表示設定
表示設定
目次 目次




ฅ6. 妖猫Kの場合

ー/ー




  ──とおりゃんせ、とおりゃんせ。
  ──ここはどこの細道じゃ。
  ──閻魔さまへの細道じゃ。
  
 私は唄う。私が唄えば、人が慄く。慄く人は、私が何かを知る者だ。そも、さような者にこそ私が遣わされる故、果たしてどちらが先なのかしら。
 私は浮かぶ。暗夜に炎を煌めかせ。私は罪を見つめるもの。
人呼んで、火車(カシャ)である。人は我らの類を魔や(あやかし)と呼び、姿を与える。私のそれは、猫だった。
 
 人とは実に、愉快愉快。まあそれなりに人を見てきたつもりだけれども、縁もゆかりも、生きる時代さえもが異なる者らが、よくも飽きずに同じ業を積むものよ。
 栄華を誇れば、久しからずや。富を()らば、さらに求める。男女の諍いは枚挙に暇なく、恩讐もまた繰り返される。世の姿こそ変われども、人はこれっぽっちも変わりゃしない。
 嗚呼、愛い愛い。食べちゃいたい。しかしまあ、それは獄卒犬どもの仕事さね。
 
 ฅ
  
 私を見て、
 人の必ず言いたることには、己は悪くないのだと。
──そうかもしれないねえ。
 人の必ず喚きたることには、己はまだ死にたくないと。
──それは結構だこと。
 人の必ず弁することには、己は悔い改めると。
──私に言われてもねえ。
 人の必ず問いたることには、己はどこに行くのかと。
──知らないねえ。
 
  ──()っく腹をば決めなんせ。
  ──お前の人道(にんど)にゃお似合いよ。

 私に言っても何も変わらぬ。私は裁くものではなく、すべては閻魔がお決めなさる。しかし、そうさね、私から言えることがあるならば────私が来たということは、概ねそういうことなれば、腹は括っておきなさい。
 
 ฅ
 
  ──行きは宵々、帰りも暗い。
  
 嗚呼、人たちよ。お前たちには夜が来る。今生は存分に楽しめたかい。
 名に富に、人の縁もつれづれに──この人道は楽しめたかい。
 私は別に責めやしない。それは私の仕事じゃない。
 俗楽に興ずるも、また生なれば。
 
 嗚呼、私を見る人たちよ、お前たちは、これから夜を歩くんだ。
 帰りがあるのかって?そりゃあ、あるさ。お前が歩んだ道々が、すなわちお前の帰り道。
 朝というわけには行くまいねえ、暗夜行路の他生を往きな。それはお前の選んだ道だ。
 
  ──あなかしこくとも、とおりゃんせ。




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む ฅ7. 神猫Bの場合


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



  ──とおりゃんせ、とおりゃんせ。
  ──ここはどこの細道じゃ。
  ──閻魔さまへの細道じゃ。
 私は唄う。私が唄えば、人が慄く。慄く人は、私が何かを知る者だ。そも、さような者にこそ私が遣わされる故、果たしてどちらが先なのかしら。
 私は浮かぶ。暗夜に炎を煌めかせ。私は罪を見つめるもの。
人呼んで、|火車《カシャ》である。人は我らの類を魔や|妖《あやかし》と呼び、姿を与える。私のそれは、猫だった。
 人とは実に、愉快愉快。まあそれなりに人を見てきたつもりだけれども、縁もゆかりも、生きる時代さえもが異なる者らが、よくも飽きずに同じ業を積むものよ。
 栄華を誇れば、久しからずや。富を|得《う》らば、さらに求める。男女の諍いは枚挙に暇なく、恩讐もまた繰り返される。世の姿こそ変われども、人はこれっぽっちも変わりゃしない。
 嗚呼、愛い愛い。食べちゃいたい。しかしまあ、それは獄卒犬どもの仕事さね。
 ฅ
 私を見て、
 人の必ず言いたることには、己は悪くないのだと。
──そうかもしれないねえ。
 人の必ず喚きたることには、己はまだ死にたくないと。
──それは結構だこと。
 人の必ず弁することには、己は悔い改めると。
──私に言われてもねえ。
 人の必ず問いたることには、己はどこに行くのかと。
──知らないねえ。
  ──|疾《と》っく腹をば決めなんせ。
  ──お前の|人道《にんど》にゃお似合いよ。
 私に言っても何も変わらぬ。私は裁くものではなく、すべては閻魔がお決めなさる。しかし、そうさね、私から言えることがあるならば────私が来たということは、概ねそういうことなれば、腹は括っておきなさい。
 ฅ
  ──行きは宵々、帰りも暗い。
 嗚呼、人たちよ。お前たちには夜が来る。今生は存分に楽しめたかい。
 名に富に、人の縁もつれづれに──この人道は楽しめたかい。
 私は別に責めやしない。それは私の仕事じゃない。
 俗楽に興ずるも、また生なれば。
 嗚呼、私を見る人たちよ、お前たちは、これから夜を歩くんだ。
 帰りがあるのかって?そりゃあ、あるさ。お前が歩んだ道々が、すなわちお前の帰り道。
 朝というわけには行くまいねえ、暗夜行路の他生を往きな。それはお前の選んだ道だ。
  ──あなかしこくとも、とおりゃんせ。