ฅ4. 風来猫Xの場合
ー/ー わたしは猫だ。
人がわたしを猫と呼ぶから、人にとってのわたしは猫だ。
別に逆らう理由もない…それは、風に逆らっても風は止まず、水に逆らっても水は流れるように。そこに在るわたしが、まにまに任せるという──ただ、それだけ。
名前はない。
人の言う「おいで」や「あっち行け」を名前と呼ぶならそうだろう。
別にこだわる理由もない…それは、風に応えて木々が鳴くように、雨が落ちて湖面を叩くように。そこに在るわたしに、まわりが応えるという──ただ、それだけ。
ฅ
ときに人は親切だ。わたしのことを案じては、何かを差し出す人もいる。受け取らないよ、風が吹かなくなるからね。
ただその気持ちは受け取って、わたしは鳴くのさ、ただ「にゃあ」と。
ときに人は乱暴だ。気の向くままに入ったところで、わたしを疎む者もいる。あるいは声を、あるいは石を、わたしに向けて。
ただその気持ちを受け取って、わたしは去るのさ、ただ「にゃあ」と。
ときに人は無関心だ。わたしのことを見つけては、声を発する人もいる。猫と呼んだり可愛いと言ったり、しかし決して近寄らない。
ただその目がこちらを見つめるうちは、わたしは観るのさ、ただじっと。
ฅ
わたしは歩く。歩けるから、歩く。朝、目を覚ましては、風のまにまに、足のまにまに、音や匂いが誘う方へ。風のない日は静寂と話し、日のよく照る日は光を浴びる。わたしの両の眼の先が、つまりわたしの道なのだ。
森では鳥のさえずりを、山では獣のざわめきを聞く。谷では石と戯れて、川では魚のはためきを──ぺしり。悪く思うな、お腹が減っただけのこと。
生かし生かされ殺し殺され、食って食われてやがて死ぬ。いまはお前に番が来て、いずれわたしに番が来る。ただ、それだけのことさ。
ฅ
わたしは旅をし、また旅をする。ときにまたたびを擦り、悦に入る。
なぜ行くのかと、問う者もいた──わたしが歩けて、風が吹くから。
どこへ行くかと、問う者もいた──風が吹くまま、止まるところまで。
寂しくないかと、問う者もいた──風のおかげで退屈しないよ。
恋しくないかと、問う者もいた──むずかしい問いだな。
ฅ
わたしは猫だ。
いや、ただ歩くものだ。歩けるから歩き、止まりたいから止まる。風のまにまに、気の向くままに、わたしは生きて、いつか死ぬ。ただ、それだけだ。
自由だなあと、誰かが言った。
そうだ自由だ。わたしの道はわたしが歩く。いつかわたしが死ぬときも、それは誰のせいでもない。そのとき風が、もう吹かないというだけのこと。
自由は、風だ。風は、自由だ。
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わたしは猫だ。
人がわたしを猫と呼ぶから、人にとってのわたしは猫だ。
別に逆らう理由もない…それは、風に逆らっても風は止まず、水に逆らっても水は流れるように。そこに在るわたしが、まにまに任せるという──ただ、それだけ。
名前はない。
人の言う「おいで」や「あっち行け」を名前と呼ぶならそうだろう。
別にこだわる理由もない…それは、風に応えて木々が鳴くように、雨が落ちて湖面を叩くように。そこに在るわたしに、まわりが応えるという──ただ、それだけ。
ฅ
ときに人は親切だ。わたしのことを案じては、何かを差し出す人もいる。受け取らないよ、風が吹かなくなるからね。
ただその気持ちは受け取って、わたしは鳴くのさ、ただ「にゃあ」と。
ときに人は乱暴だ。気の向くままに入ったところで、わたしを疎む者もいる。あるいは声を、あるいは石を、わたしに向けて。
ただその気持ちを受け取って、わたしは去るのさ、ただ「にゃあ」と。
ときに人は無関心だ。わたしのことを見つけては、声を発する人もいる。猫と呼んだり可愛いと言ったり、しかし決して近寄らない。
ただその目がこちらを見つめるうちは、わたしは観るのさ、ただじっと。
ฅ
わたしは歩く。歩けるから、歩く。朝、目を覚ましては、風のまにまに、足のまにまに、音や匂いが|誘《いざな》う方へ。風のない日は|静寂《しじま》と話し、日のよく照る日は光を浴びる。わたしの両の|眼《まなこ》の先が、つまりわたしの道なのだ。
森では鳥のさえずりを、山では獣のざわめきを聞く。谷では石と戯れて、川では魚のはためきを──ぺしり。悪く思うな、お腹が減っただけのこと。
生かし生かされ殺し殺され、食って食われてやがて死ぬ。いまはお前に番が来て、いずれわたしに番が来る。ただ、それだけのことさ。
ฅ
わたしは旅をし、また旅をする。ときにまたたびを擦り、悦に入る。
なぜ行くのかと、問う者もいた──わたしが歩けて、風が吹くから。
どこへ行くかと、問う者もいた──風が吹くまま、止まるところまで。
寂しくないかと、問う者もいた──風のおかげで退屈しないよ。
恋しくないかと、問う者もいた──むずかしい問いだな。
ฅ
わたしは猫だ。
いや、ただ歩くものだ。歩けるから歩き、止まりたいから止まる。風のまにまに、気の向くままに、わたしは生きて、いつか死ぬ。ただ、それだけだ。
自由だなあと、誰かが言った。
そうだ自由だ。わたしの道はわたしが歩く。いつかわたしが死ぬときも、それは誰のせいでもない。そのとき風が、もう吹かないというだけのこと。
自由は、風だ。風は、自由だ。