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第三百三十二話

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 死にかけの善吉に降り注ぐは、待田も用いた違法回復薬。しかも、それは全快させる目的ではなく、『その後』の目的に用いるための布石であった。
 そして、それを垂らした存在は……他でもないカルマであった。礼安の体を借りていないために、以前見せたような口元のみが覗くフードを被り、黒のロングコートを着用するスタイルで現れたのだ。
「――カルマ……ッ……!!」
 満身創痍状態の信玄は彼女を追求することは出来なかったために、気を遣って少し離れていた変身解除状態の礼安とエヴァが追求する。
「――一体、何の用ですか? まさか……この場の全員皆殺しにでもするつもりですか」
「……絶対に、それはさせない。合同演習会の時も……何かあったっぽいし」
 しかし、礼安を始めとした英雄陣営に対して、困ったように口をへの字に曲げていた。
『いやね? 私今回はね……君らに対して詫びを入れたいと思ってね』
「……どういうことですか?」
 それは他でもなく、これまで好き放題していた、来栖善吉にまつわる事柄が理由であった。
『正直、山梨の一件含むあそこまでの横暴を許しちゃったのは、私の責任。まあ臓器売買(モツサバキ)だの、人身売買ビジネスに関しては私も一枚噛んでいたからそこには目を瞑っていたんだけれど……あろうことかある時を境に「私を超える」だのなんだの言いだしてね。千葉県の一件に関しては私の管轄外だった訳。だから――一番彼にとって嫌な手段で粛清(ころ)してあげようかな、って』
 口元のみが見える彼女が、口角を吊り上げながらも使用人を呼び出すかのように手を叩く。そこに一瞬にして現れた存在は――エヴァたちに敗北したはずの、そして綾部の傍で気を失っていたはずの愛田であった。
 礼安と信玄は怪訝な表情をしていたものの、エヴァはカルマの『悪意』に一足早く気が付き、焦った様子で愛田を止めにかかる。

「――ッ!!!! 待って、愛田亜紗(アイダ アサ)!!!! それは貴女が望んでいないことでしょう!!??」

 しかし、一瞬だけぶれが生じたものの、愛田にエヴァの声は届くことは無く、カルマに持たされた自動短銃(オートマティック・ピストル)と、ほぼ誰も居なくなった戦場から持ち出してきた異聖剣(いせいけん)アロンダイトを手にしながら善吉に触れ、どこかへ消え去ったのだ。
 エヴァは、歯を食いしばりながらもカルマに食って掛かる。

「――あの人は、来栖善吉を心の底から好いていた!! まごうこと無き純愛だった!!!! 私だって結ばれて欲しいと、敵ながらあの人の恋路を応援したのに……あの子の純粋な、純朴な想いを踏みにじるのかァッ!!!!」

 そんな激昂するエヴァに対し、カルマは呆れたような様子で言い放った。
『……君さ、前々から思っていたけれど、大分甘ちゃんだよね。敵は敵だろう? なら殺し合わなきゃ。そこに情なんているかい? 今回ばかりは要らないと思うんだ、私。だって散々善吉くんを始めとして、自他ともに酷い目に遭ったんだろう? それに善吉君止めなかったら、もっと酷いことになっていたんだろう?? なら、そこは使命を優先するのが――英雄(ヒーロー)としての役割だろう。そんなの当然だろう??』
 至極真っ当な言葉に、一切言い返せない様子のエヴァ。
『さらにさ、愛があれば何やっていいだなんて……そんなの暴論だよね。なら破壊行為(テロリズム)でも何でも、やったってそこに愛があれば許されてしまうことになってしまう。愛が理由でこの国が終わってしまうじゃあないか。そんなちっぽけなもので地球救おうとしている、所詮見世物小屋のオンパレードのような、アイドルを視聴率及び客寄せパンダとしている、見せかけだけのチャリティー番組もどきだってあるくせに――本末転倒もいいところだよ』
 しかし、礼安は違っていた。そんなカルマの(もっと)もらしい言葉に、実に真剣な表情で言い返すのだった。
「――私たちは、それは甘ちゃんだと思うよ。でも……甘ちゃんじゃあなかったら、きっと多くの人を救うことだなんて出来ないよ。誰かに心を割くことも、私たちにはきっと必要なんだ。それが、いつか自分自身を強くする、栄養(エネルギー)になりうるんだからさ」
 ポジティブシンキング、そう言われればそれで片が付く。実に礼安らしい思考であり、お人よしさが滲み出る一つの回答であった。
 英雄(ヒーロー)は、困っている誰かの元に馳せ参じる、抑止力的存在。だが情まで殺して英雄的(ヒロイック)な行動が行えるか、と言われたらそんなことは無い。いつだって誰かの親愛なる隣人として、接することが礼安やエヴァの基本スタンスであるのだ。
『ふゥん……まあいいけど。でも――まあ少なくとも、来栖善吉(クルス ゼンキチ)をはじめとした大罪人たちに、安らぎのある死なんて有り得ない。それは私を含むすべての存在に当てはまるけれどさ。君らが異を唱えても、世が許さないんだよ。それは当然のことであり、私がそうするべきだと思ったからそうするのさ』
 カルマは消え入る最後の瞬間まで、礼安たちを見つめるようにしていた。それでいて、今後行うであろう悪辣な思考を表情に滲ませながら、その場を去っていくのだった。

『今回は、正直私の落ち度が原因だからこれ以上何も言いはしないけれど……いずれ、礼安を始めとした面白い事実を伝えにやってくるさ。それは私かもしれないし、私以外の誰かかもしれないし……その時をお楽しみに、愛すべき礼安』

 口惜しそうに手をひらひらと振って、闇に消えるカルマ。恐らく、消えた愛田と同じ場所へ向かったのだ。後味は良くないまま終わったが、礼安とエヴァは満身創痍状態の信玄の肩を担いで、海ほまれの方へゆっくりと戻るのだった。



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 死にかけの善吉に降り注ぐは、待田も用いた違法回復薬。しかも、それは全快させる目的ではなく、『その後』の目的に用いるための布石であった。
 そして、それを垂らした存在は……他でもないカルマであった。礼安の体を借りていないために、以前見せたような口元のみが覗くフードを被り、黒のロングコートを着用するスタイルで現れたのだ。
「――カルマ……ッ……!!」
 満身創痍状態の信玄は彼女を追求することは出来なかったために、気を遣って少し離れていた変身解除状態の礼安とエヴァが追求する。
「――一体、何の用ですか? まさか……この場の全員皆殺しにでもするつもりですか」
「……絶対に、それはさせない。合同演習会の時も……何かあったっぽいし」
 しかし、礼安を始めとした英雄陣営に対して、困ったように口をへの字に曲げていた。
『いやね? 私今回はね……君らに対して詫びを入れたいと思ってね』
「……どういうことですか?」
 それは他でもなく、これまで好き放題していた、来栖善吉にまつわる事柄が理由であった。
『正直、山梨の一件含むあそこまでの横暴を許しちゃったのは、私の責任。まあ|臓器売買《モツサバキ》だの、人身売買ビジネスに関しては私も一枚噛んでいたからそこには目を瞑っていたんだけれど……あろうことかある時を境に「私を超える」だのなんだの言いだしてね。千葉県の一件に関しては私の管轄外だった訳。だから――一番彼にとって嫌な手段で|粛清《ころ》してあげようかな、って』
 口元のみが見える彼女が、口角を吊り上げながらも使用人を呼び出すかのように手を叩く。そこに一瞬にして現れた存在は――エヴァたちに敗北したはずの、そして綾部の傍で気を失っていたはずの愛田であった。
 礼安と信玄は怪訝な表情をしていたものの、エヴァはカルマの『悪意』に一足早く気が付き、焦った様子で愛田を止めにかかる。
「――ッ!!!! 待って、|愛田亜紗《アイダ アサ》!!!! それは貴女が望んでいないことでしょう!!??」
 しかし、一瞬だけぶれが生じたものの、愛田にエヴァの声は届くことは無く、カルマに持たされた|自動短銃《オートマティック・ピストル》と、ほぼ誰も居なくなった戦場から持ち出してきた|異聖剣《いせいけん》アロンダイトを手にしながら善吉に触れ、どこかへ消え去ったのだ。
 エヴァは、歯を食いしばりながらもカルマに食って掛かる。
「――あの人は、来栖善吉を心の底から好いていた!! まごうこと無き純愛だった!!!! 私だって結ばれて欲しいと、敵ながらあの人の恋路を応援したのに……あの子の純粋な、純朴な想いを踏みにじるのかァッ!!!!」
 そんな激昂するエヴァに対し、カルマは呆れたような様子で言い放った。
『……君さ、前々から思っていたけれど、大分甘ちゃんだよね。敵は敵だろう? なら殺し合わなきゃ。そこに情なんているかい? 今回ばかりは要らないと思うんだ、私。だって散々善吉くんを始めとして、自他ともに酷い目に遭ったんだろう? それに善吉君止めなかったら、もっと酷いことになっていたんだろう?? なら、そこは使命を優先するのが――|英雄《ヒーロー》としての役割だろう。そんなの当然だろう??』
 至極真っ当な言葉に、一切言い返せない様子のエヴァ。
『さらにさ、愛があれば何やっていいだなんて……そんなの暴論だよね。なら|破壊行為《テロリズム》でも何でも、やったってそこに愛があれば許されてしまうことになってしまう。愛が理由でこの国が終わってしまうじゃあないか。そんなちっぽけなもので地球救おうとしている、所詮見世物小屋のオンパレードのような、アイドルを視聴率及び客寄せパンダとしている、見せかけだけのチャリティー番組もどきだってあるくせに――本末転倒もいいところだよ』
 しかし、礼安は違っていた。そんなカルマの|尤《もっと》もらしい言葉に、実に真剣な表情で言い返すのだった。
「――私たちは、それは甘ちゃんだと思うよ。でも……甘ちゃんじゃあなかったら、きっと多くの人を救うことだなんて出来ないよ。誰かに心を割くことも、私たちにはきっと必要なんだ。それが、いつか自分自身を強くする、|栄養《エネルギー》になりうるんだからさ」
 ポジティブシンキング、そう言われればそれで片が付く。実に礼安らしい思考であり、お人よしさが滲み出る一つの回答であった。
 |英雄《ヒーロー》は、困っている誰かの元に馳せ参じる、抑止力的存在。だが情まで殺して|英雄的《ヒロイック》な行動が行えるか、と言われたらそんなことは無い。いつだって誰かの親愛なる隣人として、接することが礼安やエヴァの基本スタンスであるのだ。
『ふゥん……まあいいけど。でも――まあ少なくとも、|来栖善吉《クルス ゼンキチ》をはじめとした大罪人たちに、安らぎのある死なんて有り得ない。それは私を含むすべての存在に当てはまるけれどさ。君らが異を唱えても、世が許さないんだよ。それは当然のことであり、私がそうするべきだと思ったからそうするのさ』
 カルマは消え入る最後の瞬間まで、礼安たちを見つめるようにしていた。それでいて、今後行うであろう悪辣な思考を表情に滲ませながら、その場を去っていくのだった。
『今回は、正直私の落ち度が原因だからこれ以上何も言いはしないけれど……いずれ、礼安を始めとした面白い事実を伝えにやってくるさ。それは私かもしれないし、私以外の誰かかもしれないし……その時をお楽しみに、愛すべき礼安』
 口惜しそうに手をひらひらと振って、闇に消えるカルマ。恐らく、消えた愛田と同じ場所へ向かったのだ。後味は良くないまま終わったが、礼安とエヴァは満身創痍状態の信玄の肩を担いで、海ほまれの方へゆっくりと戻るのだった。