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妖怪粘液

ー/ー




「ここか…」


 俺はやや憂鬱そうに呟きながら、 “立入禁止” の表示がされている入口を眺めた。


 時刻は昼過ぎ。そして、ここは都内某所の自然公園。

 今回の依頼は、公園内に出る下級妖怪の “スライム” の討伐だ。そう……前の事務所(美神除霊事務所)で除霊したことのある、あの“スライム”だ……
 

 嫌な記憶……とまでは行かないが、少なくとも良い思い出じゃない。

 下級妖怪と舐めていた相手に傷を負ったうえに、苦労して雇い主兼師匠(?)を助けたのに殆ど報いて貰えなかった(一応感謝の言葉はあった)………確かにこれだけでも十分に業腹だが、本当に気に入らないのはそんな現状に『満足』していた俺自身だ。
 
 どんだけ、あの女の奴隷だったんだよ? 俺は……ボコられて一晩中シャワー室に放置されて、何で喜べたんだ? 俺……馬鹿なのか? 馬鹿なのか俺は………

 実際に離れてみるとよく解る。あの頃の俺は色んな意味でどうかしてた……





    ◇◇◇

 
 …………話が大分逸れちまったが、一月程前にその“スライム”が公園内に現れて、清掃中の作業員を襲ったらしい。

 幸いにも作業員は脚に軽い怪我を負った程度で命に別状はなかったが、公園側は市民に害が出てからでは遅いと言うことでそれ以来園内の立入を禁止している。

 まぁ、当然の処置だよな。

 ちなみに襲って来たスライムは、犬程度の大きさだったので、慌てた作業員が脚を振っただけで振り払えたようだ。
 
 俺は場所がここで間違いないのを確認すると、渡された鍵を使って正門の脇にある通用門から中に入った。

 
 ちなみに今日は俺一人で、雪之丞は別件の除霊だ。

 それぞれが単価の安い案件だったから別れたのもあるが、正直スライムが相手だと奴は余り役に立たない………

 別に倒せないんじゃない。見付けた瞬間にブッパ出来るだろうし、俺でも簡単だ。ただ、見つけるのが難しい。

 戦闘力はピカイチでも、あの男の霊感はGSの中じゃ精々 “並” ………俺も大して変わらんが……しかも、スライムは妖気が弱くて見付け辛いと来てる。

 だから、嫌なこと思い出すのにわざわざ(・・・・)俺がこっちに来たわけだ。

 なら、奴と同等の霊感しかないお前も同じだろ?って聞かれそうだが俺には超チートアイテムの『文珠』がある。

 これを使えば、スライム程度なら見つけるのは容易い。

 問題なのは、連中の“規模”だな……始めに目撃された犬程度の大きさなら問題ないんだが、アレが全体の一部分かもしれないし、そうでないにしてもあれから増えてる可能性もある。 

 流石にひと月は経ち過ぎか……前に見た程度の大きさなら俺一人でも何とかなるが、探ってみなきゃ何も解らない。倒すのが無理そうなら、一旦撤退して雪之丞と二人で来るか……
 
 俺はそう気を取り直すと、辺りを警戒しつつ目撃情報のあった現場へ向かった。


 そこには広い人工池があり、その周りを囲うように舗装された小道が巡らせれている。作業員はそこの落ち葉を集めてる時に襲われたとのことだった。

 スライムについては解らないことが多いが、アメーバ状の体からイメージされるように、やはり水辺付近に現れるようだ。


 俺は文珠を一つ取り出し『探』と刻み発動させる。

 すると文珠は、淡い霊気の光を放ちながら何かを探すようにふよふよ(・・・・)とその辺を漂い始めた。
 暫くは池の周りをグルグルと回っていたが、やがて池の真ん中程で停止して強く輝き出す。

 
「あそこか……」

 
 場所を確認すると、俺は一旦文珠を自分の所に戻して池を後にした。他に居るかもしれないからだ。
 
 ただ、その心配は杞憂で、園内全て回ったがそんな気配もなければ文珠にも反応はなかった。

 騒ぎがあって以来、公園には簡易結界が張り巡らされている。外には出られないから、居るのは池にいる奴だけだ。

 ちょっとでも討ち漏らして後で再生、増殖されても厄介なだけに取り敢えずは安心する。


 そして俺は再び池に戻ってくると、もう一度文珠を宙に放つ。

 反応は変わらない。文珠は、さっき確認した場所と同じ場所に浮いて光を放っている。

 
「動きはない……か。後は、どんな奴が出るかなだな」

 
 俺は意を決して、左手から手榴弾状の霊気を具現化すると、そのまま文珠の浮いている水面に投擲した。

 左手から放たれた霊盾は、弧を描きながら水面に着弾したと同時に爆散して水しぶきを巻き上げる。

 威力は落としてある。仕留めるのが目的じゃなくて奴のヘイトをこっちに向けるためだ。

 変に飛び散ったら面倒だからな。もぅ、 同じ轍は踏まねぇよ。


 そんな事を考えつつ水面を凝視していると、変化は直ぐに現れた。






スライム
 ザザーーーッ!


 問題の地点から、ヘドロのような濁った緑色をしたアメーバ状の物体が頭(?)を出す。今回の依頼対象である “スライム” に間違いないな。色は濁ってるのに、表面は何となく透き通っていて余計に気味が悪い。 

 出てる部分の直径は30cmで、水面からの高さは1mくらいだろうか。水中の見えてない(・・・・・)部分も含めると、目撃情報の犬程度の大きさよりも明らかにデカい……
 
 スライムは周りを伺うように水面〜出した“ソレ”をネッシーの首のように(見たことねぇけど)左右に動かしていたが、池の外に立っている俺を確認すると向けている“ソレ”の先端を撃ち出してきた!!

 
「やっぱりな!」


 水面に出している体の“一部”を切り離して飛ばしてきたわけだが、その動きは予測済みだ。

 やっぱり、初見より経験則がある分楽に対応出来る。

 俺はサイドステップを踏んで、左に飛び退く。すると、数秒後にさっきまで俺が居た石畳にスライムが着弾する。


 ジュウッ!


 奴の体から分泌される溶解液が、石畳の表面をとかし熱した金属に水滴を垂らしたような音を立てる。

 だが、これで終わりじゃない。本体から切り離された部分は単なる弾じゃなく意思を持った分体だ。放置したら、間違いなく俺に襲い掛かってくる。
 
 だから、俺は本体に注意を向けつつ分体が着弾した瞬間に右手の鉤爪状に展開していた霊手を、更に伸長させてスライムを石畳に擦り付けるように押し潰した!


 バシュッ!


 手の形をした霊気に、体の全てを燃やされた分体は塵も残さず消滅する。

 霊手は普段は30 〜40cm程度の手の部分しか出してないが、その気になれば更に巨大化させた上に二の腕まで具現させる事が出来る。勿論消費する霊力も爆上がりするから、ここぞという時にしか使えない。

 今は普段の大きさのまま、手首まで具現させて伸ばした。


 そして、俺が分体の相手をしている間に本体は徐々に距離を詰めながら第2、第3の分体を飛ばしてくる。

 俺は後ずさるようにステップを踏んで、それらを躱して行く。

 そうする事で、スライムを池から引き上げたい。全体像の解らない相手と戦うのは色々と好ましくないし、撤退もまだ視野に入れてる。

 俺は始めと同じ要領で一匹を霊手で潰すと、離れた方には霊盾をぶつけて消滅させる。
 ヘイトを取るのに使ったさっきのと違い、今度は相手に対して大きめの霊力を込めている。中途半端に撃って、仕留めそこなったら後から面倒になるからな。

 そうしている間にも、本体はどんどん距離を詰めてくる。俺は次弾に対して身構えたが、不思議と次は来なかった。

 
「小出しにしてくれりゃ、楽だったんだがな……」
 

 スライムは倒すのが少し面倒なだけで、一匹一匹は別に強い訳じゃない。確実に潰して危なげなく倒したかった。

 …………ただ、考えようによってはラッキーだったかもしれない。
 
 今まで飛ばして来たのは弾じゃなく、あくまで本体の一部だ。同じ様に各個撃破され続ければ、それだけ自分が目減りする。

 圧倒的な質量がありゃあもっとしたかもしれないが、それをまだ撃つ間があるのに3回で止めたってことは、これ以上減らされるのは奴にとっては不味いようだ。

 とするならば、本体もこっちが危惧する程の大きさでない可能性が出てきた。


 俺は、後ろ歩きしながら奴との距離を保つ。

 こっちからも霊盾は撃たない。余りダメージを与えて、池に逃げられたくないからな。

 そんな俺の思惑を知ってか、知らずかスライムは普通に池から這い出してきた。所々に池に放流されてた魚の骨や残骸が見え隠れしていて、それが濁った緑色と相まって中々にグロい……

 ただ、そんなことは今気にしなくていい。


 肝心の大きさは横幅3、4mくらいか……? それに対して厚さは30cmもない。水から露出してる部分から逆算してもっとあると思ったが、自分を大きく見せようと無理してたのか?
  こいつらは、意識がないように見えて人語を話す程度の知能はある。もしかしたら、猫が喧嘩の時に自分を大きく見せようとするのと、同じ事をしてるのかもしれない。

 あの糞女、あの時はスライムが喋ったって信じなかったよな……幽霊だったあの娘は、信じてくれたけど。


 そんなことを思い出しながら横目で『探』の文珠(さっきの攻防の際、一旦遠くに離してあった)を確認するが、反応は目の前スライムに対してのみだ。池に残した分体も無いということだ。

 そして完全に俺の前(距離的に5、6m)まで来たスライムは、上方向に盛り上がって、俺を包み込むように襲い掛かかろうとする!

 だが……


「終わりだ……」


 俺は、左手に持っていた文珠を奴に投擲する。刻まれた文字は『縛』
 

「発動!」
 

 俺の意思に呼応した文珠は、次の瞬間には網目の濃い霊気のネットとなりスライムを覆い被さる。

 スライムは、体を色んな方向に捻じ曲げて藻掻くが無理な話だ。通常の網なんかと違う。動けば動くだけ構成してる霊気が反応して奴の体を焼くだけ………完全に終わりだ。

 もう一度言うがこいつらは別に強くない。不意討ちさえされなければ、苦戦なんてすることはないんだ。
 余り多くない全体像を俺の前に晒した時点で、殆ど勝負は着いていた。


 そんなこんなで、捕縛されてから数十秒必死に藻掻いていたのが大人しくなると遂に口を開き始める。


「ニンゲン……コロス…………」
「やっぱり、お前も喋れたか……なぁ、何で人を襲うんだ? 食うためか?」


 本当は動けないの確認したら『滅』の文殊で消しても良かった。捕まえてから、わざわざ時間を置いたのは話をしてみたかったからだ。

 別に妖怪と仲良くしようとまでは考えてない(無駄な争いは避けたいが……)。ただ、こいつらに関しては解らないことが多すぎる。

 解っているのは世界中に出現して、人や物を溶かして害を与えること。後は、合体や再生能力があることくらいか。

 今後の参考になればとおもったんだが…………




    ◇◇◇



「ニンゲンニクイ! コロスコロスコロス………!」
「駄目だ、こりゃ……」


 何聞いても、同じことしか言やしねぇ。ただ、人に対して無条件に悪意を持ってることが解っただけでも収穫か?


「じゃあな……!」
「コロッ__」


 バシュッーーーーー!!!!


 俺は、意思の疎通が不可能と判断すると、『滅』の文珠を投げつけて奴の全てを消滅させる。

 これで依頼完了…………いや、まだだ。


 俺は、辺りと自分の体に奴の残骸がないか確認してみる。特に前回の失敗がある体は、霊気を集中させて念入りに調べた。


「大丈夫そうだな……事務所に帰って襲われるのは、もう勘弁だ」


 俺はそう独りごちると、今度こそ公園を後にした。


「今度、カオスの爺さんに会ったら、スライムの事聞いてみるか。爺さんが、覚えてりゃ何か解るかもな……」

  



次のエピソードへ進む 悔恨


みんなのリアクション

「ここか…」
 俺はやや憂鬱そうに呟きながら、 “立入禁止” の表示がされている入口を眺めた。
 時刻は昼過ぎ。そして、ここは都内某所の自然公園。
 今回の依頼は、公園内に出る下級妖怪の “スライム” の討伐だ。そう……前の事務所(美神除霊事務所)で除霊したことのある、あの“スライム”だ……
 嫌な記憶……とまでは行かないが、少なくとも良い思い出じゃない。
 下級妖怪と舐めていた相手に傷を負ったうえに、苦労して雇い主兼師匠(?)を助けたのに殆ど報いて貰えなかった(一応感謝の言葉はあった)………確かにこれだけでも十分に業腹だが、本当に気に入らないのはそんな現状に『満足』していた俺自身だ。
 どんだけ、あの女の奴隷だったんだよ? 俺は……ボコられて一晩中シャワー室に放置されて、何で喜べたんだ? 俺……馬鹿なのか? 馬鹿なのか俺は………
 実際に離れてみるとよく解る。あの頃の俺は色んな意味でどうかしてた……
    ◇◇◇
 …………話が大分逸れちまったが、一月程前にその“スライム”が公園内に現れて、清掃中の作業員を襲ったらしい。
 幸いにも作業員は脚に軽い怪我を負った程度で命に別状はなかったが、公園側は市民に害が出てからでは遅いと言うことでそれ以来園内の立入を禁止している。
 まぁ、当然の処置だよな。
 ちなみに襲って来たスライムは、犬程度の大きさだったので、慌てた作業員が脚を振っただけで振り払えたようだ。
 俺は場所がここで間違いないのを確認すると、渡された鍵を使って正門の脇にある通用門から中に入った。
 ちなみに今日は俺一人で、雪之丞は別件の除霊だ。
 それぞれが単価の安い案件だったから別れたのもあるが、正直スライムが相手だと奴は余り役に立たない………
 別に倒せないんじゃない。見付けた瞬間にブッパ出来るだろうし、俺でも簡単だ。ただ、見つけるのが難しい。
 戦闘力はピカイチでも、あの男の霊感はGSの中じゃ精々 “並” ………俺も大して変わらんが……しかも、スライムは妖気が弱くて見付け辛いと来てる。
 だから、嫌なこと思い出すのに|わざわざ《・・・・》俺がこっちに来たわけだ。
 なら、奴と同等の霊感しかないお前も同じだろ?って聞かれそうだが俺には超チートアイテムの『文珠』がある。
 これを使えば、スライム程度なら見つけるのは容易い。
 問題なのは、連中の“規模”だな……始めに目撃された犬程度の大きさなら問題ないんだが、アレが全体の一部分かもしれないし、そうでないにしてもあれから増えてる可能性もある。 
 流石にひと月は経ち過ぎか……前に見た程度の大きさなら俺一人でも何とかなるが、探ってみなきゃ何も解らない。倒すのが無理そうなら、一旦撤退して雪之丞と二人で来るか……
 俺はそう気を取り直すと、辺りを警戒しつつ目撃情報のあった現場へ向かった。
 そこには広い人工池があり、その周りを囲うように舗装された小道が巡らせれている。作業員はそこの落ち葉を集めてる時に襲われたとのことだった。
 スライムについては解らないことが多いが、アメーバ状の体からイメージされるように、やはり水辺付近に現れるようだ。
 俺は文珠を一つ取り出し『探』と刻み発動させる。
 すると文珠は、淡い霊気の光を放ちながら何かを探すように|ふよふよ《・・・・》とその辺を漂い始めた。
 暫くは池の周りをグルグルと回っていたが、やがて池の真ん中程で停止して強く輝き出す。
「あそこか……」
 場所を確認すると、俺は一旦文珠を自分の所に戻して池を後にした。他に居るかもしれないからだ。
 ただ、その心配は杞憂で、園内全て回ったがそんな気配もなければ文珠にも反応はなかった。
 騒ぎがあって以来、公園には簡易結界が張り巡らされている。外には出られないから、居るのは池にいる奴だけだ。
 ちょっとでも討ち漏らして後で再生、増殖されても厄介なだけに取り敢えずは安心する。
 そして俺は再び池に戻ってくると、もう一度文珠を宙に放つ。
 反応は変わらない。文珠は、さっき確認した場所と同じ場所に浮いて光を放っている。
「動きはない……か。後は、どんな奴が出るかなだな」
 俺は意を決して、左手から手榴弾状の霊気を具現化すると、そのまま文珠の浮いている水面に投擲した。
 左手から放たれた霊盾は、弧を描きながら水面に着弾したと同時に爆散して水しぶきを巻き上げる。
 威力は落としてある。仕留めるのが目的じゃなくて奴のヘイトをこっちに向けるためだ。
 変に飛び散ったら面倒だからな。もぅ、 同じ轍は踏まねぇよ。
 そんな事を考えつつ水面を凝視していると、変化は直ぐに現れた。
 ザザーーーッ!
 問題の地点から、ヘドロのような濁った緑色をしたアメーバ状の物体が頭(?)を出す。今回の依頼対象である “スライム” に間違いないな。色は濁ってるのに、表面は何となく透き通っていて余計に気味が悪い。 
 出てる部分の直径は30cmで、水面からの高さは1mくらいだろうか。水中の|見えてない《・・・・・》部分も含めると、目撃情報の犬程度の大きさよりも明らかにデカい……
 スライムは周りを伺うように水面〜出した“ソレ”をネッシーの首のように(見たことねぇけど)左右に動かしていたが、池の外に立っている俺を確認すると向けている“ソレ”の先端を撃ち出してきた!!
「やっぱりな!」
 水面に出している体の“一部”を切り離して飛ばしてきたわけだが、その動きは予測済みだ。
 やっぱり、初見より経験則がある分楽に対応出来る。
 俺はサイドステップを踏んで、左に飛び退く。すると、数秒後にさっきまで俺が居た石畳にスライムが着弾する。
 ジュウッ!
 奴の体から分泌される溶解液が、石畳の表面をとかし熱した金属に水滴を垂らしたような音を立てる。
 だが、これで終わりじゃない。本体から切り離された部分は単なる弾じゃなく意思を持った分体だ。放置したら、間違いなく俺に襲い掛かってくる。
 だから、俺は本体に注意を向けつつ分体が着弾した瞬間に右手の鉤爪状に展開していた霊手を、更に伸長させてスライムを石畳に擦り付けるように押し潰した!
 バシュッ!
 手の形をした霊気に、体の全てを燃やされた分体は塵も残さず消滅する。
 霊手は普段は30 〜40cm程度の手の部分しか出してないが、その気になれば更に巨大化させた上に二の腕まで具現させる事が出来る。勿論消費する霊力も爆上がりするから、ここぞという時にしか使えない。
 今は普段の大きさのまま、手首まで具現させて伸ばした。
 そして、俺が分体の相手をしている間に本体は徐々に距離を詰めながら第2、第3の分体を飛ばしてくる。
 俺は後ずさるようにステップを踏んで、それらを躱して行く。
 そうする事で、スライムを池から引き上げたい。全体像の解らない相手と戦うのは色々と好ましくないし、撤退もまだ視野に入れてる。
 俺は始めと同じ要領で一匹を霊手で潰すと、離れた方には霊盾をぶつけて消滅させる。
 ヘイトを取るのに使ったさっきのと違い、今度は相手に対して大きめの霊力を込めている。中途半端に撃って、仕留めそこなったら後から面倒になるからな。
 そうしている間にも、本体はどんどん距離を詰めてくる。俺は次弾に対して身構えたが、不思議と次は来なかった。
「小出しにしてくれりゃ、楽だったんだがな……」
 スライムは倒すのが少し面倒なだけで、一匹一匹は別に強い訳じゃない。確実に潰して危なげなく倒したかった。
 …………ただ、考えようによってはラッキーだったかもしれない。
 今まで飛ばして来たのは弾じゃなく、あくまで本体の一部だ。同じ様に各個撃破され続ければ、それだけ自分が目減りする。
 圧倒的な質量がありゃあもっとしたかもしれないが、それをまだ撃つ間があるのに3回で止めたってことは、これ以上減らされるのは奴にとっては不味いようだ。
 とするならば、本体もこっちが危惧する程の大きさでない可能性が出てきた。
 俺は、後ろ歩きしながら奴との距離を保つ。
 こっちからも霊盾は撃たない。余りダメージを与えて、池に逃げられたくないからな。
 そんな俺の思惑を知ってか、知らずかスライムは普通に池から這い出してきた。所々に池に放流されてた魚の骨や残骸が見え隠れしていて、それが濁った緑色と相まって中々にグロい……
 ただ、そんなことは今気にしなくていい。
 肝心の大きさは横幅3、4mくらいか……? それに対して厚さは30cmもない。水から露出してる部分から逆算してもっとあると思ったが、自分を大きく見せようと無理してたのか?
  こいつらは、意識がないように見えて人語を話す程度の知能はある。もしかしたら、猫が喧嘩の時に自分を大きく見せようとするのと、同じ事をしてるのかもしれない。
 あの糞女、あの時はスライムが喋ったって信じなかったよな……幽霊だったあの娘は、信じてくれたけど。
 そんなことを思い出しながら横目で『探』の文珠(さっきの攻防の際、一旦遠くに離してあった)を確認するが、反応は目の前スライムに対してのみだ。池に残した分体も無いということだ。
 そして完全に俺の前(距離的に5、6m)まで来たスライムは、上方向に盛り上がって、俺を包み込むように襲い掛かかろうとする!
 だが……
「終わりだ……」
 俺は、左手に持っていた文珠を奴に投擲する。刻まれた文字は『縛』
「発動!」
 俺の意思に呼応した文珠は、次の瞬間には網目の濃い霊気のネットとなりスライムを覆い被さる。
 スライムは、体を色んな方向に捻じ曲げて藻掻くが無理な話だ。通常の網なんかと違う。動けば動くだけ構成してる霊気が反応して奴の体を焼くだけ………完全に終わりだ。
 もう一度言うがこいつらは別に強くない。不意討ちさえされなければ、苦戦なんてすることはないんだ。
 余り多くない全体像を俺の前に晒した時点で、殆ど勝負は着いていた。
 そんなこんなで、捕縛されてから数十秒必死に藻掻いていたのが大人しくなると遂に口を開き始める。
「ニンゲン……コロス…………」
「やっぱり、お前も喋れたか……なぁ、何で人を襲うんだ? 食うためか?」
 本当は動けないの確認したら『滅』の文殊で消しても良かった。捕まえてから、わざわざ時間を置いたのは話をしてみたかったからだ。
 別に妖怪と仲良くしようとまでは考えてない(無駄な争いは避けたいが……)。ただ、こいつらに関しては解らないことが多すぎる。
 解っているのは世界中に出現して、人や物を溶かして害を与えること。後は、合体や再生能力があることくらいか。
 今後の参考になればとおもったんだが…………
    ◇◇◇
「ニンゲンニクイ! コロスコロスコロス………!」
「駄目だ、こりゃ……」
 何聞いても、同じことしか言やしねぇ。ただ、人に対して無条件に悪意を持ってることが解っただけでも収穫か?
「じゃあな……!」
「コロッ__」
 バシュッーーーーー!!!!
 俺は、意思の疎通が不可能と判断すると、『滅』の文珠を投げつけて奴の全てを消滅させる。
 これで依頼完了…………いや、まだだ。
 俺は、辺りと自分の体に奴の残骸がないか確認してみる。特に前回の失敗がある体は、霊気を集中させて念入りに調べた。
「大丈夫そうだな……事務所に帰って襲われるのは、もう勘弁だ」
 俺はそう独りごちると、今度こそ公園を後にした。
「今度、カオスの爺さんに会ったら、スライムの事聞いてみるか。爺さんが、覚えてりゃ何か解るかもな……」