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ฅ1. 家猫Mの場合

ー/ー




 私はモコチャンである。意味についてはよく分からない。

 分かるのは、私によく話しかけてくる人間がモコチャンと発言してから私を撫でたりするので、モコチャンとは私のことだろうということと、その人間が、ゴシュジンというらしいこと。自分で「わたしがゴシュジンだよ」と言っていたので、きっとそうだ。
 私が雨に濡れる毛玉であったころ、私を持ち帰ったのがゴシュジンであり、そこから特に不自由はないので…まあ、困っていたら何かしてあげようと思わないこともない。ちなみに、モコチャンとは私の身体がすっかり乾いたその時に初めて呼ばれたと思う。

 そういう次第でこの家に私は居着いているわけだが、この家にはゴシュジンの他に、何人か人間がいる。それぞれ、オバーチャン、オトーサン、オカーサンというようだが…オバーチャン以外はあまり家にいないので、よくは分からない。また、オバーチャンはゴシュジンをミカチャンと呼ぶ。人間とは名前をいくつも持つのか…面倒なものだ。
 考えていて気付いたが、私を含めたこの家の者の名前には規則性がある。私含めチャンが付く場合と、サンが付く場合……。
 もしかすると、この家には異なる2つの一族がともに住んでいるのではないか。すなわちチャン一家とサン一家。すると私はチャン一家ということになるが…。

 共通点を探してみるに、チャン一家とはこの家に留まる時間が比較的多く、サン一家はあまりいない。サン一家は外に何かを取りに行く役目なのかもしれない。しかし、ゴシュジンないしミカチャンもまた外に出る機会が多いので──まあいいか。この家が長い間保たれているので、重要な違いでもなさそうだ。


 さて、今日も今日とてゴシュジンは忙しない。家中を動き回っては出かけていく。まあ、今日は忘れず、私に食事をくれてから出かけたので文句はない。
 これに対してオバーチャンなる存在は実にゆっくりだ。それでいて、よく食べ物を分けてくれるほど余裕があるらしい。狩りが上手く焦る必要がないのかもしれない。

 ある時、珍しく食べ物を持っていなかったので失敗したのかと、目の前を走っていた黒いものを捕まえて差し出したら、嫌がって受け取らなかった。なるほど、こだわりがあるらしい。
 こだわりと言うなら分からなくはない。私も食事は乾いた粒が多いが、時に脂多めの肉や半固体のよく分からないものにありつける。どちらも…こう、本能に訴えるものがある感じがするが…特に半固体は実に美味いのでそれだけ食べたいくらいだが、だめらしい。貴重なものなのだろうか。

 思えば、オバーチャンが食べているのはいつも半固体だ。私の経験に照らし合わせるに、半固体はなかなか食べられないが美味いので、それを常食するオバーチャンとは侮れない。
ゴシュジンも、ときどき私を撫でていくのを忘れてもオバーチャンに声を掛けるのは忘れない……格上と見るべきだ。ああ見えてオバーチャンとは強いのかもしれない。


 日が高くなってから決まったようにオバーチャンは決まった作業をする。何をやっているのかは分からないが、トントンと小気味良い音は午睡に心地よい。夢の世界へ旅に出る。
 やがて鼻腔をくすぐる匂いと共に目を覚ますと同時に、ゴシュジンが帰ってきた。モコチャンと私を呼んでから、抱きついてくる。少々鬱陶しいが悪い気はしないので、まあ良いだろう。撫でろ。

 撫でられていると、オバーチャンが何やらゴシュジンに声をかけ、ゴシュジンが私から離れた。いっぽうで、オバーチャンは一度戻ったかと思うと、何やら甘い匂いのする物を持って戻ってきた。気になって手を伸ばしたら、むんずと掴まれて戻されてしまったが…。
 どうやら、これからオヤツと呼ばれる時間らしい。手に持つそれは、ゴシュジンが食べるものであって、私は食べられないらしい。
 これが格の違いか…と達観した思いでいると、ゴシュジンに何か言われたオバーチャンがやおら立ち上がった。やがて「ぴり」という音と共に、かの美味い半固体が差し出された。うん、今日はいい日だな。






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 私はモコチャンである。意味についてはよく分からない。
 分かるのは、私によく話しかけてくる人間がモコチャンと発言してから私を撫でたりするので、モコチャンとは私のことだろうということと、その人間が、ゴシュジンというらしいこと。自分で「わたしがゴシュジンだよ」と言っていたので、きっとそうだ。
 私が雨に濡れる毛玉であったころ、私を持ち帰ったのがゴシュジンであり、そこから特に不自由はないので…まあ、困っていたら何かしてあげようと思わないこともない。ちなみに、モコチャンとは私の身体がすっかり乾いたその時に初めて呼ばれたと思う。
 そういう次第でこの家に私は居着いているわけだが、この家にはゴシュジンの他に、何人か人間がいる。それぞれ、オバーチャン、オトーサン、オカーサンというようだが…オバーチャン以外はあまり家にいないので、よくは分からない。また、オバーチャンはゴシュジンをミカチャンと呼ぶ。人間とは名前をいくつも持つのか…面倒なものだ。
 考えていて気付いたが、私を含めたこの家の者の名前には規則性がある。私含めチャンが付く場合と、サンが付く場合……。
 もしかすると、この家には異なる2つの一族がともに住んでいるのではないか。すなわちチャン一家とサン一家。すると私はチャン一家ということになるが…。
 共通点を探してみるに、チャン一家とはこの家に留まる時間が比較的多く、サン一家はあまりいない。サン一家は外に何かを取りに行く役目なのかもしれない。しかし、ゴシュジンないしミカチャンもまた外に出る機会が多いので──まあいいか。この家が長い間保たれているので、重要な違いでもなさそうだ。
 さて、今日も今日とてゴシュジンは忙しない。家中を動き回っては出かけていく。まあ、今日は忘れず、私に食事をくれてから出かけたので文句はない。
 これに対してオバーチャンなる存在は実にゆっくりだ。それでいて、よく食べ物を分けてくれるほど余裕があるらしい。狩りが上手く焦る必要がないのかもしれない。
 ある時、珍しく食べ物を持っていなかったので失敗したのかと、目の前を走っていた黒いものを捕まえて差し出したら、嫌がって受け取らなかった。なるほど、こだわりがあるらしい。
 こだわりと言うなら分からなくはない。私も食事は乾いた粒が多いが、時に脂多めの肉や半固体のよく分からないものにありつける。どちらも…こう、本能に訴えるものがある感じがするが…特に半固体は実に美味いのでそれだけ食べたいくらいだが、だめらしい。貴重なものなのだろうか。
 思えば、オバーチャンが食べているのはいつも半固体だ。私の経験に照らし合わせるに、半固体はなかなか食べられないが美味いので、それを常食するオバーチャンとは侮れない。
ゴシュジンも、ときどき私を撫でていくのを忘れてもオバーチャンに声を掛けるのは忘れない……格上と見るべきだ。ああ見えてオバーチャンとは強いのかもしれない。
 日が高くなってから決まったようにオバーチャンは決まった作業をする。何をやっているのかは分からないが、トントンと小気味良い音は午睡に心地よい。夢の世界へ旅に出る。
 やがて鼻腔をくすぐる匂いと共に目を覚ますと同時に、ゴシュジンが帰ってきた。モコチャンと私を呼んでから、抱きついてくる。少々鬱陶しいが悪い気はしないので、まあ良いだろう。撫でろ。
 撫でられていると、オバーチャンが何やらゴシュジンに声をかけ、ゴシュジンが私から離れた。いっぽうで、オバーチャンは一度戻ったかと思うと、何やら甘い匂いのする物を持って戻ってきた。気になって手を伸ばしたら、むんずと掴まれて戻されてしまったが…。
 どうやら、これからオヤツと呼ばれる時間らしい。手に持つそれは、ゴシュジンが食べるものであって、私は食べられないらしい。
 これが格の違いか…と達観した思いでいると、ゴシュジンに何か言われたオバーチャンがやおら立ち上がった。やがて「ぴり」という音と共に、かの美味い半固体が差し出された。うん、今日はいい日だな。