5,物静かで優しい勇者
ー/ー 昼食には、琴子が律人の好きなオムライスを作ってくれた。午後になり、気持ちも体調もいくらか落ち着いたので、レオンに声をかけた。
「律人、大丈夫か?」
レオンが心配そうな表情で、ベッドに腰かけた律人を見下ろす。はちみつ色の髪は、風を含んだように顔の周りに形よく流れ、今は愁いを帯びた鳶色の瞳も、引きしまった口元も、スチームパンクファッションに包まれたしなやかな長身の体形も、初めて会ったときと変わらず、すべてがカッコいい。
恭平が買ってくれたラノベ小説にハマり、自分でもカッコいいキャラクターを創りたいと思い、考えに考えて、自分の好みの要素をすべて詰め込んで生み出したのが、このレオン・クロックワークだ。
いろいろと設定を決め、初めは、頭の中で敵と戦わせたりして楽しんでいた。どんな困難にも全力で対峙して打ち勝つ勇敢なヒーロー。
一時期は、本当に夢中になって想像を繰り広げていたけれど、まさか、こんなことになるとは夢にも思っていなかった。たしかに、律人の中では、彼は本当の友達のような存在ではあったけれど。
あの日はたしか、恭平が大学のゼミの合宿に出かけた日だった。体調が悪く、これから数日間恭平に会えないのかと思うと、寂しくて涙が止まらなくなった。
事故以前の記憶がないので、自分の今の境遇は、ある意味当たり前のことで、不自由はあるものの、それについてことさら嘆くこともなかった。だがそのときばかりは、親も友達の一人もいないことや、一人では何も出来ないことが悲しくてならなかった。
そして泣きながら、ふと思ったのだ。僕の心の中のヒーロー、レオン・クロックワークがここに来てくれたらいいのにと。
もちろん、本当に現れるなんて思っていたわけではない。ただ寂しくて悲しくて、泣きながらレオンを呼び続けているうちに、だんだん気持ちが高ぶり、いつしか号泣しながらレオンに助けを求めていたのだ。
すると、信じられないことに、ギアアークの勇者レオン・クロックワークが、本当に律人の部屋にやって来た。ただし、見た目は完璧で素晴らしいものの、律人の呼びかけに応じて、たった今生まれたばかりのレオン・クロックワークの中身はまっさらだった。
その後、長い時間をかけて現在のレオン・クロックワークになったのだが、それは、律人が思い描いていた勇者像とはまったく違っていた。もっとも、そこには律人の想像力の限界も大きく関係しているのだけれど。
レオンは、とても物静かで優しい。そして、いつも律人のことを気遣ってくれる。
口数や語彙が少ないのは、彼が得る情報や知識のすべてが律人経由だからだ。レオンは律人が創り上げた、架空のキャラクターなのだから。
それなのに、レオンには、律人が教えただけではない独自の感情や思考がある。彼のことは誰にも、恭平にも話したことはないし、これからも話すつもりはないけれど、レオン・クロックワークの存在は、間違いなく奇跡だ。
「座って」
そう言うと、レオンは律人の隣に静かに、形のよい長い足を心持ち開き気味にして腰かけた。今年律人は、レオンと同じ17歳になったというのに、残念ながら同じくらいの身長にはならなかった。
事故の後遺症があって運動が出来ないことや、食が細いことを考慮しても、痩せていて小柄な自分の体形は、レオンに比べてあまりにもみすぼらしいと思う。両親とも長身だったと聞いているから、180cmは無理でも、170cmは超えると思っていたのに。
レオンが身を乗り出すようにして、じっと律人の顔を見つめる。律人は言った。
「恭平くんは、おじいちゃんたちと一緒にお見合いに行ったよ」
「そうか」
「恭平くんが結婚したら、僕は一人ぼっちになっちゃう」
「そんなことはないだろう。おじいさんとおばあさんもいるし」
「まあね」
「それに、恭平さんが結婚するかどうか、まだわからない」
今日のレオンは、いつもより饒舌だ。一生懸命に律人を慰めようとしているのだとわかる。
「きっとするよ」
「そうかな」
「相手はとてもきれいな人で、お嬢様だし。まあ、よほど性格が悪いとかじゃなければ」
「そうか……」
レオンは、切なげに目を伏せる。律人は、そんな彼に身を寄せて言った。
「レオンは、ずっと僕のそばにいてね」
彼がこちらを見る。
「もちろん、ずっとそばにいる」
「レオンは、僕のことだけ見ていてね」
「もちろん、俺には律人しかいない」
律人は、ちょっと意地悪を言ってみる。
「それは、僕しかいないから仕方なくっていうこと?」
「そんなわけないじゃないか! 俺は律人のことを大切に思っているし、今までずっと話して来て、律人のことを知って、律人のことが好きだからだよ」
むきになって話すレオンを見ているうちに、うれしいのと照れくさいのとで、律人は思わず笑ってしまった。おかげで、少し気が晴れた。
「ありがとう。僕もレオンのことが大好きだよ」
「律人、大丈夫か?」
レオンが心配そうな表情で、ベッドに腰かけた律人を見下ろす。はちみつ色の髪は、風を含んだように顔の周りに形よく流れ、今は愁いを帯びた鳶色の瞳も、引きしまった口元も、スチームパンクファッションに包まれたしなやかな長身の体形も、初めて会ったときと変わらず、すべてがカッコいい。
恭平が買ってくれたラノベ小説にハマり、自分でもカッコいいキャラクターを創りたいと思い、考えに考えて、自分の好みの要素をすべて詰め込んで生み出したのが、このレオン・クロックワークだ。
いろいろと設定を決め、初めは、頭の中で敵と戦わせたりして楽しんでいた。どんな困難にも全力で対峙して打ち勝つ勇敢なヒーロー。
一時期は、本当に夢中になって想像を繰り広げていたけれど、まさか、こんなことになるとは夢にも思っていなかった。たしかに、律人の中では、彼は本当の友達のような存在ではあったけれど。
あの日はたしか、恭平が大学のゼミの合宿に出かけた日だった。体調が悪く、これから数日間恭平に会えないのかと思うと、寂しくて涙が止まらなくなった。
事故以前の記憶がないので、自分の今の境遇は、ある意味当たり前のことで、不自由はあるものの、それについてことさら嘆くこともなかった。だがそのときばかりは、親も友達の一人もいないことや、一人では何も出来ないことが悲しくてならなかった。
そして泣きながら、ふと思ったのだ。僕の心の中のヒーロー、レオン・クロックワークがここに来てくれたらいいのにと。
もちろん、本当に現れるなんて思っていたわけではない。ただ寂しくて悲しくて、泣きながらレオンを呼び続けているうちに、だんだん気持ちが高ぶり、いつしか号泣しながらレオンに助けを求めていたのだ。
すると、信じられないことに、ギアアークの勇者レオン・クロックワークが、本当に律人の部屋にやって来た。ただし、見た目は完璧で素晴らしいものの、律人の呼びかけに応じて、たった今生まれたばかりのレオン・クロックワークの中身はまっさらだった。
その後、長い時間をかけて現在のレオン・クロックワークになったのだが、それは、律人が思い描いていた勇者像とはまったく違っていた。もっとも、そこには律人の想像力の限界も大きく関係しているのだけれど。
レオンは、とても物静かで優しい。そして、いつも律人のことを気遣ってくれる。
口数や語彙が少ないのは、彼が得る情報や知識のすべてが律人経由だからだ。レオンは律人が創り上げた、架空のキャラクターなのだから。
それなのに、レオンには、律人が教えただけではない独自の感情や思考がある。彼のことは誰にも、恭平にも話したことはないし、これからも話すつもりはないけれど、レオン・クロックワークの存在は、間違いなく奇跡だ。
「座って」
そう言うと、レオンは律人の隣に静かに、形のよい長い足を心持ち開き気味にして腰かけた。今年律人は、レオンと同じ17歳になったというのに、残念ながら同じくらいの身長にはならなかった。
事故の後遺症があって運動が出来ないことや、食が細いことを考慮しても、痩せていて小柄な自分の体形は、レオンに比べてあまりにもみすぼらしいと思う。両親とも長身だったと聞いているから、180cmは無理でも、170cmは超えると思っていたのに。
レオンが身を乗り出すようにして、じっと律人の顔を見つめる。律人は言った。
「恭平くんは、おじいちゃんたちと一緒にお見合いに行ったよ」
「そうか」
「恭平くんが結婚したら、僕は一人ぼっちになっちゃう」
「そんなことはないだろう。おじいさんとおばあさんもいるし」
「まあね」
「それに、恭平さんが結婚するかどうか、まだわからない」
今日のレオンは、いつもより饒舌だ。一生懸命に律人を慰めようとしているのだとわかる。
「きっとするよ」
「そうかな」
「相手はとてもきれいな人で、お嬢様だし。まあ、よほど性格が悪いとかじゃなければ」
「そうか……」
レオンは、切なげに目を伏せる。律人は、そんな彼に身を寄せて言った。
「レオンは、ずっと僕のそばにいてね」
彼がこちらを見る。
「もちろん、ずっとそばにいる」
「レオンは、僕のことだけ見ていてね」
「もちろん、俺には律人しかいない」
律人は、ちょっと意地悪を言ってみる。
「それは、僕しかいないから仕方なくっていうこと?」
「そんなわけないじゃないか! 俺は律人のことを大切に思っているし、今までずっと話して来て、律人のことを知って、律人のことが好きだからだよ」
むきになって話すレオンを見ているうちに、うれしいのと照れくさいのとで、律人は思わず笑ってしまった。おかげで、少し気が晴れた。
「ありがとう。僕もレオンのことが大好きだよ」
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