3,律人の涙の理由
ー/ー まだ会っていないのだから、好きになるかどうかはわからないとレオンは思うが、それは口には出さない。
「会わずに断るわけにはいかないと思っているんじゃないか?」
「だけど、会ったら余計に断りづらくなるんじゃないの?」
「それはそうだが……」
どう言えば律人の気持ちを落ち着かせることが出来るのだろう……。考えていると、さらに律人は言った。
「おばあちゃんは『お見合いのためにスーツを新調しましょう』なんて言っちゃって、スーツならたくさん持っているのに、恭平くんも断るどころかその気になっているんだから」
「そうなのか」
つぶやくレオンの顔を、律人がちらりと見る。彼の返事に物足りなさを感じていることはわかる。
レオンは思う。俺はまったく、何年たっても気の利いたことが言えない。
だがそれは、律人を介して入って来ること以外に知識も情報もないからなのだ。それで、少し話の方向を変えてみる。
「律人は、恭平さんが見合いをすると、何が嫌なんだ?」
「それは……」
律人はうつむく。
「恭平くんに結婚してほしくないからに決まってるじゃないか」
「結婚すると、何が嫌なんだ?」
「だって、結婚したら、新居で暮らし始めて、きっと滅多に会えなくなっちゃう。それに……」
「それに?」
「きっと恭平くんは、僕のことなんか忘れちゃう」
「そんなことはないだろう」
「そんなこと、なくないよ。今だって、恭平くんは忙しくて、一緒にいられる時間は少ししかないんだ。
恭平くんが大学生の頃は、たくさん話したり、いつも僕の勉強を見てくれたり、定期検診で病院に行くときはいつも車で連れて行ってくれたけど、就職してからはそういうわけにはいかなくなった。
それだけでも寂しいのに、結婚したら、相手のことと仕事のことでいっぱいになって、僕が入り込む隙間なんてなくなっちゃうよ」
律人は鼻をすする。泣き出してしまったようだ。
「僕は、恭平くんのことが大好きなのに……!」
律人がしがみついて来たので、レオンは両腕でそっと抱きしめる。細い体が震えている。
恭平の見合いの日が近づくにつれ、律人は不安定になり、レオンと話しながら泣いた。不憫でならないが、彼に出来ることは少ない。
自分が恭平の代わりになれたらと思うが、無理な話だ。レオンには律人の勉強を見ることも、車で病院に連れて行くことも出来ない。
見合いの前日も、声をかけられて部屋に入ったときには、律人はすでに泣いていた。
「律人……」
前に立ち、彼を見下ろすレオンに、いつものように律人は、自分の横を示して言った。
「座って」
レオンはベッドに腰かけ、無意識のうちに彼の肩に腕を回す。
「大丈夫か?」
律人は涙声で話す。
「明日のことを考えたら、僕、ご飯が食べられなくなっちゃって」
「かわいそうに……」
レオンは肩に回した手で、そっと律人の腕をさする。
「おばあちゃんが『どうしたの? 具合が悪いの?』って聞くから……」
「うん」
「明日のお見合いが嫌だって言ったら……」
「うん」
「おばあちゃんは『おばかさんねえ』って、ちょっと困ったように笑って、おじいちゃんには『わがままを言うんじゃない』って怒られた」
「怒ること、ないのにな」
すると律人は、ちょっと口調を変えて言った。
「いや、ええと、怒られたっていうか、これは企業と企業の見合いでもあるんだから、個人的な感情で簡単に中止には出来ないって」
「そうか」
「だったら、それってやっぱり政略結婚だよね」
「そういうことに、なるのかな。それで、恭平さんはなんて?」
「やっぱり困った顔をして、『ありがとう、僕なら大丈夫だよ』って。そういうことじゃないのに……」
そしてまた、しくしくと泣き出す。
「律人」
「僕は恭平くんを心配してるわけじゃない。恭平くんがお見合いするのが嫌なだけだよ。
僕はそんないい子じゃない。自分のことしか考えない勝手な人間なんだ……」
「そんなことないよ」
レオンはただ、律人の腕をさすることしか出来ない。
律人は、ぐったりとベッドに身を横たえる。ひどく疲れているけれど、不安と寂しさと自己嫌悪が胸の中で渦巻いていて、なかなか眠れそうにない。
写真で見た限り、恭平の見合い相手は、とても清楚できれいな人だ。恭平は、優しくてカッコよくて頭がよくて、非の打ちどころがない。
くやしいけれど、どう見てもお似合いの二人だ。向こうの両親も乗り気なようだし、よほどのことがない限り、この縁談はまとまるのだろう。
「会わずに断るわけにはいかないと思っているんじゃないか?」
「だけど、会ったら余計に断りづらくなるんじゃないの?」
「それはそうだが……」
どう言えば律人の気持ちを落ち着かせることが出来るのだろう……。考えていると、さらに律人は言った。
「おばあちゃんは『お見合いのためにスーツを新調しましょう』なんて言っちゃって、スーツならたくさん持っているのに、恭平くんも断るどころかその気になっているんだから」
「そうなのか」
つぶやくレオンの顔を、律人がちらりと見る。彼の返事に物足りなさを感じていることはわかる。
レオンは思う。俺はまったく、何年たっても気の利いたことが言えない。
だがそれは、律人を介して入って来ること以外に知識も情報もないからなのだ。それで、少し話の方向を変えてみる。
「律人は、恭平さんが見合いをすると、何が嫌なんだ?」
「それは……」
律人はうつむく。
「恭平くんに結婚してほしくないからに決まってるじゃないか」
「結婚すると、何が嫌なんだ?」
「だって、結婚したら、新居で暮らし始めて、きっと滅多に会えなくなっちゃう。それに……」
「それに?」
「きっと恭平くんは、僕のことなんか忘れちゃう」
「そんなことはないだろう」
「そんなこと、なくないよ。今だって、恭平くんは忙しくて、一緒にいられる時間は少ししかないんだ。
恭平くんが大学生の頃は、たくさん話したり、いつも僕の勉強を見てくれたり、定期検診で病院に行くときはいつも車で連れて行ってくれたけど、就職してからはそういうわけにはいかなくなった。
それだけでも寂しいのに、結婚したら、相手のことと仕事のことでいっぱいになって、僕が入り込む隙間なんてなくなっちゃうよ」
律人は鼻をすする。泣き出してしまったようだ。
「僕は、恭平くんのことが大好きなのに……!」
律人がしがみついて来たので、レオンは両腕でそっと抱きしめる。細い体が震えている。
恭平の見合いの日が近づくにつれ、律人は不安定になり、レオンと話しながら泣いた。不憫でならないが、彼に出来ることは少ない。
自分が恭平の代わりになれたらと思うが、無理な話だ。レオンには律人の勉強を見ることも、車で病院に連れて行くことも出来ない。
見合いの前日も、声をかけられて部屋に入ったときには、律人はすでに泣いていた。
「律人……」
前に立ち、彼を見下ろすレオンに、いつものように律人は、自分の横を示して言った。
「座って」
レオンはベッドに腰かけ、無意識のうちに彼の肩に腕を回す。
「大丈夫か?」
律人は涙声で話す。
「明日のことを考えたら、僕、ご飯が食べられなくなっちゃって」
「かわいそうに……」
レオンは肩に回した手で、そっと律人の腕をさする。
「おばあちゃんが『どうしたの? 具合が悪いの?』って聞くから……」
「うん」
「明日のお見合いが嫌だって言ったら……」
「うん」
「おばあちゃんは『おばかさんねえ』って、ちょっと困ったように笑って、おじいちゃんには『わがままを言うんじゃない』って怒られた」
「怒ること、ないのにな」
すると律人は、ちょっと口調を変えて言った。
「いや、ええと、怒られたっていうか、これは企業と企業の見合いでもあるんだから、個人的な感情で簡単に中止には出来ないって」
「そうか」
「だったら、それってやっぱり政略結婚だよね」
「そういうことに、なるのかな。それで、恭平さんはなんて?」
「やっぱり困った顔をして、『ありがとう、僕なら大丈夫だよ』って。そういうことじゃないのに……」
そしてまた、しくしくと泣き出す。
「律人」
「僕は恭平くんを心配してるわけじゃない。恭平くんがお見合いするのが嫌なだけだよ。
僕はそんないい子じゃない。自分のことしか考えない勝手な人間なんだ……」
「そんなことないよ」
レオンはただ、律人の腕をさすることしか出来ない。
律人は、ぐったりとベッドに身を横たえる。ひどく疲れているけれど、不安と寂しさと自己嫌悪が胸の中で渦巻いていて、なかなか眠れそうにない。
写真で見た限り、恭平の見合い相手は、とても清楚できれいな人だ。恭平は、優しくてカッコよくて頭がよくて、非の打ちどころがない。
くやしいけれど、どう見てもお似合いの二人だ。向こうの両親も乗り気なようだし、よほどのことがない限り、この縁談はまとまるのだろう。
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