれるとこまでやろうと思って来たわけで、1回戦でも突破出来れば御の字。どうせ、すぐ負けるからそんな目立たねぇだろうなんて、タカを括ってたけど何だか悪目立ちしてる気がして仕方なかった。
別に不正してる訳じゃないし(エントリーは完全に不正だが……)、気にすることもないんだが何とも気分が悪い。
今思えば、この段階で棄権してれば良かったんだと思うが、優勝賞金という餌がチラついてその辺の判断を鈍らせていた。
そんな不安要素を抱えたまま、次の日を迎えるが更に事件が起こる。
◇◇◇
「糞っ、この電車にもいねぇ!」
「やべぇな、もう時間がねぇぞ」
数合わせの3人が、時間になっても来なかった。
仕方ないんで駅まで迎えに行ったんだが、結果は今の通り………構内では、事故の影響で線が遅れてるとアナウンスが流れていて、多分それで連中は乗る線が遅れてるんだろう。
「仕方ねぇ……俺は、先に戻ってるからお前は奴等を待っててくれ」
「ああ、解った」
そう言って、俺は駅を飛び出すと人気のない路地裏で文殊で『転』『移』と発動させた。
そうして、何とか俺一人だけ会場入りして奴等を待ってたが、結局試合時間になっても来ることなく現在に至る。
◇◇◇
準決勝の相手は、全員が綺麗に頭を剃り上げた坊さんのような連中の集まり……いや、鍛え上げられた体つきを見ると武闘派集団と呼んだ方が相応しいな。
全員、お揃い道着(白の道着の上に、丈の短い黒の法衣を重ね着している)の所を見ると、雪之丞が所属してた、『白龍会』と似たような流れの道場か?
向かい合った際に、真ん中に居る、リーダー格の男が口を開く。
五十代前後か?背丈が185はありそうな長身に、太い首、服の上からでも解る厚い胸板。道着から覗く手足は丸太のように太い。
「説明して貰おう。1人とはどういうことかな? まさか、また全員遅刻なんて言い出すんじゃないだろうね」
威圧感半端ねぇな………口調は冷静だが、目が全く笑ってない。まぁ、当然の反応なんだが。準決勝に1人で臨むなんて、舐めプ以外何もんでもねぇよ。
「申し訳ありません。その“まさか”ですよ。ウチの連中は、一般常識に欠ける奴が多過ぎてね……」
すると、リーダーの横に居る一人が口を開く。こいつにも、全身に弛まぬ鍛錬のあとが見られる。
「じゃあ、何か?前の試合みたいに、1人で俺達の相手をする積もりか!?」
こっちは、リーダーと違って怒りを隠す気はないらしい。許してくれよ。運が悪かったんだ……
「仕方ないでしょう。私に勝てたら決勝は、お譲りしますよ」
…………やべっ!「勝ったら」って、言うつもりが緊張して「勝てたら」なんて言っちまったよ。
これじゃ、ただの挑発じゃねぇか。そう思って、急いで頭ん中でフォローの言葉を探すが、もう遅い……
5人から感じる怒りのオーラが、更に強まっちまった…………こういう時は、得てして負の連鎖に陥るもんだが、今回も例外じゃないらしい。
更に別の1人が、体を一歩前に出して凄む。5人の中で一番若い。それでも、俺より年上みたいだが血の気が多そうだな。
「自信たっぷりだな……体力持つのか?最後にヘバッても、容赦しないぞっ!!」
おぉ、怖っ……マジで帰りてぇ………
よくよく考えれば、数合わせが来ない時点で棄権してれば良かったんだが、テンパってた俺がそれに気付くことはなかった。
「ふむ……確かに厳しいですね。なら、5対1でやりますか?それなら、1回で済む」
「「「……………………………………」」」
一瞬、空気が凍った気がした…………
本日、2回目の失言……
別に煽った訳じゃない。正直、ここに来て五連戦は厳しいって判断から出た言葉なんだけどな。普通に、5対1の方が “やりやすい” ………
ここは、柔道場に結界を張っただけの試合場。
当然、広さだって1対1の想定であって、6人動き回るには狭すぎる。やりようによっては、多い方が寧ろ不利になるんだが、傍目にそんな事まで解らねぇよな。
5人の怒りのオーラが、さっきの一言で明確な “殺意” に変わったのは、多分気のせいじゃない……
「………………後悔するなよ……!!!!」
リーダーの顔面完全に痙攣してやがる。俺とやる前に血管切れんじゃねぇか?今更、取り消せるわけもねぇが、藁にも縋る想いで言ってみる。
「別に……あくまで提案です。お嫌なら、普通に勝ち抜きでも構いませんが」
「いいやっ!!お前の望み通り、5対1でやってやる!死んでも恨むなよ!!!」
ですよね………
「い、いいのかい?君……」
俺達のやり取りを見兼ねた審判が助け舟を出してくれたが、ここまで来たら、もうやるしかねぇ。
「………ええ、あなたも大変ですね」
全部、俺のせいだけど……
◇◇◇
『え〜……準決勝第2試合は5対1の変則マッチで行うことになります……』
当たり前だが、場内アナウンスが流れると、それまでの異様な空気が更に剣呑としたとものに変化する。
“おいおい、大丈夫か……”
“調子に乗ってんなぁ、お前!!”
“舐め過ぎだろ?”
“フザけた野郎だ……”
観客はそれなりにいるけど、満杯って訳じゃないからな。野次が脆に聞こえやがる……まぁ、居たなら居たでプレッシャーが偉いことになりそうだが。
「「「はああああぁーーーーー!!!!」」」
そんな事を考えてると、今度はそれに合わせたんだか、単に俺を威圧したいんだか相手の5人が一気に霊圧を開放してきた。
“おお、凄ぇ……”
“五人揃うと、相当だな”
“リーダーって、確かBランクだったよな?”
“アイツ死んだろ”
“なんつー霊圧だよ”
なんだか、妙な盛り上がりを見せてるな。
でも、確かに5人揃うとそれなりの霊圧になる………全力全開の雪之丞の半分くらいには達してるか?
……………………しかし、これが『B』ランク……!?
大した脅威なんて感じない………ただ、ランク付けと言うのは単純な霊力じゃなく、悪霊の除霊数なんかの実績に拠る部分も多いからな。
だけど、強さだけで言うなら、俺もあいつもそれなりの所に食い込めるかもしれない。
そんな感慨を抱く俺は、左手をポッケに突っ込みながら棒立ちで彼等を眺めていた。
端から見れば、完全舐めプ野郎か、状況を理解出来てない馬鹿のどっちかだろうな。
内心そこまで余裕じゃないんだが、ここまで来たら状況に乗っかるしかない。
今、俺が立ってる所から彼等への距離は大体5、6m……本来は1、2mで向き合うんだが変則マッチということで、この距離になった。
“アレ” を撃つには丁度いい。
見た目は余裕ぶっこいた格好してるけど、本当に何もしてない訳じゃない。
彼等は俺に霊圧をぶつける事に夢中で気づいてないようだが、俺も体の “ある一点” に霊気を集中してる。
それは、俺のしてるバンダナ……額の中心だ!
「始め!!」
審判の合図とともに、俺は練り上げた霊気を一気に開放する!
次の瞬間、バンダナの中心に光による眼の紋様が浮かび上がり、その10cmほど先の空間から開放された霊気が一つの直線を描きながら放射された!!
バァゥーーーー!!!
「「なっ!!?」」
雪之丞と同じ『霊波砲』だ。
『心眼』を巻いた時に初めて撃ったが、その感覚が染み付いて、手で撃つよりこの方がしっくり来る。
眼の紋様は、俺の潜在意識が顕在化したんだろうな。そこに在るのは、過去への後悔と戒めか……?
まぁ、とにかく初見の相手は驚くよな。前の試合では、ずっと『霊盾』しか使わなかった。
小狡いと思わなくもないが、ルール違反じゃないんだから勘弁してくれ。
ヴァゥッ!!
「ぐぁっっ!!」
多分、リーダーを正面に残して他の4人は散開する積もりだったんだろう。身構えようとした瞬間に『霊波砲』が跳んで来たもんだから、まともな防御も出来ずそのまま吹き飛んじまった。
加減はしてるから、死にゃしないだろう。もっと言えば、連携を崩すのが目的で当たればラッキーくらいだったんだが、とにかくこれで後4人だ。
「師範っ!!?」
馬鹿がっ!!
俺は、霊波砲を撃った直後にダッシュで距離を詰めてる。
だが、彼等は初っ端でリーダーが吹っ飛んだ事に動転して、リーダー……師範とやらの方を振り返りやがった。
俺から意識を外してどうする? 目を切るのは……自殺行為だ!!
俺は、奴等に速攻で肉薄すると師範とやらの右に居た男に胸に左手で掌底を打つ!
バァゥッ!
「ぐはっ!」
ただ、掌底を打ったんじゃない。掌に予め精製していた、霊盾をぶつけたんだ。
いつもは、30〜40cmくらいで出してるが、これは掌に収まるギリギリのサイズまで凝縮することで爆発力を高めている。
名付けるなら、これは………『霊爆掌』とでも呼ぶか?
それを喰らった男は胸に衝撃を脆に受け、そのまま後ろに倒れ込む。
左側に居た男が、それに気付き再び俺の方を向くが、もう遅い。俺は既に右手で霊爆掌を奴に突き出していた。
バァゥッ!
「グァッ!!」
左の男も、右の男と同じようにもんどりを打って倒れる。
まだまだっ!
俺は瞬時に両手に霊盾を精製すると、そのまま腕を開くようにして、更に両端の男に向かって投擲した!
バァゥッ!! ボォゥッ!
「ギャッ!!」 「ぐぅっ……!」
左が浅いか………
右は起き上がる気配がないが、左の男は辛うじて防御に成功したらしい。ダメージを受けて倒れたが、まだ起き上がれそうだ。
改めて男を見ると、俺に絡んで来た1番若い奴だ。
…………倒れてる奴に撃つのも気が引けるが、ルール上倒さなきゃならねぇし仕方ねぇよな。
俺は、右手に意識を集中する。
一瞬で体中の霊気が一点に集まり、掌の中心に再び球状の霊気が浮かび上がる。
そして、十分な威力に達した霊気をそのまま投擲…………する事はなかった。
「ま……待てっ!撃つな、降参だ、降参するっ!!」
右手の霊気から、何が来るか解ったんだろう。投げる前に、両腕を振って降参してきた。
ここまで開始数秒……思った以上に早く終わったな。
「そこまで!勝者、伊達除霊事務所!!」
…………あの剣幕なら、最後まで抵抗すると思ったんだがな……って、そんなこと気にしてる場合じゃねぇな。
俺は、無言で踵を返すとそのまま振り返らず結界を出た。
別に格好付けてる訳じゃない。
ただ……今すぐ、ここから逃げたかった。出来れば全力疾走して…………
何なんだ?この異様な空気は……試合が終わってから、いきなりシンとしやがって! 不気味な事、この上ねぇな。
そうやって、平静を装いながら何とか廊下まで出てくると雪之丞達に出迎えられた。
「派手にやったな♪」
「テメェ……!」
来てんなら、出てこいよ! 俺1人、悪もんじゃねぇか………ニヤリと笑う雪之丞に、軽く殺意が湧く。
「お前、どんな反則したんだ?」
「呪われてんだろ……?」
「何かに憑かれてるんじゃない?」
「青春よ♪」
数合わせ3人も口々に喋りだす。会って早々ディスってんじゃねぇよ。しかも、なんか1人多くなってるし!
「いつ来た? 何で愛子まで一緒にいんだよ? それに来てんなら、中まで来いよ! 俺1人目立ちまくりだろ、後別にズルなんてしてねぇ!!」
「一遍に喋んなって、来たのはついさっきだよ。そしたら、モニターにお前の試合が映ってたわけだ」
雪之丞が、天井から吊り下げられたモニターを示しながら答える。
聞けば3人……愛子を入れれば4人は、俺が行った直ぐ次の列車で来たらしい。
もう少し、待ってれば良かったか? でも、それじゃ間に合わなくなりそうだし……いや、間に合わねぇ方が良かったかな?
「私は、応援よ♪ 水臭いわね、横島君。クラスメイトの試合の応援に駆け付けるなんて、青春じゃない♪」
今度は、背中に机を背負った愛子が答える。萩原に今日の事、聞いたのかな?電車の中、やたら混んでた気が済んだけど、その格好で大丈夫だったのか?
「止めろ。本当に除霊されるぞ……」
こんな霊能者が大勢いる所で、そんな人の神経逆撫でしたらシャレじゃ済まねぇからな……
それは、そうと……
「お前らの格好……もっと、何とかならなかったのか?ってか萩原、お前学校の制服じゃねぇか」
3人の格好の格好を見て、俺は頭が痛くなってきた。田嶋がTシャツにGパン、渡辺は上下赤のジャージ姿……学校の体操服じゃないだけマシ(?)萩原に至っては、愛子と同じセーラー服姿だ。
格好に特に指定があるわけじゃねぇけど、流石にヤバくねぇか?
「んな事言ったって、お前が動ける格好なら何でもいいって言ったんだぜ!」
「そうだよ。ジャージなら動き易いだろ」
「仕方ないじゃない、今日は部活の朝練だったんだよ」
「まぁ……そうだな」
…………ああ、確かに言ったな。元々、呼ぶ予定のない所に急に呼び出したわけだから仕方ねぇか。
「堅ぇこと言うなよ。どうせ、こいつ等整列したらお役御免だろ」
気楽に言うなよ。今来たばかりじゃ、しょうがねぇけど……
「いや、来てもらってアレだけど………もう、棄権しようぜ」
あの雰囲気の中で、この面子出したら本当に袋叩きに合うぞ。
「はぁ!?お前マジかよ」
「そうだぜ、折角来たのに」
「横島君が呼び出したんでしょ〜」
「青春ね♪」
「だぁ!!俺等完全に目の敵にされてんだよ。このまま行けば、何が起こるかわからねぇの!バイト代なら、払うから心配すんな」
ったく、どいつもこいつも勝手なこと抜かしやがって。しかも、1人意味不明なのが混じってるし……
「ふざけんな!お前だけに、いい格好させて終わりか?俺も5対1でやるぞ!!」
「張り合うんじゃねぇ!出来る訳ねぇだろ!!」
決勝だけは欠員が認められない。必ず5人揃えてくる必要があるから数合わせなんか、わざわざ呼んだんだ。
お互い5人ずつで総当たりか、勝ち抜きかで勝敗を決める。もっとも、やり合えるのが2人しか居ない以上勝ち抜き一択なんだが……
「うるせぇ!俺は出るったら、出るかなら!!」
「ああ、そうかよっ! じゃあ、勝手にしろ!! 」
どうなっても、知らんぞ……!
………………結論から言うと、“目出たく” 失格になった。
決勝戦は雪之丞が1人で蹴散らしたけど、数合わせの3人の不正がバレた。まぁ、測定機は誤魔化せても霊能者が普通に見れば判るからな……
「有名になったかもなぁ♪」
「悪い意味でな……」