夏休み、最後の日である八月三十一日。山梨の案件や千葉の案件に助力した、予定のある者以外の全面子が勢ぞろいし、学園長自ら主催、貸し切り状態にして祝勝会を開いた。
「では、山梨と千葉の案件、その完全終結に……カンパーイ!!」
「「「「「「「「「「「カンパーイ!」」」」」」」」」」」
と言っても、この場にいる面子をリストアップすると……一番の功労者たる礼安、エヴァ、信玄を始めとして、明石、信一郎、院、透、丙良、綾部、灰崎、千尋、フルボディにて救った謡以外は来なかったのだが。
まず
狐川一。開口一番、「俺のような
裏社会の人間が、そんな簡単に
堅気の皆さんに関わっちゃあならない」としみじみと語った結果、今回は組員含め出席せず。だが、信一郎はその代わりと言わんばかりに、
蛇使組にある封状を送ったらしいが、内容は知らされていないため一行は疑問のまま。
次に
中山紫。彼女は本来の仕事の方に戻った。「ラスベガスで仕事があって……」と、非常に口惜しそうにしていた。ちなみに、彼女は無類のデスティニーアイランド好きであり、アメリカのフロリダ州に存在する、デスティニーリゾートに足繁く通っているらしい。年間パスポートを保有するほどの存在なんだとか。
そして
来栖葵。記憶消去の影響を受けていない数少ない一般人に近しい存在なのだが、単純に忍野しのびの里にて催し事があるらしく、そちらに精を注ぐらしい。忍者を始めとして、御庭番衆も大分減ってしまった中で、そちらのサポートをしないとどうしようもならない、まさに火の車状態らしい。
さらに
有馬清志郎。こちらも単純に仕事。『ぷろてあクリニック』の業務が、山梨の一件以降かなり多く、小児科医としての責務を全うしている。だがデレデレの愛妻には「どうせならデスティニーアイランドに行ってお土産買ってきて欲しかったなあ」と悲しい表情を見せられた結果、非常に罪悪感に苛まれることになったらしい。
そして、最後は群馬支部支部長たる
京佑弐郎。こちらも狐川と似たような理由であり、「まだその時じゃあない、信一郎の頼みだろうと今回は遠慮するよ」と口惜しそうにキャンセルした。ちなみに今回の案件でも助力してくれた幹部含む、群馬支部幹部たちは一も二もなく行こうとして、京に全力で止められたらしい。
夜の東京デスティニーアイランドは、非常にイルミネーションが美しく、見る者全ての心を奪い去っていく。それは女子陣も同じであり、それぞれが年相応の喜びを見せていた。
少し離れた位置で二人きりの時を過ごす信玄と綾部も、これまでの欠けた日々を埋めるような非常にいい雰囲気であるために、皆一意に邪魔をしないよう近づかないでいた。
園内で振舞われるものよりも、さらにグレードが上がったホテルで提供されるような料理が、各ホテルから集結した超一流のシェフたちの手によって次々に仕上げられていく。それを尋常でないスピードで食していく礼安たち。
「お肉最高……ほっぺ落ちるぅ……」
「いけません私の最高な妹である礼安のかンわいいほっぺが落ちてはいけません落ちたほっぺは私がズッッッと吸います」
「何言ってんだ院、遂に気でも触れたか??」
「何言ってるんですか透さん!! 礼安さんのもちすべほっぺは吸ったら万病に効くんですよ!!」
「――もうツッコむの疲れた……」
非常に
疲労困憊気味な透を案じて、傍で数少ないフルボディからの生還者である
粟野謡は溌溂に笑って見せた。
「透お姉ちゃん、お料理美味しいね!」
「……そうだね。お姉ちゃんと一緒に……もっと食べようか!」
そんな幸せな空間を察知したのか、礼安たちも透や謡と共に、楽しい食事の席を囲む。
まるで学園にてドタバタやっているような、実にいつもと変わりない様子を見せる礼安たち。しかし、この光景が戻ってくるまでに紆余曲折あったからこそ、信一郎は思わず涙ぐんだ。その涙を察知してか、若人たちに基本料理を優先して渡していた灰崎と千尋、そして秘書である明石は、ほぼ同タイミングでナプキンを手渡すのだった。
「――俺らがやってきたこと……無駄じゃアなかったんスね。こうして……大勢飯の席で笑い合っている……こんな輝かしい様子、以前フルボディにいたときじゃあ考えられなかった」
「何言ってんの、廉治。私たちもこれからでしょうに」
「……気のせいかもしれねえけれどよ、千尋……距離、近くねェか?」
はっと気づいた様子の千尋は、思わず距離を取る。表情は酷く赤面しているものの、灰崎はいまいちよく分かっていない様子だった。
涙を拭く信一郎は、そんな灰崎と千尋に対して茶々を入れることにシフト。何故だか、二人の『その先』を見たくなったからであった。
「と・こ・ろ・で……お二人、当初から随分いい関係になったと思わないかい? ねえ神崎さん」
「ふェ!? べっべべべべべべべ別にそうなっていない気がするんですがどうなんでしょうかね私まーーったく知りませーんねへっへへへへへへへへへ」
「――神崎さん、貴女灰崎君を騙そうとした時もそうだけど……うちの娘と同様で欠片も嘘つけない、嘘ド下手くそタイプでしょ?」
しかしそんなやり取りを目の当たりにしても、鈍い様子の灰崎。首を横に傾げ、その様子を怪訝な表情で見やるのみ。
「そーそー……神崎さんさ、『ファースト・キス』って……いつなのかな??」
「Ohhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhッッッフ!? さっさささささああ??」
「私信頼できるツテから情報貰うことあるんだけどね? どうやらあの戦乱の中でそれを迎えたらしいんだけど……覚えあるかな神崎さァん?」
悪い表情の信一郎と、かなり深いところまで知られている事実に顔を真っ赤にしながら思わず青ざめる千尋。そして、そんな様子を目の当たりにして、羨ましさと決まった相手のいない悔しさで酒が進む明石。結局何も分からない灰崎と、非常に場は混沌としていた。
彼らに知られるのも時間の問題、と言えるであろうときに、灰崎は呆れたような顔で信一郎を窘めるのだった。しかし、信一郎は彼に対し耳打ちをすると、突如として彼は青ざめ、頭を抱え始めた。千尋も明石も、彼が頭を抱えた理由に理解が及ばなかったために、そのまま酒を飲み交わす方へシフトしたのだった。
程離れた場所では、これまでの無茶や無謀を、今の今まで事あるごとに掘り返してはイチャイチャの材料としてくべている二人が。
「――信玄、何であの時に何も言わずに行っちゃったの!? あの後から私学園長に直談判したり実際にカチコんだりしたんだから……」
「あーったく行動力の化身なんだからよ……でも何度でも言うが、俺っちなんかのためにありがとうよ、琴音」
「あーッやッばい今全力で組み敷きたい、私の彼氏全力で組み敷きたい、んでもって分からせたい」
「流石にここでは止めろよな!?」
何とも誤解されそうなやり取りではあるが、それほどに互いを想い合っている関係性だからこそ、思春期の恋愛というものは往々にして彼氏バカ、彼女バカになりやすい。それを示すいいサンプルであった。