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ฅ7. 神猫Bの場合

ー/ー




 控えよ。

 (わらわ)は神じゃ。いま人の子らが呼ぶ、その真名(まな)を── باستت という。
 ほれ、(こうべ)を垂れよ。

 うむ。素直で愛いやつじゃ。褒めて遣わす。

 …ふむん、頭を垂れるで思い出したが、近頃の人の子らはずうっと頭を垂れておるのう。
 汝らは رعに近づかんと背を天に伸ばしたのであろうに、背を丸めて、
手元の小さき板をじつと眺めて……何ぞ(まじな)いでも書かれておるのか、あれには。

 のう、汝。汝らの小さき板には何が書かれておるのじゃ。直答(じきとう)を許す。
よいよい、神と人との境界が──などと、أنوبيس めには吠えさせておけ。


 なに?先刻から固有名らしきところが分からぬ?妾の名も?

 仕方のないやつじゃ、その率直さに免じて、分かるように教えてやろう。
妾の名は──バ・ス・テ・ト、じゃ。分かったか?
 他のじゃと? 嫌じゃ、面倒くさい。して調べい。
何のことやら分からぬが今は便利だと、تحوت が申しておったぞ。


 して、その板には…
 ──ふむん、に、
 ──ほほぉ、誰ぞが藝や智を披露して、皆を楽しませておるのか。人の子は変わらぬの。
 ──なんと、家にいながらにして商人とやり取りまでできるのか。便利なものじゃ。

………

 ははぁ……その板で何でもできるんじゃなあ。
تحوت がうるさい理由も何となく分かったわ。あやつは知識のこととなると目がないゆえな、
ぴーちくぱーちく、うるさいのじゃ。あたかも鳥のごとく……
いや、鳥じゃったわ。然らば、さもありなん。


 しかしまあ何じゃな、その板によって日々の営みも、芸事や楽士の用さえも、日常の望みが概ね叶うというのなら──それは、人の心が神から離るるも道理じゃの。

 いやいや、世とはさるものと理解しておるよ。
 ナイルとて、悠久に同じに見えども、その実、さにあらず。(いわん)や人の子らをや、ということじゃ。かのラメセス──アブ・シンベルに己が姿を刻みし王とて、滅んでしまえば王朝もろともよ。

 神から離るるを望むというなら、止めはせぬよ。人の子らが両の足で歩むことを望むのなら、それは送り出してやらねばの。
 إيزيس は嘆くかもしれぬ。は人の子らが大好きじゃからの。我らを信ずる子らが神に在らしめられておると考えるのと同じく、我らも人の子らに在らしめられておる。こと、人との結びが強いは猶更じゃ。
 妾は猫ゆえなあ──いや、妾の眷属(けんぞく)が猫というのが正しいのじゃが、汝らの思うあれらの性質を、妾も持っておると考えてよい。寄らば同胞(はらから)、寄らずば関せずじゃ。ひとたび歩むと決めたのなら、行けるところまで行けばよい。


 そうじゃのう、離れんとする汝らに、妾が言うことがあるとすれば。

 その板が汝らに恵みをもたらすことは心得た。そのうえで、じゃ。
 覚えておくがよいぞ──恵みとは、常にそこにありはせぬ。
 ナイルとて、常には民を育むいっぽうで、時に暴れて民を苛むのじゃ。
 そうやって何のかんので、世の天秤は釣り合いが取れておるものじゃよ。いずれかに偏うておれば、いずれ揺り戻しが来る。偏うておればおるほど、強く…な。妾もまた──おっと、これは言わぬが花というものか。

 とにかく、時には面を上げて空を見よ。
 رع を見上げよ。
 (しか)して初めて見ゆるものもあろうというものぞ。妾は رع の目なれば、汝らが見らば見返してやろう。

 …そんなところかの。


 さ、説教臭くなってしもうたの。なに、永く在らばそうなるのは人も神も変わらぬということよ。

 ところで、じゃ。まあ人の子らは昔から猫が好きじゃから?妾の人気は疑うべくもないが?どの神が、いま信仰を得ておるのじゃ。

 ほうほう……何じゃ、この白き布を被った変なのは。目がやけに大きくて、足だけ出して…。子どもの落書きか?
 目から光線を出す?何じゃその化け物。なぬ、はるか東の国で妙に人気のある、我らと同じ地の神?ええ…妾、知らぬぞこやつ。あとでتحوت に訊いてみねば。





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ふふん、妾が言うたに、調べぬ者もおるじゃろう。
 出血大じゃ…教えてやる。どういう神かはさすがに調べよ。

 妾のほか、名を出した順に、ラー、アヌビス、トト、イシスじゃ。
 ほほ、図星を突かれた者はもう一周せよ。

 ではの。





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 控えよ。
 |妾《わらわ》は神じゃ。いま人の子らが呼ぶ、その|真名《まな》を── باستت という。
 ほれ、|頭《こうべ》を垂れよ。
 うむ。素直で愛いやつじゃ。褒めて遣わす。
 …ふむん、頭を垂れるで思い出したが、近頃の人の子らはずうっと頭を垂れておるのう。
 汝らは رعに近づかんと背を天に伸ばしたのであろうに、背を丸めて、
手元の小さき板をじつと眺めて……何ぞ|呪《まじな》いでも書かれておるのか、あれには。
 のう、汝。汝らの小さき板には何が書かれておるのじゃ。|直答《じきとう》を許す。
よいよい、神と人との境界が──などと、أنوبيس めには吠えさせておけ。
 なに?先刻から固有名らしきところが分からぬ?妾の名も?
 仕方のないやつじゃ、その率直さに免じて、分かるように教えてやろう。
妾の名は──バ・ス・テ・ト、じゃ。分かったか?
 他のじゃと? 嫌じゃ、面倒くさい。《《こぴぺ》》して調べい。
何のことやら分からぬが今は便利だと、تحوت が申しておったぞ。
 して、その板には…
 ──ふむん、《《ゆうちうぶ》》に、《《ちっくとっく》》。
 ──ほほぉ、誰ぞが藝や智を披露して、皆を楽しませておるのか。人の子は変わらぬの。
 ──なんと、家にいながらにして商人とやり取りまでできるのか。便利なものじゃ。
………
 ははぁ……その板で何でもできるんじゃなあ。
تحوت がうるさい理由も何となく分かったわ。あやつは知識のこととなると目がないゆえな、
ぴーちくぱーちく、うるさいのじゃ。あたかも鳥のごとく……
いや、鳥じゃったわ。然らば、さもありなん。
 しかしまあ何じゃな、その板によって日々の営みも、芸事や楽士の用さえも、日常の望みが概ね叶うというのなら──それは、人の心が神から離るるも道理じゃの。
 いやいや、世とはさるものと理解しておるよ。
 ナイルとて、悠久に同じに見えども、その実、さにあらず。|況《いわん》や人の子らをや、ということじゃ。かのラメセス──アブ・シンベルに己が姿を刻みし王とて、滅んでしまえば王朝もろともよ。
 神から離るるを望むというなら、止めはせぬよ。人の子らが両の足で歩むことを望むのなら、それは送り出してやらねばの。
 إيزيس は嘆くかもしれぬ。《《あれ》》は人の子らが大好きじゃからの。我らを信ずる子らが神に在らしめられておると考えるのと同じく、我らも人の子らに在らしめられておる。こと、人との結びが強い《《あれ》》は猶更じゃ。
 妾は猫ゆえなあ──いや、妾の|眷属《けんぞく》が猫というのが正しいのじゃが、汝らの思うあれらの性質を、妾も持っておると考えてよい。寄らば|同胞《はらから》、寄らずば関せずじゃ。ひとたび歩むと決めたのなら、行けるところまで行けばよい。
 そうじゃのう、離れんとする汝らに、妾が言うことがあるとすれば。
 その板が汝らに恵みをもたらすことは心得た。そのうえで、じゃ。
 覚えておくがよいぞ──恵みとは、常にそこにありはせぬ。
 ナイルとて、常には民を育むいっぽうで、時に暴れて民を苛むのじゃ。
 そうやって何のかんので、世の天秤は釣り合いが取れておるものじゃよ。いずれかに偏うておれば、いずれ揺り戻しが来る。偏うておればおるほど、強く…な。妾もまた──おっと、これは言わぬが花というものか。
 とにかく、時には面を上げて空を見よ。
 رع を見上げよ。
 |而《しか》して初めて見ゆるものもあろうというものぞ。妾は رع の目なれば、汝らが見らば見返してやろう。
 …そんなところかの。
 さ、説教臭くなってしもうたの。なに、永く在らばそうなるのは人も神も変わらぬということよ。
 ところで、じゃ。まあ人の子らは昔から猫が好きじゃから?妾の人気は疑うべくもないが?どの神が、いま信仰を得ておるのじゃ。
 ほうほう……何じゃ、この白き布を被った変なのは。目がやけに大きくて、足だけ出して…。子どもの落書きか?
 目から光線を出す?何じゃその化け物。なぬ、はるか東の国で妙に人気のある、我らと同じ地の神?ええ…妾、知らぬぞこやつ。あとでتحوت に訊いてみねば。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ふふん、妾が言うたに、調べぬ者もおるじゃろう。
 出血大《《さあびす》》じゃ…教えてやる。どういう神かはさすがに調べよ。
 妾のほか、名を出した順に、ラー、アヌビス、トト、イシスじゃ。
 ほほ、図星を突かれた者はもう一周せよ。
 ではの。