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8,若者同士で親交を深める

ー/ー



「はあ」

 うつむいたまま、顎を前に出すようにしてうなずいた政樹は、もうこちらを見ようともしない。律人は、前に向き直りながら思う。
 
 僕なんかと仲良くするのはごめんだと思っているかもしれないけれど、それはお互い様だ。今の態度から見て、彼も嫌々連れて来られたに違いない。
 
 どっちにしても、これから数日間のことを思うと憂鬱でたまらない。
 
 
 
 午前中に家を出ても、別荘に着くまでに昼時を迎えるので、いつも途中で昼食を取ることになっている。今日も、あらかじめ決めてあるレストランで祖父母たちと合流することになっていた。
 
 車で近づいて行くと、店の表に琴子が立っているのが見えた。
 
「ああ、琴子さんがいた。うちの家政婦さんなんですよ」

 恭平が後部座席の二人に説明し、店の駐車場に車を進める。気がついた琴子が近づいて来た。
 
「お待たせ」

 車を降りながら、恭平が琴子に声をかける。
 
「私たちも先ほど着いたばかりですよ」

 笑顔で言って、琴子は助手席側に近づいて来た。そして、杖をついて車を降りる律人に寄り添い、ドアを閉めてくれる。
 
「お疲れじゃありませんか?」

「ううん、大丈夫」

 そう言って店の入り口に向かって歩き出しながら、律人はふと嫌な気持ちになる。恭平に促されて先を行く佐絵たちが、振り返ってこちらを見ている。
 
 律人は、事故に遭う前のことを覚えていない。だから、こうして杖をついて歩くのは当たり前のことだし、通院以外で出かけることもあまりないので、それほど人の視線を気にすることもなかった。
 
 だが今は、いつになく屈辱的な気持ちがする。それはただの僻みかもしれないけれど、優秀で恵まれた彼らに、憐れまれているような、どことなく蔑まれているような……。
 
 
 恭平たちに少し遅れて、琴子とともに店の個室に入って行くと、佐絵たちは、祖父母と挨拶を交わしているところで、皆笑顔で和やかな雰囲気だ。
 
 律人に気づいた祖母が、その笑顔のまま、彼女の横の席を指して言った。
 
「りっくん、お疲れ様。ここにお座りなさい」

 律人は黙ったまま近づく。よその人がいる前で、特に佐絵たちの前で「りっくん」なんて呼ばないでほしいのにと思いながら。
 
 
 祖母が中心になり、大人たちは会話をしながら食事をしていたが、律人も政樹も、ただ黙々と食べた。
 
 
 
 午後、夕方と呼ぶにはまだ早い時間に別荘に着いた。恭平と佐絵は、別荘の周りを散策するという。
 
 律人は、夕食の時間まで部屋で休もうと思ったのだが、またしても祖母が余計なことを言い出した。
 
「いい機会だから、りっくんと政樹くん、夕ご飯までお話しでもして過ごしたらどう? 年寄りが一緒では気づまりでしょうから、若者同士で親交を深めるといいわ。

 何しろこれから親戚同士になるんだもの。りっくん、政樹くんが同い年でよかったわねえ」

 まったく、おばあちゃんは一人でペラペラとよくしゃべる。思わず政樹を見ると、彼も気まずそうな顔でこちらを見た。
 
 気は進まないが、やはりここは自分がリードしなくてはいけないのだろうか。そう思い、律人は仕方なく言った。
 
「あっ、じゃあ、少し話す?」

「……うん」

 政樹も、仕方なさそうにうなずいた。
 
「じゃあ、あっちで」

 律人は、リビングルームの外のテラスを指す。庭や周りの景色を眺めながらくつろいだり、お茶を飲んだり出来るように、椅子とテーブルが置いてあるのだ。
 
 祖母が、満足そうにうなずきながら言った。
 
「テラスは風が気持ちよさそうね。琴子さんにお茶とおやつを持って行ってもらうわね」



 それぞれ椅子に腰かけたところで、律人は言った。
 
「なんか、ごめん。おばあちゃんがうるさくて」

「あ。いや」

 政樹は苦笑する。ずっと仏頂面しか見ていなかったけれど、笑うと、意外と人懐っこい顔になる。
 
「急に親交を深めろとか言われてもね」

「ホント、今日会ったばっかりだし」

「お姉さん、まだ正式に婚約もしていないのに、別荘に誘ったりして迷惑だったよね。その、政樹くんも」

「いや、そんなことは。姉ちゃん、恭平さんにぞっこんみたいだし、何を着て行こうなんて言ってはしゃいでたよ」

「そうなんだ」

 今更だが、二人が結婚することは、すでに決定事項なのだとつくづく思う。そこで、ちょっと聞いてみる。
 
「お姉さんが結婚すること、嫌じゃないの?」

 すると政樹は、意外な反応を示した。
 
「どうして? うちの親たちはいい話だって喜んでるし、恭平さんのこともいい青年だって言ってるし、僕もそう思うけど」

「ふうん」

 では、恭平が結婚することを悲しんでいる自分は、もしや普通ではないのだろうか。それとも、自分とは違って、政樹にはたくさん友達がいるから、姉が結婚して家を出ても寂しくないのか。


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「はあ」
 うつむいたまま、顎を前に出すようにしてうなずいた政樹は、もうこちらを見ようともしない。律人は、前に向き直りながら思う。
 僕なんかと仲良くするのはごめんだと思っているかもしれないけれど、それはお互い様だ。今の態度から見て、彼も嫌々連れて来られたに違いない。
 どっちにしても、これから数日間のことを思うと憂鬱でたまらない。
 午前中に家を出ても、別荘に着くまでに昼時を迎えるので、いつも途中で昼食を取ることになっている。今日も、あらかじめ決めてあるレストランで祖父母たちと合流することになっていた。
 車で近づいて行くと、店の表に琴子が立っているのが見えた。
「ああ、琴子さんがいた。うちの家政婦さんなんですよ」
 恭平が後部座席の二人に説明し、店の駐車場に車を進める。気がついた琴子が近づいて来た。
「お待たせ」
 車を降りながら、恭平が琴子に声をかける。
「私たちも先ほど着いたばかりですよ」
 笑顔で言って、琴子は助手席側に近づいて来た。そして、杖をついて車を降りる律人に寄り添い、ドアを閉めてくれる。
「お疲れじゃありませんか?」
「ううん、大丈夫」
 そう言って店の入り口に向かって歩き出しながら、律人はふと嫌な気持ちになる。恭平に促されて先を行く佐絵たちが、振り返ってこちらを見ている。
 律人は、事故に遭う前のことを覚えていない。だから、こうして杖をついて歩くのは当たり前のことだし、通院以外で出かけることもあまりないので、それほど人の視線を気にすることもなかった。
 だが今は、いつになく屈辱的な気持ちがする。それはただの僻みかもしれないけれど、優秀で恵まれた彼らに、憐れまれているような、どことなく蔑まれているような……。
 恭平たちに少し遅れて、琴子とともに店の個室に入って行くと、佐絵たちは、祖父母と挨拶を交わしているところで、皆笑顔で和やかな雰囲気だ。
 律人に気づいた祖母が、その笑顔のまま、彼女の横の席を指して言った。
「りっくん、お疲れ様。ここにお座りなさい」
 律人は黙ったまま近づく。よその人がいる前で、特に佐絵たちの前で「りっくん」なんて呼ばないでほしいのにと思いながら。
 祖母が中心になり、大人たちは会話をしながら食事をしていたが、律人も政樹も、ただ黙々と食べた。
 午後、夕方と呼ぶにはまだ早い時間に別荘に着いた。恭平と佐絵は、別荘の周りを散策するという。
 律人は、夕食の時間まで部屋で休もうと思ったのだが、またしても祖母が余計なことを言い出した。
「いい機会だから、りっくんと政樹くん、夕ご飯までお話しでもして過ごしたらどう? 年寄りが一緒では気づまりでしょうから、若者同士で親交を深めるといいわ。
 何しろこれから親戚同士になるんだもの。りっくん、政樹くんが同い年でよかったわねえ」
 まったく、おばあちゃんは一人でペラペラとよくしゃべる。思わず政樹を見ると、彼も気まずそうな顔でこちらを見た。
 気は進まないが、やはりここは自分がリードしなくてはいけないのだろうか。そう思い、律人は仕方なく言った。
「あっ、じゃあ、少し話す?」
「……うん」
 政樹も、仕方なさそうにうなずいた。
「じゃあ、あっちで」
 律人は、リビングルームの外のテラスを指す。庭や周りの景色を眺めながらくつろいだり、お茶を飲んだり出来るように、椅子とテーブルが置いてあるのだ。
 祖母が、満足そうにうなずきながら言った。
「テラスは風が気持ちよさそうね。琴子さんにお茶とおやつを持って行ってもらうわね」
 それぞれ椅子に腰かけたところで、律人は言った。
「なんか、ごめん。おばあちゃんがうるさくて」
「あ。いや」
 政樹は苦笑する。ずっと仏頂面しか見ていなかったけれど、笑うと、意外と人懐っこい顔になる。
「急に親交を深めろとか言われてもね」
「ホント、今日会ったばっかりだし」
「お姉さん、まだ正式に婚約もしていないのに、別荘に誘ったりして迷惑だったよね。その、政樹くんも」
「いや、そんなことは。姉ちゃん、恭平さんにぞっこんみたいだし、何を着て行こうなんて言ってはしゃいでたよ」
「そうなんだ」
 今更だが、二人が結婚することは、すでに決定事項なのだとつくづく思う。そこで、ちょっと聞いてみる。
「お姉さんが結婚すること、嫌じゃないの?」
 すると政樹は、意外な反応を示した。
「どうして? うちの親たちはいい話だって喜んでるし、恭平さんのこともいい青年だって言ってるし、僕もそう思うけど」
「ふうん」
 では、恭平が結婚することを悲しんでいる自分は、もしや普通ではないのだろうか。それとも、自分とは違って、政樹にはたくさん友達がいるから、姉が結婚して家を出ても寂しくないのか。