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第三百三十一話

ー/ー



 三人だけではない、これまで戦ってきた英雄たちが、全ての力を結集。心火(しんか)を燃やした超必殺技が一寸(いっすん)の狂いもなく心臓部に叩き込まれ、その拍子に善吉のドライバーやらライセンスやら、全てが完全に砕け散り、善吉自身を覆っていた魔力の塊は完全に爆発四散した。
 超必殺技の数々を受け、善吉の全身の骨は(ひしゃ)げており、死の淵に立つ状態にあった。しかし、彼の中に残留した歪んだ魔力がその部位を一瞬にして再生、高級そうなスーツがボロ雑巾のようになった、全てを失った上裸の善吉のみが倒れていたのだ。
 大量の血を流しているため、思考は定まらない。しかし、胸中には圧倒的な敗北感のみが居座っている。全ての計画がその通りに進んだうえで、最終局面で不確定要素を相手にした結果、完全敗北。仰向けに倒れ、夜空を見上げながらただひたすらに絶望していた。
「――これで、全て終わりだ。お前の多くを犠牲にする計画も、子供たちの安寧を脅かす事業も……全て。それもこれも……俺だけでどうにかなった話じゃあねえから、そこまで俺自身だけは威張らねえけどよ」
「……私はまだ、瀧本礼安(タキモト ライア)までの不確定要素だったら……対策は出来ていました。ですが……そこな武器の匠(ウエポンズ・マスタリー)、ここにいない灰崎廉治(ハイザキ レンジ)だけでなく、こうして私を見下ろす森信玄(モリ ノブハル)の持つ力の目覚めを……予期できなかった私に落ち度があったのです。結局は――私の努力不足だったのです。私の配下に……落ち度などある訳がなかったのです。期待してくれた皆には……何度謝っても許されないことをしました」
「――手前(テメェ)、変なところで律儀だよな。自分しか信じてねえ、自分しか愛していねえからだろうが、誰かのせいにすることを良しとしねえ。ビジネスマンとして養われた精神なんだろうが、そしてそれが来栖善吉(テメェ)を形成する要素なんだろうが、そこだけは高尚な精神だと思うぜ」
 念剣を、その場に突き立てて、もはや抵抗できる力がほとんど残っていない善吉の近くに寄る。手を差し伸べることはしないまでも、お互いボロボロになった中で最後の決着を付けようとしていたのだ。
 それを察知したのか、骨が治りきっていないために軋む腕を庇いながらも、震えながら立ち上がる善吉。これから待つものがどういうものか、分かった上で信玄の前に立つのだった。
「――来い。私に不満があるのだろう?」
「……てっきり、俺にぶん殴られんのが嫌だから、って言って手前が勝手に自死するもんだと思ったよ。二度目だが……変なところ律儀な奴だよ。その律義さ……慕ってくれた『あの人』にもっと向けてやりゃあ良かっただろうに」
「――何を言っているかはどうも理解に苦しむが……だが、私は抵抗する。それが当然の権利であるからな」
「そりゃあありがてェよ、無抵抗の人間ぶん殴ったら……それはこっちが悪くなっちまうからな。男同士、一対一(タイマン)の、素手喧嘩(ステゴロ)だ。泥臭ェ戦いだろうが……今の俺らにゃあうってつけだろうよ」
 互いに、臨戦態勢(ファイティングポーズ)を整え、震える足を無理やり動かして、互いに一発ずつ殴り合い始めたのだ。もはや、英雄(ヒーロー)や教会など、一切関係なしに、お互いが気に食わないからこそ、変身もせずに殴り合うのだ。
 傷の関係上、善吉よりも信玄の拳の方が、遥かにダメージが多い。ボロ雑巾同然のお互いであったが、武の利は信玄にあった。
 信之を殺した、実行犯。だから殴る。
 最終局面にて、作戦を頓挫させた。だから殴る。
 お互いにちゃんとした理由があるからこそ、その拳に力が宿るのだ。
 だが、既にお互い弱り切っているために、ベース能力を拳に乗せるだなんて、芸達者な真似は出来なかった。
 ただ無骨に、
 ただ不格好に、
 ただ不細工に、
 しかし、ただ一所懸命に。
 お互いを一発ずつ殴っていくのだ。
 正直、残された体力からして、どちらが先に事切れてもおかしくはない。どちらかがそうなるか、どちらもそうなるかはお互い知るわけがない。
 しかし、唐突にその瞬間は訪れたのだ。
 お互いの拳が、頬を捉えるのではなく、お互いにぶつかり合う。右拳同士が、満身創痍状態の男から繰り出されるものとしては信じられないほどの爆発的威力でぶつかり合うも――その瞬間に、善吉の右拳は完全に壊れ、右腕が完全に疲労で折れ、肘から開放骨折を起こしたのだ。
 信玄が、左の拳を構えた後に、たった一言呟く。

「――何か、言い残すことはあるか?」
「言い訳は、しない。それこそが――あらゆる策を弄して……それでも貴様らに敵わなかった――有能(トップ)たる、私の覚悟だ」
「……そうかよ」

 雄叫びを上げながら、ただの意地のみで推進力を上げた信玄の全力の左拳が、善吉の頬を捉えた。その瞬間に時間切れと言わんばかりに信玄の左拳が壊れ、大量出血を起こしたのだった。
 お互い、崩壊した甲板の上で、静かに倒れる。信玄はまだ命の灯火が消える寸前ではなかったのだが、善吉はもってあと数分と言った命であった。
 だが、信玄は信之の仇を討てて、善吉は道半ばで倒れるも、お互いに満足感、あるいは充足感があった。
「――来栖、善吉。お前……真っ当に社会人やってりゃあ――本当に社長でも役職持ちでもやって、ある程度大成できてたんじゃあねえか? 今お前の傍にいる奴らも……裏社会の人間含まねェある程度の人員ではあるだろうが……きっと変わらずについて来ていただろうしよ」
 善吉からの答えは、返ってこない。もう息をするのも、生命維持のために心臓を動かすのも精一杯な状況で、信玄の『if(もしも)』に耳を貸す余裕は無かったのだ。
 だが、善吉は残された命を燃やしながら、少しばかり想像した。有り得たかもしれない『if(もしも)』に、少しばかり浸ったのだ。

 その結果、過ぎったものは。数多くの社員の笑顔であったのだ。善吉の手腕によってその企業は大成していきながら、それでいて健全な経営の中でそれぞれに絆が生まれている。
 自分自身恵まれた環境で生まれ育った、という訳ではないため、そこはきっと変わらないのだろうが、大勢の笑顔の中に、善吉は立っていたのだ。
 自分たちをここまで押し上げた功労者。それでいて、会社をここまで大成させた培われた手腕が、彼らにとっての最高であり、称えられるものの代表であった。それらを裏表無しに、褒め称えられるという構図が出来上がっていたのだ。
 それらの中には、こうして作戦人員としていた秋山やオトとケイの大人の姿、そして呉や愛田がそこに居たのだ。
 心を同じくした同士が、何のしがらみもなく自分の周りにいてくれた。裏表を気にすることもなく、社会人としての自分の傍にいてくれたのだ。

 少しして、善吉は何も語ることなく、涙を流したのだ。
 喀血しながらも、その不確定要素に現を抜かしていた。
 不確定要素というものは、基本的にビジネスにおいて嫌われる存在でもあり、飛躍の象徴でもあるのだが、善吉は酷く嫌っていた。
 それなのに、命が終わる少し前にその可能性を知れたことが、知識欲の刺激になったのだ。

「……確かに、あったかもしれない未来だったかもしれないな――」

 静かに星空を眺め、笑いかけた善吉であった――――その時。


『君さ、本当迷惑な存在だよね。さんざ好き放題やってきてさ――それでいて私に楯突いて。そんな奴――綺麗に死なせるわけないじゃんね?』



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 三人だけではない、これまで戦ってきた英雄たちが、全ての力を結集。|心火《しんか》を燃やした超必殺技が|一寸《いっすん》の狂いもなく心臓部に叩き込まれ、その拍子に善吉のドライバーやらライセンスやら、全てが完全に砕け散り、善吉自身を覆っていた魔力の塊は完全に爆発四散した。
 超必殺技の数々を受け、善吉の全身の骨は|拉《ひしゃ》げており、死の淵に立つ状態にあった。しかし、彼の中に残留した歪んだ魔力がその部位を一瞬にして再生、高級そうなスーツがボロ雑巾のようになった、全てを失った上裸の善吉のみが倒れていたのだ。
 大量の血を流しているため、思考は定まらない。しかし、胸中には圧倒的な敗北感のみが居座っている。全ての計画がその通りに進んだうえで、最終局面で不確定要素を相手にした結果、完全敗北。仰向けに倒れ、夜空を見上げながらただひたすらに絶望していた。
「――これで、全て終わりだ。お前の多くを犠牲にする計画も、子供たちの安寧を脅かす事業も……全て。それもこれも……俺だけでどうにかなった話じゃあねえから、そこまで俺自身だけは威張らねえけどよ」
「……私はまだ、|瀧本礼安《タキモト ライア》までの不確定要素だったら……対策は出来ていました。ですが……そこな|武器の匠《ウエポンズ・マスタリー》、ここにいない|灰崎廉治《ハイザキ レンジ》だけでなく、こうして私を見下ろす|森信玄《モリ ノブハル》の持つ力の目覚めを……予期できなかった私に落ち度があったのです。結局は――私の努力不足だったのです。私の配下に……落ち度などある訳がなかったのです。期待してくれた皆には……何度謝っても許されないことをしました」
「――|手前《テメェ》、変なところで律儀だよな。自分しか信じてねえ、自分しか愛していねえからだろうが、誰かのせいにすることを良しとしねえ。ビジネスマンとして養われた精神なんだろうが、そしてそれが|来栖善吉《テメェ》を形成する要素なんだろうが、そこだけは高尚な精神だと思うぜ」
 念剣を、その場に突き立てて、もはや抵抗できる力がほとんど残っていない善吉の近くに寄る。手を差し伸べることはしないまでも、お互いボロボロになった中で最後の決着を付けようとしていたのだ。
 それを察知したのか、骨が治りきっていないために軋む腕を庇いながらも、震えながら立ち上がる善吉。これから待つものがどういうものか、分かった上で信玄の前に立つのだった。
「――来い。私に不満があるのだろう?」
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「――何を言っているかはどうも理解に苦しむが……だが、私は抵抗する。それが当然の権利であるからな」
「そりゃあありがてェよ、無抵抗の人間ぶん殴ったら……それはこっちが悪くなっちまうからな。男同士、|一対一《タイマン》の、|素手喧嘩《ステゴロ》だ。泥臭ェ戦いだろうが……今の俺らにゃあうってつけだろうよ」
 互いに、|臨戦態勢《ファイティングポーズ》を整え、震える足を無理やり動かして、互いに一発ずつ殴り合い始めたのだ。もはや、|英雄《ヒーロー》や教会など、一切関係なしに、お互いが気に食わないからこそ、変身もせずに殴り合うのだ。
 傷の関係上、善吉よりも信玄の拳の方が、遥かにダメージが多い。ボロ雑巾同然のお互いであったが、武の利は信玄にあった。
 信之を殺した、実行犯。だから殴る。
 最終局面にて、作戦を頓挫させた。だから殴る。
 お互いにちゃんとした理由があるからこそ、その拳に力が宿るのだ。
 だが、既にお互い弱り切っているために、ベース能力を拳に乗せるだなんて、芸達者な真似は出来なかった。
 ただ無骨に、
 ただ不格好に、
 ただ不細工に、
 しかし、ただ一所懸命に。
 お互いを一発ずつ殴っていくのだ。
 正直、残された体力からして、どちらが先に事切れてもおかしくはない。どちらかがそうなるか、どちらもそうなるかはお互い知るわけがない。
 しかし、唐突にその瞬間は訪れたのだ。
 お互いの拳が、頬を捉えるのではなく、お互いにぶつかり合う。右拳同士が、満身創痍状態の男から繰り出されるものとしては信じられないほどの爆発的威力でぶつかり合うも――その瞬間に、善吉の右拳は完全に壊れ、右腕が完全に疲労で折れ、肘から開放骨折を起こしたのだ。
 信玄が、左の拳を構えた後に、たった一言呟く。
「――何か、言い残すことはあるか?」
「言い訳は、しない。それこそが――あらゆる策を弄して……それでも貴様らに敵わなかった――|有能《トップ》たる、私の覚悟だ」
「……そうかよ」
 雄叫びを上げながら、ただの意地のみで推進力を上げた信玄の全力の左拳が、善吉の頬を捉えた。その瞬間に時間切れと言わんばかりに信玄の左拳が壊れ、大量出血を起こしたのだった。
 お互い、崩壊した甲板の上で、静かに倒れる。信玄はまだ命の灯火が消える寸前ではなかったのだが、善吉はもってあと数分と言った命であった。
 だが、信玄は信之の仇を討てて、善吉は道半ばで倒れるも、お互いに満足感、あるいは充足感があった。
「――来栖、善吉。お前……真っ当に社会人やってりゃあ――本当に社長でも役職持ちでもやって、ある程度大成できてたんじゃあねえか? 今お前の傍にいる奴らも……裏社会の人間含まねェある程度の人員ではあるだろうが……きっと変わらずについて来ていただろうしよ」
 善吉からの答えは、返ってこない。もう息をするのも、生命維持のために心臓を動かすのも精一杯な状況で、信玄の『|if《もしも》』に耳を貸す余裕は無かったのだ。
 だが、善吉は残された命を燃やしながら、少しばかり想像した。有り得たかもしれない『|if《もしも》』に、少しばかり浸ったのだ。
 その結果、過ぎったものは。数多くの社員の笑顔であったのだ。善吉の手腕によってその企業は大成していきながら、それでいて健全な経営の中でそれぞれに絆が生まれている。
 自分自身恵まれた環境で生まれ育った、という訳ではないため、そこはきっと変わらないのだろうが、大勢の笑顔の中に、善吉は立っていたのだ。
 自分たちをここまで押し上げた功労者。それでいて、会社をここまで大成させた培われた手腕が、彼らにとっての最高であり、称えられるものの代表であった。それらを裏表無しに、褒め称えられるという構図が出来上がっていたのだ。
 それらの中には、こうして作戦人員としていた秋山やオトとケイの大人の姿、そして呉や愛田がそこに居たのだ。
 心を同じくした同士が、何のしがらみもなく自分の周りにいてくれた。裏表を気にすることもなく、社会人としての自分の傍にいてくれたのだ。
 少しして、善吉は何も語ることなく、涙を流したのだ。
 喀血しながらも、その不確定要素に現を抜かしていた。
 不確定要素というものは、基本的にビジネスにおいて嫌われる存在でもあり、飛躍の象徴でもあるのだが、善吉は酷く嫌っていた。
 それなのに、命が終わる少し前にその可能性を知れたことが、知識欲の刺激になったのだ。
「……確かに、あったかもしれない未来だったかもしれないな――」
 静かに星空を眺め、笑いかけた善吉であった――――その時。
『君さ、本当迷惑な存在だよね。さんざ好き放題やってきてさ――それでいて私に楯突いて。そんな奴――綺麗に死なせるわけないじゃんね?』