第三百三十八話
ー/ー 九月一日、朝九時。今日は皆学園指定の夏バージョンの制服にて、新学期の始業式が行われる。いたって普通、という訳にはいかないのがこの英雄学園のルール。事実上のクラス替えである、組分けが表に張り出されていたのだ。
その中で、一喜一憂が明確に出る中で、千葉の案件を済ませた一行は一切変動なし。むしろ、それぞれがその科の中でトップクラスの地位を保っている事実に、皆驚いていたのだ。
特に驚きを隠せていなかったのが、信玄。あれだけの裏切りを大々的に発表したのにも拘らず、組は一切変わっていない。どころか、成績はトップのまま。二年一組、続投である。
あまりにもの不自然な状況に怪訝な表情を浮かべる信玄の傍に立つのは、まさかの信一郎。いつの間にか、先ほどまで着用していたスーツではなく、ネクタイまで一新した新しい夏仕様のスーツに着替えていた。
「これ……どういうことなんスか?」
「どうもこうも、千葉での一件の評価を正当にしたまでさ」
信一郎がデバイスにて見せたニュース記事には、『敢えて寝返って相手の弱点を探った、勇猛果敢な森信玄と丙良慎介』と書かれていたのだ。著者は信一郎ではなく、根津という記者であった。
「――まさか、『コレ』と共にマスコミにタレこんだ……?」
実に汚いジェスチャーでやり取りしていたのだが、対する存在は何も言わず、ただあくどい笑みを浮かべサムズアップをするのみ。それをするのにどれほどの金が動いたのだか、信玄は単純に興味が出てしまった。
「……ま、少なくとも来栖善吉を打倒し、平穏を取り戻した実績は評価すべきだと考えてね。結局はそこなのよねぇ」
「――ありがとう、ございます」
深々と頭を下げる信玄の肩を、何も語ることは無く何度か叩く信一郎。それは暗に、「これからも精進してね」という、教育者としての側面が顕れた結果だろう。
その後、全学年が集った始業式では、千葉での案件、その解決の功労者である礼安たちが、全員表彰された。信一郎は事の全てを知っているがために、今更感はあるものの、全員に立派な賞状を授与。皆からの信頼、そして畏怖の念が強まった瞬間でもあった。
「次は、その千葉県での騒動で、名誉ある戦死を遂げた一名に、哀悼の意を捧げ黙祷したいと思います。名は、加賀美陽。武器科としてこれまで以上に事態の解決に励み、東京湾会場にて行われた新生山梨支部壊滅作戦……その作戦中に、敵の攻撃を庇った結果――ライセンス化するという名誉ある死を遂げました。では――黙祷」
一分間の静寂。それは、礼安のライセンスとして、新たに増えた加賀美の意志を少しでも供養するためのものであり、勇敢なる意思を評するもの。形こそないものの、礼安たちに授与された賞状の様なものである。
事情を知らない者は、教会への敵意を強め。
事情を知る者は、ただひたすらに彼女の慈愛、そして献身に対しての礼を捧げ。
その一分間の静寂は、終わりを告げたのだった。
命ある以上、生と死は一生付きまとってくる自身への枷である。その中で、どう足掻くか、どう輝くか。それは当人次第となるのだが、若くして命を落とした者はそのチャンスに恵まれなかった。その短い生涯の中で、どれほど輝けたかなど故人には理解できないだろうが、少なくとも加賀美は輝いていた。
どんな時にどうなるか、それは何かしらの思し召しで決まっている訳ではない。ましてや、この世の全てがあらかじめ決まった流れで動いている、という訳でもない。ただ、生きていく上で、不幸が積み重なることが多くなるタイミングが存在する。今回は、丁度その時だったのだ。
でも、加賀美は自分の使命を貫き通した。死体すら残らない状況になろうとも、礼安の窮地を救うために、命を賭した大博打を決行、その賭けに勝利したのだ。
ゆえの、名誉ある死である。軍人でなくとも、もし彼女が一般人であろうと、それは適用されるだろう。
会場中がしんみりとした空気感に包まれる中、信一郎は次なる発表内容を用意していた。しかし、これに関しては事前のセトリにはないもので、教師陣や生徒会の面子がざわついていた。それに通常の生徒たちも。
何となく察していた丙良以外、基本的に千葉県にて大立ち回りをした面子は、何のことか理解不能であった。
「では、トンデモ重大発表は……こちらッ!!」
信一郎の背後、舞台袖からステージ中央に歩いてくる存在。一見新たな教師の発表かに見紛う他の生徒であったが、礼安たちは違った。
あまりにもの衝撃的な事実に、院も透も信玄もエヴァも、二枚目であることや美人であることなど一切関係なしに、一様に口をぽかんと開けていた。
「えーこちら、新たにこちらに赴任してきた……訳ではありません! 自己紹介どうぞ!!」
そこに居たのは……これまでと一切変わらないグレーのスーツ、その胸元には……あろうことか名札がネクタイピンにて止められている。『学生用』の体育館用シューズを履いた、インテリヤクザと言わんばかりの風貌の男――灰崎廉治がそこに雄々と立っていたのだ。
「「「「嘘だろ/でしょ!?」」」」
灰崎はそんな見知った人物たちの言葉を聞き流し、即座にその場で少々屈み、体を若干斜めに下す。頭を少し下げた状態で右掌を見せるように出し、大勢を目の前にしながらも物怖じすることなく皆を強い瞳で見据える。
「――お控えなすって。手前生国と発しますは、富士の山お膝元、山梨は甲州市の生まれ……姓は灰崎、名は廉治。呼ばれる名は、基本名前以外ありませんのであしからず」
実に流暢な、仁義を切った灰崎。その場の空気感が、「本物のヤクザを目の当たりにしている」という恐怖心に変わっているような気がしたため、仕方なく途中で名乗り口上をやめにした。
そして、それは信一郎が一番理解していたために、すぐさま困り顔のままで灰崎を紹介したのだった。
「……とまあ、この人は単なる元極道って訳じゃあないんだ。実は、少し前にあった山梨の案件、千葉の案件と連続で前線に立って、私たちと共に戦ってくれた勇敢な男なんだ! さらに……少し前の千葉県での一件で、この灰崎君はまさかの因子を目覚めさせてねぇ! 新たに『英雄科一年一組生徒として転入』することに決まったんだ!!」
「「「「「はァ!?」」」」」
実にごもっともな反応に、辟易としながらも灰崎は信一郎からマイクを再度預かり、突如伝えられた内容についての弁明を、頭痛と並行して胃痛と共に戦いながら始めたのだ。
「――実は、俺がこれを知らされたのは……つい昨日のことだった。千葉県での祝勝会の中、急に耳打ちして伝えられたんだ……「あ、明日から君ウチの学生ね」って……俺、二十五なのに……何なら九月二十八日に誕生日迎えて二十六だってのに……!!」
その年齢差、礼安と比較して綺麗に十歳差。この事実は、学生たちにとって震撼そのものであった。高校生や大学生になるのには、実は何歳でも基本的に可能であり、年齢差が生まれるだなんてことはレアケースではあるが実際に存在する。七十くらいのおじいさんが新入生としてクラスに入って来た、だなんてことも実例として存在する。
それと比べたらまだ軽い方ではあるが、間違いなくお互い気を遣うことは確定事項。大人は大人でも、裏社会で生きてきた本物の極道であるため、恐怖心は抱かれるだろう。
さらに、よりにもよって出だしから『一年一組』の仲間入りである。一年はまだしも一組である。功績の面を考えると妥当なのだが、周りが驚き五割、割り切ってライバル意識を飛ばすもの五割と、灰崎の胃は休まらない。
「まあその点に関しては大丈夫! ね、礼安!」
ウインクする先には、最も敬語が使えず最も誰に対してもフランクな少女が太陽のような笑顔をキープ。灰崎は全力で溜息を吐きながらも、ぎこちない笑いを見せるのだった。
「――という訳で! 始業式はこれで終了! 今日はもうこれで終わりだから、各々自由活動に励んでくれたまえ~!」
何ともまあ無責任に手をひらひらと振って、学生らを見送る信一郎。これが学園長の姿である。
この後、体育館裏手からこっそり混沌状態となった体育館から抜け出そうとしていた灰崎だが、学園内に存在する新聞部やら、運動部の勧誘、そして同じ学年のライバル意識を持った輩に捕まった結果、一時間平気で拘束を食らい、大層困り果てたらしい。
しかも、その後に待っているのは学園お付きの記者軍団。電撃転入を果たした時の人、元極道である彼をスクープだと認識した一団は、灰崎を滅茶苦茶に追い掛け回すことになった。灰崎は面倒事であることを即座に認知、その場から逃げ出して、礼安たちと共に学園の外に飛び出すのだった。
これにより、灰崎ももれなく信一郎の『計画』の一員となった。一般人からの成り上がり、それを体現した灰崎は、すぐさま知名度と人気が急上昇することになったのだが、それを良く思わない存在が一人。
灰崎と同タイミングで、ファザー牧場のいち従業員から学園内の清掃員として転職した千尋であった。
「――人気者になっちゃって……廉治め」
口を尖らせる千尋であったが、非常に体躯の良い新入り清掃員も、彼の慌てふためく様子を見て、感慨深いように涙ぐんでいた。
「……アイツも、遂に居場所を見つけられたんじゃな。アイツを昔から知っとる、ワシも鼻が高い」
「狐川さん、でしたっけ? 何で清掃員なんかに? 元々、廉治と一緒の極道だったんでしょう?」
その最もと言える問いに、狐川は元蛇使組構成員たちを後ろに付かせながら、微笑するのだった。
「――それもこれも、学園長さんである信一郎さんのおかげじゃ。グレープにも、世間様のどこにも居場所のない、ワシらを拾ってくれたんじゃ。元暴五年条項を満たすためにも、便宜を図ってくれたんじゃ」
「……そゆこと、ですか」
納得したように笑うと、千尋は灰崎にメッセージサービスにて連絡を取りに図る。それは、今後の食事や、大人ならではのデートの予定について。しかしその文章は非常に回りくどく、何ともいじらしい。そんな彼女の振る舞いを、何も言わずにサムズアップだけで応援する狐川たち。
「――何ですか、奥手なのがそんなに駄目ですか」
「いや、それもまた一つの形なんじゃな、と思うてな。思春期の学生諸君に負けねえくらいに甘酸っぱいのォ」
「うっさい!! 仕事しますよ!!」
恋する乙女は、元極道たちと共に、学園内の清掃業務に励むのだった。
久方ぶりの平穏ではあるが、学園都市を始めとした東京都各部、今日も程よく騒がしく平和である。
その中で、一喜一憂が明確に出る中で、千葉の案件を済ませた一行は一切変動なし。むしろ、それぞれがその科の中でトップクラスの地位を保っている事実に、皆驚いていたのだ。
特に驚きを隠せていなかったのが、信玄。あれだけの裏切りを大々的に発表したのにも拘らず、組は一切変わっていない。どころか、成績はトップのまま。二年一組、続投である。
あまりにもの不自然な状況に怪訝な表情を浮かべる信玄の傍に立つのは、まさかの信一郎。いつの間にか、先ほどまで着用していたスーツではなく、ネクタイまで一新した新しい夏仕様のスーツに着替えていた。
「これ……どういうことなんスか?」
「どうもこうも、千葉での一件の評価を正当にしたまでさ」
信一郎がデバイスにて見せたニュース記事には、『敢えて寝返って相手の弱点を探った、勇猛果敢な森信玄と丙良慎介』と書かれていたのだ。著者は信一郎ではなく、根津という記者であった。
「――まさか、『コレ』と共にマスコミにタレこんだ……?」
実に汚いジェスチャーでやり取りしていたのだが、対する存在は何も言わず、ただあくどい笑みを浮かべサムズアップをするのみ。それをするのにどれほどの金が動いたのだか、信玄は単純に興味が出てしまった。
「……ま、少なくとも来栖善吉を打倒し、平穏を取り戻した実績は評価すべきだと考えてね。結局はそこなのよねぇ」
「――ありがとう、ございます」
深々と頭を下げる信玄の肩を、何も語ることは無く何度か叩く信一郎。それは暗に、「これからも精進してね」という、教育者としての側面が顕れた結果だろう。
その後、全学年が集った始業式では、千葉での案件、その解決の功労者である礼安たちが、全員表彰された。信一郎は事の全てを知っているがために、今更感はあるものの、全員に立派な賞状を授与。皆からの信頼、そして畏怖の念が強まった瞬間でもあった。
「次は、その千葉県での騒動で、名誉ある戦死を遂げた一名に、哀悼の意を捧げ黙祷したいと思います。名は、加賀美陽。武器科としてこれまで以上に事態の解決に励み、東京湾会場にて行われた新生山梨支部壊滅作戦……その作戦中に、敵の攻撃を庇った結果――ライセンス化するという名誉ある死を遂げました。では――黙祷」
一分間の静寂。それは、礼安のライセンスとして、新たに増えた加賀美の意志を少しでも供養するためのものであり、勇敢なる意思を評するもの。形こそないものの、礼安たちに授与された賞状の様なものである。
事情を知らない者は、教会への敵意を強め。
事情を知る者は、ただひたすらに彼女の慈愛、そして献身に対しての礼を捧げ。
その一分間の静寂は、終わりを告げたのだった。
命ある以上、生と死は一生付きまとってくる自身への枷である。その中で、どう足掻くか、どう輝くか。それは当人次第となるのだが、若くして命を落とした者はそのチャンスに恵まれなかった。その短い生涯の中で、どれほど輝けたかなど故人には理解できないだろうが、少なくとも加賀美は輝いていた。
どんな時にどうなるか、それは何かしらの思し召しで決まっている訳ではない。ましてや、この世の全てがあらかじめ決まった流れで動いている、という訳でもない。ただ、生きていく上で、不幸が積み重なることが多くなるタイミングが存在する。今回は、丁度その時だったのだ。
でも、加賀美は自分の使命を貫き通した。死体すら残らない状況になろうとも、礼安の窮地を救うために、命を賭した大博打を決行、その賭けに勝利したのだ。
ゆえの、名誉ある死である。軍人でなくとも、もし彼女が一般人であろうと、それは適用されるだろう。
会場中がしんみりとした空気感に包まれる中、信一郎は次なる発表内容を用意していた。しかし、これに関しては事前のセトリにはないもので、教師陣や生徒会の面子がざわついていた。それに通常の生徒たちも。
何となく察していた丙良以外、基本的に千葉県にて大立ち回りをした面子は、何のことか理解不能であった。
「では、トンデモ重大発表は……こちらッ!!」
信一郎の背後、舞台袖からステージ中央に歩いてくる存在。一見新たな教師の発表かに見紛う他の生徒であったが、礼安たちは違った。
あまりにもの衝撃的な事実に、院も透も信玄もエヴァも、二枚目であることや美人であることなど一切関係なしに、一様に口をぽかんと開けていた。
「えーこちら、新たにこちらに赴任してきた……訳ではありません! 自己紹介どうぞ!!」
そこに居たのは……これまでと一切変わらないグレーのスーツ、その胸元には……あろうことか名札がネクタイピンにて止められている。『学生用』の体育館用シューズを履いた、インテリヤクザと言わんばかりの風貌の男――灰崎廉治がそこに雄々と立っていたのだ。
「「「「嘘だろ/でしょ!?」」」」
灰崎はそんな見知った人物たちの言葉を聞き流し、即座にその場で少々屈み、体を若干斜めに下す。頭を少し下げた状態で右掌を見せるように出し、大勢を目の前にしながらも物怖じすることなく皆を強い瞳で見据える。
「――お控えなすって。手前生国と発しますは、富士の山お膝元、山梨は甲州市の生まれ……姓は灰崎、名は廉治。呼ばれる名は、基本名前以外ありませんのであしからず」
実に流暢な、仁義を切った灰崎。その場の空気感が、「本物のヤクザを目の当たりにしている」という恐怖心に変わっているような気がしたため、仕方なく途中で名乗り口上をやめにした。
そして、それは信一郎が一番理解していたために、すぐさま困り顔のままで灰崎を紹介したのだった。
「……とまあ、この人は単なる元極道って訳じゃあないんだ。実は、少し前にあった山梨の案件、千葉の案件と連続で前線に立って、私たちと共に戦ってくれた勇敢な男なんだ! さらに……少し前の千葉県での一件で、この灰崎君はまさかの因子を目覚めさせてねぇ! 新たに『英雄科一年一組生徒として転入』することに決まったんだ!!」
「「「「「はァ!?」」」」」
実にごもっともな反応に、辟易としながらも灰崎は信一郎からマイクを再度預かり、突如伝えられた内容についての弁明を、頭痛と並行して胃痛と共に戦いながら始めたのだ。
「――実は、俺がこれを知らされたのは……つい昨日のことだった。千葉県での祝勝会の中、急に耳打ちして伝えられたんだ……「あ、明日から君ウチの学生ね」って……俺、二十五なのに……何なら九月二十八日に誕生日迎えて二十六だってのに……!!」
その年齢差、礼安と比較して綺麗に十歳差。この事実は、学生たちにとって震撼そのものであった。高校生や大学生になるのには、実は何歳でも基本的に可能であり、年齢差が生まれるだなんてことはレアケースではあるが実際に存在する。七十くらいのおじいさんが新入生としてクラスに入って来た、だなんてことも実例として存在する。
それと比べたらまだ軽い方ではあるが、間違いなくお互い気を遣うことは確定事項。大人は大人でも、裏社会で生きてきた本物の極道であるため、恐怖心は抱かれるだろう。
さらに、よりにもよって出だしから『一年一組』の仲間入りである。一年はまだしも一組である。功績の面を考えると妥当なのだが、周りが驚き五割、割り切ってライバル意識を飛ばすもの五割と、灰崎の胃は休まらない。
「まあその点に関しては大丈夫! ね、礼安!」
ウインクする先には、最も敬語が使えず最も誰に対してもフランクな少女が太陽のような笑顔をキープ。灰崎は全力で溜息を吐きながらも、ぎこちない笑いを見せるのだった。
「――という訳で! 始業式はこれで終了! 今日はもうこれで終わりだから、各々自由活動に励んでくれたまえ~!」
何ともまあ無責任に手をひらひらと振って、学生らを見送る信一郎。これが学園長の姿である。
この後、体育館裏手からこっそり混沌状態となった体育館から抜け出そうとしていた灰崎だが、学園内に存在する新聞部やら、運動部の勧誘、そして同じ学年のライバル意識を持った輩に捕まった結果、一時間平気で拘束を食らい、大層困り果てたらしい。
しかも、その後に待っているのは学園お付きの記者軍団。電撃転入を果たした時の人、元極道である彼をスクープだと認識した一団は、灰崎を滅茶苦茶に追い掛け回すことになった。灰崎は面倒事であることを即座に認知、その場から逃げ出して、礼安たちと共に学園の外に飛び出すのだった。
これにより、灰崎ももれなく信一郎の『計画』の一員となった。一般人からの成り上がり、それを体現した灰崎は、すぐさま知名度と人気が急上昇することになったのだが、それを良く思わない存在が一人。
灰崎と同タイミングで、ファザー牧場のいち従業員から学園内の清掃員として転職した千尋であった。
「――人気者になっちゃって……廉治め」
口を尖らせる千尋であったが、非常に体躯の良い新入り清掃員も、彼の慌てふためく様子を見て、感慨深いように涙ぐんでいた。
「……アイツも、遂に居場所を見つけられたんじゃな。アイツを昔から知っとる、ワシも鼻が高い」
「狐川さん、でしたっけ? 何で清掃員なんかに? 元々、廉治と一緒の極道だったんでしょう?」
その最もと言える問いに、狐川は元蛇使組構成員たちを後ろに付かせながら、微笑するのだった。
「――それもこれも、学園長さんである信一郎さんのおかげじゃ。グレープにも、世間様のどこにも居場所のない、ワシらを拾ってくれたんじゃ。元暴五年条項を満たすためにも、便宜を図ってくれたんじゃ」
「……そゆこと、ですか」
納得したように笑うと、千尋は灰崎にメッセージサービスにて連絡を取りに図る。それは、今後の食事や、大人ならではのデートの予定について。しかしその文章は非常に回りくどく、何ともいじらしい。そんな彼女の振る舞いを、何も言わずにサムズアップだけで応援する狐川たち。
「――何ですか、奥手なのがそんなに駄目ですか」
「いや、それもまた一つの形なんじゃな、と思うてな。思春期の学生諸君に負けねえくらいに甘酸っぱいのォ」
「うっさい!! 仕事しますよ!!」
恋する乙女は、元極道たちと共に、学園内の清掃業務に励むのだった。
久方ぶりの平穏ではあるが、学園都市を始めとした東京都各部、今日も程よく騒がしく平和である。
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