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6,嫉妬以外の何物でもない

ー/ー



 律人が思った通り、見合いはうまく行ったようだ。その日の夕食の時間のこと。
 
「とってもいいお嬢さんだったわね。ご両親も理解のある方たちみたいだし」

 そう言って、祖母は上機嫌だ。祖父も、病院長と話がはずんだようだった。
 
 律人は、皆の話に黙って耳を傾ける。恭平の話が聞きたいと思っていると、彼がこちらを見て言った。
 
「律人、後で部屋に行っていいかな」

「ああ、うん」



 そわそわしながら待っていると、ドアがノックされた。律人は杖を置き、ベッドに腰かけてから返事をする。
 
「どうぞ」

 恭平は、静かにドアを開けて入って来ると、机の前の椅子をこちらに向けて腰かけた。律人は、その様子をじっと見つめる。
 
 恭平が、おもむろに口を開く。
 
「お見合いなんて初めてだから、すごく緊張したよ。仕事のプレゼンとは訳が違う」

「……そう」

「それで、実際に佐絵さんと話してみて、お付き合いしてみようと思っているんだ」

 佐絵というのが、見合い相手の名前だ。

「結婚を前提にということ?」

「どうなるか、まだわからないけどね」

 そう言いながら、恭平はどことなくうれしそうだ。
 
「とにかく、まず律人に報告したいと思って」

「そう」

「律人は、僕のことを心配してくれたからね」

 本気でそう思っているのだろうかと思いながら、律人は答える。
 
「うまくいくといいね」

 本気でそう思っているのではないけれど。恭平が微笑みながら言った。
 
「ありがとう」



 恭平は、佐絵と交際を始めた。
 
 律人が子供だった、まだ恭平が学生だった頃は、よく相手をしてくれたし、勉強も見てくれていた。就職してからは恭平も忙しくなり、ゆっくり話せるのは週末くらいだったのだが。
 
 今では、週末は佐絵とのデートに忙しく、そういう時間もなくなった。仕方がないとわかっていても、寂しくて気分が落ち込む。
 
 それで、レオンを呼び出すことも多くなった。レオンならば、律人の気持ちを全部受け止め、律人が望む限り、いくらでもそばにいてくれる。
 
 
 
「今頃恭平くん、どうしているのかなあ。もうとっくにご飯は食べただろうけど、佐絵さんとお酒でも飲んでいるのか、それとも……」

 うつむいたまま話す律人の表情は、とても寂しそうで頼りなげで、小さかった頃の彼を思い出す。レオンは、一生懸命に考えながら答える。
 
「もう遅いから、さよならをして家に向かっているところかもしれない」

「そうかな」

「うん」

 律人のために、そうであってほしいと思う。本当は、律人が望んだように見合いをしてほしくなかったが、今更そんなことを言っても仕方がないし、もともとレオンにはどうすることも出来ないのだ。
 
 律人は黙り込んでしまう。その様子を、そっとうかがっていると、部屋から離れたところで物音がした。
 
 レオンは行ったことがないし、行くことも出来ないが、おそらく、この家の玄関の方向だ。
 
「恭平くんだ」

 律人がつぶやきながら、杖を手に立ち上がる。そして、こちらを振り返ることなく、部屋を出て行った。
 
 律人の気持ちが離れたとたん、レオンの体はだんだんぼやけ始め、否応なく小さな部屋に引き戻される。
 
 
 
 足が不自由なため、律人の部屋は一階の、わりあい玄関に近い位置にある。急いで廊下を進んで行くと、思った通り、恭平が帰って来たところだ。
 
「おかえりなさい」

 声をかけると、靴を脱いでいた恭平が顔を上げた。今日のカジュアルなジャケットもよく似合っている。
 
「律人、起きてたの?」

「うん」

 キッチンに向かう恭平の後に続きながら尋ねる。
 
「デートは楽しかった?」

「え?」

 照れたような笑みを浮かべながら、恭平は、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。やはり酒を飲んで来たのだろうか。
 
 二口三口飲んでから言った。
 
「まあ楽しかったけど、失礼がないようにと思うと、ちょっと緊張したかな」

「ふうん」


 ハンサムな恭平は、大学時代にもガールフレンドがいたようだが、結婚を前提とする交際は勝手が違うのだろうかと思う。以前、ガールフレンドの存在を知ったときも、律人は、とても複雑な気持ちがしたものだ。
 
 こんなことはレオンにも言えないけれど、恭平が女性と「そういうこと」をするのかと思うと、胃の辺りがずしんと重くなる。佐絵とはまだなのか、それとも、もうしたのか。
 
 どちらにしても、結婚すれば当然するわけで、そのことを考えると、なんともいたたまれないような気持ちになる。恭平に対する自分の思いは恋愛感情ではないと思っているけれど、それでも、この気持ちが嫉妬以外の何物でもないことも自覚している。


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 律人が思った通り、見合いはうまく行ったようだ。その日の夕食の時間のこと。
「とってもいいお嬢さんだったわね。ご両親も理解のある方たちみたいだし」
 そう言って、祖母は上機嫌だ。祖父も、病院長と話がはずんだようだった。
 律人は、皆の話に黙って耳を傾ける。恭平の話が聞きたいと思っていると、彼がこちらを見て言った。
「律人、後で部屋に行っていいかな」
「ああ、うん」
 そわそわしながら待っていると、ドアがノックされた。律人は杖を置き、ベッドに腰かけてから返事をする。
「どうぞ」
 恭平は、静かにドアを開けて入って来ると、机の前の椅子をこちらに向けて腰かけた。律人は、その様子をじっと見つめる。
 恭平が、おもむろに口を開く。
「お見合いなんて初めてだから、すごく緊張したよ。仕事のプレゼンとは訳が違う」
「……そう」
「それで、実際に佐絵さんと話してみて、お付き合いしてみようと思っているんだ」
 佐絵というのが、見合い相手の名前だ。
「結婚を前提にということ?」
「どうなるか、まだわからないけどね」
 そう言いながら、恭平はどことなくうれしそうだ。
「とにかく、まず律人に報告したいと思って」
「そう」
「律人は、僕のことを心配してくれたからね」
 本気でそう思っているのだろうかと思いながら、律人は答える。
「うまくいくといいね」
 本気でそう思っているのではないけれど。恭平が微笑みながら言った。
「ありがとう」
 恭平は、佐絵と交際を始めた。
 律人が子供だった、まだ恭平が学生だった頃は、よく相手をしてくれたし、勉強も見てくれていた。就職してからは恭平も忙しくなり、ゆっくり話せるのは週末くらいだったのだが。
 今では、週末は佐絵とのデートに忙しく、そういう時間もなくなった。仕方がないとわかっていても、寂しくて気分が落ち込む。
 それで、レオンを呼び出すことも多くなった。レオンならば、律人の気持ちを全部受け止め、律人が望む限り、いくらでもそばにいてくれる。
「今頃恭平くん、どうしているのかなあ。もうとっくにご飯は食べただろうけど、佐絵さんとお酒でも飲んでいるのか、それとも……」
 うつむいたまま話す律人の表情は、とても寂しそうで頼りなげで、小さかった頃の彼を思い出す。レオンは、一生懸命に考えながら答える。
「もう遅いから、さよならをして家に向かっているところかもしれない」
「そうかな」
「うん」
 律人のために、そうであってほしいと思う。本当は、律人が望んだように見合いをしてほしくなかったが、今更そんなことを言っても仕方がないし、もともとレオンにはどうすることも出来ないのだ。
 律人は黙り込んでしまう。その様子を、そっとうかがっていると、部屋から離れたところで物音がした。
 レオンは行ったことがないし、行くことも出来ないが、おそらく、この家の玄関の方向だ。
「恭平くんだ」
 律人がつぶやきながら、杖を手に立ち上がる。そして、こちらを振り返ることなく、部屋を出て行った。
 律人の気持ちが離れたとたん、レオンの体はだんだんぼやけ始め、否応なく小さな部屋に引き戻される。
 足が不自由なため、律人の部屋は一階の、わりあい玄関に近い位置にある。急いで廊下を進んで行くと、思った通り、恭平が帰って来たところだ。
「おかえりなさい」
 声をかけると、靴を脱いでいた恭平が顔を上げた。今日のカジュアルなジャケットもよく似合っている。
「律人、起きてたの?」
「うん」
 キッチンに向かう恭平の後に続きながら尋ねる。
「デートは楽しかった?」
「え?」
 照れたような笑みを浮かべながら、恭平は、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。やはり酒を飲んで来たのだろうか。
 二口三口飲んでから言った。
「まあ楽しかったけど、失礼がないようにと思うと、ちょっと緊張したかな」
「ふうん」
 ハンサムな恭平は、大学時代にもガールフレンドがいたようだが、結婚を前提とする交際は勝手が違うのだろうかと思う。以前、ガールフレンドの存在を知ったときも、律人は、とても複雑な気持ちがしたものだ。
 こんなことはレオンにも言えないけれど、恭平が女性と「そういうこと」をするのかと思うと、胃の辺りがずしんと重くなる。佐絵とはまだなのか、それとも、もうしたのか。
 どちらにしても、結婚すれば当然するわけで、そのことを考えると、なんともいたたまれないような気持ちになる。恭平に対する自分の思いは恋愛感情ではないと思っているけれど、それでも、この気持ちが嫉妬以外の何物でもないことも自覚している。