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上司

ー/ー




「………眩しぃな」


 窓から覗く朝日が眼に入り、俺は目覚める…………って、もう10時か……仕事は夜からなんで、目覚まし掛けないで寝たんだったな。

 安い簡易ベッドに預けた眠気の残る体を強引に起こして、俺は伸びをする。

 寝る時は同じ部屋(……と言うかフロア)だった、アイツは既に居ない。学校じゃない筈だから一階か?


 ここは俺の事務所で、部屋としても使ってる貸ビル(3階建)だ。

 事務所と聞くと何となく立派そうなイメージだろうが、正直なところ余り見た目は綺麗じゃない………綺麗じゃやいどころか壮絶に汚い。
 忠夫を初めて連れてきた時は「廃墟かよ……」なんて抜かしやがった。

 あの野郎、流石に失礼だろ。その通りだけど……


 まぁ、事務所なんてGSとして活動する為に用意しただけだ。

 協会の活動許可が下りりゃ、それでいい。ついでに住処として使えりゃ、俺は文句ねぇよ。


 ベッドから降りると、給湯室に行く。

 当たり前だが、あるのは簡易コンロと流し台が一つだけ。そこで顔を洗う。
 
 元々、別会社の事務所として使ってた物件をそのまま流用してるだけなんでトイレ以外、水道はここしかない。だから、料理(カップ麺)も風呂も全部ここで済ます。

 一般人からしてら不便だろうが修業で放浪してる時は風呂なんて満足に入れねぇから、体さえ洗えりゃ十分だ。

 そうして、眠気を流水で洗い流してからフロアに戻って朝飯(?)にする。冷蔵庫から買い溜めてる弁当を一つ出して、電子レンジに突っ込む。

 メニューは何? 知らねぇよ!どれも皆、似たようなもんだろ。
 
 事務所を開いた当初は金が無くてカップ麺ばかりだったが、最近は収入も(以前に比べりゃ……)安定してきたんで、毎食それなりの食事が出来るようになった。
 
 それを味わうわけでもなく、貪るように食ってから着替えて1階へ降りる。


「早えな」
「お前が、寝すぎなんだろ?」


 案の定、忠夫は1階で事務作業をしていた。そういや、作業が溜まってるってボヤいてたな……

 1階は、仕事道具の保管と事務作業用のスペースとして確保してる。ただ、俺達は他の連中と違って、道具なんて殆ど使わないから実質事務作業オンリーだな

 応接スペース? んなもん、あるか!

 忠夫に廃墟なんて言われたように、外観に全く手入れなんかしてねぇから汚ねぇまんまだ。誰も近寄りゃしねぇし、誰も呼べねぇ……

 さっき言ったように事務所なんて形だけだからな。依頼者と打ち合わせが必要なら、どっかの喫茶店でやればいい。

 …………まぁ、そう言った作業は協会に全部丸投げしてるから、んな作業皆無だけどな。

 
 んで、事務作業か。

 以前は二人で分担してたんだが、最近はこいつに丸投げしてる。本当は所長の俺も(普通は所長が主導)しなきゃならないんだろうが、事務作業と聞くだけで体が拒否反応起こすんだよ。

 モグリでしてる時は、こんなもんする必要もなかった……いや、今はやらなきゃ寧ろヤベェ。多分しないけど……


 こいつに「いつも、すまねぇな」なんて声を掛けたいとこだが、「」じゃあ、お前もやれ!」と返ってくるのが解りきってるんで敢えてスルーする。降りて来ないで、TVでも見てりゃ良かったか。

 すまん忠夫……


 だとしても、そのまま回れ右をして二階に戻るのも気が引けたんで何をするでもなく俺用のデスクに座る。
 最近、何もしないんで薄っすら埃が溜まってら無用のオブジェと化してるのが何か悲しい。

 そうして声を掛けるでもなく居心地悪そうにしてると、数分後にしかめっ面をした忠夫に「やらねぇなら、2階行け」と言われちまった。
 普通、こういう場合やるんだろうが、面倒なんで大人しく逃げることにした。

 すまん、いつか何かで埋め合わせすっから!


「そうか! じゃ頼むな♪」


 そう言って、苦笑いしながら逃げる俺に(この野郎……)なんて呟いた気がしたが聞こえないフリをする。


 結局、降りてから数分で2階に戻ると、ソファに座って何となくTVをつける。ニュースがやってたけど、特に頭には入って来なかった。別のことを考えてたからな。
 

 忠夫と組んで大体数ヶ月か(妙神山のお陰で体感時間は1年以上だけど)………

 こいつと組めれば心強いとは思ってたけど、期待以上だよ。さっきの事務作業もそうだけど、それ以上に現場で頼りになる。

 奴の実力(チカラ)なら俺と同じことだって出来るはずなのに、常に一歩引いてフォローに徹してくれる。
 
 俺が、前にしか出れないことを知ってるからだよな?

 突貫は得意でも、俺は奴のように誰かのフォローなんて出来ない。俺が好き放題暴れられるのは、奴がしっかりケツを持ってくれるからだ。

 俺一人じゃ、ここまで上手く出来なかったろうし、正直奴がいなかったらと思うとゾッとする。
 

 そもそも、事務所は俺一人でやるつもりだった。

 それがあの日たまたま街で奴に会って、しかも事務所を辞めたと言う。本人は沈んでる様子だったが、不謹慎にも俺はその時にツイてるなんて思っちまった。

 こいつ程の “逸材” を周りが放っとく筈がない。モグリなんかしてた俺とは違うからな。フリーな時に会えたのを幸運以外何物でもない。

 ……とは言っても、呼び込む自信は全くなかった。これから事務所開く俺に好待遇なんて約束出来る筈がないし、そもそも元 “モグリ” で一匹狼の俺と組むメリットなんて奴にはない。

 だから、誘えたのはラッキーだけど完全にダメ元だった。だが、意外にも奴は俺と組むことを選んでくれた。選択肢はいくつもあった筈なのにだ。

 理由は、正直言ってよく解らねぇ。


 初めて会った時………俺は奴に感じるものがあったんだが、奴も俺に何かを感じ取ってくれたんだろうか……?

 ムシのいい考えとも思っちゃいるが、ついそう考えちまう。


 それとも、似た物同士だからか?

 さっき感じるものがあったって言ったけど、それとは別に奴からは俺と似たような物があるとも思っていた。

 今なら、それが何となく解る。

 俺と同じ様に、奴の中は孤独や劣等感が渦巻いてるんだ。それも強烈に……

 絶対に否定するだろうな……だが、俺には解る。俺とは違うだろうが、ひたすらに強さを求めるのがいい証拠だ。

 あの野郎、口では「修業なんて嫌いだ」とか抜かしながら妙神山には付いてくるし。いつもやる“手合わせ”にも本気で来る。
  
 強さを求めることで、俺達は自分の中にある満たされないものを必死に満たそうとしてるんだ。 
 

 …………まぁ、何にせよ憶測の域は出ないな。

 いつか本人に聞いてみたいと同時に、そのままにしとく方がいい気もする。
 
 誰にだって、突っ込まれたくないものはあるしな……

 奴は、俺と組んでから仕事も修業も熱心にやってくれる。それだけで十分だ。



 視線をTVに向けながら、そんなことを考えてたら忠夫が上がってきた。あれから1時間以上経ってるが、変わらず不機嫌そうだな。


「お前、本当に手伝わねぇんだな……」


 ジト目で睨むなって、悪かったよ。これからも、やらねぇけど……


「いやぁ〜………俺が出来ないって知ってるだろ?」
「出来るようになる努力しろよ……期待してねぇけど」


 そう言って、冷蔵庫から弁当を出した。もう、昼なんだから当然だ。

 俺はどうすっか? 食ったのが遅いから、別に腹減ってねぇんだよな。


「作業終わったのか?」
「まだに決まってんだろ! やるか?」


 やべぇっ地雷踏んだ!


「無理!」


 速攻で拒否する。


「あのなぁっ! 俺だって別に得意じゃねぇんだよ。お前、所長だろっ? これからGSとして……」
「悪りぃ、これから走ろうと思ってたんだわ」


 そう言って、ソファから跳ねるように立ち上がる。こういう場合は、とにかく距離を取るに限る!

 そのまま小走りに部屋を出る時に、後ろから「おい!」と聞こえてきた。




    ◇◇◇


 事務所を出ると、いつもの見慣れた道を走り出す。

 今回は逃げたけど、奴にだけやらせるのは不味いよな?かと言って俺は出来ないし、事務員雇うなんて不可能だ。

 最近、仕事こそ軌道に乗ってきたがそんな余裕はねぇ。

 なら、報酬の取り分調整して折り合い付けるか…………? それは、それで辛い……


「やっぱ、嫌でもやるしかねぇか……」


 拒絶反応とか、んなこと言ってらんねぇよな。これでコンビ解消なんて、マジでシャレにならん。


 いつものコースを走りながら、しょうもねぇ事を決意した。






上司 雪之丞
↑↑悪役顔じゃねぇか……

「頼りにしてるぜ! 相棒♪」

 
 

 ………………で、結局事務作業したのかって?

 やる訳ねぇだろ!馬鹿か?
 




みんなのリアクション

「………眩しぃな」
 窓から覗く朝日が眼に入り、俺は目覚める…………って、もう10時か……仕事は夜からなんで、目覚まし掛けないで寝たんだったな。
 安い簡易ベッドに預けた眠気の残る体を強引に起こして、俺は伸びをする。
 寝る時は同じ部屋(……と言うかフロア)だった、アイツは既に居ない。学校じゃない筈だから一階か?
 ここは俺の事務所で、部屋としても使ってる貸ビル(3階建)だ。
 事務所と聞くと何となく立派そうなイメージだろうが、正直なところ余り見た目は綺麗じゃない………綺麗じゃやいどころか壮絶に汚い。
 忠夫を初めて連れてきた時は「廃墟かよ……」なんて抜かしやがった。
 あの野郎、流石に失礼だろ。その通りだけど……
 まぁ、事務所なんてGSとして活動する為に用意しただけだ。
 協会の活動許可が下りりゃ、それでいい。ついでに住処として使えりゃ、俺は文句ねぇよ。
 ベッドから降りると、給湯室に行く。
 当たり前だが、あるのは簡易コンロと流し台が一つだけ。そこで顔を洗う。
 元々、別会社の事務所として使ってた物件をそのまま流用してるだけなんでトイレ以外、水道はここしかない。だから、料理(カップ麺)も風呂も全部ここで済ます。
 一般人からしてら不便だろうが修業で放浪してる時は風呂なんて満足に入れねぇから、体さえ洗えりゃ十分だ。
 そうして、眠気を流水で洗い流してからフロアに戻って朝飯(?)にする。冷蔵庫から買い溜めてる弁当を一つ出して、電子レンジに突っ込む。
 メニューは何? 知らねぇよ!どれも皆、似たようなもんだろ。
 事務所を開いた当初は金が無くてカップ麺ばかりだったが、最近は収入も(以前に比べりゃ……)安定してきたんで、毎食それなりの食事が出来るようになった。
 それを味わうわけでもなく、貪るように食ってから着替えて1階へ降りる。
「早えな」
「お前が、寝すぎなんだろ?」
 案の定、忠夫は1階で事務作業をしていた。そういや、作業が溜まってるってボヤいてたな……
 1階は、仕事道具の保管と事務作業用のスペースとして確保してる。ただ、俺達は他の連中と違って、道具なんて殆ど使わないから実質事務作業オンリーだな
 応接スペース? んなもん、あるか!
 忠夫に廃墟なんて言われたように、外観に全く手入れなんかしてねぇから汚ねぇまんまだ。誰も近寄りゃしねぇし、誰も呼べねぇ……
 さっき言ったように事務所なんて形だけだからな。依頼者と打ち合わせが必要なら、どっかの喫茶店でやればいい。
 …………まぁ、そう言った作業は協会に全部丸投げしてるから、んな作業皆無だけどな。
 んで、事務作業か。
 以前は二人で分担してたんだが、最近はこいつに丸投げしてる。本当は所長の俺も(普通は所長が主導)しなきゃならないんだろうが、事務作業と聞くだけで体が拒否反応起こすんだよ。
 モグリでしてる時は、こんなもんする必要もなかった……いや、今はやらなきゃ寧ろヤベェ。多分しないけど……
 こいつに「いつも、すまねぇな」なんて声を掛けたいとこだが、「」じゃあ、お前もやれ!」と返ってくるのが解りきってるんで敢えてスルーする。降りて来ないで、TVでも見てりゃ良かったか。
 すまん忠夫……
 だとしても、そのまま回れ右をして二階に戻るのも気が引けたんで何をするでもなく俺用のデスクに座る。
 最近、何もしないんで薄っすら埃が溜まってら無用のオブジェと化してるのが何か悲しい。
 そうして声を掛けるでもなく居心地悪そうにしてると、数分後にしかめっ面をした忠夫に「やらねぇなら、2階行け」と言われちまった。
 普通、こういう場合やるんだろうが、面倒なんで大人しく逃げることにした。
 すまん、いつか何かで埋め合わせすっから!
「そうか! じゃ頼むな♪」
 そう言って、苦笑いしながら逃げる俺に(この野郎……)なんて呟いた気がしたが聞こえないフリをする。
 結局、降りてから数分で2階に戻ると、ソファに座って何となくTVをつける。ニュースがやってたけど、特に頭には入って来なかった。別のことを考えてたからな。
 忠夫と組んで大体数ヶ月か(妙神山のお陰で体感時間は1年以上だけど)………
 こいつと組めれば心強いとは思ってたけど、期待以上だよ。さっきの事務作業もそうだけど、それ以上に現場で頼りになる。
 奴の|実力《チカラ》なら俺と同じことだって出来るはずなのに、常に一歩引いてフォローに徹してくれる。
 俺が、前にしか出れないことを知ってるからだよな?
 突貫は得意でも、俺は奴のように誰かのフォローなんて出来ない。俺が好き放題暴れられるのは、奴がしっかりケツを持ってくれるからだ。
 俺一人じゃ、ここまで上手く出来なかったろうし、正直奴がいなかったらと思うとゾッとする。
 そもそも、事務所は俺一人でやるつもりだった。
 それがあの日たまたま街で奴に会って、しかも事務所を辞めたと言う。本人は沈んでる様子だったが、不謹慎にも俺はその時にツイてるなんて思っちまった。
 こいつ程の “逸材” を周りが放っとく筈がない。モグリなんかしてた俺とは違うからな。フリーな時に会えたのを幸運以外何物でもない。
 ……とは言っても、呼び込む自信は全くなかった。これから事務所開く俺に好待遇なんて約束出来る筈がないし、そもそも元 “モグリ” で一匹狼の俺と組むメリットなんて奴にはない。
 だから、誘えたのはラッキーだけど完全にダメ元だった。だが、意外にも奴は俺と組むことを選んでくれた。選択肢はいくつもあった筈なのにだ。
 理由は、正直言ってよく解らねぇ。
 初めて会った時………俺は奴に感じるものがあったんだが、奴も俺に何かを感じ取ってくれたんだろうか……?
 ムシのいい考えとも思っちゃいるが、ついそう考えちまう。
 それとも、似た物同士だからか?
 さっき感じるものがあったって言ったけど、それとは別に奴からは俺と似たような物があるとも思っていた。
 今なら、それが何となく解る。
 俺と同じ様に、奴の中は孤独や劣等感が渦巻いてるんだ。それも強烈に……
 絶対に否定するだろうな……だが、俺には解る。俺とは違うだろうが、ひたすらに強さを求めるのがいい証拠だ。
 あの野郎、口では「修業なんて嫌いだ」とか抜かしながら妙神山には付いてくるし。いつもやる“手合わせ”にも本気で来る。
 強さを求めることで、俺達は自分の中にある満たされないものを必死に満たそうとしてるんだ。 
 …………まぁ、何にせよ憶測の域は出ないな。
 いつか本人に聞いてみたいと同時に、そのままにしとく方がいい気もする。
 誰にだって、突っ込まれたくないものはあるしな……
 奴は、俺と組んでから仕事も修業も熱心にやってくれる。それだけで十分だ。
 視線をTVに向けながら、そんなことを考えてたら忠夫が上がってきた。あれから1時間以上経ってるが、変わらず不機嫌そうだな。
「お前、本当に手伝わねぇんだな……」
 ジト目で睨むなって、悪かったよ。これからも、やらねぇけど……
「いやぁ〜………俺が出来ないって知ってるだろ?」
「出来るようになる努力しろよ……期待してねぇけど」
 そう言って、冷蔵庫から弁当を出した。もう、昼なんだから当然だ。
 俺はどうすっか? 食ったのが遅いから、別に腹減ってねぇんだよな。
「作業終わったのか?」
「まだに決まってんだろ! やるか?」
 やべぇっ地雷踏んだ!
「無理!」
 速攻で拒否する。
「あのなぁっ! 俺だって別に得意じゃねぇんだよ。お前、所長だろっ? これからGSとして……」
「悪りぃ、これから走ろうと思ってたんだわ」
 そう言って、ソファから跳ねるように立ち上がる。こういう場合は、とにかく距離を取るに限る!
 そのまま小走りに部屋を出る時に、後ろから「おい!」と聞こえてきた。
    ◇◇◇
 事務所を出ると、いつもの見慣れた道を走り出す。
 今回は逃げたけど、奴にだけやらせるのは不味いよな?かと言って俺は出来ないし、事務員雇うなんて不可能だ。
 最近、仕事こそ軌道に乗ってきたがそんな余裕はねぇ。
 なら、報酬の取り分調整して折り合い付けるか…………? それは、それで辛い……
「やっぱ、嫌でもやるしかねぇか……」
 拒絶反応とか、んなこと言ってらんねぇよな。これでコンビ解消なんて、マジでシャレにならん。
 いつものコースを走りながら、しょうもねぇ事を決意した。
↑↑悪役顔じゃねぇか……
「頼りにしてるぜ! 相棒♪」
 ………………で、結局事務作業したのかって?
 やる訳ねぇだろ!馬鹿か?


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