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7,佐絵と政樹

ー/ー



 恭平と佐絵は、本格的に交際を始めた。つまり、そう遠くない将来、二人は結婚するのだ。
 
 
 それは、祖母の提案だった。次の連休に家族で別荘に集まるときに、佐絵も招待してはどうかというのだ。
 
 小此木山の麓に北城家の別荘があり、夏には避暑のために数日を過ごしたり、それ以外にも年に数回、健吾の家族も一緒に過ごしたりしていた。
 
 恭平は、まだ正式に婚約もしていないのに招待するのはどうか、彼女も気づまりなのではないかと、佐絵を気遣った。祖母は、それなら彼女の気持ちを聞いてから決めましょう、一人では心細いなら、誰か身内かお友達を連れて来てもいいしと言った。
 
 律人は内心、佐絵が断ればいいのにと思う一方、おそらくそんなことはないだろうとも思っていた。断れば、今後嫁ぐであろう北城家の人々の心証を悪くする。
 
 そして律人が想像した通り、佐絵は弟とともに別荘を訪れることになった。
 
 
 
 律人は口を尖らせる。
 
「佐絵さんだけでも嫌なのに、その弟まで来るなんてさ。佐絵さんだってホントは行きたくないだろうに、どうしていつもおばあちゃんは、すぐに余計なことを言い出すのかな。

 別荘に行くなんて、結婚してからでいいのに。あの人たちが来るなら僕だって行きたくないけど、そういうわけにはいかないし」

「そうだな」

 別荘には家政婦も同行するのだ。体の不自由な律人が、一人で家に残りたいと言っても許されはしないだろう。
 
 そして、それを口に出すほど律人はわがままではない。律人が本音を話すのはレオンだけで、家族の前では、一生懸命に自分を抑えているのだ。
 
 浮かない顔で黙り込む律人に、レオンは言った。
 
「別荘でも、俺を呼んでくれ」

 律人がどこにいても、呼び出してさえくれれば、レオンはそばに行くことが出来る。実際、以前に別荘の律人の部屋に行ったことがある。
 
 それはもちろん、レオンではなく律人の力によるものだ。
 
 
 
 別荘に行く前日、夕食の席でのこと。
 
「えぇっ!?」

 律人は思わず声を上げてしまった。別荘に行くとき、いつも祖父母は琴子とともに運転手の粟田の運転する車で、律人は恭平の車で行くのだが、今回恭平は、途中で佐絵と弟をピックアップしてから向かうというのだ。
 
 別荘に着くまでは恭平と二人きりでたくさん話せると思っていたのに。それが出来なくなってしまったのもショックだし、初対面の人たち、しかも恭平と結婚することになっている女性と、その弟と同行しなければならないなんて……。
 
 恭平はにこやかに言った。
 
「八津山駅前で待っていてもらうことにしたんだ。ちょうど通り道だからね」

「そう」

 嫌でたまらないけれど、今更文句を言っても仕方がない。祖母も話に加わる。
 
「若い人同士で話がはずむんじゃない? 弟さんは、りっくんと同い年だったかしらね」

 恭平が答える。
 
「うん。今、興聖学院の二年だって」

「まあ、優秀なのね。さすがは病院長の息子さん」

 そして祖母は、律人に微笑みかけた。
 
「いいお友達になれそうね」

 そうだろうか。律人は、食べかけのサーモンのムニエルの皿に視線を落とす。
 
 有数の進学校に通う病院長の息子と、事故に遭って以来、学校に通ったこともなく、最近では通信制の高校の勉強も滞りがちな自分とが、友達になどなれるものだろうか。
 
 それ以前に、自分は彼と友達になることを望んでいない。出来ることなら会いたくもないくらいなのに。
 
 
 
「ああ、いたいた」

 恭平は減速して、ロータリーの前に立つ、それぞれ手に大ぶりなバッグを提げた二人の人物に車を近づける。髪の長い女性、佐絵と、その横のひょろりとした背の高い少年。
 
 素早く降りて、恭平は後部座席のドアを開けた。
 
「おはようございます。どうぞ、乗ってください」

 髪を片手で押さえながら、佐絵は頭を下げた。

「おはようございます。お世話になります」


 二人が乗り込み、シートベルトを締めるのを待って、恭平は車を出した。
 
「律人さん」

 声をかけられ、律人は助手席から振り向く。佐絵がにこやかに言った。
 
「長篠佐絵と申します。こちらは弟の政樹です。どうぞよろしくお願いしますね」

 上品な物腰もさることながら、少しウェーブしたつやのある黒髪も、笑顔も美しい。内心、恭平が気に入るのも無理ないと思う。

「あっ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 律人が頭を下げると、佐絵は政樹に向かって言った。
 
「あなたもご挨拶しなさい」

「あっ、長篠政樹です。よろしくお願いします」

 ぼそぼそと言って、一瞬、律人に視線を向けてから、ぺこりと頭を下げた。恭平が、バックミラーを見ながら言った。
 
「政樹くん、律人と仲良くしてやってくださいね」


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 恭平と佐絵は、本格的に交際を始めた。つまり、そう遠くない将来、二人は結婚するのだ。
 それは、祖母の提案だった。次の連休に家族で別荘に集まるときに、佐絵も招待してはどうかというのだ。
 小此木山の麓に北城家の別荘があり、夏には避暑のために数日を過ごしたり、それ以外にも年に数回、健吾の家族も一緒に過ごしたりしていた。
 恭平は、まだ正式に婚約もしていないのに招待するのはどうか、彼女も気づまりなのではないかと、佐絵を気遣った。祖母は、それなら彼女の気持ちを聞いてから決めましょう、一人では心細いなら、誰か身内かお友達を連れて来てもいいしと言った。
 律人は内心、佐絵が断ればいいのにと思う一方、おそらくそんなことはないだろうとも思っていた。断れば、今後嫁ぐであろう北城家の人々の心証を悪くする。
 そして律人が想像した通り、佐絵は弟とともに別荘を訪れることになった。
 律人は口を尖らせる。
「佐絵さんだけでも嫌なのに、その弟まで来るなんてさ。佐絵さんだってホントは行きたくないだろうに、どうしていつもおばあちゃんは、すぐに余計なことを言い出すのかな。
 別荘に行くなんて、結婚してからでいいのに。あの人たちが来るなら僕だって行きたくないけど、そういうわけにはいかないし」
「そうだな」
 別荘には家政婦も同行するのだ。体の不自由な律人が、一人で家に残りたいと言っても許されはしないだろう。
 そして、それを口に出すほど律人はわがままではない。律人が本音を話すのはレオンだけで、家族の前では、一生懸命に自分を抑えているのだ。
 浮かない顔で黙り込む律人に、レオンは言った。
「別荘でも、俺を呼んでくれ」
 律人がどこにいても、呼び出してさえくれれば、レオンはそばに行くことが出来る。実際、以前に別荘の律人の部屋に行ったことがある。
 それはもちろん、レオンではなく律人の力によるものだ。
 別荘に行く前日、夕食の席でのこと。
「えぇっ!?」
 律人は思わず声を上げてしまった。別荘に行くとき、いつも祖父母は琴子とともに運転手の粟田の運転する車で、律人は恭平の車で行くのだが、今回恭平は、途中で佐絵と弟をピックアップしてから向かうというのだ。
 別荘に着くまでは恭平と二人きりでたくさん話せると思っていたのに。それが出来なくなってしまったのもショックだし、初対面の人たち、しかも恭平と結婚することになっている女性と、その弟と同行しなければならないなんて……。
 恭平はにこやかに言った。
「八津山駅前で待っていてもらうことにしたんだ。ちょうど通り道だからね」
「そう」
 嫌でたまらないけれど、今更文句を言っても仕方がない。祖母も話に加わる。
「若い人同士で話がはずむんじゃない? 弟さんは、りっくんと同い年だったかしらね」
 恭平が答える。
「うん。今、興聖学院の二年だって」
「まあ、優秀なのね。さすがは病院長の息子さん」
 そして祖母は、律人に微笑みかけた。
「いいお友達になれそうね」
 そうだろうか。律人は、食べかけのサーモンのムニエルの皿に視線を落とす。
 有数の進学校に通う病院長の息子と、事故に遭って以来、学校に通ったこともなく、最近では通信制の高校の勉強も滞りがちな自分とが、友達になどなれるものだろうか。
 それ以前に、自分は彼と友達になることを望んでいない。出来ることなら会いたくもないくらいなのに。
「ああ、いたいた」
 恭平は減速して、ロータリーの前に立つ、それぞれ手に大ぶりなバッグを提げた二人の人物に車を近づける。髪の長い女性、佐絵と、その横のひょろりとした背の高い少年。
 素早く降りて、恭平は後部座席のドアを開けた。
「おはようございます。どうぞ、乗ってください」
 髪を片手で押さえながら、佐絵は頭を下げた。
「おはようございます。お世話になります」
 二人が乗り込み、シートベルトを締めるのを待って、恭平は車を出した。
「律人さん」
 声をかけられ、律人は助手席から振り向く。佐絵がにこやかに言った。
「長篠佐絵と申します。こちらは弟の政樹です。どうぞよろしくお願いしますね」
 上品な物腰もさることながら、少しウェーブしたつやのある黒髪も、笑顔も美しい。内心、恭平が気に入るのも無理ないと思う。
「あっ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
 律人が頭を下げると、佐絵は政樹に向かって言った。
「あなたもご挨拶しなさい」
「あっ、長篠政樹です。よろしくお願いします」
 ぼそぼそと言って、一瞬、律人に視線を向けてから、ぺこりと頭を下げた。恭平が、バックミラーを見ながら言った。
「政樹くん、律人と仲良くしてやってくださいね」