第16話 呼び出されてはみたけれど……
ー/ー それから、三日後に、ぼくたちはリゼルから呼び出しを受けた。
学園から馬車を用意してもらい、ウォルグレンさんの邸宅からまっすぐ、向かうことになった。
転送陣があれば、一発で移動できるのだけど、あれは特殊な技術が必要のようだ。
学園に到着すると、ぼくたちは今度はかなり、立派な部屋へと案内された。
前の時のような、殺風景な部屋ではない。
窓も大きく、眺めもいいし、壁には絵画も飾られていた。
そして、さらに立派なソファも用意されていた。
見ただけで、座り心地のよさそうなそのソファには、既にふたりの人物が腰をかけている。
今日はジルさんはおらず、ぼくたち以外には、リゼルとそのふたりしか、部屋にはいないようだった。
「来たか——」
リゼルが、ぼくたちをソファへと導いてくれる。
ギンゲツたちの姿はここにはなく、ぼくはちょっと、がっかりした。
——これから、一体、何を話し合うのだろう。
それとなく、ぼくはソファに腰かけているふたりを観察した。
テーブルを挟んだ向こう側の男性は、年齢はぼくたちよりもずっと上だろう——横幅のある、禿頭の男性が座っていた。
ぼくたちから、わざと顔を逸らしているみたいだけど、目が合うと、とても鋭い眼差しで睨まれてしまった。
妙に貫禄があり、着ているものも、質のいいものだとわかる、仕立てのいい服で、いわゆる貴族が着るようなものだろう。
そして、もう一方の相手は一人がけのソファに座っている。
人——ではない。
このメディシアン世界には、獣人もいるが、それ以外にも様々な異種族が存在している。
そのひとつが、機械人——機構軍とひとくくりに呼ばれる存在だ。
もとは、戦闘機械として大陸に君臨していたようなのだけど、今は戦闘を終了しており、大部分はおとなしく、平和的な活動をしている。
アリアンフロッドになっている機械人もいるくらいだ。
機械人には、機械的な手段で天賦や天恵を備えさせることができ、さらに優秀な戦闘能力があるので、珍しい存在ではなかった。
機械人は、金属の体のままで過ごしているのも多いが、目の前の機械人はきちんとした服を着こなしていた。
濃紺をベースにしたスーツに、ワイシャツ、太腿の半ばまでのダークレッドのスカートを穿き、機械の体が覗いているのは、脚と指先、それに顔と髪だけだ。
目のところには、横長の一本のスリットが入っていて、その間を青い光点が左から右、そして右から左へと移動していた。
機械なのに髪——と呼んでいいのかは疑問が残るところだが、頭部から背中へと、二本の板状のものが伸びている。
汎人類種族ならば、ツインテールと呼びたくなる髪型だった。
機械の身体は全身、銀色なのに、テールの部分だけ、黒く塗装されているので、やはり、髪と思わせたいのかもしれない。
「コレで、登場人物は全員、揃いましたカ? 同志:リゼル氏」
機械人が、妙にイントネーションがズレている発音で、話しかけてきた。
ぼくには少し声が高く、耳障りに聞こえた。
「……そのようですね」
丁寧な口調で、リゼルが返した。
「その返答ですと、まだ来られる人がおられると、解釈できますが、真ですか、偽ですカ? はっきりしてくださいマセ」
「い……いえ。これで、全員です。ミラージュさま」
「了解しましタ……では、まずは、アカネさん、ジンライくん。アリアンフロッドとなられて、オメデトウのことばを贈らせてもらいマスわ」
「あ……ありがとうございます」
「どうもー」
急にぴりぴりとした空気を感じて、ぼくは口中に溜まった唾をごくり、と飲み込んだ。
「ワタクシのユニーク名は、ミラージュです。アリアンフロッド機関の上位組織である評議会から要請を受けて、派遣されてキました。コレが最初で最後の接触となると思いますガ、よろしくデス」
握手でもしてくるのかな、と思ったが、ミラージュさんはそのままだった。
「なんか、態度の悪い機械人ぞねぇ。あー、感じわるい」
耳許で、グリューンが囁いてくる。
……ぼくに言わせたら、どっちもどっちだと思うけど。
「今回の件について、重要な規律違反があったト、ワタクシをはじめ、評議員の方タチは憂慮してオリます。既に、小隊『千秋の轍』の隊員たちは逃走に失敗、この施設のなかで確保されてオリます」
ミラージュさんが、脚を組み替えながら、そう言った。
「え——確保?」
「地下の拘留場所にいる。あとで面会させてやるよ」
——なんだか、大きなことになっているみたいだ。
「おまえさんたちを罠にかけた後、逃亡することにしていたみたいだが、失敗しちまったようだ。ま、こっちも、既に前準備をしていたからな」
「任務の達成度は63%程度デスが、無事、捕縛には成功しましたワね。こちらにも、ある程度、損害は出マシたけど」
「……ギンゲツたちは、どうしてあんなことをしたのでしょうか」
「賭博——デスわね。裏社会で、賭けが行われテイたのですわ。その対象は、アナタがたの生死」
「生死……?」
「”初心者殺しの小迷宮”へと送り込まレて、果たして生きテ学園まで帰還することが出来るノカ。アナタたち以外にも、あの罠にかけられて、亡くなっている方タチも、いるようデス。この犯罪行為に関わっていた小隊は、千秋の轍だけでナク、複数の小隊が関わっていたようデスわね。現在、組織的犯罪として、追跡をしてオリます」
「賭けって……そんなことのために、ぼくたちは殺されかけたってこと、ですか」
「——貴様たちが戻って来なければ、こんなことには——こんな、アリアンフロッドのなりそこないよりも、ギンゲツのほうがずっと、価値はあったのに、どうしてくれるのだ」
それまで、ひと言も喋っていなかった恰幅のいい男の人が、ぼくたちを睨みつけてきた。
顔を赤黒く、怒気に染めている。
「価値? なりそこないは、アナタの息子どものほうでショウ。賭博場での大損を親に肩代わりしてもらったダケでなく、また損失を繰り返シテ、今度は殺人にまで手を染めてイルのですからね」
「殺人? はッ、平民は平民らしく、しておけばいいのだよ。どう考えても、こんな奴らよりも、ギンゲツのほうが能力はあった」
「それくらいにしておけよ。ドランツヴェルク伯爵さま。あんただって、今回の件の容疑者のひとりなんだからよ」
「わしは——知らん。平民がどうなろうと、勝手ではないか。貴族の血はどんなものにも勝る」
「話にならんな! 疑惑はずっと前からあったが、それを握りつぶしていたのは、あんただって噂が流れているぞ」
「知らん、知らん! こいつらだって、どうせ、あのアカツキの子供たちだから、持ち上げられているだけだろう。数年以内に、塔のなかで野垂れ死にしているはずだ」
「あら、先程、貴族の血はどんなモノにも勝る、と言っていたアナタがそれを言うノかしら? 辺境の貴族風情の息子という程度で、持ち上げられてイタのは、アナタの息子ではないのカシらね」
「わ! わしの領地は辺境ではない!」
「アナタが例え、王族であっテも、同じコトですわね。歪んだ特権意識の持ち主には、基本システムをアップデートするか、あるいはすべて換装する必要がありそうですわね」
「貴族のこのわしを、牢へ入れるというのか! これまで、わしがアリアンフロッド機関を支援してやった恩を忘れて!」
——これは、見ていられないな。
「まったく、同感じゃのぉ」
ぼくの呟きに、グリューンが耳もとで呟いた。
ぼくは、口汚く、罵りはじめた伯爵とリゼル、ミラージュさんを見つめて、ため息をついた。
それから——ぼくたちは、リゼルとミラージュさんに案内されて、学園の地下にある拘留場所へと向かった。
アリアンフロッドであってももちろん、法を破ることはできない。
王国の法を破ったものは、その国の法律で裁かれるが、ギンゲツのような場合、アリアンフロッド機関によって、制裁が与えられることもある。
拘留場所は、本校舎のずっと奥のほう——古い、ひび割れた石段を下った先にあった。
ここまでは、それほど警戒が厳重、ということでもないみたいだった。
ほとんどが、こんな場所まで脚を踏み入れてくる必要がないから、だろうか。
かび臭く、魔道灯が等間隔に配置されているきりで、雰囲気からして、幽霊でも出てきそうだった。
通路はまっすぐで、迷う必要はない。
が、ここの空気はひどく湿っぽく、どんよりとしていた。
「いやな場所じゃのぉ。わしの試練の間のほうが数億倍もマシぞよ」
グリューンが姿を見せずに声だけ、伝えてくるので、その度にびくっとしてしまう。
「どうした? ジンライ。さっきから、無口じゃぞ。何か喋らんのか」
喋らないでいるのは、ぼくだけじゃない。
アカネとチカも、黙り込んでいる。
ここには、憎しみや恨み、怒りなどの負の感情が澱んでいるからだろう。
それが、魔力の塊となって、ぼくにも見えていた。
魔術に関しては、チカのほうが敏感なので、よりそういった感情に揺さぶられてしまうのかもしれない。
腕は組んではいないものの、さっきから、チカはぼくに身体を寄せてきていた。
とにかく、さっさとギンゲツとの面会を終わらせたほうがいいだろう。
「ギンゲツの拘留部屋は、ここだな」
先頭を歩いていたリゼルが、脚を止めた。
ぼくは、周りを見渡してみた。
扉などは、どこにあるのだろう……。
足元の壁際には、通気口——というのだろうか。
小さな穴が等間隔に並んでいるのだけど、それだけだ。
「いいか? 開けるぞ」
学園から馬車を用意してもらい、ウォルグレンさんの邸宅からまっすぐ、向かうことになった。
転送陣があれば、一発で移動できるのだけど、あれは特殊な技術が必要のようだ。
学園に到着すると、ぼくたちは今度はかなり、立派な部屋へと案内された。
前の時のような、殺風景な部屋ではない。
窓も大きく、眺めもいいし、壁には絵画も飾られていた。
そして、さらに立派なソファも用意されていた。
見ただけで、座り心地のよさそうなそのソファには、既にふたりの人物が腰をかけている。
今日はジルさんはおらず、ぼくたち以外には、リゼルとそのふたりしか、部屋にはいないようだった。
「来たか——」
リゼルが、ぼくたちをソファへと導いてくれる。
ギンゲツたちの姿はここにはなく、ぼくはちょっと、がっかりした。
——これから、一体、何を話し合うのだろう。
それとなく、ぼくはソファに腰かけているふたりを観察した。
テーブルを挟んだ向こう側の男性は、年齢はぼくたちよりもずっと上だろう——横幅のある、禿頭の男性が座っていた。
ぼくたちから、わざと顔を逸らしているみたいだけど、目が合うと、とても鋭い眼差しで睨まれてしまった。
妙に貫禄があり、着ているものも、質のいいものだとわかる、仕立てのいい服で、いわゆる貴族が着るようなものだろう。
そして、もう一方の相手は一人がけのソファに座っている。
人——ではない。
このメディシアン世界には、獣人もいるが、それ以外にも様々な異種族が存在している。
そのひとつが、機械人——機構軍とひとくくりに呼ばれる存在だ。
もとは、戦闘機械として大陸に君臨していたようなのだけど、今は戦闘を終了しており、大部分はおとなしく、平和的な活動をしている。
アリアンフロッドになっている機械人もいるくらいだ。
機械人には、機械的な手段で天賦や天恵を備えさせることができ、さらに優秀な戦闘能力があるので、珍しい存在ではなかった。
機械人は、金属の体のままで過ごしているのも多いが、目の前の機械人はきちんとした服を着こなしていた。
濃紺をベースにしたスーツに、ワイシャツ、太腿の半ばまでのダークレッドのスカートを穿き、機械の体が覗いているのは、脚と指先、それに顔と髪だけだ。
目のところには、横長の一本のスリットが入っていて、その間を青い光点が左から右、そして右から左へと移動していた。
機械なのに髪——と呼んでいいのかは疑問が残るところだが、頭部から背中へと、二本の板状のものが伸びている。
汎人類種族ならば、ツインテールと呼びたくなる髪型だった。
機械の身体は全身、銀色なのに、テールの部分だけ、黒く塗装されているので、やはり、髪と思わせたいのかもしれない。
「コレで、登場人物は全員、揃いましたカ? 同志:リゼル氏」
機械人が、妙にイントネーションがズレている発音で、話しかけてきた。
ぼくには少し声が高く、耳障りに聞こえた。
「……そのようですね」
丁寧な口調で、リゼルが返した。
「その返答ですと、まだ来られる人がおられると、解釈できますが、真ですか、偽ですカ? はっきりしてくださいマセ」
「い……いえ。これで、全員です。ミラージュさま」
「了解しましタ……では、まずは、アカネさん、ジンライくん。アリアンフロッドとなられて、オメデトウのことばを贈らせてもらいマスわ」
「あ……ありがとうございます」
「どうもー」
急にぴりぴりとした空気を感じて、ぼくは口中に溜まった唾をごくり、と飲み込んだ。
「ワタクシのユニーク名は、ミラージュです。アリアンフロッド機関の上位組織である評議会から要請を受けて、派遣されてキました。コレが最初で最後の接触となると思いますガ、よろしくデス」
握手でもしてくるのかな、と思ったが、ミラージュさんはそのままだった。
「なんか、態度の悪い機械人ぞねぇ。あー、感じわるい」
耳許で、グリューンが囁いてくる。
……ぼくに言わせたら、どっちもどっちだと思うけど。
「今回の件について、重要な規律違反があったト、ワタクシをはじめ、評議員の方タチは憂慮してオリます。既に、小隊『千秋の轍』の隊員たちは逃走に失敗、この施設のなかで確保されてオリます」
ミラージュさんが、脚を組み替えながら、そう言った。
「え——確保?」
「地下の拘留場所にいる。あとで面会させてやるよ」
——なんだか、大きなことになっているみたいだ。
「おまえさんたちを罠にかけた後、逃亡することにしていたみたいだが、失敗しちまったようだ。ま、こっちも、既に前準備をしていたからな」
「任務の達成度は63%程度デスが、無事、捕縛には成功しましたワね。こちらにも、ある程度、損害は出マシたけど」
「……ギンゲツたちは、どうしてあんなことをしたのでしょうか」
「賭博——デスわね。裏社会で、賭けが行われテイたのですわ。その対象は、アナタがたの生死」
「生死……?」
「”初心者殺しの小迷宮”へと送り込まレて、果たして生きテ学園まで帰還することが出来るノカ。アナタたち以外にも、あの罠にかけられて、亡くなっている方タチも、いるようデス。この犯罪行為に関わっていた小隊は、千秋の轍だけでナク、複数の小隊が関わっていたようデスわね。現在、組織的犯罪として、追跡をしてオリます」
「賭けって……そんなことのために、ぼくたちは殺されかけたってこと、ですか」
「——貴様たちが戻って来なければ、こんなことには——こんな、アリアンフロッドのなりそこないよりも、ギンゲツのほうがずっと、価値はあったのに、どうしてくれるのだ」
それまで、ひと言も喋っていなかった恰幅のいい男の人が、ぼくたちを睨みつけてきた。
顔を赤黒く、怒気に染めている。
「価値? なりそこないは、アナタの息子どものほうでショウ。賭博場での大損を親に肩代わりしてもらったダケでなく、また損失を繰り返シテ、今度は殺人にまで手を染めてイルのですからね」
「殺人? はッ、平民は平民らしく、しておけばいいのだよ。どう考えても、こんな奴らよりも、ギンゲツのほうが能力はあった」
「それくらいにしておけよ。ドランツヴェルク伯爵さま。あんただって、今回の件の容疑者のひとりなんだからよ」
「わしは——知らん。平民がどうなろうと、勝手ではないか。貴族の血はどんなものにも勝る」
「話にならんな! 疑惑はずっと前からあったが、それを握りつぶしていたのは、あんただって噂が流れているぞ」
「知らん、知らん! こいつらだって、どうせ、あのアカツキの子供たちだから、持ち上げられているだけだろう。数年以内に、塔のなかで野垂れ死にしているはずだ」
「あら、先程、貴族の血はどんなモノにも勝る、と言っていたアナタがそれを言うノかしら? 辺境の貴族風情の息子という程度で、持ち上げられてイタのは、アナタの息子ではないのカシらね」
「わ! わしの領地は辺境ではない!」
「アナタが例え、王族であっテも、同じコトですわね。歪んだ特権意識の持ち主には、基本システムをアップデートするか、あるいはすべて換装する必要がありそうですわね」
「貴族のこのわしを、牢へ入れるというのか! これまで、わしがアリアンフロッド機関を支援してやった恩を忘れて!」
——これは、見ていられないな。
「まったく、同感じゃのぉ」
ぼくの呟きに、グリューンが耳もとで呟いた。
ぼくは、口汚く、罵りはじめた伯爵とリゼル、ミラージュさんを見つめて、ため息をついた。
それから——ぼくたちは、リゼルとミラージュさんに案内されて、学園の地下にある拘留場所へと向かった。
アリアンフロッドであってももちろん、法を破ることはできない。
王国の法を破ったものは、その国の法律で裁かれるが、ギンゲツのような場合、アリアンフロッド機関によって、制裁が与えられることもある。
拘留場所は、本校舎のずっと奥のほう——古い、ひび割れた石段を下った先にあった。
ここまでは、それほど警戒が厳重、ということでもないみたいだった。
ほとんどが、こんな場所まで脚を踏み入れてくる必要がないから、だろうか。
かび臭く、魔道灯が等間隔に配置されているきりで、雰囲気からして、幽霊でも出てきそうだった。
通路はまっすぐで、迷う必要はない。
が、ここの空気はひどく湿っぽく、どんよりとしていた。
「いやな場所じゃのぉ。わしの試練の間のほうが数億倍もマシぞよ」
グリューンが姿を見せずに声だけ、伝えてくるので、その度にびくっとしてしまう。
「どうした? ジンライ。さっきから、無口じゃぞ。何か喋らんのか」
喋らないでいるのは、ぼくだけじゃない。
アカネとチカも、黙り込んでいる。
ここには、憎しみや恨み、怒りなどの負の感情が澱んでいるからだろう。
それが、魔力の塊となって、ぼくにも見えていた。
魔術に関しては、チカのほうが敏感なので、よりそういった感情に揺さぶられてしまうのかもしれない。
腕は組んではいないものの、さっきから、チカはぼくに身体を寄せてきていた。
とにかく、さっさとギンゲツとの面会を終わらせたほうがいいだろう。
「ギンゲツの拘留部屋は、ここだな」
先頭を歩いていたリゼルが、脚を止めた。
ぼくは、周りを見渡してみた。
扉などは、どこにあるのだろう……。
足元の壁際には、通気口——というのだろうか。
小さな穴が等間隔に並んでいるのだけど、それだけだ。
「いいか? 開けるぞ」
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
それから、三日後に、ぼくたちはリゼルから呼び出しを受けた。
学園から馬車を用意してもらい、ウォルグレンさんの邸宅からまっすぐ、向かうことになった。
転送陣があれば、一発で移動できるのだけど、あれは特殊な技術が必要のようだ。
学園から馬車を用意してもらい、ウォルグレンさんの邸宅からまっすぐ、向かうことになった。
転送陣があれば、一発で移動できるのだけど、あれは特殊な技術が必要のようだ。
学園に到着すると、ぼくたちは今度はかなり、立派な部屋へと案内された。
前の時のような、殺風景な部屋ではない。
窓も大きく、眺めもいいし、壁には絵画も飾られていた。
前の時のような、殺風景な部屋ではない。
窓も大きく、眺めもいいし、壁には絵画も飾られていた。
そして、さらに立派なソファも用意されていた。
見ただけで、座り心地のよさそうなそのソファには、既にふたりの人物が腰をかけている。
今日はジルさんはおらず、ぼくたち以外には、リゼルとそのふたりしか、部屋にはいないようだった。
見ただけで、座り心地のよさそうなそのソファには、既にふたりの人物が腰をかけている。
今日はジルさんはおらず、ぼくたち以外には、リゼルとそのふたりしか、部屋にはいないようだった。
「来たか——」
リゼルが、ぼくたちをソファへと導いてくれる。
ギンゲツたちの姿はここにはなく、ぼくはちょっと、がっかりした。
リゼルが、ぼくたちをソファへと導いてくれる。
ギンゲツたちの姿はここにはなく、ぼくはちょっと、がっかりした。
——これから、一体、何を話し合うのだろう。
それとなく、ぼくはソファに腰かけているふたりを観察した。
それとなく、ぼくはソファに腰かけているふたりを観察した。
テーブルを挟んだ向こう側の男性は、年齢はぼくたちよりもずっと上だろう——横幅のある、禿頭の男性が座っていた。
ぼくたちから、わざと顔を逸らしているみたいだけど、目が合うと、とても鋭い眼差しで睨まれてしまった。
妙に貫禄があり、着ているものも、質のいいものだとわかる、仕立てのいい服で、いわゆる貴族が着るようなものだろう。
ぼくたちから、わざと顔を逸らしているみたいだけど、目が合うと、とても鋭い眼差しで睨まれてしまった。
妙に貫禄があり、着ているものも、質のいいものだとわかる、仕立てのいい服で、いわゆる貴族が着るようなものだろう。
そして、もう一方の相手は一人がけのソファに座っている。
人——ではない。
人——ではない。
このメディシアン世界には、獣人もいるが、それ以外にも様々な異種族が存在している。
そのひとつが、機械人——|機構軍《マシーナリィ・フォース》とひとくくりに呼ばれる存在だ。
もとは、戦闘機械として大陸に君臨していたようなのだけど、今は戦闘を終了しており、大部分はおとなしく、平和的な活動をしている。
そのひとつが、機械人——|機構軍《マシーナリィ・フォース》とひとくくりに呼ばれる存在だ。
もとは、戦闘機械として大陸に君臨していたようなのだけど、今は戦闘を終了しており、大部分はおとなしく、平和的な活動をしている。
アリアンフロッドになっている機械人もいるくらいだ。
機械人には、機械的な手段で天賦や天恵を備えさせることができ、さらに優秀な戦闘能力があるので、珍しい存在ではなかった。
機械人は、金属の体のままで過ごしているのも多いが、目の前の機械人はきちんとした服を着こなしていた。
機械人には、機械的な手段で天賦や天恵を備えさせることができ、さらに優秀な戦闘能力があるので、珍しい存在ではなかった。
機械人は、金属の体のままで過ごしているのも多いが、目の前の機械人はきちんとした服を着こなしていた。
濃紺をベースにしたスーツに、ワイシャツ、太腿の半ばまでのダークレッドのスカートを穿き、機械の体が覗いているのは、脚と指先、それに顔と髪だけだ。
目のところには、横長の一本のスリットが入っていて、その間を青い光点が左から右、そして右から左へと移動していた。
機械なのに髪——と呼んでいいのかは疑問が残るところだが、頭部から背中へと、二本の板状のものが伸びている。
目のところには、横長の一本のスリットが入っていて、その間を青い光点が左から右、そして右から左へと移動していた。
機械なのに髪——と呼んでいいのかは疑問が残るところだが、頭部から背中へと、二本の板状のものが伸びている。
|汎人類種族《コモン》ならば、ツインテールと呼びたくなる髪型だった。
機械の身体は全身、銀色なのに、テールの部分だけ、黒く塗装されているので、やはり、髪と思わせたいのかもしれない。
機械の身体は全身、銀色なのに、テールの部分だけ、黒く塗装されているので、やはり、髪と思わせたいのかもしれない。
「コレで、登場人物は全員、揃いましたカ? 同志:リゼル氏」
機械人が、妙にイントネーションがズレている発音で、話しかけてきた。
ぼくには少し声が高く、耳障りに聞こえた。
機械人が、妙にイントネーションがズレている発音で、話しかけてきた。
ぼくには少し声が高く、耳障りに聞こえた。
「……そのようですね」
丁寧な口調で、リゼルが返した。
「その返答ですと、まだ来られる人がおられると、解釈できますが、真ですか、偽ですカ? はっきりしてくださいマセ」
「い……いえ。これで、全員です。ミラージュさま」
丁寧な口調で、リゼルが返した。
「その返答ですと、まだ来られる人がおられると、解釈できますが、真ですか、偽ですカ? はっきりしてくださいマセ」
「い……いえ。これで、全員です。ミラージュさま」
「了解しましタ……では、まずは、アカネさん、ジンライくん。アリアンフロッドとなられて、オメデトウのことばを贈らせてもらいマスわ」
「あ……ありがとうございます」
「どうもー」
「あ……ありがとうございます」
「どうもー」
急にぴりぴりとした空気を感じて、ぼくは口中に溜まった唾をごくり、と飲み込んだ。
「ワタクシのユニーク名は、ミラージュです。アリアンフロッド機関の上位組織である評議会から要請を受けて、派遣されてキました。コレが最初で最後の接触となると思いますガ、よろしくデス」
握手でもしてくるのかな、と思ったが、ミラージュさんはそのままだった。
「ワタクシのユニーク名は、ミラージュです。アリアンフロッド機関の上位組織である評議会から要請を受けて、派遣されてキました。コレが最初で最後の接触となると思いますガ、よろしくデス」
握手でもしてくるのかな、と思ったが、ミラージュさんはそのままだった。
「なんか、態度の悪い機械人ぞねぇ。あー、感じわるい」
耳許で、グリューンが囁いてくる。
……ぼくに言わせたら、どっちもどっちだと思うけど。
耳許で、グリューンが囁いてくる。
……ぼくに言わせたら、どっちもどっちだと思うけど。
「今回の件について、重要な規律違反があったト、ワタクシをはじめ、評議員の方タチは憂慮してオリます。既に、|小隊《ランス》『|千秋の轍《デイ・バイ・デイ》』の隊員たちは逃走に失敗、この施設のなかで確保されてオリます」
ミラージュさんが、脚を組み替えながら、そう言った。
ミラージュさんが、脚を組み替えながら、そう言った。
「え——確保?」
「地下の拘留場所にいる。あとで面会させてやるよ」
——なんだか、大きなことになっているみたいだ。
「地下の拘留場所にいる。あとで面会させてやるよ」
——なんだか、大きなことになっているみたいだ。
「おまえさんたちを罠にかけた後、逃亡することにしていたみたいだが、失敗しちまったようだ。ま、こっちも、既に前準備をしていたからな」
「任務の達成度は63%程度デスが、無事、捕縛には成功しましたワね。こちらにも、ある程度、損害は出マシたけど」
「任務の達成度は63%程度デスが、無事、捕縛には成功しましたワね。こちらにも、ある程度、損害は出マシたけど」
「……ギンゲツたちは、どうしてあんなことをしたのでしょうか」
「賭博——デスわね。裏社会で、賭けが行われテイたのですわ。その対象は、アナタがたの生死」
「生死……?」
「賭博——デスわね。裏社会で、賭けが行われテイたのですわ。その対象は、アナタがたの生死」
「生死……?」
「”初心者殺しの小迷宮”へと送り込まレて、果たして生きテ学園まで帰還することが出来るノカ。アナタたち以外にも、あの罠にかけられて、亡くなっている方タチも、いるようデス。この犯罪行為に関わっていた小隊は、千秋の轍だけでナク、複数の小隊が関わっていたようデスわね。現在、組織的犯罪として、追跡をしてオリます」
「賭けって……そんなことのために、ぼくたちは殺されかけたってこと、ですか」
「賭けって……そんなことのために、ぼくたちは殺されかけたってこと、ですか」
「——貴様たちが戻って来なければ、こんなことには——こんな、アリアンフロッドのなりそこないよりも、ギンゲツのほうがずっと、価値はあったのに、どうしてくれるのだ」
それまで、ひと言も喋っていなかった恰幅のいい男の人が、ぼくたちを睨みつけてきた。
顔を赤黒く、怒気に染めている。
それまで、ひと言も喋っていなかった恰幅のいい男の人が、ぼくたちを睨みつけてきた。
顔を赤黒く、怒気に染めている。
「価値? なりそこないは、アナタの息子どものほうでショウ。賭博場での大損を親に肩代わりしてもらったダケでなく、また損失を繰り返シテ、今度は殺人にまで手を染めてイルのですからね」
「殺人? はッ、平民は平民らしく、しておけばいいのだよ。どう考えても、こんな奴らよりも、ギンゲツのほうが能力はあった」
「殺人? はッ、平民は平民らしく、しておけばいいのだよ。どう考えても、こんな奴らよりも、ギンゲツのほうが能力はあった」
「それくらいにしておけよ。ドランツヴェルク伯爵さま。あんただって、今回の件の容疑者のひとりなんだからよ」
「わしは——知らん。平民がどうなろうと、勝手ではないか。貴族の血はどんなものにも勝る」
「話にならんな! 疑惑はずっと前からあったが、それを握りつぶしていたのは、あんただって噂が流れているぞ」
「わしは——知らん。平民がどうなろうと、勝手ではないか。貴族の血はどんなものにも勝る」
「話にならんな! 疑惑はずっと前からあったが、それを握りつぶしていたのは、あんただって噂が流れているぞ」
「知らん、知らん! こいつらだって、どうせ、あのアカツキの子供たちだから、持ち上げられているだけだろう。数年以内に、塔のなかで野垂れ死にしているはずだ」
「あら、先程、貴族の血はどんなモノにも勝る、と言っていたアナタがそれを言うノかしら? 辺境の貴族風情の息子という程度で、持ち上げられてイタのは、アナタの息子ではないのカシらね」
「わ! わしの領地は辺境ではない!」
「あら、先程、貴族の血はどんなモノにも勝る、と言っていたアナタがそれを言うノかしら? 辺境の貴族風情の息子という程度で、持ち上げられてイタのは、アナタの息子ではないのカシらね」
「わ! わしの領地は辺境ではない!」
「アナタが例え、王族であっテも、同じコトですわね。歪んだ特権意識の持ち主には、基本システムをアップデートするか、あるいはすべて換装する必要がありそうですわね」
「貴族のこのわしを、牢へ入れるというのか! これまで、わしがアリアンフロッド機関を支援してやった恩を忘れて!」
「貴族のこのわしを、牢へ入れるというのか! これまで、わしがアリアンフロッド機関を支援してやった恩を忘れて!」
——これは、見ていられないな。
「まったく、同感じゃのぉ」
「まったく、同感じゃのぉ」
ぼくの呟きに、グリューンが耳もとで呟いた。
ぼくは、口汚く、罵りはじめた伯爵とリゼル、ミラージュさんを見つめて、ため息をついた。
ぼくは、口汚く、罵りはじめた伯爵とリゼル、ミラージュさんを見つめて、ため息をついた。
それから——ぼくたちは、リゼルとミラージュさんに案内されて、学園の地下にある拘留場所へと向かった。
アリアンフロッドであってももちろん、法を破ることはできない。
王国の法を破ったものは、その国の法律で裁かれるが、ギンゲツのような場合、アリアンフロッド機関によって、制裁が与えられることもある。
アリアンフロッドであってももちろん、法を破ることはできない。
王国の法を破ったものは、その国の法律で裁かれるが、ギンゲツのような場合、アリアンフロッド機関によって、制裁が与えられることもある。
拘留場所は、本校舎のずっと奥のほう——古い、ひび割れた石段を下った先にあった。
ここまでは、それほど警戒が厳重、ということでもないみたいだった。
ほとんどが、こんな場所まで脚を踏み入れてくる必要がないから、だろうか。
ここまでは、それほど警戒が厳重、ということでもないみたいだった。
ほとんどが、こんな場所まで脚を踏み入れてくる必要がないから、だろうか。
かび臭く、魔道灯が等間隔に配置されているきりで、雰囲気からして、幽霊でも出てきそうだった。
通路はまっすぐで、迷う必要はない。
が、ここの空気はひどく湿っぽく、どんよりとしていた。
通路はまっすぐで、迷う必要はない。
が、ここの空気はひどく湿っぽく、どんよりとしていた。
「いやな場所じゃのぉ。わしの試練の間のほうが数億倍もマシぞよ」
グリューンが姿を見せずに声だけ、伝えてくるので、その度にびくっとしてしまう。
「どうした? ジンライ。さっきから、無口じゃぞ。何か喋らんのか」
喋らないでいるのは、ぼくだけじゃない。
アカネとチカも、黙り込んでいる。
グリューンが姿を見せずに声だけ、伝えてくるので、その度にびくっとしてしまう。
「どうした? ジンライ。さっきから、無口じゃぞ。何か喋らんのか」
喋らないでいるのは、ぼくだけじゃない。
アカネとチカも、黙り込んでいる。
ここには、憎しみや恨み、怒りなどの負の感情が澱んでいるからだろう。
それが、魔力の塊となって、ぼくにも見えていた。
それが、魔力の塊となって、ぼくにも見えていた。
魔術に関しては、チカのほうが敏感なので、よりそういった感情に揺さぶられてしまうのかもしれない。
腕は組んではいないものの、さっきから、チカはぼくに身体を寄せてきていた。
とにかく、さっさとギンゲツとの面会を終わらせたほうがいいだろう。
腕は組んではいないものの、さっきから、チカはぼくに身体を寄せてきていた。
とにかく、さっさとギンゲツとの面会を終わらせたほうがいいだろう。
「ギンゲツの拘留部屋は、ここだな」
先頭を歩いていたリゼルが、脚を止めた。
ぼくは、周りを見渡してみた。
扉などは、どこにあるのだろう……。
先頭を歩いていたリゼルが、脚を止めた。
ぼくは、周りを見渡してみた。
扉などは、どこにあるのだろう……。
足元の壁際には、通気口——というのだろうか。
小さな穴が等間隔に並んでいるのだけど、それだけだ。
「いいか? 開けるぞ」
小さな穴が等間隔に並んでいるのだけど、それだけだ。
「いいか? 開けるぞ」