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第三百三十六話

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 それぞれが夏休み最終日を謳歌している中、悲しそうな表情かつサンドリオンの城の元で、今回の企画主の一人である、力を完全に喪失し、老いがそのままとなってしまった和井内と共に食事をとっていた。
 そうなった理由は実に分かりやすく、信玄の救出にまつわるものであった。
「――和井内さんには、申し訳ありませんでした。もう少しこちらが早めに動けば……きっと善吉のここへの侵攻を少しでも遅らせることが出来ました。千葉支部の元暴の方々も……礼安ちゃんたちには語っていないようですが、一部死亡者が出たそうじゃあないですか」
「――気づいていましたか」
 善吉のデスティニーアイランド侵攻時、別場所にて騒動を起こし、陽動作戦も同時タイミングで行われていた。その結果、デスティニーアイランド従業員である元暴の一部が、流浪の獣(リウラン・ショウ)構成員やトクリュウらの手にかかった。結果的に、善吉にまつわる出来事に関わった影響で、千葉支部は大きな損害を負ったのだ。存続はかろうじて出来るだろうが、単純にその場の担い手が大幅に減少してしまったのだ。
「それに……僕は信玄に負けました。怪人化したとはいえ……結果的に全てを終わらせたのは礼安ちゃんたちでした。正直……地盤(ベース)の力不足を感じました」
「……でも、君は強いです。少なくとも……私よりも、圧倒的に」
 和井内は、何度も歯痒い思いをした。元々、そこまで恵まれた才格のない者であったはずの和井内が、幼少期突如として因子が覚醒。それが三英傑の一人である豊臣秀吉であると分かった後から、ただその将来性にタダ乗りしようとする大人たちが大勢いた。本人がそれを良しとしなかった影響もあり、そして単純に身体能力など様々難があった影響で、英雄学園にすら入学しなかった。
 元より、和井内の心にはそれ以前に大きな穴が開いていた。両親を不慮の事故で亡くしており、そう言った浮ついたことを考えるには時間が要ったのだ。
 結局、和井内の因子はそのまま善吉の死と共に完全霧散。今や、なにも持ち合わせていない一般人同然の状態であったのだ。
「――私が、この千葉支部にて拾われるまでは……前途多難もいいところでした。そこに我らが百喰元支部長が英雄学園から来てくださったことで……この千葉支部も安泰となりました」
「……初めから、和井内さんにはお見通しだったんですね。百喰先輩が、英雄学園からのスパイだって」
「ええ。単純にそちら側の気持ちも分かりますし、横暴続きの教会、というイメージを払拭したかったのもあります。正直……私はあのカルマという女を、欠片たりとも信じてはいませんから」
 立場としては、善吉目当てで支部に所属することになった愛田や呉を始めとした、新生山梨支部幹部のような。カルマの圧倒的な悪のカリスマとしての威光を目当てにしてではなく、その支部の長である存在に惹かれ、所属することになったのだ。ゆえに、チーティングドライバーを所持していないため、一切敵視されていない。元々百喰がチーティングドライバーを用いない存在だった、というのもあるのだろう。
「だから、私は貴方を歓迎しました。信一郎さんの援助もあって、こちらの東京デスティニーアイランドを英雄学園の管理管轄に置く、という条件で、名前だけ千葉支部だなんてついてはいますが……事実上の寝返りをさせていただいた次第にあります」
 信一郎がデスティニーアイランドを欲した理由こそ、元暴の社会復帰という大義をちゃんとした形で実現させてやりたいから。事あるごとに、教会の横暴に困り果てた存在の受け皿となる場所が必要不可欠とされている。しかし、世の中はそれら前科者や元暴などの外的要因ならぬ外敵要因を嫌う傾向にある。どれほど強固な意志で社会復帰を望んでいたとしても。
 我が身可愛さに、立ち直ろうとする者たちを蹴落とそうとする。自分がもしそうなったときのことを考えられず。結果的にそういった元暴たちは、社会復帰を諦め暴力団に復帰するか、あるいはそういった一般人たちを酷く恨み大規模な破壊活動(テロリズム)を計画する……だなんてことも容易に考えられるだろう。
 だからこその、社会復帰支援。東京デスティニーアイランドで正式な従業員、あるいは感情を研究する研究員として雇い、完全な社会復帰が出来る五年間を結意義に過ごしてもらう。その五年のうち、もし日本の定める学習指導要領を十分に理解していないのだとしたら、学習支援すら行う。しのびの里にて行っていた慈善活動と同じようなことを、より大きなスケールで成し遂げようとしていたのだ。
「――私は、そう言った大義を成し遂げたいのです。世間様からは世迷言、だなんて言われてしまうかもしれませんが……それでも、世のため人のために奉仕したいのです。ですが……結局のところ私は一切戦えませんでした。貴方がた英雄の皆さんとは異なり……丁度三十路(アラサー)なのに七十以上の見た目にされてしまい、寿命もその通り減らされてしまいました」
 だからこそ、和井内にとっては、丙良たち英雄(ヒーロー)が戦えているだけで、非常に誇らしいことだと思案していたのだ。
 きっと、力不足な部分があったのかもしれない。自分の上を行く、才能に出会ってしまい消極的になってしまったのかもしれない。
 それでも、和井内にとっては等しく秀才の領域。努力と才能、全てを併せ持った存在が、己が身を粉にして必死に戦い抜く。勝ち負け問わず、そこに力がある者は等しく憧れの象徴そのものであるのだ。

「だから――自分を卑下しないでください。私のように、主義主張はあるものの、戦えないものの傍に立ち、我々を救ってくださる存在こそ……貴方がた英雄(ヒーロー)なのです。新生山梨支部の方々は、来栖善吉のことを崇めていましたが……それは私たち無力な存在である我々にとっての貴方がたと同じなんですから」

 頼る(よすが)。無力な存在を助けて当然なのではなく、助けられて礼を述べる自分たちこそが、本来の正しい構図。
 弱いから間違っているのではない、助けられなかったから存在価値がないわけではない。
 ただ、そこに立ち向かう勇気と覚悟があれば、誰であれその場限りではあるが英雄に成れる。因子を持っていようと持っていなかろうと。
 丙良は、多くの人の安寧を救ってきた。自分の思い通りにならないと考えた輩が、丙良に対して心無い言葉を投げかけていただけ。自分が何も出来なかった、あるいは一歩踏み出す勇気すらなかっただけなのに、その先にて傷をも物ともせずに勇敢に戦った存在を、誰が罵倒できようか。
「ですから――私たちからはこちらを貴方に授けたく思います。すみませんが、少々お時間を頂きたく思います」
 和井内は丙良に一礼し、その場から複数の従業員と共に立ち去る。丙良は何が起こるのか理解不能であったが、ものの数分後戻ってきた和井内の手には、このデスティニーアイランドにおける最高級品、『ガラスのハイヒール・1/1レプリカ』であった。
 かつて、デスティニー作品における大ヒット作である、『サンドリヨンの奇妙な冒険』、その内の最初の主人公が生還した際に所持し、黒幕を打倒するきっかけとなったキーアイテム、その模造品(レプリカ)であったのだ。あまりにも鋭利なヒールに、黒幕は『無駄』だと虚勢を張ったらしい。結局主人公は、実に雄々しく『オラ』と蹴りを入れたのだが。
 しかし、ただの模造品(レプリカ)と侮るなかれ。あまりにもの再現度に、ファンは喉から手が出るほどに欲する究極のレアアイテムであったのだ。値段にして一千万である。ちなみに単位は円ではなく、ドルである。
「いやこんなもの貰えるわけないですよね!?」
「これは……私たちからの心ばかりの礼です。私だけではなく、このデスティニーアイランドに五年条項(きまり)を振り払うべく勤めている従業員の皆さんも……心は一緒です」
 前時代的にはなるだろうが、極道が繋がりを作るべく対等な、あるいは疑似的な親子として儀式を行う際に用いられる、盃を酌み交わす、その代わりのようなもの。上等な酒でもそれに注いで互いに飲めば、関係は構築できるだろうが……いかんせん絵面がよろしくはない。特殊性癖の持ち主か、と称されてしまいそうなものになってしまう。

「もし丙良くんが受け取れないのなら……どうかこれは、英雄学園東京本校に飾っていただきたい。私と皆さん……それらの繋がりを示す、親愛の証として」
「――それなら、多少は罪悪感が減るかもしれませんね」

 しかし、丙良単独だとどうも落としてしまう可能性が過ってしまうために、その時が来るまで保管してもらうことにした。そして最高責任者でもある信一郎に全責任を擦り付けようと、丙良は心の内でしっかり十度ほど復唱するのだった。



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 そうなった理由は実に分かりやすく、信玄の救出にまつわるものであった。
「――和井内さんには、申し訳ありませんでした。もう少しこちらが早めに動けば……きっと善吉のここへの侵攻を少しでも遅らせることが出来ました。千葉支部の元暴の方々も……礼安ちゃんたちには語っていないようですが、一部死亡者が出たそうじゃあないですか」
「――気づいていましたか」
 善吉のデスティニーアイランド侵攻時、別場所にて騒動を起こし、陽動作戦も同時タイミングで行われていた。その結果、デスティニーアイランド従業員である元暴の一部が、|流浪の獣《リウラン・ショウ》構成員やトクリュウらの手にかかった。結果的に、善吉にまつわる出来事に関わった影響で、千葉支部は大きな損害を負ったのだ。存続はかろうじて出来るだろうが、単純にその場の担い手が大幅に減少してしまったのだ。
「それに……僕は信玄に負けました。怪人化したとはいえ……結果的に全てを終わらせたのは礼安ちゃんたちでした。正直……|地盤《ベース》の力不足を感じました」
「……でも、君は強いです。少なくとも……私よりも、圧倒的に」
 和井内は、何度も歯痒い思いをした。元々、そこまで恵まれた才格のない者であったはずの和井内が、幼少期突如として因子が覚醒。それが三英傑の一人である豊臣秀吉であると分かった後から、ただその将来性にタダ乗りしようとする大人たちが大勢いた。本人がそれを良しとしなかった影響もあり、そして単純に身体能力など様々難があった影響で、英雄学園にすら入学しなかった。
 元より、和井内の心にはそれ以前に大きな穴が開いていた。両親を不慮の事故で亡くしており、そう言った浮ついたことを考えるには時間が要ったのだ。
 結局、和井内の因子はそのまま善吉の死と共に完全霧散。今や、なにも持ち合わせていない一般人同然の状態であったのだ。
「――私が、この千葉支部にて拾われるまでは……前途多難もいいところでした。そこに我らが百喰元支部長が英雄学園から来てくださったことで……この千葉支部も安泰となりました」
「……初めから、和井内さんにはお見通しだったんですね。百喰先輩が、英雄学園からのスパイだって」
「ええ。単純にそちら側の気持ちも分かりますし、横暴続きの教会、というイメージを払拭したかったのもあります。正直……私はあのカルマという女を、欠片たりとも信じてはいませんから」
 立場としては、善吉目当てで支部に所属することになった愛田や呉を始めとした、新生山梨支部幹部のような。カルマの圧倒的な悪のカリスマとしての威光を目当てにしてではなく、その支部の長である存在に惹かれ、所属することになったのだ。ゆえに、チーティングドライバーを所持していないため、一切敵視されていない。元々百喰がチーティングドライバーを用いない存在だった、というのもあるのだろう。
「だから、私は貴方を歓迎しました。信一郎さんの援助もあって、こちらの東京デスティニーアイランドを英雄学園の管理管轄に置く、という条件で、名前だけ千葉支部だなんてついてはいますが……事実上の寝返りをさせていただいた次第にあります」
 信一郎がデスティニーアイランドを欲した理由こそ、元暴の社会復帰という大義をちゃんとした形で実現させてやりたいから。事あるごとに、教会の横暴に困り果てた存在の受け皿となる場所が必要不可欠とされている。しかし、世の中はそれら前科者や元暴などの外的要因ならぬ外敵要因を嫌う傾向にある。どれほど強固な意志で社会復帰を望んでいたとしても。
 我が身可愛さに、立ち直ろうとする者たちを蹴落とそうとする。自分がもしそうなったときのことを考えられず。結果的にそういった元暴たちは、社会復帰を諦め暴力団に復帰するか、あるいはそういった一般人たちを酷く恨み大規模な|破壊活動《テロリズム》を計画する……だなんてことも容易に考えられるだろう。
 だからこその、社会復帰支援。東京デスティニーアイランドで正式な従業員、あるいは感情を研究する研究員として雇い、完全な社会復帰が出来る五年間を結意義に過ごしてもらう。その五年のうち、もし日本の定める学習指導要領を十分に理解していないのだとしたら、学習支援すら行う。しのびの里にて行っていた慈善活動と同じようなことを、より大きなスケールで成し遂げようとしていたのだ。
「――私は、そう言った大義を成し遂げたいのです。世間様からは世迷言、だなんて言われてしまうかもしれませんが……それでも、世のため人のために奉仕したいのです。ですが……結局のところ私は一切戦えませんでした。貴方がた英雄の皆さんとは異なり……丁度|三十路《アラサー》なのに七十以上の見た目にされてしまい、寿命もその通り減らされてしまいました」
 だからこそ、和井内にとっては、丙良たち|英雄《ヒーロー》が戦えているだけで、非常に誇らしいことだと思案していたのだ。
 きっと、力不足な部分があったのかもしれない。自分の上を行く、才能に出会ってしまい消極的になってしまったのかもしれない。
 それでも、和井内にとっては等しく秀才の領域。努力と才能、全てを併せ持った存在が、己が身を粉にして必死に戦い抜く。勝ち負け問わず、そこに力がある者は等しく憧れの象徴そのものであるのだ。
「だから――自分を卑下しないでください。私のように、主義主張はあるものの、戦えないものの傍に立ち、我々を救ってくださる存在こそ……貴方がた|英雄《ヒーロー》なのです。新生山梨支部の方々は、来栖善吉のことを崇めていましたが……それは私たち無力な存在である我々にとっての貴方がたと同じなんですから」
 頼る|縁《よすが》。無力な存在を助けて当然なのではなく、助けられて礼を述べる自分たちこそが、本来の正しい構図。
 弱いから間違っているのではない、助けられなかったから存在価値がないわけではない。
 ただ、そこに立ち向かう勇気と覚悟があれば、誰であれその場限りではあるが英雄に成れる。因子を持っていようと持っていなかろうと。
 丙良は、多くの人の安寧を救ってきた。自分の思い通りにならないと考えた輩が、丙良に対して心無い言葉を投げかけていただけ。自分が何も出来なかった、あるいは一歩踏み出す勇気すらなかっただけなのに、その先にて傷をも物ともせずに勇敢に戦った存在を、誰が罵倒できようか。
「ですから――私たちからはこちらを貴方に授けたく思います。すみませんが、少々お時間を頂きたく思います」
 和井内は丙良に一礼し、その場から複数の従業員と共に立ち去る。丙良は何が起こるのか理解不能であったが、ものの数分後戻ってきた和井内の手には、このデスティニーアイランドにおける最高級品、『ガラスのハイヒール・1/1レプリカ』であった。
 かつて、デスティニー作品における大ヒット作である、『サンドリヨンの奇妙な冒険』、その内の最初の主人公が生還した際に所持し、黒幕を打倒するきっかけとなったキーアイテム、その|模造品《レプリカ》であったのだ。あまりにも鋭利なヒールに、黒幕は『無駄』だと虚勢を張ったらしい。結局主人公は、実に雄々しく『オラ』と蹴りを入れたのだが。
 しかし、ただの|模造品《レプリカ》と侮るなかれ。あまりにもの再現度に、ファンは喉から手が出るほどに欲する究極のレアアイテムであったのだ。値段にして一千万である。ちなみに単位は円ではなく、ドルである。
「いやこんなもの貰えるわけないですよね!?」
「これは……私たちからの心ばかりの礼です。私だけではなく、このデスティニーアイランドに|五年条項《きまり》を振り払うべく勤めている従業員の皆さんも……心は一緒です」
 前時代的にはなるだろうが、極道が繋がりを作るべく対等な、あるいは疑似的な親子として儀式を行う際に用いられる、盃を酌み交わす、その代わりのようなもの。上等な酒でもそれに注いで互いに飲めば、関係は構築できるだろうが……いかんせん絵面がよろしくはない。特殊性癖の持ち主か、と称されてしまいそうなものになってしまう。
「もし丙良くんが受け取れないのなら……どうかこれは、英雄学園東京本校に飾っていただきたい。私と皆さん……それらの繋がりを示す、親愛の証として」
「――それなら、多少は罪悪感が減るかもしれませんね」
 しかし、丙良単独だとどうも落としてしまう可能性が過ってしまうために、その時が来るまで保管してもらうことにした。そして最高責任者でもある信一郎に全責任を擦り付けようと、丙良は心の内でしっかり十度ほど復唱するのだった。