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第16話 呼び出されてはみたけれど……

ー/ー



 それから、三日後に、ぼくたちはリゼルから呼び出しを受けた。
 学園から馬車を用意してもらい、ウォルグレンさんの邸宅からまっすぐ、向かうことになった。
 転送陣があれば、一発で移動できるのだけど、あれは特殊な技術が必要のようだ。

 学園に到着すると、ぼくたちは今度はかなり、立派な部屋へと案内された。
 前の時のような、殺風景な部屋ではない。
 窓も大きく、眺めもいいし、壁には絵画も飾られていた。

 そして、さらに立派なソファも用意されていた。
 見ただけで、座り心地のよさそうなそのソファには、既にふたりの人物が腰をかけている。
 今日はジルさんはおらず、ぼくたち以外には、リゼルとそのふたりしか、部屋にはいないようだった。

「来たか——」
 リゼルが、ぼくたちをソファへと導いてくれる。
 ギンゲツたちの姿はここにはなく、ぼくはちょっと、がっかりした。

 ——これから、一体、何を話し合うのだろう。
 それとなく、ぼくはソファに腰かけているふたりを観察した。

 テーブルを挟んだ向こう側の男性は、年齢はぼくたちよりもずっと上だろう——横幅のある、禿頭の男性が座っていた。
 ぼくたちから、わざと顔を逸らしているみたいだけど、目が合うと、とても鋭い眼差しで睨まれてしまった。
 妙に貫禄があり、着ているものも、質のいいものだとわかる、仕立てのいい服で、いわゆる貴族が着るようなものだろう。

 そして、もう一方の相手は一人がけのソファに座っている。
 人——ではない。

 このメディシアン世界には、獣人もいるが、それ以外にも様々な異種族が存在している。
 そのひとつが、機械人——機構軍(マシーナリィ・フォース)とひとくくりに呼ばれる存在だ。
 もとは、戦闘機械として大陸に君臨していたようなのだけど、今は戦闘を終了しており、大部分はおとなしく、平和的な活動をしている。

 アリアンフロッドになっている機械人もいるくらいだ。
 機械人には、機械的な手段で天賦や天恵を備えさせることができ、さらに優秀な戦闘能力があるので、珍しい存在ではなかった。
 機械人は、金属の体のままで過ごしているのも多いが、目の前の機械人はきちんとした服を着こなしていた。

 濃紺をベースにしたスーツに、ワイシャツ、太腿の半ばまでのダークレッドのスカートを穿き、機械の体が覗いているのは、脚と指先、それに顔と髪だけだ。
 目のところには、横長の一本のスリットが入っていて、その間を青い光点が左から右、そして右から左へと移動していた。
 機械なのに髪——と呼んでいいのかは疑問が残るところだが、頭部から背中へと、二本の板状のものが伸びている。

 汎人類種族(コモン)ならば、ツインテールと呼びたくなる髪型だった。
 機械の身体は全身、銀色なのに、テールの部分だけ、黒く塗装されているので、やはり、髪と思わせたいのかもしれない。

「コレで、登場人物は全員、揃いましたカ? 同志:リゼル氏」
 機械人が、妙にイントネーションがズレている発音で、話しかけてきた。
 ぼくには少し声が高く、耳障りに聞こえた。

「……そのようですね」
 丁寧な口調で、リゼルが返した。
「その返答ですと、まだ来られる人がおられると、解釈できますが、真ですか、偽ですカ? はっきりしてくださいマセ」
「い……いえ。これで、全員です。ミラージュさま」

「了解しましタ……では、まずは、アカネさん、ジンライくん。アリアンフロッドとなられて、オメデトウのことばを贈らせてもらいマスわ」
「あ……ありがとうございます」
「どうもー」

 急にぴりぴりとした空気を感じて、ぼくは口中に溜まった唾をごくり、と飲み込んだ。
「ワタクシのユニーク名は、ミラージュです。アリアンフロッド機関の上位組織である評議会から要請を受けて、派遣されてキました。コレが最初で最後の接触となると思いますガ、よろしくデス」
 握手でもしてくるのかな、と思ったが、ミラージュさんはそのままだった。

「なんか、態度の悪い機械人ぞねぇ。あー、感じわるい」
 耳許で、グリューンが囁いてくる。
 ……ぼくに言わせたら、どっちもどっちだと思うけど。

「今回の件について、重要な規律違反があったト、ワタクシをはじめ、評議員の方タチは憂慮してオリます。既に、小隊(ランス)千秋の轍(デイ・バイ・デイ)』の隊員たちは逃走に失敗、この施設のなかで確保されてオリます」
 ミラージュさんが、脚を組み替えながら、そう言った。

「え——確保?」
「地下の拘留場所にいる。あとで面会させてやるよ」
 ——なんだか、大きなことになっているみたいだ。

「おまえさんたちを罠にかけた後、逃亡することにしていたみたいだが、失敗しちまったようだ。ま、こっちも、既に前準備をしていたからな」
「任務の達成度は63%程度デスが、無事、捕縛には成功しましたワね。こちらにも、ある程度、損害は出マシたけど」

「……ギンゲツたちは、どうしてあんなことをしたのでしょうか」
「賭博——デスわね。裏社会で、賭けが行われテイたのですわ。その対象は、アナタがたの生死」
「生死……?」

「”初心者殺しの小迷宮”へと送り込まレて、果たして生きテ学園まで帰還することが出来るノカ。アナタたち以外にも、あの罠にかけられて、亡くなっている方タチも、いるようデス。この犯罪行為に関わっていた小隊は、千秋の轍だけでナク、複数の小隊が関わっていたようデスわね。現在、組織的犯罪として、追跡をしてオリます」
「賭けって……そんなことのために、ぼくたちは殺されかけたってこと、ですか」

「——貴様たちが戻って来なければ、こんなことには——こんな、アリアンフロッドのなりそこないよりも、ギンゲツのほうがずっと、価値はあったのに、どうしてくれるのだ」
 それまで、ひと言も喋っていなかった恰幅のいい男の人が、ぼくたちを睨みつけてきた。
 顔を赤黒く、怒気に染めている。

「価値? なりそこないは、アナタの息子どものほうでショウ。賭博場での大損を親に肩代わりしてもらったダケでなく、また損失を繰り返シテ、今度は殺人にまで手を染めてイルのですからね」
「殺人? はッ、平民は平民らしく、しておけばいいのだよ。どう考えても、こんな奴らよりも、ギンゲツのほうが能力はあった」

「それくらいにしておけよ。ドランツヴェルク伯爵さま。あんただって、今回の件の容疑者のひとりなんだからよ」
「わしは——知らん。平民がどうなろうと、勝手ではないか。貴族の血はどんなものにも勝る」
「話にならんな! 疑惑はずっと前からあったが、それを握りつぶしていたのは、あんただって噂が流れているぞ」

「知らん、知らん! こいつらだって、どうせ、あのアカツキの子供たちだから、持ち上げられているだけだろう。数年以内に、塔のなかで野垂れ死にしているはずだ」
「あら、先程、貴族の血はどんなモノにも勝る、と言っていたアナタがそれを言うノかしら? 辺境の貴族風情の息子という程度で、持ち上げられてイタのは、アナタの息子ではないのカシらね」
「わ! わしの領地は辺境ではない!」

「アナタが例え、王族であっテも、同じコトですわね。歪んだ特権意識の持ち主には、基本システムをアップデートするか、あるいはすべて換装する必要がありそうですわね」
「貴族のこのわしを、牢へ入れるというのか! これまで、わしがアリアンフロッド機関を支援してやった恩を忘れて!」

 ——これは、見ていられないな。
「まったく、同感じゃのぉ」

 ぼくの呟きに、グリューンが耳もとで呟いた。
 ぼくは、口汚く、罵りはじめた伯爵とリゼル、ミラージュさんを見つめて、ため息をついた。


 それから——ぼくたちは、リゼルとミラージュさんに案内されて、学園の地下にある拘留場所へと向かった。
 アリアンフロッドであってももちろん、法を破ることはできない。
 王国の法を破ったものは、その国の法律で裁かれるが、ギンゲツのような場合、アリアンフロッド機関によって、制裁が与えられることもある。

 拘留場所は、本校舎のずっと奥のほう——古い、ひび割れた石段を下った先にあった。
 ここまでは、それほど警戒が厳重、ということでもないみたいだった。
 ほとんどが、こんな場所まで脚を踏み入れてくる必要がないから、だろうか。

 かび臭く、魔道灯が等間隔に配置されているきりで、雰囲気からして、幽霊でも出てきそうだった。
 通路はまっすぐで、迷う必要はない。
 が、ここの空気はひどく湿っぽく、どんよりとしていた。

「いやな場所じゃのぉ。わしの試練の間のほうが数億倍もマシぞよ」
 グリューンが姿を見せずに声だけ、伝えてくるので、その度にびくっとしてしまう。
「どうした? ジンライ。さっきから、無口じゃぞ。何か喋らんのか」
 喋らないでいるのは、ぼくだけじゃない。
 アカネとチカも、黙り込んでいる。

 ここには、憎しみや恨み、怒りなどの負の感情が澱んでいるからだろう。
 それが、魔力の塊となって、ぼくにも見えていた。

 魔術に関しては、チカのほうが敏感なので、よりそういった感情に揺さぶられてしまうのかもしれない。
 腕は組んではいないものの、さっきから、チカはぼくに身体を寄せてきていた。
 とにかく、さっさとギンゲツとの面会を終わらせたほうがいいだろう。

「ギンゲツの拘留部屋は、ここだな」
 先頭を歩いていたリゼルが、脚を止めた。
 ぼくは、周りを見渡してみた。
 扉などは、どこにあるのだろう……。

 足元の壁際には、通気口——というのだろうか。
 小さな穴が等間隔に並んでいるのだけど、それだけだ。
「いいか? 開けるぞ」


次のエピソードへ進む 第17話 ギンゲツ


みんなのリアクション

 それから、三日後に、ぼくたちはリゼルから呼び出しを受けた。
 学園から馬車を用意してもらい、ウォルグレンさんの邸宅からまっすぐ、向かうことになった。
 転送陣があれば、一発で移動できるのだけど、あれは特殊な技術が必要のようだ。
 学園に到着すると、ぼくたちは今度はかなり、立派な部屋へと案内された。
 前の時のような、殺風景な部屋ではない。
 窓も大きく、眺めもいいし、壁には絵画も飾られていた。
 そして、さらに立派なソファも用意されていた。
 見ただけで、座り心地のよさそうなそのソファには、既にふたりの人物が腰をかけている。
 今日はジルさんはおらず、ぼくたち以外には、リゼルとそのふたりしか、部屋にはいないようだった。
「来たか——」
 リゼルが、ぼくたちをソファへと導いてくれる。
 ギンゲツたちの姿はここにはなく、ぼくはちょっと、がっかりした。
 ——これから、一体、何を話し合うのだろう。
 それとなく、ぼくはソファに腰かけているふたりを観察した。
 テーブルを挟んだ向こう側の男性は、年齢はぼくたちよりもずっと上だろう——横幅のある、禿頭の男性が座っていた。
 ぼくたちから、わざと顔を逸らしているみたいだけど、目が合うと、とても鋭い眼差しで睨まれてしまった。
 妙に貫禄があり、着ているものも、質のいいものだとわかる、仕立てのいい服で、いわゆる貴族が着るようなものだろう。
 そして、もう一方の相手は一人がけのソファに座っている。
 人——ではない。
 このメディシアン世界には、獣人もいるが、それ以外にも様々な異種族が存在している。
 そのひとつが、機械人——|機構軍《マシーナリィ・フォース》とひとくくりに呼ばれる存在だ。
 もとは、戦闘機械として大陸に君臨していたようなのだけど、今は戦闘を終了しており、大部分はおとなしく、平和的な活動をしている。
 アリアンフロッドになっている機械人もいるくらいだ。
 機械人には、機械的な手段で天賦や天恵を備えさせることができ、さらに優秀な戦闘能力があるので、珍しい存在ではなかった。
 機械人は、金属の体のままで過ごしているのも多いが、目の前の機械人はきちんとした服を着こなしていた。
 濃紺をベースにしたスーツに、ワイシャツ、太腿の半ばまでのダークレッドのスカートを穿き、機械の体が覗いているのは、脚と指先、それに顔と髪だけだ。
 目のところには、横長の一本のスリットが入っていて、その間を青い光点が左から右、そして右から左へと移動していた。
 機械なのに髪——と呼んでいいのかは疑問が残るところだが、頭部から背中へと、二本の板状のものが伸びている。
 |汎人類種族《コモン》ならば、ツインテールと呼びたくなる髪型だった。
 機械の身体は全身、銀色なのに、テールの部分だけ、黒く塗装されているので、やはり、髪と思わせたいのかもしれない。
「コレで、登場人物は全員、揃いましたカ? 同志:リゼル氏」
 機械人が、妙にイントネーションがズレている発音で、話しかけてきた。
 ぼくには少し声が高く、耳障りに聞こえた。
「……そのようですね」
 丁寧な口調で、リゼルが返した。
「その返答ですと、まだ来られる人がおられると、解釈できますが、真ですか、偽ですカ? はっきりしてくださいマセ」
「い……いえ。これで、全員です。ミラージュさま」
「了解しましタ……では、まずは、アカネさん、ジンライくん。アリアンフロッドとなられて、オメデトウのことばを贈らせてもらいマスわ」
「あ……ありがとうございます」
「どうもー」
 急にぴりぴりとした空気を感じて、ぼくは口中に溜まった唾をごくり、と飲み込んだ。
「ワタクシのユニーク名は、ミラージュです。アリアンフロッド機関の上位組織である評議会から要請を受けて、派遣されてキました。コレが最初で最後の接触となると思いますガ、よろしくデス」
 握手でもしてくるのかな、と思ったが、ミラージュさんはそのままだった。
「なんか、態度の悪い機械人ぞねぇ。あー、感じわるい」
 耳許で、グリューンが囁いてくる。
 ……ぼくに言わせたら、どっちもどっちだと思うけど。
「今回の件について、重要な規律違反があったト、ワタクシをはじめ、評議員の方タチは憂慮してオリます。既に、|小隊《ランス》『|千秋の轍《デイ・バイ・デイ》』の隊員たちは逃走に失敗、この施設のなかで確保されてオリます」
 ミラージュさんが、脚を組み替えながら、そう言った。
「え——確保?」
「地下の拘留場所にいる。あとで面会させてやるよ」
 ——なんだか、大きなことになっているみたいだ。
「おまえさんたちを罠にかけた後、逃亡することにしていたみたいだが、失敗しちまったようだ。ま、こっちも、既に前準備をしていたからな」
「任務の達成度は63%程度デスが、無事、捕縛には成功しましたワね。こちらにも、ある程度、損害は出マシたけど」
「……ギンゲツたちは、どうしてあんなことをしたのでしょうか」
「賭博——デスわね。裏社会で、賭けが行われテイたのですわ。その対象は、アナタがたの生死」
「生死……?」
「”初心者殺しの小迷宮”へと送り込まレて、果たして生きテ学園まで帰還することが出来るノカ。アナタたち以外にも、あの罠にかけられて、亡くなっている方タチも、いるようデス。この犯罪行為に関わっていた小隊は、千秋の轍だけでナク、複数の小隊が関わっていたようデスわね。現在、組織的犯罪として、追跡をしてオリます」
「賭けって……そんなことのために、ぼくたちは殺されかけたってこと、ですか」
「——貴様たちが戻って来なければ、こんなことには——こんな、アリアンフロッドのなりそこないよりも、ギンゲツのほうがずっと、価値はあったのに、どうしてくれるのだ」
 それまで、ひと言も喋っていなかった恰幅のいい男の人が、ぼくたちを睨みつけてきた。
 顔を赤黒く、怒気に染めている。
「価値? なりそこないは、アナタの息子どものほうでショウ。賭博場での大損を親に肩代わりしてもらったダケでなく、また損失を繰り返シテ、今度は殺人にまで手を染めてイルのですからね」
「殺人? はッ、平民は平民らしく、しておけばいいのだよ。どう考えても、こんな奴らよりも、ギンゲツのほうが能力はあった」
「それくらいにしておけよ。ドランツヴェルク伯爵さま。あんただって、今回の件の容疑者のひとりなんだからよ」
「わしは——知らん。平民がどうなろうと、勝手ではないか。貴族の血はどんなものにも勝る」
「話にならんな! 疑惑はずっと前からあったが、それを握りつぶしていたのは、あんただって噂が流れているぞ」
「知らん、知らん! こいつらだって、どうせ、あのアカツキの子供たちだから、持ち上げられているだけだろう。数年以内に、塔のなかで野垂れ死にしているはずだ」
「あら、先程、貴族の血はどんなモノにも勝る、と言っていたアナタがそれを言うノかしら? 辺境の貴族風情の息子という程度で、持ち上げられてイタのは、アナタの息子ではないのカシらね」
「わ! わしの領地は辺境ではない!」
「アナタが例え、王族であっテも、同じコトですわね。歪んだ特権意識の持ち主には、基本システムをアップデートするか、あるいはすべて換装する必要がありそうですわね」
「貴族のこのわしを、牢へ入れるというのか! これまで、わしがアリアンフロッド機関を支援してやった恩を忘れて!」
 ——これは、見ていられないな。
「まったく、同感じゃのぉ」
 ぼくの呟きに、グリューンが耳もとで呟いた。
 ぼくは、口汚く、罵りはじめた伯爵とリゼル、ミラージュさんを見つめて、ため息をついた。
 それから——ぼくたちは、リゼルとミラージュさんに案内されて、学園の地下にある拘留場所へと向かった。
 アリアンフロッドであってももちろん、法を破ることはできない。
 王国の法を破ったものは、その国の法律で裁かれるが、ギンゲツのような場合、アリアンフロッド機関によって、制裁が与えられることもある。
 拘留場所は、本校舎のずっと奥のほう——古い、ひび割れた石段を下った先にあった。
 ここまでは、それほど警戒が厳重、ということでもないみたいだった。
 ほとんどが、こんな場所まで脚を踏み入れてくる必要がないから、だろうか。
 かび臭く、魔道灯が等間隔に配置されているきりで、雰囲気からして、幽霊でも出てきそうだった。
 通路はまっすぐで、迷う必要はない。
 が、ここの空気はひどく湿っぽく、どんよりとしていた。
「いやな場所じゃのぉ。わしの試練の間のほうが数億倍もマシぞよ」
 グリューンが姿を見せずに声だけ、伝えてくるので、その度にびくっとしてしまう。
「どうした? ジンライ。さっきから、無口じゃぞ。何か喋らんのか」
 喋らないでいるのは、ぼくだけじゃない。
 アカネとチカも、黙り込んでいる。
 ここには、憎しみや恨み、怒りなどの負の感情が澱んでいるからだろう。
 それが、魔力の塊となって、ぼくにも見えていた。
 魔術に関しては、チカのほうが敏感なので、よりそういった感情に揺さぶられてしまうのかもしれない。
 腕は組んではいないものの、さっきから、チカはぼくに身体を寄せてきていた。
 とにかく、さっさとギンゲツとの面会を終わらせたほうがいいだろう。
「ギンゲツの拘留部屋は、ここだな」
 先頭を歩いていたリゼルが、脚を止めた。
 ぼくは、周りを見渡してみた。
 扉などは、どこにあるのだろう……。
 足元の壁際には、通気口——というのだろうか。
 小さな穴が等間隔に並んでいるのだけど、それだけだ。
「いいか? 開けるぞ」